88 / 360
第2章 3 夏祭りは浴衣で君と
浴衣
しおりを挟む
それから二週間が経ち、早くも祭りの当日を迎えた。
グランダラのメインストリートには、まだ昼間にもかかわらず、提灯と屋台がずらりと並んでいる。
祭りの開始時刻は夕方以降だが、はやる気持ちを抑えられない子供たちが、準備段階の屋台をのぞきにきていた。
俺とミライも割り当てられた屋台に向かい、開店の準備をはじめる。
俺はこの二週間、経験値獲得のための筋トレをおろそかにしてまで、接客のトレーニングに勤しんだ。
その結果、なんとか接客も人並レベルには上達し――
「深夜のコンビニ店員くらいのレベルではないですか? 人並とは程遠い気が」
「見栄はったっていいだろ?」
すぐそばでてきぱきと動いているミライに痛いところを突かれてしまう。
ってか独り言漏れてたの?
でも深夜のコンビニ店員、別にいいじゃん。
日本の通常時の接客が過度に丁重過ぎんだよ。
だから客が「俺たちは神様だ!」なんて威張り散らすんだよ。
「そういや、メニューも仕入れも調理もまかせたけど、ミライこそ大丈夫なのか?」
「はい。問題ありません」
これまでのミライを知っているからこそ、その断定が逆に怖い。
ミライにまかせて問題がなかったことがないからだ。
「高級食材ばっかり、なんてことはないだろうな」
「まさか。今回用意した食材に高級なものはひとつもありません。むしろどれだけ安く仕入れられるかを極めました。なんせ今回の目的はバカなリア充からぼったくることですので。原価は抑えるに越したことはありません」
「もう少し言い方をかえれば、有能なバイヤーのように聞こえそうなんだけどなぁ」
言葉のセンスが本当にもったいない……が、ミライの言ったことは的を得ている。
今回の俺たちの目的は、祭りに参加するバカなリア充からお金をむさぼり取ること。
そしてその売り上げで借金返済すること。
だから原価を抑えるに越したことはない。
薄利多売なんてもう古い。
時代は濃利多売だ!
読み方も知らんし、そんな四字熟語があるかもわからんけど。
「それはそうとさ、ミライ」
「はい? どうしました?」
「その服、動きにくくないか? いつもの制服でもよかっただろうに」
俺はミライの服装がずっと気になっていたのだ。
今日のミライは、いつものセーラー服ではなく浴衣を着ている。
白い生地の上を真っ赤な金魚たちが優雅に泳いでおり、帯は爽やかな水色。
髪飾りも可愛らしい。
胸が大きいと浴衣は似合わないなんて通説があるが、ミライには当てはまらなかったようだ。
「え、それはつまり似合っていないということですか?」
戸惑いの表情を浮かべるミライ。
「いや違う違う。似合ってるし可愛いけどさ、その……浴衣じゃ動きにくいだろってことだよ」
「あ、そういうことでしたか」
花が咲いたような笑顔を見せたミライは、両腕を少しだけ持ち上げる。
「誠道さんが浴衣を着てほしそうな目をしてましたので、サービスいたしました」
「え、マジで?」
あれ、バレてたの?
