上 下
128 / 360
第3章 2 いざ、混浴へと!

とある人物との再会

しおりを挟む
 出発時間になったので、俺たちは家を出てグランダラの正門に向かう。

「フーユインまでは馬車で十二時間ですね」

「十二時間っ!?」

 マジかよ。

「馬車ってがたがた揺れるイメージあるんだけど。お尻とかめっちゃ痛くなりそうだな」

「そこは大丈夫です。私たちが乗るのは『プレミアム馬車』なので、むしろ最高の乗り心地を堪能できます。しかもこのチケットがあれば料金は無料! さらに、運転手が敵や魔物に絶対に見つからずに移動できる【隠匿移動ぬきあしさしあししのびあし】というレア技の持ち主なので危険もゼロ! 警備のための冒険者を雇う必要もありません」

「すげぇな、その運転手」

「ちなみに、プレミアム馬車に乗らないと、フーユインまでは二日かかります」

「馬車が遅いというべきか、プレミアムが早すぎるというべきか」

 俺は素直に感心する。

 名ばかりのプレミアムじゃなくてよかった。

「ま、そもそもフーユインへまでの街道に強い魔物は現れないので、そもそも魔物の心配する必要がないんですけどね」

「おいそれ強い魔物が出るフラグだからな!」

 でも、なおさら本当によかった。

 運転手が【隠匿移動】を持っていて。

 フーユインにたどり着くまでに強い魔物と会って死にましたじゃ話にならないもんね。

 とまあ、そんな話をしている内に正門に到着した。

「プレミアム馬車ってどれだ?」

「ええっと、ああ、あれです」

 ミライが指さした先には、王族の移動に使われていそうな豪華な馬車があった。

 他の馬車とは明らかにグレードが違う。

「すげぇ。俺たちあれに乗れるの?」

「はい。さぁ、いきましょう」

 貴族にでもなったかのような気分で馬車まで歩く。

 御者も清潔感がある素敵な男性だ。

「ようこそ。プレミアム馬車へ。本日、あなた方の素敵な旅のお供をさせていただきます――って、あなた引きこもりのっ!」

 目を見開いた御者に指をさされる。

 ねぇ、格好に見合った礼儀を身につけている人にしてよ。

 いきなり引きこもり呼ばわりは……ってかなんでこの運転手、俺が引きこもりだって知ってんの?

 …………あ。

「あなた、もしかして俺と一緒にこっちに転生した」

「はい。あのバスの運転手です」

「やっぱり!」

 感動の再会! ってわけでもないけど、異世界転生するという現実を受け入れられずに精神がおかしくなっていたバスの運転手が、こうして異世界できちんと生きていることがわかって安心した。

 ってか【隠匿移動】を持っているってそういうことか。

 …………あれ?

 この人が転生者って視点で考えると、あのクソ女神から有用な技をもらえている事実に腹が立ってきたぞ。

「あのときはお見苦しい姿をお見せしてしまい、申しわけありませんでした。いきなりのことで混乱状態だったんです」

 握手を求められたのでそれに応じると、なぜか謝られた。

 ああ、女神リスズに集められた日のことを言っているのか。

「いえ、突然あんなことになれば、取り乱してもおかしくはないですよ」

「お気遣いありがとうございます。実は、私はあなたにずっと感謝の言葉を伝えたかったのです」

「え、俺に感謝?」

「はい」

 バスの運転手だった男は満面の笑みでつづける。

「私はあのとき、精神がおかしかったのです。私のせいでバス事故を起こしてたくさんの人の命を奪ってしまった。にもかかわらずその誤魔化し方すら思いつけなくて、絶対に有罪だと思うと、もう八方ふさがりで」

「そういう意味でおかしくなってたのかよ!」

 普通は自分が突然死んだこととかが原因だと思うじゃん。

 ってか神様が不運な事故だって言ってたじゃん。

 この人の倫理観大丈夫?

