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第1章 7 異世界でも俺は引きこもりたい
勇気の灯
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ミライが、助けてほしくないと、望んでいる?
信じられない。
つまり、俺が助けにいっても無駄だとミライに思われてるってことか?
すでに期待されていない、勝手に諦められているってことか?
「嘘……だ」
その現実にショックを受けている自分に気づいたとき、もしかして……と、俺はその感情をようやく自覚する。
俺は、勝手に期待して勝手に失望する他人に辟易したんじゃなくて、みんなの期待を裏切りつづけて、みんなに諦められてしまう惨めな自分が嫌だったのではないか。
そうだ。
俺は、誰かに諦められるのが怖かった。
お前には幻滅したと言われるのが怖かったから、だったらはじめから期待なんかされたくなかった。
人は側にいる他人に対して勝手に期待を向けるから、人と関わらないよう引きこもりになった。
「そういう、ことかよ」
だからこそ、俺は今、ミライに期待されていないことにショックを受けている。
でも。
あれだけ一緒にいたミライが、俺がいってもどうにもならないと判断した。
俺は助けたいと思ったけど、ミライがそれを拒絶するなら、先に俺を拒否したのはミライだから、だったら俺は助けにいく必要は――どうしてこんな考えがよぎるんだ。
「……一度、逃げた、からか」
鹿目さんが病気になったときのことを思い出す。
病室で鹿目さんが母親に、俺の前では見せなかった死への恐怖を、抱いていた本心を吐露しているのを見て、俺は体の震えが止まらなくなって逃げた。
――誠道くんに苦しさをぶつけたって無駄、どうせ私の心を癒せないんだから。
鹿目さんにそう言われているような気がした。
あなたに本心なんか、弱みなんか見せられるわけがないじゃんって拒絶された事実を受け止められなかった。
だって鹿目さんは将来の夢を俺だけに話してくれたから。
だから俺は、鹿目さんは俺にならなんでも言ってくれる、鹿目さんと俺は特別な存在同士になれているのだと思い込んだ。
でも現実はそうじゃなくて、俺は鹿目さんに裏切られたと勝手にショックを受けて、あの場から逃げた。
鹿目さんが俺を求めていないなら、俺が寄り添う必要はないだろって。
勝手に期待したのは俺なのに。
期待させてといて裏切った鹿目さんのことを許せないとすら思った。
――それは本当か?
許せないと思ったのは、俺を裏切った鹿目さんに対しての感情だっただろうか。
――違う。
俺が許せなかったのは、期待とか信頼とか特別な関係性とかどうでもよくて、なんでもいいから声をかけてあげるべき状況たったのに、好きな人が見せた苦しみを受け止められなくて逃げた自分じゃなかったか。
鹿目さんに寄り添いつづけ、元気づけて、病気なんか克服させてずっと一緒に生きてみせるって誓っていたくせに。
自分が自分に向けた信頼や期待を、自分自身が簡単に裏切ったことが本当に許せなかったんじゃないのか
「俺は……それを、でも」
そんな惨めで弱虫な自分を直視したくなくて、自分すらも自分を諦めていることを認めたくなくて、俺は嘘の理由で覆い隠した。
鹿目さんが俺に期待していなかったから俺も助けなかった。
勝手に裏切ったのはお前の方だって鹿目さんを悪者にすることで、自分の惨めさから目を逸らしつづけていた。
そして。
「今も、同じじゃないか」
大度出に対する恐怖心から、俺はあのときと同じく、ミライが期待していないんだから助ける必要はないと思い込もうとしている。
勝てる勝てないじゃなくてやるかやらないかなのに。
どうせ俺がいっても大度出たちには勝てないんだから無駄だと、そう結論づけようとしている自分がいる。
自分に期待できない自分がいる。
「くそっ、くそくそくそがっ!」
本当は、心の底では、他人の期待に応えつづけられる自分でいたいのに。
自分が自分に向けた期待に応えられる人間でいたいのに。
「そうなんだよ。ミライ、俺は……俺はずっと」
