上 下
184 / 360
第4章 3 新技と誘惑

いろんな放置プレイ

しおりを挟む
 宿泊する部屋は、ベッドが三つに机とクローゼットが一つずつ置かれてあるだけの簡素な部屋だった。

 ミライ、俺、マーズの並びでベッドを使うことになり、俺は早速ベッドの上に寝転がった。

 少し硬いし枕も低いが……許容範囲だ。

「ふぅ、結構重いわねこれ。持ち運ぶの面倒だわ」

 マーズが、キャバクラからもらってきたビリビリ椅子をベッドのそばに置いて両肩をくるくる回す。

 つづけて腰を逸らせると、ぽきぽきと警戒に骨が鳴った。

「そんなに面倒だって思うんなら、なんでもらってきたんだよ」

 仰向けに寝たまま顔だけマーズの方を向く。

「そんなの、その面倒すら喜びに変える力をこの私が持っているからに決まってるじゃない」

 マーズはビリビリ椅子を慈愛のこもった瞳で見つめながら、その背もたれを優しくなではじめる。

 え?

 マーズにはビリビリ椅子がお腹を痛めて産んだ赤ん坊にでも見えてるの?

「面倒も日常の一部。その日常って実は当たり前じゃないの。日常のささいな出来事を幸せだと思う、それが本当に大事なのよ」

「お前のはただのドMだろうが。ただのドM性癖をすげぇいい言葉っぽく言うのやめろよ」

「どんなことも幸せにつながるような言葉に変換してみるのって、生きていくうえで結構大事だと思うけど」

「じゃあ引きこもりをいい言葉っぽく変換してくれよ」

「わかったわ! …………ごめんなさい。引きこもりはどう頑張っても引きこもりでしかなかったわ」

「もうちょっと粘ってくれ!」

「ビリビリ椅子ちゃん。引きこもり男がうるさいでちゅねー。もう少しで大人しくなりまちゅから我慢してくだちゃいねー」

「それ命のない無機物だからな」

 ビリビリ椅子にデレデレしているマーズに愚痴るのももう飽きた。

 ふわわぁと大きなあくびが出る。

 今日はいろいろあって心も体もお尻も疲れている。

「ミライ、マーズ。悪いけど、もう俺寝るわ」

「ほーら、ビリビリ椅子ちゃん。私の言った通りすぐ大人しくなったでしょう」

 もうマーズは無視。

 うつ伏せになって枕に顔をうずめると、すぐに心地よい眠けが体にのしかかってきて―ー

「えっ? どうして寝るんですか?」

 なぜかミライがつっかかってきた。

「どうしてって、そんなの疲れて眠いからに決まってるだろ」

「キャバクラではあんなにあのクソ女と話しておいて、私とはひとことも話さず寝るなんて、ちょっと私のご主人様としてどうかと思います」

「あのビリビリ椅子の電撃のせいで体にダメージがすげぇんだよ」

 俺はマーズの愛する我が子――ビリビリ椅子を指差しながら言う。

 なんだかお尻にあの激痛がフラッシュバックした気がするんだが。

 それと。

「えっ? そんなに体にダメージが残るの? ああんっ、早く私も経験したいわっ!」

 というマーズの声が同じ部屋から聞こえた気がしたが、俺もミライもそんなどうでもいいことは無視して会話を続行する。

「誠道さんのお尻へのダメージなんて、私には関係ありませんっ」

「関係大アリだろっ! だいたいお前らの勝負のせいなんだからな。俺がお尻を抉られるような痛みを感じたのはっ!」

「あれだって、元はといえば誠道さんがクソキャバ嬢に鼻の下を伸ばしていたからで」

「お尻を抉られる痛みっ? んあっ! 想像しただけでもうっ……我慢できないっ」

「ああもうマーズがいちいちうるさいんだよなぁ! ミライとの言い争いに集中させてくれよ!」

 我慢できなくなった俺は、マーズの方を向く。

「さぁ! 私はすでに座っているわ!」

 ビリビリ椅子に座って、嬉々とした表情でこちらを見ているマーズと目が合った。

「早くっ! 早くしてぇ! はやく私になにか質問をっ! この際、ミライさんじゃなく誠道くんでもいいからぁ! それで私が嘘をつけばお尻に電撃がっ……ああっ! 想像しただけでも、もうっ……らめぇ……」

 一人で体をくねらせて、興奮に身を委ねていくマーズ。

 見るに耐えないというか、情けないというか、どうでもいいというか。

「なぁ、ミライ」

「なんですか、誠道さん」

 冷静になった俺とミライは顔を見合わせて。

「こんなの放っといてもう寝るか」

「そうですね」

「ちょっと! 二人して放置プレイなんてっ! それはそれでありなのぉ……っ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

死を約束されたデスゲームの悪役令嬢に転生したので、登場人物を皆殺しにして生き残りを目指すことにした ~なのにヒロインがグイグイと迫ってきて~

アトハ
ファンタジー
 私(ティアナ)は、6人で互いに勝利条件の達成を目指して争う『デスゲーム』の悪役令嬢に転生してしまう。勝利条件は【自分以外の全プレイヤーの死亡】という、他の参加者とは決して相容れないものだった。 「生き残るためには、登場人物を皆殺しにするしかない」  私はそう決意する。幸いにしてここは、私が前世で遊んだゲームの世界だ。前世の知識を使って有利に立ち回れる上に、ゲームでラスボスとして君臨していたため、圧倒的な戦闘力を誇っている。  こうして決意を固めたものの―― 「ティアナちゃん! 助けてくれてありがとう」  ひょんな偶然から、私は殺されかけているヒロインを助けることになる。ヒロインは私のことをすっかり信じきってしまい、グイグイと距離を縮めようとする。 (せいぜい利用させてもらいましょう。こんな能天気な女、いつでも殺せるわ)  そんな判断のもと、私はヒロインと共に行動することに。共に過ごすうちに「登場人物を皆殺しにする」という決意と裏腹に、私はヒロインを大切に思う自らの気持ちに気が付いてしまう。  自らが生き残るためには、ヒロインも殺さねばならない。葛藤する私は、やがて1つの答えにたどり着く。 ※ ほかサイトにも投稿中です

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

スカートの中、…見たいの?

サドラ
大衆娯楽
どうしてこうなったのかは、説明を省かせていただきます。文脈とかも適当です。官能の表現に身を委ねました。 「僕」と「彼女」が二人っきりでいる。僕の指は彼女をなぞり始め…

傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~

日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】 https://ncode.syosetu.com/n1741iq/ https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199 【小説家になろうで先行公開中】 https://ncode.syosetu.com/n0091ip/ 働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。 地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?

乙女ゲーム攻略対象者の母になりました。

緋田鞠
恋愛
【完結】「お前を抱く気はない」。夫となった王子ルーカスに、そう初夜に宣言されたリリエンヌ。だが、子供は必要だと言われ、医療の力で妊娠する。出産の痛みの中、自分に前世がある事を思い出したリリエンヌは、生まれた息子クローディアスの顔を見て、彼が乙女ゲームの攻略対象者である事に気づく。クローディアスは、ヤンデレの気配が漂う攻略対象者。可愛い息子がヤンデレ化するなんて、耐えられない!リリエンヌは、クローディアスのヤンデレ化フラグを折る為に、奮闘を開始する。

旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。

ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。 実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

処理中です...