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第2章 1 なにか忘れてるような 

ギャップ萌え

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「でもたしかに今回はぬすみ――誠道くんの言う通りでした」

 イツモフさんがぼそりとつぶやく。さっきまでの不条理な勢いがイツモフ・ヌスティールさんから失われていた。

 おっ?

 どういう風の吹き回しだ?

 こんなに従順な人だったの、イツモフさんって。

「今回は明らかに私のミスです。調子に乗りすぎました。ポジティブと調子に乗るは明確に違いますから」

 そうそう、わかればいいんだよ。

 ようやく自分がただの金の亡者件泥棒だって反省したか。

「だって借金経営のクソみたいな家にお金なんてあるわけないですからね。きゃぴっ」

「ふざけんな! 盗もうとしてたやつに言われたくねぇよ」

 なお、きゃぴっ! とウインクを飛ばしてきても、彼女は下着姿のあざと痴女です。

「誠道さん。ついに借金のことを言われてしまいましたね。私たちもイツモフさんのようにこれまでの行動を省みましょう」

「ミライさんはいまものすごくバカにされたことに気づいてー」

 やだもぅ、ミライってなんでこんなにも純情なのぉぉお?

「ってか全部ミライが作った借金だから! 俺には反省することなんてないから!」

 俺がミライにツッコんだまさにそのとき、はっと我に帰ったようにイツモフさんが俺とミライを見た。

「ってミライさん、誠道くん。攫われてたはず、どうしてここに」

 あらやだ。

 この人ようやく気がついたんですね。

 見開かれた目で俺とミライを交互に何度も見た後、イツモフさんはミライに駆け寄ってその体に飛びついた。

「ごめんなさい。私、なにもできなくて」

「いえ、こうして無事に帰ってこられましたから、イツモフさんのせいではありませんよ」

 ミライは穏やかな笑みをたたえている。

「ミライさん……本当に、無事でよかったですぅ」

 安堵の笑みを浮かべたイツモフさんは、つづけて俺を見て。

「もしかして、誠道くんがミライさんを助け出したんですか?」

「まあ、そうなるかな」

「嘘ついてませんか」

「本当だよ」

「強がらなくていいんですよ」

「なんで何回も訂正させようとすんの! そんなに俺が弱く見えるんですか」

「もちろん」

「即答すんな!」

 苛立つ俺を無視して、イツモフさんが再度ミライに目を向ける。

「本当にすみません。そもそも私が守れていれば、ふがいないばかりに」

 うなだれた後、後悔の言葉を口にしはじめる。

 いや、そこまで深刻に捉えなくても。

 悪いのは大度出たちであって、イツモフさんじゃないのだ。

 けど、そこまでミライのことを思ってくれている事実が、俺の心を温かくさせる。

「イツモフさんが悔やむことじゃないですよ。ミライもこうして助けられてますから。気にしないでください」

「誠道くん。お気遣いありがとうございます。私、カモ――ミライさんとはこれからもっとかかわっていきたいと思っていたので、こんなことでカモ――ミライさんとのかかわりが立たれるのは」

「やっぱり金の亡者じゃねぇか! カモって言っちゃってるからね!」

 なおミライのことをカモ扱いしたイツモフさんは、まだ下着姿です。

 重要なのでもう一度言う。

 なおイツモフさんはまだ下着姿です!

「――て私、服を……着て」

 ここまであーだこーだやり取りして、ようやくイツモフさんが自分の体を見下ろした。

 ヤバい!

 下着姿なことに気がついてしまった!

「ななな、なんで」

 羞恥によって顔を真っ赤に染めていくイツモフさん。

 下着を隠そうとしているのか、がばっと右腕を大きな胸に押しけつけ、左腕は下腹部に伸ばしていく。

 そして、ゆっくりと視線は上がっていき、俺と目が合って、さらに顔を真っ赤にしてから五秒後。

「こここ、この変態っ!」

 イツモフさんから思いきりビンタされました。

 くそぉ! どうしてこうなった!

 もうちょっと拝んでいたかったのに…………なんて思ってないよ。

 ほほ、ほんとだよ。

 でも。

 普段の自慢げな態度からは想像もつかない照れ具合にちょっと可愛いなと思ってしまったのは秘密にしておきます。

 やっぱりギャップっていいよね。
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