だからこそ、この異世界でミライが期待してくれることが嬉しかった。
ミライからの期待に応えて自信をつけることで、いつかまた自分が自分に期待できるようになりたかったのに。
「なんでだよミライ! 本当に俺がいっても無駄だと思ってるのかよ!」
だからこそ、今この瞬間、ミライから期待されていないことにショックを受けている。
誠道さんじゃ私を助けられないでしょ、と断定されている気がして。
「もう誰も……俺に対して期待してくれないのかよ」
「なにを独りで騒いでおる。わらわの言うとることが嘘じゃと思うなら、お前の能力であやつの心の声を聞けばいい。思考読み取り機があるじゃろう」
そう言われ、俺はすぐに目を閉じる。
盗聴対象は、もちろんミライだ。
頭の中にノイズ音がしてから、ミライの心の声が聞こえてくる。
だって、私は誠道さんにきついことばかり要求してきた。過去のトラウマを平気で抉ってきた。
きっと、私といるのはさぞ嫌だっただろう。
「んなわけあるかよ。俺はミライのことを……」
そんな私を近くに置いていたのは、日本にいたときの思い人に容姿がそっくりだから、だけにすぎない。
「最初はそうだったかもしれないけど、今はお前とバカやってるときが本当に楽しくて。お前の期待になんとかして応えつづけたくて」
でも、そんなもの、どうとでもなる。
私はただの人形、サポートアイテムだ。
女神様に頼めば代わりはいくらだって用意できる。
未来さんと同じ容姿の人形だって新しく用意できる。
だったら、その人形でいい。
わざわざ危険を冒して、惨めさと向き合ってまで、私を救いにくる必要なんかない。
「ほらの。彼女がそう思っておるではないか。お前がいっても無駄じゃ。無駄にお前が傷つくだけ。誰もそんなことを望んでいないのじゃ」
女神様に得意げに言われる。
本当にそうなのか?
本当にお前は、助けてほしくないのか?
俺に期待することをやめたのか?
それに、そういう相手だって同じ人間の方がいいに決まっている。
聖ちゃんはちょっと……いやかなりおかしいけど、可愛いから、きっと誠道さんにとってもその方がいい。
だって私はただの人形だから。
サポートアイテムのために、誠道さんが危険にさらされるのなんて本末転倒だ。
なぁ、ミライ。
本当に、どうせ俺なんかがいっても無駄だと、諦めているのか?
俺に期待してくれないのか?
だから、どうかお願い誠道さん。
そもそも私が、大度出たちを見返そうなんて言ったから、恨みを買ってこんなことになったのだ。
すべて私のせいだ。
誠道さんはなにも悪くないのだから、被害者なのだから、これ以上苦しまずに、私のことはもういいから、私のことは、私のことなんて。
お願いだから――――
――――私をどうか、見捨てないで!
「そうだろ! ミライ!」
俺は立ち上がった。
足はもう震えていない。
「悪いな、女神様。お前の言うことは嘘だった。ミライは俺のことを信じつづけてくれていた」
ありえないと言わんばかりに目を見開いている女神様に、どや顔を見せつける。
「それはそうかもしれんがの、おぬしがいっても勝てないことに変わりはない」
「そうかもしれない! でもな! 男には絶対に負けられない戦いがあるんだよ!」
逃げてばかりだった引きこもりの俺でも、やらなきゃいけないときがある。
「それは自家発電の時間を守るときじゃない。服が透けて見える魔本を競り落とすときでもない。引きこもりをやめようって、部屋から一歩踏み出すときでもない」
なぁ、そうだろ、ミライ。
「こんな俺を信じてくれている大切な人の思いに、応えなきゃなんねぇときなんだよ!」
叫び終えると同時に、俺は家を飛び出した。
ミライの居場所は【探索】でもう調べてある。
この場所はおそらく……街の端っこにある廃教会だ。
「待ってろぉお! ミライっ!」
ミライとつながっているからこそ知ることができた、ミライが託してくれた思いと一緒に俺は走る。
あの日の弱虫な自分を置き去りに。
大切なミライをこの手でつかみ取り、理想の自分を手に入れるために、走りつづける。
信じられない。
つまり、俺が助けにいっても無駄だとミライに思われてるってことか?
すでに期待されていない、勝手に諦められているってことか?
「嘘……だ」
その現実にショックを受けている自分に気づいたとき、もしかして……と、俺はその感情をようやく自覚する。
俺は、勝手に期待して勝手に失望する他人に辟易したんじゃなくて、みんなの期待を裏切りつづけて、みんなに諦められてしまう惨めな自分が嫌だったのではないか。
そうだ。
俺は、誰かに諦められるのが怖かった。
お前には幻滅したと言われるのが怖かったから、だったらはじめから期待なんかされたくなかった。
人は側にいる他人に対して勝手に期待を向けるから、人と関わらないよう引きこもりになった。
「そういう、ことかよ」
だからこそ、俺は今、ミライに期待されていないことにショックを受けている。
でも。
あれだけ一緒にいたミライが、俺がいってもどうにもならないと判断した。
俺は助けたいと思ったけど、ミライがそれを拒絶するなら、先に俺を拒否したのはミライだから、だったら俺は助けにいく必要は――どうしてこんな考えがよぎるんだ。
「……一度、逃げた、からか」
鹿目さんが病気になったときのことを思い出す。
病室で鹿目さんが母親に、俺の前では見せなかった死への恐怖を、抱いていた本心を吐露しているのを見て、俺は体の震えが止まらなくなって逃げた。
――誠道くんに苦しさをぶつけたって無駄、どうせ私の心を癒せないんだから。
鹿目さんにそう言われているような気がした。
あなたに本心なんか、弱みなんか見せられるわけがないじゃんって拒絶された事実を受け止められなかった。
だって鹿目さんは将来の夢を俺だけに話してくれたから。
だから俺は、鹿目さんは俺にならなんでも言ってくれる、鹿目さんと俺は特別な存在同士になれているのだと思い込んだ。
でも現実はそうじゃなくて、俺は鹿目さんに裏切られたと勝手にショックを受けて、あの場から逃げた。
鹿目さんが俺を求めていないなら、俺が寄り添う必要はないだろって。
勝手に期待したのは俺なのに。
期待させてといて裏切った鹿目さんのことを許せないとすら思った。
――それは本当か?
許せないと思ったのは、俺を裏切った鹿目さんに対しての感情だっただろうか。
――違う。
俺が許せなかったのは、期待とか信頼とか特別な関係性とかどうでもよくて、なんでもいいから声をかけてあげるべき状況たったのに、好きな人が見せた苦しみを受け止められなくて逃げた自分じゃなかったか。
鹿目さんに寄り添いつづけ、元気づけて、病気なんか克服させてずっと一緒に生きてみせるって誓っていたくせに。
自分が自分に向けた信頼や期待を、自分自身が簡単に裏切ったことが本当に許せなかったんじゃないのか
「俺は……それを、でも」
そんな惨めで弱虫な自分を直視したくなくて、自分すらも自分を諦めていることを認めたくなくて、俺は嘘の理由で覆い隠した。
鹿目さんが俺に期待していなかったから俺も助けなかった。
勝手に裏切ったのはお前の方だって鹿目さんを悪者にすることで、自分の惨めさから目を逸らしつづけていた。
そして。
「今も、同じじゃないか」
大度出に対する恐怖心から、俺はあのときと同じく、ミライが期待していないんだから助ける必要はないと思い込もうとしている。
勝てる勝てないじゃなくてやるかやらないかなのに。
どうせ俺がいっても大度出たちには勝てないんだから無駄だと、そう結論づけようとしている自分がいる。
自分に期待できない自分がいる。
「くそっ、くそくそくそがっ!」
本当は、心の底では、他人の期待に応えつづけられる自分でいたいのに。
自分が自分に向けた期待に応えられる人間でいたいのに。
「そうなんだよ。ミライ、俺は……俺はずっと」
だからこそ、この異世界でミライが期待してくれることが嬉しかった。
ミライからの期待に応えて自信をつけることで、いつかまた自分が自分に期待できるようになりたかったのに。
「なんでだよミライ! 本当に俺がいっても無駄だと思ってるのかよ!」
だからこそ、今この瞬間、ミライから期待されていないことにショックを受けている。
誠道さんじゃ私を助けられないでしょ、と断定されている気がして。
「もう誰も……俺に対して期待してくれないのかよ」
「なにを独りで騒いでおる。わらわの言うとることが嘘じゃと思うなら、お前の能力であやつの心の声を聞けばいい。思考読み取り機があるじゃろう」
そう言われ、俺はすぐに目を閉じる。
盗聴対象は、もちろんミライだ。
頭の中にノイズ音がしてから、ミライの心の声が聞こえてくる。
だって、私は誠道さんにきついことばかり要求してきた。過去のトラウマを平気で抉ってきた。
きっと、私といるのはさぞ嫌だっただろう。
「んなわけあるかよ。俺はミライのことを……」
そんな私を近くに置いていたのは、日本にいたときの思い人に容姿がそっくりだから、だけにすぎない。
「最初はそうだったかもしれないけど、今はお前とバカやってるときが本当に楽しくて。お前の期待になんとかして応えつづけたくて」
でも、そんなもの、どうとでもなる。
私はただの人形、サポートアイテムだ。
女神様に頼めば代わりはいくらだって用意できる。
未来さんと同じ容姿の人形だって新しく用意できる。
だったら、その人形でいい。
わざわざ危険を冒して、惨めさと向き合ってまで、私を救いにくる必要なんかない。
「ほらの。彼女がそう思っておるではないか。お前がいっても無駄じゃ。無駄にお前が傷つくだけ。誰もそんなことを望んでいないのじゃ」
女神様に得意げに言われる。
本当にそうなのか?
本当にお前は、助けてほしくないのか?
俺に期待することをやめたのか?
それに、そういう相手だって同じ人間の方がいいに決まっている。
聖ちゃんはちょっと……いやかなりおかしいけど、可愛いから、きっと誠道さんにとってもその方がいい。
だって私はただの人形だから。
サポートアイテムのために、誠道さんが危険にさらされるのなんて本末転倒だ。
なぁ、ミライ。
本当に、どうせ俺なんかがいっても無駄だと、諦めているのか?
俺に期待してくれないのか?
だから、どうかお願い誠道さん。
そもそも私が、大度出たちを見返そうなんて言ったから、恨みを買ってこんなことになったのだ。
すべて私のせいだ。
誠道さんはなにも悪くないのだから、被害者なのだから、これ以上苦しまずに、私のことはもういいから、私のことは、私のことなんて。
お願いだから――――
――――私をどうか、見捨てないで!
「そうだろ! ミライ!」
俺は立ち上がった。
足はもう震えていない。
「悪いな、女神様。お前の言うことは嘘だった。ミライは俺のことを信じつづけてくれていた」
ありえないと言わんばかりに目を見開いている女神様に、どや顔を見せつける。
「それはそうかもしれんがの、おぬしがいっても勝てないことに変わりはない」
「そうかもしれない! でもな! 男には絶対に負けられない戦いがあるんだよ!」
逃げてばかりだった引きこもりの俺でも、やらなきゃいけないときがある。
「それは自家発電の時間を守るときじゃない。服が透けて見える魔本を競り落とすときでもない。引きこもりをやめようって、部屋から一歩踏み出すときでもない」
なぁ、そうだろ、ミライ。
「こんな俺を信じてくれている大切な人の思いに、応えなきゃなんねぇときなんだよ!」
叫び終えると同時に、俺は家を飛び出した。
ミライの居場所は【探索】でもう調べてある。
この場所はおそらく……街の端っこにある廃教会だ。
「待ってろぉお! ミライっ!」
ミライとつながっているからこそ知ることができた、ミライが託してくれた思いと一緒に俺は走る。
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