ふしぎっぎ!!

蔵之介

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UFO 編

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【UFO】




 金曜日、僕は学校が終わると一目散に帰ってくる。


 15時35分。下駄箱を突っ走り、学校の坂をつんのめるように爆速する。
 15時42分。学校の目の前にあるバス停は、運が悪いと生徒がごった返して乗れない。だから僕はその前のバス停に走る。

 定期券外だから追加料金を払わなきゃならないけど、そんなの構っていられない。

 このバスに乗らないと間に合わないのだ。


 バスに揺られて20分。バスは町に向かっている。
 町に着いたら乗り換えだ。
 このバスに乗ることさえできれば、僕の家まで直行で行けるバスに、スムーズに乗り換えができるのだ。

 少しでも遅れたら、一時間は待たなければならない。
 しかも直行でもなく、また違う町で乗り換えねばならないのだ。


 バスは学生と老人達を乗せて、夕方の混み合った道路を進む。
 片側二車線の県道。県民性なのか、バスも車も運転が荒い。


 16時55分。バスがようやく到着する。
 終点場なので、バスはぐるりと広いバス停を一回転。このゆっくりとした旋回が、もどかしくて堪らない。
 運転手の「ありがさんすた~」の声と共に前の扉が開いて、最初から最後まで一番後ろに座りっぱなしだった僕は立ち上り、定期券をバババ!と見せて飛び降りる。



 家までの最後の小さな坂を登れば、左に曲がって3軒目が僕の家。


 母が居ようが居まいが、僕は家の合鍵を持っている。
 僕の帰る姿を見てシッポを振る雑種の愛犬の頭をひと撫でし、玄関まで出迎えてくれた雑種の愛猫を胸に抱いて、居間に滑り込む。


 17時。
 テレビをつけ、
 ああ、良かった、間に合った!

 大抵、オープニングの曲が流れている間に帰りつけるのだ。
 僕は聞き慣れた曲を口ずさみながら制服を脱いで、ようやく腰を落ち着けた。




 僕は高校生。

 恥ずかしながら、この年齢でとあるアニメにハマっていた。
 聞けば誰もが知っているロボットアニメだ。
 ロボットなのに戦いは肉弾戦で、無駄に熱くて恥ずかしい台詞が面白くて、キャラクターはみんな濃ゆくて、なにより泣ける。

 金曜日の夕方。
 僕はこのアニメのために一週間を乗り越えているといっても過言ではない。

 元々あまりアニメに興味のなかった僕が、何の気なしに見た一話で見事にハマって、それから毎週金曜日はこんな調子なのである。

 余談だが、この後にある女の子向けのアニメも何気に気に入っていたりする。小学生が赤ちゃんを育てる奮闘記だが、これもかなり泣かせてくるので観るときは注意が必要だ。



 この日も僕はきちんと間に合って、居間に寝転がってアニメを見ていた。

 季節は冬。
 17時も過ぎると、外は途端に暗くなる。

 物語は佳境に入っている。
 立て続けに主要人物が死んで、僕の涙腺は崩壊しまくりである。



 僕は今、中途半端な田舎の住宅街の一軒家に住んでいる。

 小学6年生の時、この地に越してきた。
 その前は町工場が立ち並ぶ労働者の町の市営団地に住んでいて、あと一年間そこにいれば、六年間を同じ小学校で卒業出来たのに転校してしまって、新しい小学校では全く馴染めなかった苦い思い出がある。


 地理的には、前の団地と今の家は隣同士の区である。
 車では20分ほどの距離だ。

 だけど、スーパーも公園も病院も散髪屋も何もかもあったあの大きな団地と違い、この土地は何もなかった。


 まず、田んぼか畑か山しかない。

 同級生は殆どが畑持ちで、昔話に出てくるような大きな家に住んでいる。
 山を一つ越えたら海があって、夏はチャリンコで波止場に泳ぎに行く。

 逆側の山を越えたら小学校で、5クラスもあった前の学校と違って2クラスしかない。
 また違う山を越えたら中学校だ。
 中学校だけバスの通る大通りに面していて、すぐそばを流れる小さな川を越えたら、前の小学校の校区になっている。


 個人がやってるスーパーは最近潰れてしまって、コンビニは車で10分以上もかかる。
 後は怪しい駄菓子屋さんがあるが、怖くて暗くて僕は数える程度しか行ったことがない。



 父がこの家を買った時、この地区唯一の新興住宅で、僕らの他に30戸ほどの家が立ち並んでいる。
 それ以上新たな家は建っていない。地主が新しい住民を好んでいないらしい。

 点滅信号を越えた先に昔からある県営住宅と、何かと問題に挙げられる同和地区があって、はっきりいってヤンキーばかりの治安の悪い地域だ。


 バスは行きも帰りも一時間に一本しかないので、この土地では車がないと生きていけない。

 だから僕の住む住宅街は、家族分の車があちこちに路上駐車がしてあって、警察も一切取り締まらないから無法地帯だったのだ。
 いずれ僕らも5台の車を停める事になるのだから文句は言えないし、数年後に実際そうなった。


 僕の家は、30戸ほど固まった住宅街の、坂の一番上にある。

 目の前は市が管理する空き地で、二メートルほどの丘になっている。
 草はボウボウと荒れ放題で、我が家の犬と猫の格好の遊び場だ。


 丘と僕の家の真ん中に、住人が使う名もなき道路が通っていて、勿論それは中央線すらない狭い生活道路だ。
 基本的に僕ら住宅街に住まう人しかそこを通らない。
 道路は狭く、軽自動車であっても二台同時すれ違うことはできない。

 信号避けでたまに知らない地元の人が走っている程度で、碌に車も通らないとても静かな場所に、我が家はあったのだ。




 僕が高校生だったこの時期、我が家には父と母と僕の3人しか住んでいなかった。

 兄は遠方に就職して寮に入っていたし、当時小学6年生だった妹は、色々と問題を抱えてここよりも遥かに田舎な土地に、山村留学に行っていた。


 母は相変わらずパート勤務で夕方しか帰ってこないが、この日は父の仕事の関係で一緒に出かけていて、要するに僕はこんな広い家に、ただ一人きりであったのだ。



 僕は人目も憚らず、思う存分アニメに感動して泣いて、とても満足していた。

 母が用意した晩御飯とカップラーメンを食べ、ひとりの夜を楽しんだ。


 犬のオレオを勝手口に入れ、猫のチコをコタツの中に突っ込んだ。
 寒い冬だ。
 オレオもチコも、思うがままにのんびりしている。




 時刻は確か20時前だったか。
 父と母はまだ帰らない。

 僕は居間に寝転がったまま、テレビを見ている。


 居間からは、カーテン越しに空き地の丘が見える。
 前に家がないので、こうやってカーテン全開にしても人目が気にならないのがいい。

 たまにシャアっと、ヘッドライトをつけた車が通る音がするだけで、とても静かでとても落ち着いた夜だった。





 そこで、僕は不思議なものを見るのだ。



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