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第二章 子育て奮闘中
46. 聖女の巫女とは何する人ぞ? ⑤
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「なあ、聖女の巫女って何するもんなんだ?」
小休止、俺たちはピクニックよろしく、フアナの持ち込んだ絶品の弁当を囲んで和やかに昼食を楽しんでいる最中である。
彼らは今日は一日中ここにいるらしく、このひと時の休憩の後は、技の調整や連携技の仕上げに入るとか何とか言っている。
こういう時、フアナは実に気が利いている。普段は滅法気が強くて乱暴者だが、細やかな気配りというか痒い所に手が届くというか、過ごし易い場所というのを作ってくれる。
例えば地べたに尻を付けるのは痛かろうと、敷物の他に座布団が用意されていたり、たくさん動いてきつかろうとスティックタイプの甘味と作ってきたりと、気が利きすぎる感もある。
逆にあの双子は何もしない。フアナに頼り切きり任せきりで、これで彼らが全員同じ年齢で同じ待遇ってのも、なんだか不公平な気がせんでもない。
リアはそこら辺の雑草の上に転がしている。一時間も長引いたしゃっくりが止まった後、やっと寝てくれたのだ。
赤ん坊というのはあれで意外と寝相が悪い。うごうごと動いてひっくり返っているのもしばしばだ。全然動かなさそうなのに、のたのた手足を屈折させて、壁にぶち当たって身動きが取れなくなって泣いている事も多い。
寝ている以外は四六時中身体のどっかが訳もなく動いているのも、赤ん坊の特色である。
「じゃあ、溝を作っておこうよ。リア様が転がってどっかいかないようにさ」
フアナが昼食の準備をしている間、双子は双子で色々と動いてくれた。急に現れた俺は昼食の人数に入っていないのに席を用意したり、三人分の飯を公平に分けてくれたりと俺に気を遣ってくれたよ。こいつらは基本的に優しい人たちであるのは間違いない。
これがリアの事に対してだけは気が利かないというのも不思議で堪らないんだが、それほど彼らの世界にとって「赤ん坊」というものは、無関心極まりないものなんだろう。
だからこその冒頭の質問だった。
リアを守るべき巫女とは、一体何する人なのか。
どうして皆おっかない武器を持っているのか。そもそも何故そんな大事なお役目を、こんな若い彼らが担っているのかを。
すると彼らは言うのだ。
何も難しい事はない。文字通り聖女を守る為だけのその存在はある。聖女の唯一の欠点である、魔法の詠唱中の囮として、その身は捧げられるのだと――――。
「は?囮だって!?」
「ぶっちゃけて言えば、そうなのよ」
フアナは卵サンドをハミハミ頬張りながら言う。ピリリと唐辛子のような薬味が混ぜてあって、これが絶妙にクセがあってめちゃくちゃ旨いサンドウィッチだった。
「聖女様は絶対防御の加護を持っているから事実上は無敵なんだけど、それでも敵の攻撃を喰らうと衝撃で暫く動けなくなるんだ」
エミールはのんびりと紅茶を啜っている。
フアナの絶品をたったの二口でご馳走様したエミールは、育ち盛りだというのに食が細い。
何でもこれ以上大きくなってしまったら可愛い服が入らなくなるから嫌なのだと、必死で男の成長期に抗っている様子。そこら辺の女子より、遥かに女子力意識が高いのはご立派だ。
「リア様の攻撃手段はね、魔法しかないんだよ」
「魔法っつーと、こいつが泣いた時に発動してた、傍迷惑な台風もどきの事か?」
リアの体力はすっかり回復しているように見えるが、まだ無意識に暴走していた魔法の力までは戻っていない。俺への加護の力とやらも失われたままで、ズッコケると普通に怪我をする。
「違う違う。リア様の魔法は別格だよ、ほんとに凄いんだから。精霊が宿す五大元素を知っているかな?火水風光闇の力の事なんだけどね。リア様は特性関係なく魔法が使えるんだよ」
「そもそもコウハ様は、聖女様が何をなさる方かご存じですよね?」
逆にエリザの喰いっぷりは見事なものだった。両手に顔ほどもある馬鹿でかいおにぎりを持って、交互に齧り付いている。いわゆる贅沢食いだ。おにぎりの中身はこれまたギッシリと具が詰まっていて、彼女の顔はご満悦である。
そんな華奢な身体の一体何処に入って何処に吸収されているんだか。
そこで衣装の上からも丸わかりなたわわな胸元の二つの果実が目に入り…って、いやいや、これ以上はセクハラ発言なのでやめておこう。
「聖女ってのはアレだろ?魔族がマナを独り占めしてる期間が長くて世界の均衡が崩れてヤバいから、神様が遣わせたテコ入れ要員の事だろ?」
「フツーに合ってるわ…。初めて会った日に説明した以来なのに、ちゃんと理解してたのね」
「なんだ、その顔。俺は元営業マンだぞ、えいぎょー!!客の話聴いてナンボの世界にいたんだぜ?異世界設定なんぞ、老人の脈略もないアテの無い話と似たようなもんだ」
この世界には2人の聖女がいる。
一人は《王都》で王の傍に仕えて、アドバイザーをやっている。もう一人は事実上の実行部隊、すなわちリアとその巫女らだ。
「聖女の役目は、勇者を見つけ出して魔王との決戦の場に連れて行くことなんです。30年前に降臨したリア様は、勇者を見つける旅そのものに大変苦労なさったみたいで。それから先も、生活面において色々と問題があったようです」
「さっきも言ったけど、リア様の攻撃手段は魔法しかない。魔法の発動は、結構めんどくさい手順が必要なのよ。魔法を構築している間に勇者がやられてしまったら元も子もない。30年の間に二回失敗した聖女様は、聖女様だけを守ってフォローし、その生活を支える従者が欲しいから育てるようにと、王様に進言したの」
「魔法の構築?」
魔法といえば、魔法の杖に長い詠唱、カッチョいい厨二っぽい呪文が相場と決まっている。
ゲームの世界に於ける魔法使いは、打たれ弱いけど威力は抜群、ボス戦の起死回生を狙えるが、技の発動はしこたま遅くて上級者向けという認識だ。
これを聴いたエミールは頷いた。こちらの世界は仮想ではないが、だいたいそんな感じなのだと。
小休止、俺たちはピクニックよろしく、フアナの持ち込んだ絶品の弁当を囲んで和やかに昼食を楽しんでいる最中である。
彼らは今日は一日中ここにいるらしく、このひと時の休憩の後は、技の調整や連携技の仕上げに入るとか何とか言っている。
こういう時、フアナは実に気が利いている。普段は滅法気が強くて乱暴者だが、細やかな気配りというか痒い所に手が届くというか、過ごし易い場所というのを作ってくれる。
例えば地べたに尻を付けるのは痛かろうと、敷物の他に座布団が用意されていたり、たくさん動いてきつかろうとスティックタイプの甘味と作ってきたりと、気が利きすぎる感もある。
逆にあの双子は何もしない。フアナに頼り切きり任せきりで、これで彼らが全員同じ年齢で同じ待遇ってのも、なんだか不公平な気がせんでもない。
リアはそこら辺の雑草の上に転がしている。一時間も長引いたしゃっくりが止まった後、やっと寝てくれたのだ。
赤ん坊というのはあれで意外と寝相が悪い。うごうごと動いてひっくり返っているのもしばしばだ。全然動かなさそうなのに、のたのた手足を屈折させて、壁にぶち当たって身動きが取れなくなって泣いている事も多い。
寝ている以外は四六時中身体のどっかが訳もなく動いているのも、赤ん坊の特色である。
「じゃあ、溝を作っておこうよ。リア様が転がってどっかいかないようにさ」
フアナが昼食の準備をしている間、双子は双子で色々と動いてくれた。急に現れた俺は昼食の人数に入っていないのに席を用意したり、三人分の飯を公平に分けてくれたりと俺に気を遣ってくれたよ。こいつらは基本的に優しい人たちであるのは間違いない。
これがリアの事に対してだけは気が利かないというのも不思議で堪らないんだが、それほど彼らの世界にとって「赤ん坊」というものは、無関心極まりないものなんだろう。
だからこその冒頭の質問だった。
リアを守るべき巫女とは、一体何する人なのか。
どうして皆おっかない武器を持っているのか。そもそも何故そんな大事なお役目を、こんな若い彼らが担っているのかを。
すると彼らは言うのだ。
何も難しい事はない。文字通り聖女を守る為だけのその存在はある。聖女の唯一の欠点である、魔法の詠唱中の囮として、その身は捧げられるのだと――――。
「は?囮だって!?」
「ぶっちゃけて言えば、そうなのよ」
フアナは卵サンドをハミハミ頬張りながら言う。ピリリと唐辛子のような薬味が混ぜてあって、これが絶妙にクセがあってめちゃくちゃ旨いサンドウィッチだった。
「聖女様は絶対防御の加護を持っているから事実上は無敵なんだけど、それでも敵の攻撃を喰らうと衝撃で暫く動けなくなるんだ」
エミールはのんびりと紅茶を啜っている。
フアナの絶品をたったの二口でご馳走様したエミールは、育ち盛りだというのに食が細い。
何でもこれ以上大きくなってしまったら可愛い服が入らなくなるから嫌なのだと、必死で男の成長期に抗っている様子。そこら辺の女子より、遥かに女子力意識が高いのはご立派だ。
「リア様の攻撃手段はね、魔法しかないんだよ」
「魔法っつーと、こいつが泣いた時に発動してた、傍迷惑な台風もどきの事か?」
リアの体力はすっかり回復しているように見えるが、まだ無意識に暴走していた魔法の力までは戻っていない。俺への加護の力とやらも失われたままで、ズッコケると普通に怪我をする。
「違う違う。リア様の魔法は別格だよ、ほんとに凄いんだから。精霊が宿す五大元素を知っているかな?火水風光闇の力の事なんだけどね。リア様は特性関係なく魔法が使えるんだよ」
「そもそもコウハ様は、聖女様が何をなさる方かご存じですよね?」
逆にエリザの喰いっぷりは見事なものだった。両手に顔ほどもある馬鹿でかいおにぎりを持って、交互に齧り付いている。いわゆる贅沢食いだ。おにぎりの中身はこれまたギッシリと具が詰まっていて、彼女の顔はご満悦である。
そんな華奢な身体の一体何処に入って何処に吸収されているんだか。
そこで衣装の上からも丸わかりなたわわな胸元の二つの果実が目に入り…って、いやいや、これ以上はセクハラ発言なのでやめておこう。
「聖女ってのはアレだろ?魔族がマナを独り占めしてる期間が長くて世界の均衡が崩れてヤバいから、神様が遣わせたテコ入れ要員の事だろ?」
「フツーに合ってるわ…。初めて会った日に説明した以来なのに、ちゃんと理解してたのね」
「なんだ、その顔。俺は元営業マンだぞ、えいぎょー!!客の話聴いてナンボの世界にいたんだぜ?異世界設定なんぞ、老人の脈略もないアテの無い話と似たようなもんだ」
この世界には2人の聖女がいる。
一人は《王都》で王の傍に仕えて、アドバイザーをやっている。もう一人は事実上の実行部隊、すなわちリアとその巫女らだ。
「聖女の役目は、勇者を見つけ出して魔王との決戦の場に連れて行くことなんです。30年前に降臨したリア様は、勇者を見つける旅そのものに大変苦労なさったみたいで。それから先も、生活面において色々と問題があったようです」
「さっきも言ったけど、リア様の攻撃手段は魔法しかない。魔法の発動は、結構めんどくさい手順が必要なのよ。魔法を構築している間に勇者がやられてしまったら元も子もない。30年の間に二回失敗した聖女様は、聖女様だけを守ってフォローし、その生活を支える従者が欲しいから育てるようにと、王様に進言したの」
「魔法の構築?」
魔法といえば、魔法の杖に長い詠唱、カッチョいい厨二っぽい呪文が相場と決まっている。
ゲームの世界に於ける魔法使いは、打たれ弱いけど威力は抜群、ボス戦の起死回生を狙えるが、技の発動はしこたま遅くて上級者向けという認識だ。
これを聴いたエミールは頷いた。こちらの世界は仮想ではないが、だいたいそんな感じなのだと。
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