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第5章 1 私はぷりちーアイドル!

メルヘンチックマン

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「ん? なんだこの人だかりは? ミライ、なにか知ってる?」

 実演販売から二週間後。

 借金返済のために受けたクエスト、『ミミナガーゴイル』という、手足がやけに長い(なんでその名前にしたんだよ!)魔物の討伐を終えてグランダラに帰ってきたとき。

 街の中央広場にある、旅の劇団等が公演を行う舞台の前に人だかりができていた。

「さぁ、心当たりはありませんが……」

 ミライも首を捻っている。

 どうやらなにも知らないようだ。

「イツモフさんによる、理由はよくわからないけどものすごくよく切れる可能性のある包丁の実演販売は五日前でしたよね」

「うん、イツモフさんって絶対いつか詐欺で捕まるよね」

「四日前は、『メルヘンチックマン』による、メルヘン紙芝居でしたし」

「メルヘンチックマンってなに? すごい変な人が変な紙芝居してるだけだよねきっと」

「三日前は、杉田ことは忘れろ玄白さんの、買いたい新商品店が開かれて」

「この広場存在意義ないだろ! 管理者は変なことばっかりに使わせるなよ!」

 あと、杉田ことは忘れろ玄白さんってだれぇ!?

「二日前は、ヌードデッサン大会で」

「え?」

 ちょっと、話が変わってきたぞ。

 なぜか腹筋に力が入る。

 だってヌードデッサン大会だよ?

 医学の進歩よりも明治維新よりもはるかに大事な情報を、なんで前もって教えてくれなかったの?

「昨日は、よくわかる女子の水着の着方講座、実演もあるよ、で」

 俺はミライの両肩を掴んで前後に揺らしていた。

「だからなんて教えてくれないんだよ! めちゃくちゃそそられる演目ばかりじゃないか!」

「だって、誠道さんは引きこもりですから」

 ミライは不満げに唇を尖らせている。

「今日は借金返済のためにクエストに行ったよね? よって俺は引きこもりではない!」

「なにをそんなに熱くなっているのですか? まったく、土変態男さんはこういうえっちなことになるといつも熱くなって」

「べべべ、別にそういう目的じゃないからっ」

 しまった。

 ここはなんとか誤魔化さないと。

「俺はただ、人の体がよく観察できるなーって思って、人体構造を詳しく勉強したかっただけだから。純粋な向上心、好奇心だから!」

 解体新書さいこー!!

 杉田玄白の気持ちまじわかるわー!!

「……はぁ、わかりました」

 ミライが薄い目で呆れたように俺を見ているが、本当に人体の秘密を知りたかっただけだからね。

「じゃあ一応お伝えしておきます」

「さぁ、今度はなにが行われるんだ? 水着の実演販売の次だから……きっとランジェリーのじつえ」

「来週開催されるのは『メルヘンチックマン』のメルヘン二丁目オカマ体験講座です」

「そんなもん行くかー!!」

 メルヘンチックマンってそっち系のやつだったんかい!

 よくよく考えれば名前がおかまっぽいけどさぁ。

「どうしてですか? 人体の秘密を知りたいんじゃないんですか?」

「俺が知りたいのはそういう秘密じゃねぇんだよ! 開発されたらどうするんだよ!」

「そのときはそのときで考えましょう」

 なんて他愛もないやり取りをしながら、俺たちは人だかりの後ろを通り過ぎていたのだが。

「……ちょっ待てよ」

 俺は、とある重大な事実に気がつき、足を止めた。

「どうしたんですか、誠道さん? 木村〇哉のものまね芸人のものまねをする一般人のものまねみたいなクオリティの低さでしたよ」

「冷静に評価しなくていいから。ってかものまねなんてしてないし」

 俺は、人だかりの方を見て――推測が確信に変わった。

 胸の内側が熱く燃え上がっていく。

「ミライは先に帰っててくれ。俺、ちょっとここに残るからさ」
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