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第一章 異世界召喚
22. 異世界アゼル ②
しおりを挟むこの世界の名は、【アゼル】
「最初から最後まで、自力で永久機関を作り上げ、完結させるという意味なのよ」
俺の母なる故郷、青き地球とは別の世界なのだと彼らは言った。
「次元が違うと思ってくれていいわ」
世界にはそれこそ無限大の平行世界が存在する。
ただそこにある分は互いに互いを認識する事はなく、一切の交わりを持つ事もない。
フアナ達も自分たちの世界の他に無数の世界が存在する事を知らなかったが、聖女リアにより、そういうものがあるのだと教えられたのだそうだ。
「聖女ってのはそもそも何だ?」
「ああ、そこからね」
俺の住む世界とは違う次元にある【アゼル】は、その名の意味が示す通り、生命エネルギーの循環によって成り立つ世界なのだという。
「そのエネルギーを私達は、マナ、と呼んでいます」
この世界はひとりの女神によって創造られた。
神の力とはマナの力。
女神は自分の姿によく似た「人間」と、それから供に連れていたペットを模した「魔族」を創り、二分割された二つの大きな大陸にそれぞれを住処とさせた。
「生き物には全てマナが備わっているのです」
マナの力は森羅万象。
あらゆる事象に関与する。
例えば繁殖。例えば繁栄。
マナが満ちれば生き物は育まれ、進化し、数を増やす。
大地は実り、水は溢れ、天は穏やか。食い物にも困らず、そして万物の力を得る。
「それがすなわち、魔法ですわ」
「リア様が泣いた時、凄い力が巻き起こったでしょ?厳密にいうとあれはちょっと特殊だけど、まあ、そんな感じのものよ」
だが世界に充満するマナは無限でありつつも、有限でもあった。
つまりマナの数は固定。それ以上でもそれ以下でもない。
マナが世界に喪われる事はないが、世界に巡らない限り、生命の源が停滞する。
「マナの絶対数は変わらない。極端に言えば、人と魔族に1ずつ。残りの8は自然界に漂っている。何もしなければ、そのまんまなの。何も生む事は無い」
「だから女神はマナの循環を行ったんだよ。人間と魔族、それぞれを永遠に戦わせる事によってね」
「オレたちゃそれを、人魔戦争と呼んでる」
フアナにボコボコにされたハゲのオッサンがパチンと頭を叩く。
その呑気な様が、戦争などという物騒で大それた単語を、殊更軽いものとさせた。
戦争ではマナの覇権を争うのだという。
創造の女神は、二つの種族に優劣を与えなかった。それぞれに得手不得手と、保持するマナの仕組みだけをちょっとだけ変えて争わせた。
人間は器用。団体行動と規律と秩序を重んじる。
マナは各々が保持していて、そのエネルギーの量も個々で違う。
人は集団で戦い、武勇と知略の両方を持ち合わせる。それが文明を築かせ、更なる発展を目指す種族である。
対して魔族は力。単独でも生きられる強さとタフさを持ち、個々の能力も高い。様々な形状をしているのも特徴だが、一貫して協調性が無くまとまりもない。
だが、個々のマナが繋がっていて仲間意識が高く、ひとたび闘いが始まるとわらわらと集まってくる。
考えるのは苦手で、本能のまま生きている者も多い為に、文明開化にも興味が無いのが挙げられよう。
「マナの覇権って、昼間にフアナが言ってた…ほら、マナの劣勢が何とかって言ってたあれか?」
「ふふふ、頭のいい人は好きですわ」
「ど、どーも」
「その通りよ。女神はマナの恩恵に優劣をつけたの」
2つの種族を互いに争わせ、勝った方に「マナ」という褒美を贈る。
森羅万象のエネルギーは種族の発展に繋がる。
本能として子孫繁栄を組み込まれている生き物は、是が非でも欲しい力だろう。
「なるほど…エネルギーを魔族か人間か、どちらかに独占させるのか。でもそうなると独占した方が完全有利にならねえか?」
「なりますね」
と、エリザ。
マナの優勢種族はまさに天国。
逆に劣勢種族は地獄なのだそうだ。
木々は枯れ果て、水は干上がり、大地は痩せる。作物が実らないので日々の食事にも事欠く有様。
そのような状態で出生率は下がり、築いた文明も維持する力もなく廃るだろう。
「さっきの数字で云うなら、勝った方に7。負けた方に1。残りの2は自然界に漂っているってとこかしら」
「こりゃひでえ差だな…」
「だから血眼になって、マナの恩恵を取り戻そうとするんです」
女神は劣勢種族の救済措置として、『勇者』を誕生させるのだそうだ。
勇者を介した種族は瞬く間に強くなり、それこそ死に物狂いでマナの覇権を獲得しに、相手側の大地に侵略する。
「これが戦争になるきっかけ。この戦争で互いに多くの死傷者を出して、大地は削れ踏み荒らされ、マナは搔き乱されるんだよ」
そしてマナは女神の元に還り、再び巡らせる。
新たな勝者の元に、失ったマナを一気に与えるのだ。
この繰り返しによって、【アゼル】はマナというエネルギーの自己補完と生物の存続を可能とさせた。
女神の造り錫た、この世界の仕組みなのである。
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