 事故を誤魔化すって……これからこの人の馬車に乗って大丈夫かなぁ。

「そんなときです。あなたが【新偉人】っていうクソみたいなステータスをもらったことを不満に思って騒ぎはじめて」

「あのぉ、ちくっと俺をバカにしないで」

「私はそのなんとも惨めな姿を拝見して」

「グサッと俺をバカにしないで」

「ああ、私はなんてちっぽけな事で悩んでいたんだろう。こんな素敵な【移動ドライブ】というステータスをもらったのだから、これまでのことは全部忘れて異世界生活を楽しもうと」

「ねぇ、あんたバスの事故を自分の過失だって思ってたんだよね? それをちっぽけなんて言わないで! 全部忘れないで!」

「むしろ私のおかげでみんな異世界に転生できたんだから、感謝されるべきなんだって思おうとしました」

「まだ精神がおかしい可能性まで出てきたぞ!」

 正常性バイアスって言うんだっけ?

 罪悪感を消すために、自分の過去を正当化しているぞこの人!

 あと、あのとき騒ぎまくってた俺って、そんなに惨めでしたか?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~

山田 武
ファンタジー
テンプレのように異世界にクラスごと召喚された主人公──イム。 与えられた力は面倒臭がりな彼に合った能力──睡眠に関するもの……そして催眠魔法。 そんな力を使いこなし、のらりくらりと異世界を生きていく。 「──誰か、養ってくれない?」 この物語は催眠の力をR18指定……ではなく自身の自堕落ライフのために使う、一人の少年の引き籠もり譚。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

帝国宇宙軍所属の俺ですが、未開の惑星に遭難しました。〜なんかこの星、魔法とか存在しているんですけど!?〜

ネコミコズッキーニ
ファンタジー
 グナ・レアディーン帝国に所属する俺、マグナは窮地に陥っていた。それというのも連邦の戦闘艦に追い込まれ、無理矢理ワープした先が、どことも知れない辺境の星だったからだ。  くそう! 一級帝国人の俺が、こんな場所でくたばってたまるかよっ! こちとらまだまだエリート帝国軍人の階段を上っている最中なんだっての! なんとか艦を修理して、華々しく帝国本星へ帰還するんだ!  ……って、なんかこの惑星、変じゃない? え、魔法みたいな現象が起こっているんですけど?  さらにしゃべる骸骨や妖精さんも出てきたんですけど!!?  とんだファンタジー世界だぜ……! でもなめんじゃねぇ! こっちにはスーパーAIのリリアベルさんに、最強アンドロイドのアハトさんがおられるんだぞ!  って、おい! アハトさん、お願い働いて!

特殊スキル持ちの低ランク冒険者の少年は、勇者パーティーから追い出される際に散々罵しった癖に能力が惜しくなって戻れって…頭は大丈夫か?

アノマロカリス
ファンタジー
少年テイトは特殊スキルの持ち主だった。 どんなスキルかというと…? 本人でも把握出来ない程に多いスキルなのだが、パーティーでは大して役には立たなかった。 パーティーで役立つスキルといえば、【獲得経験値数○倍】という物だった。 だが、このスキルには欠点が有り…テイトに経験値がほとんど入らない代わりに、メンバーには大量に作用するという物だった。 テイトの村で育った子供達で冒険者になり、パーティーを組んで活躍し、更にはリーダーが国王陛下に認められて勇者の称号を得た。 勇者パーティーは、活躍の場を広げて有名になる一方…レベルやランクがいつまでも低いテイトを疎ましく思っていた。 そしてリーダーは、テイトをパーティーから追い出した。 ところが…勇者パーティーはのちに後悔する事になる。 テイトのスキルの【獲得経験値数○倍】の本当の効果を… 8月5日0:30… HOTランキング3位に浮上しました。 8月5日5:00… HOTランキング2位になりました! 8月5日13:00… HOTランキング1位になりました(๑╹ω╹๑ ) 皆様の応援のおかげです(つД`)ノ

クラス転移したひきこもり、僕だけシステムがゲームと同じなんですが・・・ログアウトしたら地球に帰れるみたいです

こたろう文庫
ファンタジー
学校をズル休みしてオンラインゲームをプレイするクオンこと斉藤悠人は、登校していなかったのにも関わらずクラス転移させられた。 異世界に来たはずなのに、ステータス画面はさっきやっていたゲームそのもので…。

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

処理中です...