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第2章 4 金の亡者の本懐

性善説

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 階段を下りはじめると、すぐに石像が自動で元の場所に戻り、入り口をふさいだ。

 光が入ってこなくなって真っ暗闇になるかと思ったが、遺跡内は明るいまま。

 なんらかの魔法が付与されているのだろう。

 こういうのって地味にすごいよね。

 この遺跡を作った人は相当の手練れ魔法使いだったのだろう。

「ってか閉まるときは自動なのね。外に出るときも押せばいいのか?」

「なにをバカなことを。専用の呪文を唱えないと開かないに決まっているでしょう」

「なんで出るときだけ呪文が必要なんだよ!」

「侵入者を閉じ込めておくためではないでしょうか?」

「……ぐうの音も出ない正論をありがとう」

 不覚にも、久しぶりにミライって頭いいなぁと思ってしまった。

「ま、私たちはここから出るための呪文を知らないので、不覚にも閉じ込められてしまったんですけどね」

「頭がいいなんて思った俺がバカだったよ! どうすんだよ!」

 あとぜんぜん不覚じゃないだろうが!

「誠道さん。静かにしてください。カイマセヌさんに気づかれてしまいます」

 そう指摘され、慌てて口を手で押さえるが、ひそひそ声で話はつづける。

「じゃあどうやって脱出するんだよ?」

「カイマセヌさんかクリストフさんが知っているはずです。彼らから教えてもらいましょう」

「教えてくれるわけないだろ。敵なんだから」

「誠道さんは性善説をご存知ないのですか?」

「ジツハフを誘拐してんだから、生きてくうちに悪に染まったんだよ」

 声を潜めているため、ウィスパーボイスで突っ込む羽目になってしまった。

「たしかに。それは困りましたね」

 顎に手を当ててなにやら考えはじめるミライ。

「いや困ってんじゃねぇよ。事前に考えとくべきだろ」

「……あっ! そうですよ。ジツハフくんを救出するためには、彼らを倒さなければいけません。なので彼らを倒す前提で考えるのです。動けなくなった彼らを拷問して脱出の呪文を吐かせましょう」

「拷問って、それだと俺たちが悪者みたいに見えるような」

「向けられた悪意に対して情けをかけることを優しさとは言いませんよ」

 ミライが強い口調で諭してくる。

 な、なんか格好いい……。

「そもそも、まだ起こってないことを心配するのはやめにしませんか? 脱出の心配は脱出のときに考えればいいのです」

 な、なんか格好悪い……。

 問題を先延ばしにしただけだぁ――って。

「この扉の先か?」

 階段を下りた先には巨大な扉があった。

 禍々しい黒色の扉は見ているだけで強烈な圧迫感を覚える。

 侵入者を拒もうとする気まんまんだ。

 お宝がないところに設置するような扉ではない。

「はい。この先にいるはずです」

「そっか」

 ごくりと息をのんだ瞬間、鳥肌が立った。

 不安が体にまとわりつく。

 果たして俺は勝てるのか?

 ジツハフくんを救い出せるのか?

 ――いや、勝つんだ。救い出すんだ。

 俺のすべてを賭けて絶対に勝利してみせる。

「じゃあ、いくぞ」

「はい。誠道さん」

 俺は黒の扉に両手を押しつける。

 扉の表面はひんやりとしていた。

「……ここは呪文が必要、なんてことはないよな?」

「はい。ここも手動です」

 よかった。

 一応確認しないとね。

 じゃないと強敵とご対面っていう格好いいシーンが台無しだから。

 この遺跡に入るときみたくツッコミする羽目になったら、非常に緊張感のない、しまらないシーンなるからね。

「それじゃあいきますよ」

 ミライも俺と同じように扉に手を押しつける。

 俺たちは目で合図して。

「「せーのっ!」」

 そして、俺が力一杯扉を押そうとした瞬間、ミライがあろうことが扉を上に持ち上げた!

「なんでシャッタータイプの扉なんだよ!」

 ああ、やっぱりしまりのないシーンになっちゃったよぅ。……じゃなくて。

「ジツハフくん」

 象形文字が描かれた白い壁で囲まれた巨大な空間の中央に、椅子に縛られたジツハフくんと、二人の男がいた。
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