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第1章 4 魔本には男子の夢が詰まっている
不治の病
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「ねぇ、ちょっといいかな?」
俺が声をかけたのはオークション会場の係員だった。
年齢は十歳くらい。
スーツに着られている感が拭えない、まだまだ子供の係員だ。
オークション会場に入ったときから、その幼さゆえに目立っていた男の子である。
「はい。お客様。どういったご用件でしょうか?」
彼の言葉遣いはいたって普通。
しかし、その子は窃盗という行為に対する罪悪感と、窃盗がばれることに対する恐怖からか、俺たちを見た瞬間に目を泳がせた。
よかった。
悪いことをしたという自覚は持っているみたいだ。
「ご用件っていうか、ちょっと外に出て話をしない?」
「ど、どうしてですか?」
「それは君が一番わかってるんじゃないかな」
そう指摘すると、彼の顔があからさまに曇った。
「ぼぼぼ僕はあなたの慰めものにはなりたくない。こここ睾丸をむしり取る趣味もありませんってばぁ」
「この子が怯えていたのは俺が変態だからでした! いや俺は変態じゃねぇから!」
「あなたにはさっき落札したその子がいるじゃないですか。その子に睾丸を取ってもらえばいいじゃないですか!」
この子は、俺という変態の神様から変態な性癖を植えつけられると思ったようだ。
ゆっくりと後ずさって逃げようとしている。
「あなたが盗んだものは、私の大事なものなんです!」
「あっ……」
聖ちゃんが叫ぶように言うと、その子は足を止めた。
俺たちがなぜ話しかけてきたのか、ようやく理解したのだろう。
肩をびくりと跳ねさせ、観念したのか申しわけなさそうにうつむいた。
「ごめんなさい。だって僕、お姉ちゃんのためにお金が、病気だから……」
「いいから、一旦外に出よう」
俺は今にも泣き出しそうな彼の手を取って、オークション会場の外に出た。
人には誰しも、大人だろうが子供だろうが、誰にも知られたくない現実を抱えている。
後、このオークション会場で変態のロリコンドMで通っている俺が幼い男の子と一緒にいたら、今度はショタコン属性まで追加されかねない。
コップを拭いているダンディなマスターの前を通って、俺たちは外に出た。
お姉ちゃんの病気……か。
同情したいのはやまやまだが、盗みはよくない。
でも、彼を怒ったり懲らしめたりしてやろうという気持ちは浮かんでこなかった。
聖ちゃんも同じ気持ちのようで、いたたまれなさそうにうつむいていた。
「……あ、誠道さん。この子の言ってたとおり、私に睾丸をむしり取ってほしいときはいつでも言ってくださいね」
「男という性に絶望したときは、お願いするよ」
そんなやりとりをしながらバーの裏手、人気のない路地裏に駆け込む。
呼吸を落ち着かせてから、俺は静かに泣く彼に話しかけた。
「君のお姉ちゃんは病気なんだよね?」
「うん。だから僕、どうにかしたくて、お姉ちゃんを救いたくて」
「その病気は、ひどいの?」
「重症で、もう治らないかもしれないけど。でも僕にとっては、たったひとりの大切なお姉ちゃんだから」
声を潜めて泣く姿に心が締めつけられる。
どうにかしてあげたいけれど、不治の病ならどうにもならない。
だけど病気を抱えたまま生きていくのにだってお金は必要だ。
「私なら、治せるかも」
「「え?」」
俺が聖ちゃんの方を向くと同時に、男の子も顔を上げた。
「たしか私の【剣聖者】で覚えた技の中に、悪を浄化させるものがあったはず。使い道のない技だと思っていたけど、その病原菌を悪だと認識すれば、治療できるかも」
やっぱり固有ステータスによって優劣つけすぎじゃない?
【剣聖者】めっちゃ強くて万能すぎじゃん。
うらやましすぎるんですけどー。
「ほんとに? それで僕のお姉ちゃん、治る?」
「やってみないとわからないけど、でも治してみせる」
聖ちゃんの真剣な眼差しが、俺の心までも熱くする。
聖ちゃんならきっとできる。
絶対にこの子のお姉ちゃんの病気を治してみせるはずだ。
「それで」
聖ちゃんがその子に尋ねる。
「君のお姉ちゃんの病名はなんていうの?」
その子は、お姉ちゃんが治ると聞いて安堵したのか、満面の笑みでこう言った。
「うん! 僕のお姉ちゃんは、ものすごくお金にがめつい症候群なんだ!」
「おいてめぇクソガキさっさと聖剣ジャンヌダルクを返しやがれ!」
心配して損したわ!
