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第2章 4 金の亡者の本懐

助けにいきたい

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「イツモフさんっ?」

 ミライが同じようにしゃがんで肩を抱く。

「いきなりどうしたんですか?」

「だってカイマセヌって。カマセイヌが生きている? そんなまさか、でも……」

「イツモフさん! しっかりしてください!」

「嘘だ。だって噛ませ犬は……あ、間違えた。カイマセヌはあの大戦で勇者が殺したはずなのに」

「いいから落ち着いてください!」

 ミライがイツモフさんの両肩を掴んで前後に揺さぶると、イツモフさんは冷静さを少し取り戻した。

「……っ。すみません。ありがとうございます」

「いえ。それよりも、ひとつ質問があるのですが、よろしいですか?」

「はい」

 ミライの問いかけに対して、深くうなずくイツモフさん。

 質問があるってことは、ミライも噛ませ犬……カイマセヌって人を知らないんだな。

 ってか名前を聞いただけでイツモフさんがここまで取り乱すって。

 しかも勇者が殺したってことは、裏を返せば勇者にしか殺せなかったってことだ。

 なにそれ噛ませ犬みたいな名前してんのにめちゃくちゃ強いじゃねぇか。

「イツモフさんが言った、あの大戦ってなんですか?」

「聞くとこそこじゃねぇだろ!」

「極東にあるウエスト荒野北西部で行われた旧ノースオアシス領南東遺跡大決戦北の陣です」

「一体どこだよそこは! 南か? 東か? そんなめんどくせぇ場所で戦うな! 覚えにくいわ!」

「イツモフさんはちゃんと極東にあるとおっしゃいましたが?」

「今は冷静なツッコみはいらねぇんだよ!」

 そんなことよりも大切な事があるだろうが!

「俺たちが知りたいのはカイマセヌの情報だよ!」

「誠道さん」

 ミライが俺をなだめるように優しく肩に手を置く。

「俺たち、なんて勝手に主語を大きくするのはよくないです。暴走するフェミニストやネットにはびこる自称正義廚、みんなを代表して言っているつもりのバカクレーマーになってしまいます」

「じゃあミライはカイマセヌが誰か知ってるのかよ」

「カイマセヌ。本名、ピロードロー・カイマセヌは悪魔国出身の悪魔です。悪魔国の四天王だった男で、対人族との戦争の際に甚大な被害をもたらしましたが、勇者によって討伐されたと伝わっております」

「ほんとに知ってた! でもなんでそこまで知ってんのに決闘の場所を聞いたんだよ」

「対戦の名前がやたらと長く覚えにくく、ついド忘れしちゃいまして」

「舌をペロッじゃねぇんだよ! もう覚えにくさの弊害出てんじゃねぇか!」

「カイマセヌは!」

 イツモフさんが俺たちの言い争いを声で制す。

 顔は涙でぐちゃぐちゃだ。

「勇者にしか倒せなかったほど強い悪魔なんです! 残虐性も折り紙つき。私の全財産を持っていったところで、きっと見逃してはくれない! 助けにいっても、やられるだけかもしれない。でも! 私は助けたい。ジツハフを助けたい。一緒に……いたい」

「そんなのわかってる。俺たちが見捨てるわけがないだろ」

 俺は力強く言い放つ。

 ミライを見ると笑顔でうなずいてくれた。

 よかった。

 今度は主語を大きくうんぬんかんぬんは言われなかったぞ。

「な、ミライも俺と同じ気持ちだ。だから助けにいこう。みんなでジツハフを助けに!」

 俺はイツモフさんに向けて手を伸ばす。

 どうやってカイマセヌからジツハフを救出したらいいのか。

 方法なんて考えついてもいないし、そもそもできるかどうかもわからないけど。

 それでも、やってやる。

 絶対に助けてやる。

「ごめん、……なさい」

 しかし、イツモフさんは俺の手を取らなかった。

「ごめんなさい。……私は、いけないんです」

 ふるふると首を振るイツモフさん。

 その体は異様なまでに震えていた。

「いけないって、なんでだよ。弟のピンチだろ」

「そんなのわかってます! 私だっていきたいですでも! ……いきたいのに、怖いんです。戦場が、戦いの場が、暴力が、怖くて怖くて、もう動けないんです」

「戦場が、怖いって…………」

 俺は言葉を失った。

 イツモフさんは震える体を自身の腕で抱き、大粒の涙を流している。

 唇を噛んで悔しさをあらわにしているのに、目には闘志が浮かんでいない。

 顔からどんどん血の気が失われていく。

「私は、産まれてすぐに親に売られました。だから、本当の自分の名前は知りません。いつも番号で呼ばれていました」
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