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一章 異世界

8 僕の国は

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「父上、私の目指す国作りの一端が見えました」

 帰宅してジーンが僕と一緒に入ったのは、巨人のガリウスさんと執務を執る部屋だ。三メートルあるガリウスさんは机も椅子も大きくて、その方にタークさんが座っている。タークさんは一メートルって聞いたから、本当に夫婦なのかなと思ってしまう。

 屋敷に着くなりハミルさんはジーンに付き添い、僕を見下ろして軽くため息をついた。そのハミルさんはドアの近くに立っていて、ジーンとガリウスさんとの話しには参加しないようだった。

「立憲君主制?なんだそれは」

 ガリウスさんはジーンを見下ろして唸るような声を上げてくる。

「現在は立憲君主制で整えた政治形態ですが、国家において一人の王が支配すべきではないと考えます」

「一人ではない。貴族の中から選んだ宰相がいて、各長官が積極的に政務に参加しているだろう。それのどこが不満だ。この期に及んでまだ王の器ではないと考えているのか」

「まあまあ、ガリウス。ジーンは何を考えているのです?」

 タークさんがガリウスさんの耳たぶを引っ張る。

「このまま進むと、パールバルト王国に残ったわずかな貴族が政務に就き、私自身は外部出身者として『王は君臨するが、統治せず』と言うような名目王とされるような気がするのです。実際にセネカにより籠絡した一部の貴族は内政省・外政省どちらかのポストを狙ってきています。実力のないものをそのポストに就けるつもりはありません」

 ガリウスさんは腕を組みながら、

「ジーン、お前の考える施策を羊皮紙に書き出して持ってくるがいい。それを確かに実行したいなら、マナ文字での署名もするがいい。審議にかける」

と渋い顔で言い、ジーンは仕事があるからと一人で三階の部屋に行くことになった。

「アキラが話してくれたこと、もう少し詳しく植物紙に書いておいてくれないかな。ニホンのことでいいんだ」
 
 日本のこと……あまり考えたことがなかったな。

 ハミルさんが扉を開けてくれたんだけど、その目がぞっとするほど冷たかった。二階の階段前では一人の男の人にぶつかる。

「あ、ごめんなさい」

 前にジーンと話をしていた時に話しかけてきた綺麗な男の人だ。確か、スニークさんだったよね。何が気に入らないんだろう。僕と顔を合わせるたびに冷たい視線を向けてくるし、食堂にいる時に足を突き出され転んだこともあった。すごく露骨でただただ驚いた。僕は屋敷では新入りだし、異世界人だし、何か気に入らないことをしたのかもしれない。そう思っていたら、スニークさんに廊下で出会い頭で睨まれた。

「君が、殿下の番いかい。小さくて貧相で、美しくもない。黒い髪と黒い瞳なんて平民以下の色だよ。知っているかな、貴族は明るい髪の色なんだよ。君は殿下にふさわしくない。北の国では貴族が平民と婚姻すると、貴族号を剥奪されることだってあるんだ。殿下はラメタル王国では王族扱いなんだ。異世界の番いなんて笑わせる。腹実でもないくせに、殿下のお子様を孕むこともできないのに」

 スニークさんの言葉はかなりきつい。

「は、はらみ?あなたはジーンの子どもを……」

「僕はラメタル王国から殿下のために選ばれた腹実を持つ貴族。つまり正妃として王の横に立つのは金髪の僕だ。君はせいぜい言って妾人って所だね。大変な思いをなさる殿下のために、仕方なしに城屋敷においてあげるけれど、正妃の僕には逆らうなよ」

「さ、逆らう……?」

 恐る恐る尋ねてみるとスニークさんがにっこりと笑った。

「僕の邪魔をするな。殿下のご寵愛を受けるのは、僕の仕事だから」

 スニークさんが吐き捨てて二階の奥の部屋に行ってしまうと、僕は三階のジーンの部屋に入り、不安な気持ちのままに入って椅子に小さく座り込んだ。

「どうしたのですか」

 僕に声をかけてくれたのはタークさんで、どうやら後から僕を追いかけて来たようだった。

「タークさん……」

 僕はどうしていいか分からなくて、タークさんが座ったソファの横に座るように言われて座ってから、スニークさんの話しをする。

「ジーンは獣性の強い子ですからね、多分心配いらないと思いますよ。あとはアキラくんの気持ちの問題です。ジーンのことは嫌いではないと思いますが、好きですか?」

 ジーンとスニークさんの心配をしている僕に、タークさんがあっさりと答える。

「好きです」

「どんな好きですか?アキラくんはジーンとセックスが出来ますか?僕が聞いているのはそれを含めた好きなのですよ」

 男同士で……セックス……それは性多様性の体育の授業で学んだ。

「日本人のアキラくんの周りには女性と男性の組み合わせが多かったでしょう。それは分立神アースが統べる世界だからです。こちらでは違うのです。男女問わず子を成す平等神ガルドが統べる世界です。ジーンと寝台を共にする。肛門から精を受ける。直腸よりずっと上を暴かれるーーそんな行為を受け入れられますか?」

 タークさんが静かに話すのを、僕はじっと聞いていた。
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