9 / 27
一章 異世界
8 僕の国は
しおりを挟む
「父上、私の目指す国作りの一端が見えました」
帰宅してジーンが僕と一緒に入ったのは、巨人のガリウスさんと執務を執る部屋だ。三メートルあるガリウスさんは机も椅子も大きくて、その方にタークさんが座っている。タークさんは一メートルって聞いたから、本当に夫婦なのかなと思ってしまう。
屋敷に着くなりハミルさんはジーンに付き添い、僕を見下ろして軽くため息をついた。そのハミルさんはドアの近くに立っていて、ジーンとガリウスさんとの話しには参加しないようだった。
「立憲君主制?なんだそれは」
ガリウスさんはジーンを見下ろして唸るような声を上げてくる。
「現在は立憲君主制で整えた政治形態ですが、国家において一人の王が支配すべきではないと考えます」
「一人ではない。貴族の中から選んだ宰相がいて、各長官が積極的に政務に参加しているだろう。それのどこが不満だ。この期に及んでまだ王の器ではないと考えているのか」
「まあまあ、ガリウス。ジーンは何を考えているのです?」
タークさんがガリウスさんの耳たぶを引っ張る。
「このまま進むと、パールバルト王国に残ったわずかな貴族が政務に就き、私自身は外部出身者として『王は君臨するが、統治せず』と言うような名目王とされるような気がするのです。実際にセネカにより籠絡した一部の貴族は内政省・外政省どちらかのポストを狙ってきています。実力のないものをそのポストに就けるつもりはありません」
ガリウスさんは腕を組みながら、
「ジーン、お前の考える施策を羊皮紙に書き出して持ってくるがいい。それを確かに実行したいなら、マナ文字での署名もするがいい。審議にかける」
と渋い顔で言い、ジーンは仕事があるからと一人で三階の部屋に行くことになった。
「アキラが話してくれたこと、もう少し詳しく植物紙に書いておいてくれないかな。ニホンのことでいいんだ」
日本のこと……あまり考えたことがなかったな。
ハミルさんが扉を開けてくれたんだけど、その目がぞっとするほど冷たかった。二階の階段前では一人の男の人にぶつかる。
「あ、ごめんなさい」
前にジーンと話をしていた時に話しかけてきた綺麗な男の人だ。確か、スニークさんだったよね。何が気に入らないんだろう。僕と顔を合わせるたびに冷たい視線を向けてくるし、食堂にいる時に足を突き出され転んだこともあった。すごく露骨でただただ驚いた。僕は屋敷では新入りだし、異世界人だし、何か気に入らないことをしたのかもしれない。そう思っていたら、スニークさんに廊下で出会い頭で睨まれた。
「君が、殿下の番いかい。小さくて貧相で、美しくもない。黒い髪と黒い瞳なんて平民以下の色だよ。知っているかな、貴族は明るい髪の色なんだよ。君は殿下にふさわしくない。北の国では貴族が平民と婚姻すると、貴族号を剥奪されることだってあるんだ。殿下はラメタル王国では王族扱いなんだ。異世界の番いなんて笑わせる。腹実でもないくせに、殿下のお子様を孕むこともできないのに」
スニークさんの言葉はかなりきつい。
「は、はらみ?あなたはジーンの子どもを……」
「僕はラメタル王国から殿下のために選ばれた腹実を持つ貴族。つまり正妃として王の横に立つのは金髪の僕だ。君はせいぜい言って妾人って所だね。大変な思いをなさる殿下のために、仕方なしに城屋敷においてあげるけれど、正妃の僕には逆らうなよ」
「さ、逆らう……?」
恐る恐る尋ねてみるとスニークさんがにっこりと笑った。
「僕の邪魔をするな。殿下のご寵愛を受けるのは、僕の仕事だから」
スニークさんが吐き捨てて二階の奥の部屋に行ってしまうと、僕は三階のジーンの部屋に入り、不安な気持ちのままに入って椅子に小さく座り込んだ。
「どうしたのですか」
僕に声をかけてくれたのはタークさんで、どうやら後から僕を追いかけて来たようだった。
「タークさん……」
僕はどうしていいか分からなくて、タークさんが座ったソファの横に座るように言われて座ってから、スニークさんの話しをする。
「ジーンは獣性の強い子ですからね、多分心配いらないと思いますよ。あとはアキラくんの気持ちの問題です。ジーンのことは嫌いではないと思いますが、好きですか?」
ジーンとスニークさんの心配をしている僕に、タークさんがあっさりと答える。
「好きです」
「どんな好きですか?アキラくんはジーンとセックスが出来ますか?僕が聞いているのはそれを含めた好きなのですよ」
男同士で……セックス……それは性多様性の体育の授業で学んだ。
「日本人のアキラくんの周りには女性と男性の組み合わせが多かったでしょう。それは分立神アースが統べる世界だからです。こちらでは違うのです。男女問わず子を成す平等神ガルドが統べる世界です。ジーンと寝台を共にする。肛門から精を受ける。直腸よりずっと上を暴かれるーーそんな行為を受け入れられますか?」
タークさんが静かに話すのを、僕はじっと聞いていた。
帰宅してジーンが僕と一緒に入ったのは、巨人のガリウスさんと執務を執る部屋だ。三メートルあるガリウスさんは机も椅子も大きくて、その方にタークさんが座っている。タークさんは一メートルって聞いたから、本当に夫婦なのかなと思ってしまう。
屋敷に着くなりハミルさんはジーンに付き添い、僕を見下ろして軽くため息をついた。そのハミルさんはドアの近くに立っていて、ジーンとガリウスさんとの話しには参加しないようだった。
「立憲君主制?なんだそれは」
ガリウスさんはジーンを見下ろして唸るような声を上げてくる。
「現在は立憲君主制で整えた政治形態ですが、国家において一人の王が支配すべきではないと考えます」
「一人ではない。貴族の中から選んだ宰相がいて、各長官が積極的に政務に参加しているだろう。それのどこが不満だ。この期に及んでまだ王の器ではないと考えているのか」
「まあまあ、ガリウス。ジーンは何を考えているのです?」
タークさんがガリウスさんの耳たぶを引っ張る。
「このまま進むと、パールバルト王国に残ったわずかな貴族が政務に就き、私自身は外部出身者として『王は君臨するが、統治せず』と言うような名目王とされるような気がするのです。実際にセネカにより籠絡した一部の貴族は内政省・外政省どちらかのポストを狙ってきています。実力のないものをそのポストに就けるつもりはありません」
ガリウスさんは腕を組みながら、
「ジーン、お前の考える施策を羊皮紙に書き出して持ってくるがいい。それを確かに実行したいなら、マナ文字での署名もするがいい。審議にかける」
と渋い顔で言い、ジーンは仕事があるからと一人で三階の部屋に行くことになった。
「アキラが話してくれたこと、もう少し詳しく植物紙に書いておいてくれないかな。ニホンのことでいいんだ」
日本のこと……あまり考えたことがなかったな。
ハミルさんが扉を開けてくれたんだけど、その目がぞっとするほど冷たかった。二階の階段前では一人の男の人にぶつかる。
「あ、ごめんなさい」
前にジーンと話をしていた時に話しかけてきた綺麗な男の人だ。確か、スニークさんだったよね。何が気に入らないんだろう。僕と顔を合わせるたびに冷たい視線を向けてくるし、食堂にいる時に足を突き出され転んだこともあった。すごく露骨でただただ驚いた。僕は屋敷では新入りだし、異世界人だし、何か気に入らないことをしたのかもしれない。そう思っていたら、スニークさんに廊下で出会い頭で睨まれた。
「君が、殿下の番いかい。小さくて貧相で、美しくもない。黒い髪と黒い瞳なんて平民以下の色だよ。知っているかな、貴族は明るい髪の色なんだよ。君は殿下にふさわしくない。北の国では貴族が平民と婚姻すると、貴族号を剥奪されることだってあるんだ。殿下はラメタル王国では王族扱いなんだ。異世界の番いなんて笑わせる。腹実でもないくせに、殿下のお子様を孕むこともできないのに」
スニークさんの言葉はかなりきつい。
「は、はらみ?あなたはジーンの子どもを……」
「僕はラメタル王国から殿下のために選ばれた腹実を持つ貴族。つまり正妃として王の横に立つのは金髪の僕だ。君はせいぜい言って妾人って所だね。大変な思いをなさる殿下のために、仕方なしに城屋敷においてあげるけれど、正妃の僕には逆らうなよ」
「さ、逆らう……?」
恐る恐る尋ねてみるとスニークさんがにっこりと笑った。
「僕の邪魔をするな。殿下のご寵愛を受けるのは、僕の仕事だから」
スニークさんが吐き捨てて二階の奥の部屋に行ってしまうと、僕は三階のジーンの部屋に入り、不安な気持ちのままに入って椅子に小さく座り込んだ。
「どうしたのですか」
僕に声をかけてくれたのはタークさんで、どうやら後から僕を追いかけて来たようだった。
「タークさん……」
僕はどうしていいか分からなくて、タークさんが座ったソファの横に座るように言われて座ってから、スニークさんの話しをする。
「ジーンは獣性の強い子ですからね、多分心配いらないと思いますよ。あとはアキラくんの気持ちの問題です。ジーンのことは嫌いではないと思いますが、好きですか?」
ジーンとスニークさんの心配をしている僕に、タークさんがあっさりと答える。
「好きです」
「どんな好きですか?アキラくんはジーンとセックスが出来ますか?僕が聞いているのはそれを含めた好きなのですよ」
男同士で……セックス……それは性多様性の体育の授業で学んだ。
「日本人のアキラくんの周りには女性と男性の組み合わせが多かったでしょう。それは分立神アースが統べる世界だからです。こちらでは違うのです。男女問わず子を成す平等神ガルドが統べる世界です。ジーンと寝台を共にする。肛門から精を受ける。直腸よりずっと上を暴かれるーーそんな行為を受け入れられますか?」
タークさんが静かに話すのを、僕はじっと聞いていた。
20
お気に入りに追加
196
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。
みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。
男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。
メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。
奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。
pixivでは既に最終回まで投稿しています。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜
ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。
王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています!
※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。
※現在連載中止中で、途中までしかないです。
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺(紗子)
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される
田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた!
なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。
婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?!
従者×悪役令息
彼の至宝
まめ
BL
十五歳の誕生日を迎えた主人公が、突如として思い出した前世の記憶を、本当にこれって前世なの、どうなのとあれこれ悩みながら、自分の中で色々と折り合いをつけ、それぞれの幸せを見つける話。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる