赤髪の年上女王は年下の宝石のような王子を愛でている【完結】

クリム

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29 お披露目の儀

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 快楽を隅々まで行き渡らせた手足は、力が入らなくてシャルルゥはどうしたら良いか分からない。

 産声を上げる赤ん坊を見て、ふうと深い息を吐いたアンジュリカが叫ぶ。

「入室を許可する。子どもが産まれた。医師を呼べ」







 城の自室で大量の資料にサインをしているアンジュリカの姿に、シャルルゥは微笑んだ。赤ん坊に乳をやりながら、時々赤ん坊の顔を見ているからだ。

「エドワードはもう飯はいらないらしい」

 アンジュリカは笑いながら、乳房から赤ん坊を離す。赤髪の赤ん坊はアンジュリカの乳首を咥えていたが、指を唇にはさまれて外され、不機嫌な泣き声を上げた。

「シャルルゥ、お前の乳首を咥えさせよ。これは寝るために吸っているだけだ」

「は、はい」

 シャルルゥはアンジュリカの言いつけ通りガウンの胸元を開く。するとエドワードがシャルルゥのなだらかな胸元のやや赤ずんだ乳首を目掛けて吸い始める。

「女王陛下お召し替えを」

 うち扉がノックされ、公務用の部屋へアンジュリカが入って行くとシャルルゥと赤ん坊が部屋に残された。

「うっ、エドワード様…」

 しばらく左を吸わせると乳が出ない事を理解したのか右乳を弄り出しそのままきつく吸い付いて来た。そしてしばらく口を動かし満足したのかシャルルゥの腕の中で寝てしまう。

「エドワード、父様はおめかしの時間だ」

 一足先に女王の純白のドレスに着替えて来たアンジュリカがエドワードを抱きしめドレープのついた赤ん坊用の寝台に寝かす。生後三ヶ月になるのだが、既に六ヶ月に迫る大きさだ。アンジュリカも同様に異常な程成長が早かったと、城の老医師が話していた。

 だからエドワードがアンジュリカの子だと言うのは一目瞭然なのだが、アンジュリカにとってシャルルゥが父であると言わしめるための特徴を見せる必要があった。

「アンジュリカ様、本当にあれを……」

 アンジュリカはシャルルゥに寝台に乗るように促す。

「元々は医療品だ。心配はないとグランが手紙を寄越している」

「でも、こんな、わたし……」

 アンジュリカはソファに座って、深いため息を着いた。

「お前の特徴を引き出すためだ。私だって見せるのは嫌なのだ。これは命令だ、シャルルゥ」

 シャルルゥは深緑の瞳を閉じ、バスローブを肩から落とした。





 アルビオン城へ爵位持ちが一堂に集められた大広間には、ぐるりと衛兵が立ち並び、アンジュリカ女王陛下のお出ましを待っていた。

 五段の壇上から赤絨毯が床に敷かれ、女王陛下が段下に歩むのが新年の恒例行事だ。それを兼ね赤子のお披露目ということで、その道は避けて並び立つ。

 アンジュリカの弟ヒューチャーは、ネオポリスからガリア方面に向けての『アルカディア街道』着手のため不在だ。

 お出ましラッパの後、豊かに広がる赤獅子髪のアンジュリカを見て、一堂がどよめいた。

 女王が式典用の白のドレスを纏い、冠を被り、剣の代わりに宝玉錫杖を手にしているのだ。

 破天荒の無頼巨女、戦場の赤獅子と揶揄された型破りさは消え失せ、女王然とした迫力と気高さを湛えている。

「新年の祝礼もなく、生誕の儀もなく、すまなかった。お披露目の儀をもって、我が子エドワードと我が夫シャルルゥを紹介しよう」

 アンジュリカの横に現れたのは、赤ん坊を抱いた十三、四程度にしか見えない子どもだ。華奢な体躯は女王の横では更に細く、伸ばし始めたプラチナブロンドの髪が顔にかかって血色が悪そうに見えていた。

 誰かのため息や口噛みの息が聞こえた。アルビオンの女王の夫に相応しいものは他にまだまだいるだろう、誰もがそう思っている。

「では恒例通り挨拶に伺おう」

 アンジュリカが錫杖を書記官に投げてよこすと、赤ん坊を右手で抱き、シャルルゥに手を差し伸べてエスコートをする。シャルルゥがぎこちなく階段を降りて行く姿に、本来反対の立場になるであろうと、失笑が湧き上がった。

「お初にお目に掛かります。エドワード王子、シャルルゥ王配殿…か……」

 元老院の一人が言葉を詰まらせ、シャルルゥとエドワードを見比べる。

 元老院が息を呑みそれから爵へと挨拶が移る時、元老院の動揺を理解したのだ。

 エドワードと同じく、シャルルゥも左右の目の色が違う。

 覇王の瞳をシャルルゥが持っていて、エドワードに受け継がせたのだと、誰かが呟く。エドワードは覇王の瞳を持ち、アルビオン中心にブリタニアを統一国家にしていくのではないかと沸き立った。

「アレクサンドロス……覇王の瞳っ!まさしく、エドワード王子のお父君にあらせられるっ!」

「女王陛下、よき伴侶を得られました!」

「女王陛下、万歳!」
「エドワード王子、万歳!」
「王配殿下、万歳!」

 シャルルゥが時折見せる唇を噛み締める仕草と頰の上気は、緊張感からだと錯覚され、シャルルゥの瞳に爵達はシャルルゥの瞳を褒め称え続けたのだった。
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