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第2章 3 夏祭りは浴衣で君と

意識高い系のしりとり

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 すでに夜のとばりが落ちており、提灯にも淡い光が灯っている。

 視線を上げると、黒い雲の切れ間からは深い藍色の空が見え、ピカピカと輝く星々がグランダラの街を優しく照らしている。

 耳をすませば、遠くから、太鼓や笛の音も聞こえてきた。

 幻想的、と言えばいいのだろうか。

 目の前を行き交う人々は、綿あめを持っていたり、カップルで楽しそうに手をつないでいたり、お面をかぶっていたり。

 みんな笑顔で本当に楽しそうだ。

 両隣の屋台にはひっきりなしに注文が入り、イツモフさんもクリストフさんも忙しなく動いている。

 もちろん、俺たちも同じように――なるわけもなく。

「あー、暇すぎだろ、おかしいだろ」

 俺の愚痴に、首をひねっているミライが反応する。

「そうですね。ここまで客がこないとは……いったいどうしてでしょうか」

「高価格のぼったくり価格だからだと思います」

「どうしてこんなことになったんでしょうか」

「ミライさんが勝ち目のない勝負に挑んだからだと思います」

 汗がじとりと首筋を流れ落ちていく。

 俺とミライはさっきから屋台の中で椅子に座ったまま、祭りの喧騒をじっと眺めているだけ。

 しょうがない。

 客がこないのだから。

「でもですよ。低価格のぼったくり価格でユニコーソの角をユニコーンの角と偽って売っているイツモフさんの店が繁盛するのはわかりますが」

 ミライが嘆く。

 いや、よく考えたらおかしいよな。

 ぼったくり価格なのになんで繁盛してるの?

 グランダラの町人ってみんなバカなの?

 もっと字をよく見て。

「でもどうして、相場のぼったくり価格で販売しているクリストフさんの店にも客がくるのでしょうか」

「なんか、人間には真ん中の物を買う心理があるらしい。松竹梅だったら、竹を買う的な」

 さらに人は人気があるものがいいものだと思うから、売れてるところはより売れ、売れないところは全く売れないまま。

 なんという悪循環。

 俺たちの屋台は完全なる引き立て役だ。

「まったく。両隣がケチな人だったばかりに、私たちだけが損を被るなんて」

「それ言いがかりも甚だしいからな」

「はぁ。明日から毎食ユニコーソの角の丸焼き生活です」

「だな」

 もうやだ。

 こんなことなら引きこもってればよかった。

 なんで祭りにきているのに暇になっているのだろう、俺たちは。

「なぁミライ。暇だからしりとりでもやろうぜ」

「わかりました。じゃあしりとりの『り』からですね。ええっと、り、り、リュイジナコクア」

「なんだそりゃ」

「この世界の魔物の名前です」

「そうか。アだから、アイス」

「スリーバーンキジヨルド。この世界の魔物です」

「ドラム」

「ムリューリプテラノドン……コア」

「今絶対『ン』ってつきそうになったからコアってつけたよね?」

「いえ、そういう名前のこの世界の魔物です」

「この世界の魔物って言えばいいと思ってるだろ」

 まあいいや。

 別にそんな真剣にやってるわけでもないし。

「あ、あ、あ……アクア」

「アンティグアバーブーダ」

「懲りないな。存在していない言葉はもう言うなよ。それも魔物か?」

「いえ、これは誠道さんが元いた国、地球にある国名です」

「……そんな国あったのかよ」

「はい。セントクリストファーネイビスの近くにあります」

「知らない言葉を知らない言葉で説明すんな。意識高い系か」

「ねぇ」

 そのとき、絶賛暇人の俺たちに話しかけてくる人が現れた。

 ついに客だ!

「いひっ、らっしゃいませー」

 勢い余って噛んでしまった。舌が痛い。あれだけ練習したのになぁ。

 それに、そこにいたのは客ではなかった。

「こんばんは。ミライお姉ちゃん、誠道お兄ちゃん」

 そこにいたのはジツハフくんだ。
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