29 / 360
第1章 4 魔本には男子の夢が詰まっている
マダムはやっぱり強かった
しおりを挟む
クションさんの言葉で、観客のざわめきがしずまっていく。
嵐の前の静けさってこのことを言うのかもしれない。
「わかっていただけたようですね。実はこの赤ちゃんはなんと! トップバッターにふさわしく普通の赤ちゃんではございません! 奇跡の赤ちゃんです!」
クションさんの大きな声に、会場中がどよめく。
「我々が今回ご用意した赤ちゃんは、赤ちゃんとは思えない発育の早さがアピールポイントとなっております! 二足歩行も可能ですし、もちろん走ることもできます!」
「「「うぉおおおおお!」」」
観客たちの歓声がオークション会場にこだまする。
しかし、俺だけは冷静だった。
だってさ……あれ?
そうだよね?
なんか俺、その赤ちゃん知ってるような気がするんだけど。
「さらに! この赤ちゃんは玉乗りもジャグリングもお手のもの。サーカスやショーの団員としてもご使用いただけますし、この才能あふれる赤ちゃんの親となって一生可愛がっていくこともできます」
サーカスやショーの団員……あっ。
俺は、あの日のことを思い出していた。
真っ白が永遠に広がるだけのだだっ広い空間で、テンションマックスになって走り回り、子供思いの母親を一瞬にして金の亡者へと変貌させた、あの赤ちゃん。
間違いない。
オークションに出品されているのはあの子だ。
母親が「サーカスに売り飛ばして……」と言っていたのを覚えている。
でもまさか、本当に愛する我が子を売り飛ばしていたとは。
「さぁ、それではいよいよ商品の入場です!」
会場がどんどんヒートアップしていく。
なんだろう、心が痛い。
俺よりも悲惨な境遇の転生者がいるとは。
落札できるなら落札してやりたいけど、この熱狂。
たぶん無理だろうな。
せめて、優しい人に落札されることを願います。
「みなさま、その目を刮目させて、商品をご覧ください!」
観客のボルテージが最高潮を迎えた後、通路の奥から頑丈な檻が係員に押されて舞台上へやってくる。
割れんばかりの手拍子が巻き起こった。
俺の斜め前にいるスタイル抜群、年齢不詳のマダムに至っては、「絶対落札するわぁ」と鼻息を荒くしている。
「「「うぉぉおおおおおおおおお!」」」
そして檻が舞台の中央まで運ばれ、スポットライトがその中を照らした瞬間、鼓膜を突き破らんばかりの大歓声が湧きあがった。
さっきのマダムも椅子の上に立ち上がって狂喜乱舞している。
それもそのはずで。
その中にいたのは、なんとオムツをはいたおじさんだった。
「そっちかよ! ふざけんな!」
心配して損したわ。
たしかに発育いいけども。
走れるけども。
そもそもこいつはおじさんで、赤ちゃんじゃないだろ。
もしかしてオムツおじさんの固有ステータスの影響?
「では、100リスズからのスタートです」
「2000万リスズ!」
「そしていきなり高すぎだろ!」
しかも入札したのが若い男。
どういう趣味なの?
「3000万リスズ!」
「なんでそんなに高騰すんだよ! 仮想通貨か!」
間髪入れずに中年の女性が価格を塗り替える。
いや、だから高すぎだろ。
「3200万リスズ!」
先程の若い男がまた入札する。
「3500万リスズ!」
つづいてミライの声。
「5200万リスズ!」
初老の男性の声。
「7000万リスズ!」
今度は小太りの貴婦人が割って入る。
だからさ、なんでこんなに人気なの?