やっぱり姉弟そろってただの盗人じゃねぇか!
俺が声をかけたのはオークション会場の係員だった。
年齢は十歳くらい。
スーツに着られている感が拭えない、まだまだ子供の係員だ。
オークション会場に入ったときから、その幼さゆえに目立っていた男の子である。
「はい。お客様。どういったご用件でしょうか?」
彼の言葉遣いはいたって普通。
しかし、その子は窃盗という行為に対する罪悪感と、窃盗がばれることに対する恐怖からか、俺たちを見た瞬間に目を泳がせた。
よかった。
悪いことをしたという自覚は持っているみたいだ。
「ご用件っていうか、ちょっと外に出て話をしない?」
「ど、どうしてですか?」
「それは君が一番わかってるんじゃないかな」
そう指摘すると、彼の顔があからさまに曇った。
「ぼぼぼ僕はあなたの慰めものにはなりたくない。こここ睾丸をむしり取る趣味もありませんってばぁ」
「この子が怯えていたのは俺が変態だからでした! いや俺は変態じゃねぇから!」
「あなたにはさっき落札したその子がいるじゃないですか。その子に睾丸を取ってもらえばいいじゃないですか!」
この子は、俺という変態の神様から変態な性癖を植えつけられると思ったようだ。
ゆっくりと後ずさって逃げようとしている。
「あなたが盗んだものは、私の大事なものなんです!」
「あっ……」
聖ちゃんが叫ぶように言うと、その子は足を止めた。
俺たちがなぜ話しかけてきたのか、ようやく理解したのだろう。
肩をびくりと跳ねさせ、観念したのか申しわけなさそうにうつむいた。
「ごめんなさい。だって僕、お姉ちゃんのためにお金が、病気だから……」
「いいから、一旦外に出よう」
俺は今にも泣き出しそうな彼の手を取って、オークション会場の外に出た。
人には誰しも、大人だろうが子供だろうが、誰にも知られたくない現実を抱えている。
後、このオークション会場で変態のロリコンドMで通っている俺が幼い男の子と一緒にいたら、今度はショタコン属性まで追加されかねない。
コップを拭いているダンディなマスターの前を通って、俺たちは外に出た。
お姉ちゃんの病気……か。
同情したいのはやまやまだが、盗みはよくない。
でも、彼を怒ったり懲らしめたりしてやろうという気持ちは浮かんでこなかった。
聖ちゃんも同じ気持ちのようで、いたたまれなさそうにうつむいていた。
「……あ、誠道さん。この子の言ってたとおり、私に睾丸をむしり取ってほしいときはいつでも言ってくださいね」
「男という性に絶望したときは、お願いするよ」
そんなやりとりをしながらバーの裏手、人気のない路地裏に駆け込む。
呼吸を落ち着かせてから、俺は静かに泣く彼に話しかけた。
「君のお姉ちゃんは病気なんだよね?」
「うん。だから僕、どうにかしたくて、お姉ちゃんを救いたくて」
「その病気は、ひどいの?」
「重症で、もう治らないかもしれないけど。でも僕にとっては、たったひとりの大切なお姉ちゃんだから」
声を潜めて泣く姿に心が締めつけられる。
どうにかしてあげたいけれど、不治の病ならどうにもならない。
だけど病気を抱えたまま生きていくのにだってお金は必要だ。
「私なら、治せるかも」
「「え?」」
俺が聖ちゃんの方を向くと同時に、男の子も顔を上げた。
「たしか私の【剣聖者】で覚えた技の中に、悪を浄化させるものがあったはず。使い道のない技だと思っていたけど、その病原菌を悪だと認識すれば、治療できるかも」
やっぱり固有ステータスによって優劣つけすぎじゃない?
【剣聖者】めっちゃ強くて万能すぎじゃん。
うらやましすぎるんですけどー。
「ほんとに? それで僕のお姉ちゃん、治る?」
「やってみないとわからないけど、でも治してみせる」
聖ちゃんの真剣な眼差しが、俺の心までも熱くする。
聖ちゃんならきっとできる。
絶対にこの子のお姉ちゃんの病気を治してみせるはずだ。
「それで」
聖ちゃんがその子に尋ねる。
「君のお姉ちゃんの病名はなんていうの?」
その子は、お姉ちゃんが治ると聞いて安堵したのか、満面の笑みでこう言った。
「うん! 僕のお姉ちゃんは、ものすごくお金にがめつい症候群なんだ!」
「おいてめぇクソガキさっさと聖剣ジャンヌダルクを返しやがれ!」
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