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第3章 2 いざ、混浴へと!

混浴と葛藤

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 翌日。

「誠道さん。二泊三日の温泉、楽しみですね」

「そうだな」

 朝からテンション高めなミライと一緒に荷物を鞄に詰めていく。

 出発は昼すぎだが、なんだかんだ楽しみすぎて俺もミライも早起きしてしまったのだ。

「でも、誠道さんはもっと寝ていてもいいんですよ」

「寝すぎも疲れる一因だし、こういうのは準備も旅行の一部って言うだろ」

「たしかに、文化祭はみんなとわちゃわちゃはしゃいでいる準備期間の方が実は楽しいって言いますもんね」

「それ、……温泉が楽しくないって言っているようなもんだからな」

 文化祭はそうかもしれないけど、温泉は絶対に現地の方が楽しいから。

「はっ、そうですね。水を差すようなことを言って申しわけありません」

 ミライが準備の手を止めて深々と謝る。

「いや、そこまでの謝罪は求めてな」

「引きこもりだった誠道さんに文化祭の思い出なんてないですよね。ただの休みの日ですよね」

「おい表へ出ろ」

「準備期間だって、なにもやることがないからひとりで校舎を徘徊するだけの、ぼっちを再確認するための悲しい時間でしたよね」

「そんなことな……」

 いから、と言えない己の惨めさよ。

 咳払いをしてこの胸の痛みを誤魔化す。

「とにかく、俺は温泉旅行は絶対に楽しいものになるってことを言いたかったんだ」

「そうですね。今回泊まる宿は温泉街フーユインでも一、二を争う高級宿で、名前はたしかコンヨクテンゴクと呼ばれ」

「なに? 混浴天国、だと?」

 高貴で紳士な俺にぴったりの最高の語感を持った言葉が聞こえたので、聞き間違いじゃないかを確認する。

「はい。混浴天国です。今回私たちはフーユインにいって、コンヨクテンゴクを大いに楽しみます。……あ、あの混浴なら、誠道さんは特に楽しめると思いますよ」

 なるほど、そういうことね大体理解した。

 温泉街フーユインは露出狂たちが集まる――混浴を楽しめる人たちが集まるパラダイスってことか。

 合法的に異性の裸を拝もうとする人たちが集まる――混浴を楽しめる人たちが集まるパラダイスってことか。

「どうですか? 混浴天国、誠道さんも楽しみですよね?」

「……まあ、それなりには、本当にちょっとだけな」

 心の中はハイテンションパラダイス状態だが、それを悟られぬよう平静を装う。

「それなりって。私はものすごぉぉおおおおく楽しみですよ。混浴天国」

 ミライは温泉に浸かって両肩にお湯をかけるジェスチャーをしている。

 あ、そうか。

 俺が混浴に入るってことは、ミライも混浴に入るってことだよな。

 興奮で空中に浮きそうになっていた体が、通常通り重力を感じはじめる。

 なんか…………それは嫌だな。

 混浴ってことは、ミライの体を、他の男にも見られるってことだ。

 別に俺に拒否権はないけれど、なんかモヤモヤする。

 だって混浴天国なんてとこに行く人たちって、合法的に女の裸を拝もうとするような変態の集まりだよ?

 露出狂の集まりだよ? 

 そんな人たちに、ミライの裸を見られるのは、なんか嫌だなぁ。

「なぁ、その混浴天国には、混浴じゃないところもあるんだよな?」

「まあ、あるにはありますが、でもせっかくいくのですから」

「いやその……なんつーか、ちょっと裸を他人に見られるのは、恥ずかしい、っつーか」

「そこは安心してください。今回はプレミアムチケットを持っている人しか入れない場所を回る予定ですから。基本的にはペア――つまり私と誠道さんが貸し切りで入る場所しかないです」

「そっか、……なら、まあいいか」

「はい。これで誠道さんのお粗末なものを見られてバカにされる心配は」

「お粗末じゃねぇから! 人並だから!」

「え? でもたしかに私が見たときは」

「いったいミライはいつ見たんだよ!」

 でも、それならよかった。

 女性と合法的に混浴できないのは残念だが、ミライの裸を他の男に見られるよりはるかにましだ。

 これでミライの裸を見られる心配はない。

 ずっと俺と二人きりで行動するのだから、ミライの裸を見られるのは俺だけ――――俺だけっ!?

 その事実に気がついた俺の体は、猛烈に熱くなった。
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