異世界意味わからん。
そして、このオークションに終止符を打つ声が響く。
「2億リスズ」
斜め前のマダムが勝ち誇ったようにその値段を告げると、それまでの熱狂が嘘のように場がシーンと静まり返った。
「他にいませんか? 2億です。もういませんか? はい! 810番の方。2億リスズで落札です! おめでとうございます!」
クションさんが叫んだ後、会場が歓声で揺れた。
「なんじゃこりゃああああ!」
その歓声に紛れて、俺は思いのたけをストレートに叫ぶ。
どう考えてもおかしいよね。
なんでオムツおじさんがそんなに高いのさ。
世界には俺の知らない需要と性癖があるんだなぁ。
「……ってかなんでミライが入札してんだよ!」
「はっ! すみません。テンション上がってほしくもないのに、つい……」
ああ、このオークション、絶対落札できないよぉ。
だって初っ端から2億だもん。
女の子の下着姿が見放題とはいえ、2億は……いやぁ、悩むなぁ。
あと全然関係ないけど、落札者であるスタイル抜群の美人マダムを見たオムツおじさんが、ダンディに笑ってガッツポーズしたのなんかムカつくんですけど。
それって俺の心が狭いだけですかねぇ?
嵐の前の静けさってこのことを言うのかもしれない。
「わかっていただけたようですね。実はこの赤ちゃんはなんと! トップバッターにふさわしく普通の赤ちゃんではございません! 奇跡の赤ちゃんです!」
クションさんの大きな声に、会場中がどよめく。
「我々が今回ご用意した赤ちゃんは、赤ちゃんとは思えない発育の早さがアピールポイントとなっております! 二足歩行も可能ですし、もちろん走ることもできます!」
「「「うぉおおおおお!」」」
観客たちの歓声がオークション会場にこだまする。
しかし、俺だけは冷静だった。
だってさ……あれ?
そうだよね?
なんか俺、その赤ちゃん知ってるような気がするんだけど。
「さらに! この赤ちゃんは玉乗りもジャグリングもお手のもの。サーカスやショーの団員としてもご使用いただけますし、この才能あふれる赤ちゃんの親となって一生可愛がっていくこともできます」
サーカスやショーの団員……あっ。
俺は、あの日のことを思い出していた。
真っ白が永遠に広がるだけのだだっ広い空間で、テンションマックスになって走り回り、子供思いの母親を一瞬にして金の亡者へと変貌させた、あの赤ちゃん。
間違いない。
オークションに出品されているのはあの子だ。
母親が「サーカスに売り飛ばして……」と言っていたのを覚えている。
でもまさか、本当に愛する我が子を売り飛ばしていたとは。
「さぁ、それではいよいよ商品の入場です!」
会場がどんどんヒートアップしていく。
なんだろう、心が痛い。
俺よりも悲惨な境遇の転生者がいるとは。
落札できるなら落札してやりたいけど、この熱狂。
たぶん無理だろうな。
せめて、優しい人に落札されることを願います。
「みなさま、その目を刮目させて、商品をご覧ください!」
観客のボルテージが最高潮を迎えた後、通路の奥から頑丈な檻が係員に押されて舞台上へやってくる。
割れんばかりの手拍子が巻き起こった。
俺の斜め前にいるスタイル抜群、年齢不詳のマダムに至っては、「絶対落札するわぁ」と鼻息を荒くしている。
「「「うぉぉおおおおおおおおお!」」」
そして檻が舞台の中央まで運ばれ、スポットライトがその中を照らした瞬間、鼓膜を突き破らんばかりの大歓声が湧きあがった。
さっきのマダムも椅子の上に立ち上がって狂喜乱舞している。
それもそのはずで。
その中にいたのは、なんとオムツをはいたおじさんだった。
「そっちかよ! ふざけんな!」
心配して損したわ。
たしかに発育いいけども。
走れるけども。
そもそもこいつはおじさんで、赤ちゃんじゃないだろ。
もしかしてオムツおじさんの固有ステータスの影響?
「では、100リスズからのスタートです」
「2000万リスズ!」
「そしていきなり高すぎだろ!」
しかも入札したのが若い男。
どういう趣味なの?
「3000万リスズ!」
「なんでそんなに高騰すんだよ! 仮想通貨か!」
間髪入れずに中年の女性が価格を塗り替える。
いや、だから高すぎだろ。
「3200万リスズ!」
先程の若い男がまた入札する。
「3500万リスズ!」
つづいてミライの声。
「5200万リスズ!」
初老の男性の声。
「7000万リスズ!」
今度は小太りの貴婦人が割って入る。
だからさ、なんでこんなに人気なの?
異世界意味わからん。
そして、このオークションに終止符を打つ声が響く。
「2億リスズ」
斜め前のマダムが勝ち誇ったようにその値段を告げると、それまでの熱狂が嘘のように場がシーンと静まり返った。
「他にいませんか? 2億です。もういませんか? はい! 810番の方。2億リスズで落札です! おめでとうございます!」
クションさんが叫んだ後、会場が歓声で揺れた。
「なんじゃこりゃああああ!」
その歓声に紛れて、俺は思いのたけをストレートに叫ぶ。
どう考えてもおかしいよね。
なんでオムツおじさんがそんなに高いのさ。
世界には俺の知らない需要と性癖があるんだなぁ。
「……ってかなんでミライが入札してんだよ!」
「はっ! すみません。テンション上がってほしくもないのに、つい……」
ああ、このオークション、絶対落札できないよぉ。
だって初っ端から2億だもん。
女の子の下着姿が見放題とはいえ、2億は……いやぁ、悩むなぁ。
あと全然関係ないけど、落札者であるスタイル抜群の美人マダムを見たオムツおじさんが、ダンディに笑ってガッツポーズしたのなんかムカつくんですけど。
それって俺の心が狭いだけですかねぇ?
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
月が導く異世界道中extra
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
こちらは月が導く異世界道中番外編になります。
異世界に行けるようになったんだが自宅に令嬢を持ち帰ってしまった件
シュミ
ファンタジー
高二である天音 旬はある日、女神によって異世界と現実世界を行き来できるようになった。
旬が異世界から現実世界に帰る直前に転びそうな少女を助けた結果、旬の自宅にその少女を持ち帰ってしまった。その少女はリーシャ・ミリセントと名乗り、王子に婚約破棄されたと話し───!?
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
特殊スキル持ちの低ランク冒険者の少年は、勇者パーティーから追い出される際に散々罵しった癖に能力が惜しくなって戻れって…頭は大丈夫か?
アノマロカリス
ファンタジー
少年テイトは特殊スキルの持ち主だった。
どんなスキルかというと…?
本人でも把握出来ない程に多いスキルなのだが、パーティーでは大して役には立たなかった。
パーティーで役立つスキルといえば、【獲得経験値数○倍】という物だった。
だが、このスキルには欠点が有り…テイトに経験値がほとんど入らない代わりに、メンバーには大量に作用するという物だった。
テイトの村で育った子供達で冒険者になり、パーティーを組んで活躍し、更にはリーダーが国王陛下に認められて勇者の称号を得た。
勇者パーティーは、活躍の場を広げて有名になる一方…レベルやランクがいつまでも低いテイトを疎ましく思っていた。
そしてリーダーは、テイトをパーティーから追い出した。
ところが…勇者パーティーはのちに後悔する事になる。
テイトのスキルの【獲得経験値数○倍】の本当の効果を…
8月5日0:30…
HOTランキング3位に浮上しました。
8月5日5:00…
HOTランキング2位になりました!
8月5日13:00…
HOTランキング1位になりました(๑╹ω╹๑ )
皆様の応援のおかげです(つД`)ノ
クラス転移したひきこもり、僕だけシステムがゲームと同じなんですが・・・ログアウトしたら地球に帰れるみたいです
こたろう文庫
ファンタジー
学校をズル休みしてオンラインゲームをプレイするクオンこと斉藤悠人は、登校していなかったのにも関わらずクラス転移させられた。
異世界に来たはずなのに、ステータス画面はさっきやっていたゲームそのもので…。
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜
水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑
★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位!
★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント)
「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」
『醜い豚』
『最低のゴミクズ』
『無能の恥晒し』
18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。
優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。
魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。
ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。
プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。
そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。
ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。
「主人公は俺なのに……」
「うん。キミが主人公だ」
「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」
「理不尽すぎません?」
原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。
※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる