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第2章 4 金の亡者の本懐

ごめん、ミライ、疑って

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 グランダラ近郊にある地下遺跡の中、謎の象形文字が書かれた白い壁で覆われた空間に二人の男がいる。

「おい、予定より随分と儲けが少ねぇじゃねぇか」

「すみません。カイマセヌさん」

 一人は祭りの屋台でユニコーソの角の丸焼きを販売していたクリストフだ。

 彼は今、ドレッドヘアーの男――カイマセヌの足元で土下座をしている。

 カイマセヌは身長が二メートルある大男だ。

「ちょっと予定が狂いまして。実は同じ手法の屋台を出していたやつらがいて客を取られてしまい……」

 クリストフは怯えつつも必死で弁明する。

 ここでしくじれば命はない。

 それを彼はわかっているのだ。

「それがどうした」

 カイマセヌはクリストフの言葉を一蹴する。

「客が取られたんなら、取り返せばいいだけの話だろうが」

「すみません。しかし、もう祭りは終わっており」

「売り上げをぶんどってくればいいだけだろうが!」

 カイマセヌがクリストフの頭をぐりぐりと踏みつける。

 クリストフがその顔を恐怖に歪めた。

「す、すみません! 今すぐいってきます!」

「おう、もし今度失敗したら、わかってるだろうな?」

 カイマセヌが足を上げた瞬間に、クリストフは走り出した。

「力ってのはいいなぁ。すべてを思うがままにできる」

 不敵な笑みを浮かべたカイマセヌの背中から、真っ黒な翼が生えてくる。

 彼は人間ではない。

 凶暴で狡猾で残忍な、名の知れた悪魔だ。

「人間どもで遊ぶのはおもしれぇなぁ」

 体を逸らせながら高らかに笑うその姿は、狂気に歪んでいた。

「待ってろよ、勇者。力が完全に元に戻るまで後三か月、復讐のときは近いぜぇ」



  ***



「誠道さん。お話があります」

 祭りの翌日、ちょうどお昼の時間帯。

 ソファに座ってステータス画面を眺めていると、ミライが声をかけてきた。

「お話ってなんだよ」

 あ、と俺は身構える。

 この感じ、絶対に変なことを言い出すやつだ。

 過去の経験則からそう確信した俺の頭は、すでにツッコみワードを考えはじめていた。

「はい。それはですね」

 ミライはもったいぶるように少し間を開けてから、にやりと笑みを浮かべる。

「私、借金依存症のカウンセリングを受けてきます!」

「なんだよそ――って、え?」

 予想外の言葉に思わず聞き返す。

「ですから、私は今から借金依存症のカウンセリングを受けてきます!」

「それマジ?」

「はい。本当です」

 うなずいたミライの真剣な表情を見て、俺の胸は感動でいっぱいになった。

「ついに自覚したか!」

 ごめん、ミライ、疑って。

 なんか涙が出てきそうだ。

 ようやくミライが借金をしたがる心と向き合うことを選んでくれた。

 それが嬉しくてたまらない。

「はい。私、ついにそれが最善だと気づいたのです」

「うんうん。そうだよね。ようやく借金が悪だと」

「だってカウンセリングにいけば、借金依存症患者たちに信用がなくなっても借金しつづけられる方法を聞けますから!」

「そんなことだろうと思ったよ! ふざけんな!」

「勉強熱心と言ってください」

「ただの依存だろうが!」

 ってか、その思考を導き出したミライが、すでにこの街一番の借金依存症患者ではないだろうか。

「私は依存なんかしていません。いいですか。自分で気づいて自分でカウンセリングを受けにいくことができる人は、依存症じゃないんですよ」

「ミライはカウンセリングを受けることが目的じゃないから、その論法は通用しない」

「ここまで反対されるとは思いませんでした。じゃあもう私は、一生カウンセリングにはいきませんからね」

「おうそうしろ。カウンセリングなんか一生いくな」

 よかった。

 これでミライがまた借金するのを防げた…………あれ?

 これで本当にいいのか。

 なんか変な感じがするけど。

 本末転倒というか、ミライの策略にまんまと引っかかった感が否めないんだが、気のせいだろう。

「誠道さんが言ったんですからね。私は絶対に借金依存症のカウンセリングにはいきませんから」

「だからわかったって」

 ミライがしてやったりの顔をしているのはなぜだろう。

 口論に勝利し、借金依存症のカウンセリングにいかせないという目標を達成したのに、なんか負けた感がする。
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