魔法少女のなんでも屋

バグ

　ドラゴンアドベンチャー内でのクエストに関わるNPCたちは、皆高度なAIによる感情アルゴリズムを有している。プレイヤーがどう関わるかにより、キャラクターの行動が大きく変化する。
何か頼み事をしてきても途中で断ったり、助けたお姫様にも態度が悪ければビンタされる。
しかし、ヴァイオレット.クインの行動は、運営ですら予測していなかった。
「おい、なんでクインがプレイヤーの元を離れてる？」
「わかりません、クエストのキャラがプレイヤーから離れるなんて…バグでしょうか？」
「いや、エラー表示はなかった、それにこんな表情、設定したか？」
運営スタッフたちは困惑していた。
「こんな…まるで虚無みたいな…」
「こんなの原案イラストも作ってないぞ？」
「何が起きてる？」
「停止命令は？」
「停止するんですか？」
「プレイヤーとなんのやりとりもなしに離れるなんて…明らかにバグだろう。」
「受け付けません、停止命令を受け付けません！」
「バカな、基幹システムの命令が処理されないはずが…」
クインが別の女性プレイヤーに近づく、そして足を噛んだ。
「おい！なんでクインが人を襲うんだ！！」

ヴァイオレット.クインがプレイヤーを襲うことはありえない、なぜなら彼女はトマトが大好きだからだ。

運営がそう設定した以上、クインを動かすプログラムが人を襲うことは絶対にありえない。
彼女は人の笑顔とトマトが大好きで、血は嫌いなのだ、そうでなければならない。
「アア！」
「おい、クインを止めろ！」
「アアア！」
「飛んだ！？」
クインが飛ぶこと、これもまた設定に反する、彼女はうまく飛べない、そういうふうに作られている。
「ガアア！」
人々の腕を切りつける、人見知りで甘いものとトマトが好きな少女はどこにもいなかった。