赤ちゃんに異世界召喚されちゃった俺!子育てに奮闘しながら聖女様とその巫女たちと、赤ん坊連れて魔王を倒しに行ってきます!

蔵之介

文字の大きさ
上 下
16 / 54
第一章 異世界召喚

16. じっくり一緒に学んでいけばいいんだよ ②

しおりを挟む
 追い立てられるように厨房から出された俺は、確かにフアナがいなければすんなり湯を手に入れる事さえ叶わなくて未だにマゴついていたはずだから素直に礼を言う。
 うまいことベビーシッター役に仕立て上げられ、まんまとその役目をこなす羽目になってしまって腹立たしくもあるが、乳飲み子をこのまま放って出て行くのも気が引ける。

「食事が出来たら呼び行くわ。そこでさっきも言った通り、みんなに紹介してあげる」

「ああ、助かるわ」

「あんたの欲しい情報、あたしの予想通りなら、そこで分かると思う」

「え?」

「だからとりあえずは、リア様の傍にいてくんないかな。お願い、あたし達は、あんた以上に

 フアナの思わせぶりな態度はここまでだった。
 それから有無も言わさず厨房の扉は閉じられ、俺は部屋に戻らざるを得なくなってしまったからである。

 俺の知りたい情報、か。
 フアナは何を知っているのか。
 出会った時の気の強さ、あの威張った感じはしなかった。むしろ素直でてきぱきと働き、好印象すらある。

 それぞれの、役目。
 知る必要のない、情報。

「ああ、もう分かんねぇ!!!」

 フアナの言う通り、今は従う他無かった。
 時が来れば、この不可解な事象も全て知り得るのだ。一人五月蠅く意気込んでも仕方なかろう。




 ガチャガチャ。

 部屋に戻る。
 一応鳥を警戒して、窓は閉めておいた。
 姿見に映るこの姿も、俺なのに俺でない理由も説明がつくなら、待ってやろうではないか。

 低いテーブルの上、赤ん坊―――リアは目を覚ましていた。
 もごもごと手足をばらばらに、もどかしそうに動かしている。

 何処を見ているか分からない蒼い瞳。
 俺が近くに寄っても無反応である。

(どうやって飲ませるんだ…)

 ソファは埋もれてバランスを崩すから、机の上にケツを乗っける。
 スマホを見ながら、リアを抱き上げて左手の肘辺りに頭を乗せ、左手の掌で身体を固定する。

 簡単そうに見えて、これが意外とうまくいかない。
 なんせ赤ん坊はどこもかしこもふにゃふにゃしているからだ。
 一番怖いのは、ガックガクの首なんだけど。

 俺にされるがままのリアは大人しい。

 哺乳瓶の口元、空気穴を上にしてまずはちょんちょんと先を当てた。
 これをすると反射で口を開けるのだとテキストには書いてある。
 2滴ほど小さな唇にミルクを落としてあげると、いきなり口がぐわあと開いた。

「よっしゃ!」

 カポリと先っちょを口の中に押し込むと、リアの瞳が大きく見開いた。
 視線は定まっていない。俺を見たかと思えば、何もない空間を見たりと忙しく動く。

 産まれたての赤ん坊は、母親からの母乳を飲むのが下手くそな子もいるらしい。
 上手く吸えないなんてのは当たり前なんだそうだ。
 そりゃずっと胎内で自動的に栄養が補充されていたのだから、赤ん坊だって初めての行動なのだ。初っ端から完璧に出来る人間なんていやしないのだ。

 だけどこれに悩む母親も多いと聞く。
 自分の飲ませ方が悪いのか、どうして飲んでくれないのか。禿げるほど悩む人もいる。
 出産したばかりで情緒不安定なところに、この問題が襲ってくるから呑気ではいられない。

 リアも哺乳瓶を銜えるのは初めてだ。
 舌の奥で先を挟み、乳を吸うように力を込めないとミルクは出てこない。

「諦めんなよ、一週間ぶり…初めてのまともな飯だぞ」

 だからすぐに先っちょを離して諦める。
 俺が先を摘まんでミルクを出してやると、思い出したかのようにまた口を開ける。
 懸命に飲もうとはしているが、なかなかどうして上手くいかずもどかしい。

 これは、母親も、赤ん坊も練習してから上手くなるものらしい。

 四苦八苦しながら飲ませ続ける事30分。
 赤ん坊を支える左手はいい加減疲れていて、痺れも出始めている。
 赤ん坊の口の周りは溢れたミルクまみれである。
 でも最初とは違って、戸惑いながらも先を吸うコツを、何となく掴みかけているようでもあった。
 哺乳瓶から、ジュージューとミルクが吸い込まれていく音がするからな。

 たった80ml。
 もうすっかりミルクは冷めてしまっている。
 それでも懸命に飲もうとする意志は強く、これぞ人が「生きる」ための本能なんだなと他人事のように思った。


 それから暫くして、哺乳瓶の残りが僅かとなったところで、リアは反応しなくなった。
 俺もリアも、周りもぬるぬるである。
 飲みながら疲れてしまったのだろう。泣きはしなかったが、途中で眠ってしまったのだ。

「初めての割には、上々じゃね」

 リアの頭を撫でる。
 お情け程度に頭にくっ付いている、ほわほわの金髪を指に絡める。
 小さな、とても小さな頭。触るととても、熱い。

「はあ…」

 意識して、溜息を吐いた。

 陽はまだ高い。
 ぽかぽか陽気に、疲れた俺。
 目まぐるしく過ぎた時間に、慣れない事をして、何もかもどうでもいいくらい疲れを感じている。

 左腕には眠る赤ん坊。体温は高く、芯から心地良い。
 頭からはおひさまのような、独特の匂いがする。
 手にまとわりついたミルクの滓も、ほんわりと香って思考をマヒさせる。

「やべ、眠いかも」

 夢の中で眠るなんて、可笑しいだろ。

 そう思ったのも束の間だった。
 辛うじてリアをまた絨毯の上に置くだけの余力はあった。

「くそ…起きたら真相解明しちゃる…」

 俺はそのままズブズブに埋もれるソファに身体を沈み込ませて、完全に理性を飛ばしてしまうのであった。


 ああ、そうだ。
 寝入る前に一言だけ。


 《今日の俺の子育て理論》
 親も赤ん坊も初めてだらけ。最初っから上手くいくことなんて絶対にない。ちょっとずつ練習して、ちょっとずつ上手くいくようになってんだから、気に揉む必要なんてねえからな!!
 人生、勉強。死ぬまで、勉強。
 ま、そういうこった。


 じゃ、おやすみ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

一振りの刃となって

なんてこった
ファンタジー
拙いですが概要は、人生に疲れちゃったおじさんが異世界でひどい目にあい人を辞めちゃった(他者から強制的に)お話しです。 人外物を書きたいなーと思って書きました。 物語とか書くのは初めてなので暖かい目で見てくれるとうれしいです。 更新は22:00を目安にしております。 一話一話短いですが楽しんでいただけたら幸いです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

ブレイブエイト〜異世界八犬伝伝説〜

蒼月丸
ファンタジー
異世界ハルヴァス。そこは平和なファンタジー世界だったが、新たな魔王であるタマズサが出現した事で大混乱に陥ってしまう。 魔王討伐に赴いた勇者一行も、タマズサによって壊滅してしまい、行方不明一名、死者二名、捕虜二名という結果に。このままだとハルヴァスが滅びるのも時間の問題だ。 それから数日後、地球にある後楽園ホールではプロレス大会が開かれていたが、ここにも魔王軍が攻め込んできて多くの客が殺されてしまう事態が起きた。 当然大会は中止。客の生き残りである東零夜は魔王軍に怒りを顕にし、憧れのレスラーである藍原倫子、彼女のパートナーの有原日和と共に、魔王軍がいるハルヴァスへと向かう事を決断したのだった。 八犬士達の意志を継ぐ選ばれし八人が、魔王タマズサとの戦いに挑む! 地球とハルヴァス、二つの世界を行き来するファンタジー作品、開幕! Nolaノベル、PageMeku、ネオページ、なろうにも連載しています!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...