ってか浴衣を着てほしそうな視線ってなんだよ。
「というのは二番目の理由で、一番の理由は祭りにきた男どもをの視界を一時的に奪うためです。浴衣姿は男性にとって実に魅力的に映ると聞いておりますから」
「否定はしない」
「つまり私は彼氏の視界を奪って、『ちょっと、なんで私以外の女なんか見てんのよ』からはじまる喧嘩でそのカップルを別れさせようとしているのです。なんせ私はそんじょそこらの女よりもはるかに美しいですから!」
「腹黒さもそんじょそこらの人じゃ太刀打ちできないくらいあるね」
張り合えるのはイツモフさんくらいかな。
にしても、ミライの浴衣姿は本当に美しい。
だからこそ、自分で美しいと言い放ったことに対してツッコめなかったわけだが。
ミライのこの姿を見られただけで、この祭りに参加した意義は大いにあるのではないだろうか。
「それに誠道さんの目も釘づけにしておかないと」
「え? なんて?」
すぐに聞き返す。
小さな声だったのでうまく聞こえなかったのだ。
「別になんでもありませんよ」
ミライは曖昧な笑みを浮かべた後、自分が着ている浴衣を見下ろして満足げに言い放つ。
「でも、誠道さんに褒めてもらえるなんて、原価を抑えた分を浴衣に回したかいがありました」
「いや抑えた分は借金返済に回せよ! 意味ないだろ!」
このメイドはやっぱりバカなのかなぁ。
でも、自分が着ている浴衣を嬉しそうに眺めるミライは絵になっている。
「意味がないって、もう」
ミライは頬をぷくっと膨らませて。
「誠道さんは女心を理解してください」
「女心はともかく、無駄遣いする心理なら理解したくねぇよ」
「もういいです」
なぜか不機嫌になったミライが俺の後ろを指さす。
「そんなことよりもこの屋台のメニュー看板が届きました。誠道さん、受け取りお願いします」
グランダラのメインストリートには、まだ昼間にもかかわらず、提灯と屋台がずらりと並んでいる。
祭りの開始時刻は夕方以降だが、はやる気持ちを抑えられない子供たちが、準備段階の屋台をのぞきにきていた。
俺とミライも割り当てられた屋台に向かい、開店の準備をはじめる。
俺はこの二週間、経験値獲得のための筋トレをおろそかにしてまで、接客のトレーニングに勤しんだ。
その結果、なんとか接客も人並レベルには上達し――
「深夜のコンビニ店員くらいのレベルではないですか? 人並とは程遠い気が」
「見栄はったっていいだろ?」
すぐそばでてきぱきと動いているミライに痛いところを突かれてしまう。
ってか独り言漏れてたの?
でも深夜のコンビニ店員、別にいいじゃん。
日本の通常時の接客が過度に丁重過ぎんだよ。
だから客が「俺たちは神様だ!」なんて威張り散らすんだよ。
「そういや、メニューも仕入れも調理もまかせたけど、ミライこそ大丈夫なのか?」
「はい。問題ありません」
これまでのミライを知っているからこそ、その断定が逆に怖い。
ミライにまかせて問題がなかったことがないからだ。
「高級食材ばっかり、なんてことはないだろうな」
「まさか。今回用意した食材に高級なものはひとつもありません。むしろどれだけ安く仕入れられるかを極めました。なんせ今回の目的はバカなリア充からぼったくることですので。原価は抑えるに越したことはありません」
「もう少し言い方をかえれば、有能なバイヤーのように聞こえそうなんだけどなぁ」
言葉のセンスが本当にもったいない……が、ミライの言ったことは的を得ている。
今回の俺たちの目的は、祭りに参加するバカなリア充からお金をむさぼり取ること。
そしてその売り上げで借金返済すること。
だから原価を抑えるに越したことはない。
薄利多売なんてもう古い。
時代は濃利多売だ!
読み方も知らんし、そんな四字熟語があるかもわからんけど。
「それはそうとさ、ミライ」
「はい? どうしました?」
「その服、動きにくくないか? いつもの制服でもよかっただろうに」
俺はミライの服装がずっと気になっていたのだ。
今日のミライは、いつものセーラー服ではなく浴衣を着ている。
白い生地の上を真っ赤な金魚たちが優雅に泳いでおり、帯は爽やかな水色。
髪飾りも可愛らしい。
胸が大きいと浴衣は似合わないなんて通説があるが、ミライには当てはまらなかったようだ。
「え、それはつまり似合っていないということですか?」
戸惑いの表情を浮かべるミライ。
「いや違う違う。似合ってるし可愛いけどさ、その……浴衣じゃ動きにくいだろってことだよ」
「あ、そういうことでしたか」
花が咲いたような笑顔を見せたミライは、両腕を少しだけ持ち上げる。
「誠道さんが浴衣を着てほしそうな目をしてましたので、サービスいたしました」
「え、マジで?」
あれ、バレてたの?
ってか浴衣を着てほしそうな視線ってなんだよ。
「というのは二番目の理由で、一番の理由は祭りにきた男どもをの視界を一時的に奪うためです。浴衣姿は男性にとって実に魅力的に映ると聞いておりますから」
「否定はしない」
「つまり私は彼氏の視界を奪って、『ちょっと、なんで私以外の女なんか見てんのよ』からはじまる喧嘩でそのカップルを別れさせようとしているのです。なんせ私はそんじょそこらの女よりもはるかに美しいですから!」
「腹黒さもそんじょそこらの人じゃ太刀打ちできないくらいあるね」
張り合えるのはイツモフさんくらいかな。
にしても、ミライの浴衣姿は本当に美しい。
だからこそ、自分で美しいと言い放ったことに対してツッコめなかったわけだが。
ミライのこの姿を見られただけで、この祭りに参加した意義は大いにあるのではないだろうか。
「それに誠道さんの目も釘づけにしておかないと」
「え? なんて?」
すぐに聞き返す。
小さな声だったのでうまく聞こえなかったのだ。
「別になんでもありませんよ」
ミライは曖昧な笑みを浮かべた後、自分が着ている浴衣を見下ろして満足げに言い放つ。
「でも、誠道さんに褒めてもらえるなんて、原価を抑えた分を浴衣に回したかいがありました」
「いや抑えた分は借金返済に回せよ! 意味ないだろ!」
このメイドはやっぱりバカなのかなぁ。
でも、自分が着ている浴衣を嬉しそうに眺めるミライは絵になっている。
「意味がないって、もう」
ミライは頬をぷくっと膨らませて。
「誠道さんは女心を理解してください」
「女心はともかく、無駄遣いする心理なら理解したくねぇよ」
「もういいです」
なぜか不機嫌になったミライが俺の後ろを指さす。
「そんなことよりもこの屋台のメニュー看板が届きました。誠道さん、受け取りお願いします」
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた
cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。
お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。
婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。
過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。
ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。
婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。
明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。
「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。
そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。
茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。
幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。
「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?!
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
死を約束されたデスゲームの悪役令嬢に転生したので、登場人物を皆殺しにして生き残りを目指すことにした ~なのにヒロインがグイグイと迫ってきて~
アトハ
ファンタジー
私(ティアナ)は、6人で互いに勝利条件の達成を目指して争う『デスゲーム』の悪役令嬢に転生してしまう。勝利条件は【自分以外の全プレイヤーの死亡】という、他の参加者とは決して相容れないものだった。
「生き残るためには、登場人物を皆殺しにするしかない」
私はそう決意する。幸いにしてここは、私が前世で遊んだゲームの世界だ。前世の知識を使って有利に立ち回れる上に、ゲームでラスボスとして君臨していたため、圧倒的な戦闘力を誇っている。
こうして決意を固めたものの――
「ティアナちゃん! 助けてくれてありがとう」
ひょんな偶然から、私は殺されかけているヒロインを助けることになる。ヒロインは私のことをすっかり信じきってしまい、グイグイと距離を縮めようとする。
(せいぜい利用させてもらいましょう。こんな能天気な女、いつでも殺せるわ)
そんな判断のもと、私はヒロインと共に行動することに。共に過ごすうちに「登場人物を皆殺しにする」という決意と裏腹に、私はヒロインを大切に思う自らの気持ちに気が付いてしまう。
自らが生き残るためには、ヒロインも殺さねばならない。葛藤する私は、やがて1つの答えにたどり着く。
※ ほかサイトにも投稿中です
異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~
水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート!
***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!
スカートの中、…見たいの?
サドラ
大衆娯楽
どうしてこうなったのかは、説明を省かせていただきます。文脈とかも適当です。官能の表現に身を委ねました。
「僕」と「彼女」が二人っきりでいる。僕の指は彼女をなぞり始め…
傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~
日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】
https://ncode.syosetu.com/n1741iq/
https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199
【小説家になろうで先行公開中】
https://ncode.syosetu.com/n0091ip/
働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。
地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?
乙女ゲーム攻略対象者の母になりました。
緋田鞠
恋愛
【完結】「お前を抱く気はない」。夫となった王子ルーカスに、そう初夜に宣言されたリリエンヌ。だが、子供は必要だと言われ、医療の力で妊娠する。出産の痛みの中、自分に前世がある事を思い出したリリエンヌは、生まれた息子クローディアスの顔を見て、彼が乙女ゲームの攻略対象者である事に気づく。クローディアスは、ヤンデレの気配が漂う攻略対象者。可愛い息子がヤンデレ化するなんて、耐えられない!リリエンヌは、クローディアスのヤンデレ化フラグを折る為に、奮闘を開始する。
旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。
ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。
実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。
愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす
リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」
夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。
後に夫から聞かされた衝撃の事実。
アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。
※シリアスです。
※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる