208 / 360
第4章 5 私はあなたを選ばない
私を信じてくれた
しおりを挟む
「だから、私には、私は、罪を ……いつかきっとみんな私を怖がるんだ! 煙たがるんだ! ああ、やっぱりあいつの子供なんだって、蔑んで離れていくんだっ!」
私は私の過去を、これまで抱え込んできた感情を吐露していた。
穢れた血を持って生まれた私を、こんな私を、好きになってくれる人なんて、いないはずなのに。
――だけど彼は、石川誠道という人間は、そんな私に向かって、柔らかにほほ笑むのだ。
「俺たちはコハクちゃんが優しいってわかってる。コハクちゃんのお母さんとは違って、素敵な可愛い女の子だって、知ってるから」
信じさせてみせるからね、と語りかけるかのように。
彼の心からの笑顔が私の心を照らしてくれる。
「大丈夫。見ててほしい。俺は、絶対にあいつを許さないから」
誠道さんの表情がキリリと引き締まる。
私に背中を向け、私がこれまで信じてきた、テツカさんの方を向く。
「コハクちゃんを傷つけたあいつは、いまからずっと俺の敵だ」
彼の背中はとても大きく見えて、私はその姿に見惚れていた。
格好いい、と思った。
「コハクさん」
隣にいるミライさんが声をかけてくれる。
この人も、お母さんに裏切られて、テツカさんに裏切られて、絶望していた私のそばにずっと寄り添ってくれていた。
「誠道さんは信じるに値するお方です。少なくとも、私はそう思います」
私はあなたたちを殺そうとしたのに。
あなたたちに、あらぬ疑いをかけて、傷つけようとしたのに。
出会って間もないのに。
「誠道さんもたくさんの人に裏切られてきました。でも、それでも私を信じてくれました」
どうしてあなたたちは私のことを信じてくれるの?
「誠道さんは引きこもりのどうしようもない人ですけど、優しい強さを持っている、素敵なお方ですから」
「うるせぇ。いますぐ謝れよ。俺は許さねぇけど、謝れよ。……【無敵の人間】」
誠道さんの怒りに染まった声が聞こえてくる。
私は誠道さんの背中を見た。
熱く、優しく、真っ赤に燃え上がる炎をまとった誠道さんを見て、私の心にも暖かくて、むずがゆくて、だけど大切だと思える感情が湧き上がってくる。
「私は……わたし、は……」
胸に手を当てて、目を閉じて、湧き上がってきた感情ときちんと向き合う。
幼いころから私は独りぼっちだった。
遊びで男の名前をつけるような狂った母親と二人暮らし。
父親はもちろんいない。
そんな母親が私を大切に思ってくれているわけもなく、私は母親からの暴力に耐えながら日々を過ごしてきた。
母親が犯罪者になったあと、ようやく苦痛の日々から解放されると思ったが、私は独りぼっちのまま。
悲しかった。
存在意義が欲しかった。
誰かに私のことを必要としてほしかった。
そんなときに現れたハクナさんは私を必要としてくれて、テツカさんは不治の病(嘘だったけど)を独りで看病する私をすごいと褒めてくれて。
嬉しかった。
楽しかった。
この人たちのためならなんでもできると思って、必要としてくれたのだからなんでもしなきゃと思って。
必要とされなくなるのが怖くて怖くてたまらなくて。
でも、私は二人に利用されていただけ。
結局、私はずっと独りだった。
誰かを信じて、裏切られて、もうこんなの嫌だって、ついさっき痛いほど身に染みて絶望したはずなのに、どうしてすぐにま、誰かを信じようと、信じたいと、信じてみたいと思ってしまうのだろう。
信じたいという感情が、私の心に暖かな光を与えようとしてくるのだろう。
また裏切られるかもしれないのに。
この人たちとはまだ会ってから間もなくて、この人たちのことなんかなんにも知らないのに、どうして私は、この人たちを信じられるなんて思ってしまうんだろう。
「私は……もう、うらぎら、れるのは……」
「いいねぇ、その顔。もっと絶望しろぉ!」
そのとき、ワルシュミーの歓喜に歪んだ声が聞こえた。
顔を上げる。
誠道さんとミライさんが、氷漬けにされていた。
「そのまま死んでいくんだよぉ。その絶望こそが美食なんだ。やれぇ! マーズ!」
――――いやだ! 死なせない!
そう思ったときには、もう私は【野獣化】していた。
さっきの【離澄虎】ですべての力を使い果たしていたはずなのに、体が動いている。
限界を超えているはずなのに、いまだけでいいからとにかく動け! と脳が命令している。
守らなくちゃいけないんだという強い気持ちに、体が突き動かされている。
「私は……また裏切られるのは嫌だけど……怖いけど」
目の前にいるワルシュミーをぐっと睨みつける。
「それでも私は信じたい! 私が信じられると思ったから! ここで二人がやられるのを黙って見ているだけの方が、もっと怖いから!」
体中から力があふれ出す。
私のどこにこんな力が残っていたのだろう。
ってかそんなのどうでもいい。
だって、だってだってだって、私はもう……。
「私を信じてくれた人を奪わないで!」
この人たちのことをどうしようもなく信じてしまっていたんだから、しょうがないじゃないか。
私は私の過去を、これまで抱え込んできた感情を吐露していた。
穢れた血を持って生まれた私を、こんな私を、好きになってくれる人なんて、いないはずなのに。
――だけど彼は、石川誠道という人間は、そんな私に向かって、柔らかにほほ笑むのだ。
「俺たちはコハクちゃんが優しいってわかってる。コハクちゃんのお母さんとは違って、素敵な可愛い女の子だって、知ってるから」
信じさせてみせるからね、と語りかけるかのように。
彼の心からの笑顔が私の心を照らしてくれる。
「大丈夫。見ててほしい。俺は、絶対にあいつを許さないから」
誠道さんの表情がキリリと引き締まる。
私に背中を向け、私がこれまで信じてきた、テツカさんの方を向く。
「コハクちゃんを傷つけたあいつは、いまからずっと俺の敵だ」
彼の背中はとても大きく見えて、私はその姿に見惚れていた。
格好いい、と思った。
「コハクさん」
隣にいるミライさんが声をかけてくれる。
この人も、お母さんに裏切られて、テツカさんに裏切られて、絶望していた私のそばにずっと寄り添ってくれていた。
「誠道さんは信じるに値するお方です。少なくとも、私はそう思います」
私はあなたたちを殺そうとしたのに。
あなたたちに、あらぬ疑いをかけて、傷つけようとしたのに。
出会って間もないのに。
「誠道さんもたくさんの人に裏切られてきました。でも、それでも私を信じてくれました」
どうしてあなたたちは私のことを信じてくれるの?
「誠道さんは引きこもりのどうしようもない人ですけど、優しい強さを持っている、素敵なお方ですから」
「うるせぇ。いますぐ謝れよ。俺は許さねぇけど、謝れよ。……【無敵の人間】」
誠道さんの怒りに染まった声が聞こえてくる。
私は誠道さんの背中を見た。
熱く、優しく、真っ赤に燃え上がる炎をまとった誠道さんを見て、私の心にも暖かくて、むずがゆくて、だけど大切だと思える感情が湧き上がってくる。
「私は……わたし、は……」
胸に手を当てて、目を閉じて、湧き上がってきた感情ときちんと向き合う。
幼いころから私は独りぼっちだった。
遊びで男の名前をつけるような狂った母親と二人暮らし。
父親はもちろんいない。
そんな母親が私を大切に思ってくれているわけもなく、私は母親からの暴力に耐えながら日々を過ごしてきた。
母親が犯罪者になったあと、ようやく苦痛の日々から解放されると思ったが、私は独りぼっちのまま。
悲しかった。
存在意義が欲しかった。
誰かに私のことを必要としてほしかった。
そんなときに現れたハクナさんは私を必要としてくれて、テツカさんは不治の病(嘘だったけど)を独りで看病する私をすごいと褒めてくれて。
嬉しかった。
楽しかった。
この人たちのためならなんでもできると思って、必要としてくれたのだからなんでもしなきゃと思って。
必要とされなくなるのが怖くて怖くてたまらなくて。
でも、私は二人に利用されていただけ。
結局、私はずっと独りだった。
誰かを信じて、裏切られて、もうこんなの嫌だって、ついさっき痛いほど身に染みて絶望したはずなのに、どうしてすぐにま、誰かを信じようと、信じたいと、信じてみたいと思ってしまうのだろう。
信じたいという感情が、私の心に暖かな光を与えようとしてくるのだろう。
また裏切られるかもしれないのに。
この人たちとはまだ会ってから間もなくて、この人たちのことなんかなんにも知らないのに、どうして私は、この人たちを信じられるなんて思ってしまうんだろう。
「私は……もう、うらぎら、れるのは……」
「いいねぇ、その顔。もっと絶望しろぉ!」
そのとき、ワルシュミーの歓喜に歪んだ声が聞こえた。
顔を上げる。
誠道さんとミライさんが、氷漬けにされていた。
「そのまま死んでいくんだよぉ。その絶望こそが美食なんだ。やれぇ! マーズ!」
――――いやだ! 死なせない!
そう思ったときには、もう私は【野獣化】していた。
さっきの【離澄虎】ですべての力を使い果たしていたはずなのに、体が動いている。
限界を超えているはずなのに、いまだけでいいからとにかく動け! と脳が命令している。
守らなくちゃいけないんだという強い気持ちに、体が突き動かされている。
「私は……また裏切られるのは嫌だけど……怖いけど」
目の前にいるワルシュミーをぐっと睨みつける。
「それでも私は信じたい! 私が信じられると思ったから! ここで二人がやられるのを黙って見ているだけの方が、もっと怖いから!」
体中から力があふれ出す。
私のどこにこんな力が残っていたのだろう。
ってかそんなのどうでもいい。
だって、だってだってだって、私はもう……。
「私を信じてくれた人を奪わないで!」
この人たちのことをどうしようもなく信じてしまっていたんだから、しょうがないじゃないか。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
月が導く異世界道中extra
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
こちらは月が導く異世界道中番外編になります。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
帝国宇宙軍所属の俺ですが、未開の惑星に遭難しました。〜なんかこの星、魔法とか存在しているんですけど!?〜
ネコミコズッキーニ
ファンタジー
グナ・レアディーン帝国に所属する俺、マグナは窮地に陥っていた。それというのも連邦の戦闘艦に追い込まれ、無理矢理ワープした先が、どことも知れない辺境の星だったからだ。
くそう! 一級帝国人の俺が、こんな場所でくたばってたまるかよっ! こちとらまだまだエリート帝国軍人の階段を上っている最中なんだっての! なんとか艦を修理して、華々しく帝国本星へ帰還するんだ!
……って、なんかこの惑星、変じゃない? え、魔法みたいな現象が起こっているんですけど?
さらにしゃべる骸骨や妖精さんも出てきたんですけど!!?
とんだファンタジー世界だぜ……! でもなめんじゃねぇ! こっちにはスーパーAIのリリアベルさんに、最強アンドロイドのアハトさんがおられるんだぞ!
って、おい! アハトさん、お願い働いて!
特殊スキル持ちの低ランク冒険者の少年は、勇者パーティーから追い出される際に散々罵しった癖に能力が惜しくなって戻れって…頭は大丈夫か?
アノマロカリス
ファンタジー
少年テイトは特殊スキルの持ち主だった。
どんなスキルかというと…?
本人でも把握出来ない程に多いスキルなのだが、パーティーでは大して役には立たなかった。
パーティーで役立つスキルといえば、【獲得経験値数○倍】という物だった。
だが、このスキルには欠点が有り…テイトに経験値がほとんど入らない代わりに、メンバーには大量に作用するという物だった。
テイトの村で育った子供達で冒険者になり、パーティーを組んで活躍し、更にはリーダーが国王陛下に認められて勇者の称号を得た。
勇者パーティーは、活躍の場を広げて有名になる一方…レベルやランクがいつまでも低いテイトを疎ましく思っていた。
そしてリーダーは、テイトをパーティーから追い出した。
ところが…勇者パーティーはのちに後悔する事になる。
テイトのスキルの【獲得経験値数○倍】の本当の効果を…
8月5日0:30…
HOTランキング3位に浮上しました。
8月5日5:00…
HOTランキング2位になりました!
8月5日13:00…
HOTランキング1位になりました(๑╹ω╹๑ )
皆様の応援のおかげです(つД`)ノ
クラス転移したひきこもり、僕だけシステムがゲームと同じなんですが・・・ログアウトしたら地球に帰れるみたいです
こたろう文庫
ファンタジー
学校をズル休みしてオンラインゲームをプレイするクオンこと斉藤悠人は、登校していなかったのにも関わらずクラス転移させられた。
異世界に来たはずなのに、ステータス画面はさっきやっていたゲームそのもので…。
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜
水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑
★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位!
★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント)
「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」
『醜い豚』
『最低のゴミクズ』
『無能の恥晒し』
18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。
優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。
魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。
ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。
プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。
そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。
ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。
「主人公は俺なのに……」
「うん。キミが主人公だ」
「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」
「理不尽すぎません?」
原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。
※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる