召喚先は腕の中〜異世界の花嫁〜【完結】

クリム

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一章 異世界

5 僕は屋敷で

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 新しい生活が始まった。

 会社に行かない。一日中好きにしていい。どうしたらいいか分からなくて頭を悩ませているくらい。

 ジーンがいるお屋敷は色んな人が出入りしていて、ニ階にはいつでも食事が出来る食堂がある。ビュッフェ式らしく好きなものを好きなだけ食べて良いらしい。どうしよう、何を食べたらいいか、毎回正直困る。

 二階と一階にはこの屋敷で暮らす人の部屋があり、一階の大広間はだだっ広い。地下にはあの魔法陣の部屋があり、更に地下があるようだ。

「どこに行ってもいいよ」

 屋敷の隅々まで案内してくれた時、ジーンに言われたことだ。僕は素直に頷いた。

 寝る時だけはジーンが部屋に戻るから、それ以外は本当に自由。タークさんと庭を歩いたり、セフェムさんが狼になった姿を見て驚いたりもした。

 タークさんやセフェムさんが忙しい時は、僕は一日中一階の奥にある図書室にいることもあった。ジーンとキ、キスをしたので異世界でも、読むことも話すこともできる。異世界のことが書いてある本はすごく面白い。この世界は赤ちゃんの成る木があるらしい。

 自由にしていいと言われたけど、外が少し怖い。外はなんだか戦争しているのか、ガシャガシャと武器の音がしていた。だから屋敷内は安心出来る。特にジーンのそばは肩の力が抜けた。

「アキラくん、ジーンとはちゃんと出来ましたか?我が子ながらあちこち立派過ぎて、アキラくんが心配なんです」

 タークさんがジーンのお母さんだってことを知ったのはちょっと前で、しかも異世界から転生してきたのを聞いて一気に仲良くさせてもらっている。でも、この話は恥ずかしい。

「大丈夫です。でも、出来ましたかって、何をですか?」

 卵料理を口に頬張りながら答えると、うーんとタークさんは声を出しながら、机を叩いた。

「番いですよ?理科で習ったでしょう?番いは夫婦、番うってのは子作りですよ。ーーあの子はアキラくんに手を出していないのですね。全く、異世界から花嫁を連れてきて、僕は安心していたのに。アキラくんは放ったらかしで、屋敷ばっかりにいるとつまらないですよね。僕とセフェムは暇ですから、一緒に森の下の町へいきますか?」

 木のトレイに食事を載せて歩いて来たセフェムさんに、タークさんが声を掛ける。セフェムさんは僕の向かいに腰を下ろして、タークさんをだっこしてにこりと獣面で笑った。

「いいぞ。背中に乗せてやろう。タクもアキも軽いから大丈夫だ。ジンどガリィは忙しいからな」

「え、あの、僕」

 僕は困ってしまい、ジーンがトレイを持ちながら向こうからやってくるのを見た。

「ああ、ここにいたのか、アキラ。今日、一緒にいてくれないかい?」

 僕の隣に腰を下ろして、ジーンがにこにこして問いかける。今、タークさんに誘われたばかりでどうしようと巡らせていたら、

「やっとデートのお誘いなんですね。ジーン、番いが聞いて呆れます」

と僕の代わりに答えてくれた。

「母上、手厳しいです。大体、私にパールバルト王国を押し付けるから、こうなっているのですよ」

「亡きパールバルト王の依頼ですからね。パールバルト王国の王に即位するのと同時に、鉄道を砂漠のパールバルト王国に伸ばす。それからレガリア連邦王国のアリシア王国の魔の森まで繋げて行く」

「私は王の器ではありません。今は父上が助けてくれますが……」

「あなたはラメタル王国のアストラ女王同様に、帝王学をガリウスから学んでいます。アストラは女王として努力をしていますよ。あなたもアキラとの国を作るのですよ」

 タークさんが立ち上がって僕の頭を撫でてくれた。小さな子供に戻ったみたいで、ちょっぴり恥ずかしい。

「アキラくん、楽しんできてください」

「母上はよろしかったのですか?父上も」

 食べ終わったセフェムさんとタークさんが顔を見合わせて吹き出してしまう。

「息子のデートに付いていくほど野暮ではありませんよ」

 にっこり笑いながらタークさんはセフェムさんに抱っこされていってしまう。

 屋敷には沢山の人がいるが、ジーンは他の人とはあまり話をしていない。タークさんやセフェムさんやガリウスさんは『家族』で、こちらの人とは種族が違う。

 働いている人や食堂の人と顔見知りになっても、異世界だからか知らない人間だからか、なかなか馴染めないでいる。ジーンもそれを知っているみたいで、食堂で一人でいると大抵タークさんかセフェムさんかすぐに来てくれる。

「親一緒の初デートにならなくてよかったよ。大好きな両親なんだけれどね、末っ子だからかな、甘やかされているんだ。巨人の父上は私に厳しいのだけれど、やっぱり甘いんだよ」

 屋敷に連れてこられて、ジーンとは昼ごはんの時か夜寝る前くらいしか会えなくて心細くて仕方がない。でも、ジーンが僕の番いで、ジーンは僕を異世界に連れてきた人で、花嫁にしたかったはず。大勢いる人の中で、僕だけ構って欲しいなんて思ってしまう僕がいて、僕は僕が正直恥ずかしかった。

「殿下」

 ジーンと少し会話しながら食後のお茶を飲んでいると、若い男の人が近づいてきた。

 デンカ?

「やあ、スニーク」

「お呼びが全く掛からなくて、どうしてなんですか?そちらが異世界の番いなのですね。でも、そ 腹実ではないのですから」

「分かっている……」

 スニークと呼ばれた男の人はすごく綺麗で、僕をちらりと見てきた。きつい視線に感じて思わず目を上げると、スニークさんは僕をにらみつけていた。びっくりしてガチャンと紅茶皿にカップを打ちつけてしまう。

「大丈夫?火傷はしていないかな?スニーク今はよしてくれないか」

 ジーンがスニークさんに話をしている。ジーン、その人は誰なんですか?僕はその言葉を言い出せなくて、押し黙ってしまう。

「アキラ、指は大丈夫?」

 ジーンの心配が嬉しい。でも……

 僕は俯いてしまった。
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