26 / 35
25 愛と独占欲
しおりを挟む
「叔母上は退位されている。お久しぶりです、叔母上。こちらは我が夫のシャルルゥだ」
まるで農妻さながら赤毛を三つ編みした前后の姿に驚きながら、シャルルゥは挨拶をする。アンジュリカ同様上背があり、見上げる格好になったしまったが。
「まあ、なんて可愛らしい、王配殿下、アンジュリカのことをよろしくお願いしますね」
アンジュリカが作業着のシャツとパンタロンに着替えると、林檎籠を背負って大股で歩いていく。その後をシャルルゥが小走りでついていく。
「シャルルゥ、林檎の収穫を体験してみるか?」
収穫している林檎園に入り、籠を手にした。
「一つ一つ手もぎで収穫する」
シャルルゥは見よう見真似で、林檎をもいでいく。
「届かないだろ?ほら」
シャルルゥはアンジュリカの片肩に、ひょいと乗せられられた。
「……アンジュリカ様、人が見ています」
「大丈夫、我が夫を落としはしない」
アンジュリカが笑って、片手で林檎をもいで口に入れた。
「脚立は木を傷めるからな。アルカディアシードルの木は低く剪定してあるのだ。傷のない林檎を取れ」
「は、はい」
高揚して頬を真っ赤にし林檎をもいでいくシャルルゥは、肩から下ろされると不意にアンジュリカの唇を感じた。
「……っ」
羽根が触れるような、天使の接吻。アンジュリカにしては珍しいものだった。
「アンジュリカ様?」
きつくきつく抱きしめられて、シャルルゥは呟く。
「お前に急に触れたくなった…。この気持ちはなんだろうな」
夜の食事は使用人含め大勢で、シャルルゥは軽く溜息をついた。アルビオンの女官などは王城へ行き、近衛は扉の警備をしている、
「疲れた」
そのまま寝台に寝転んでしまう。日に当たりすぎて、火照る体を持て余し、ごろごろと転がるが、諦めてベッドから起き上がった。
アンジュリカは叔母上に挨拶に行っていたが、
「シャルルゥ、待たせたな」
と部屋に入ると、アンジュリカがビンを持ってやってきた。
「休んでいたか?よかったら、付き合わないか?」
アンジュリカが手にシードルと、グラスを持って入って来た。
「アンジュリカ様、まだお仕事を?」
食事の後にアルカディアシードル工場に向かっていたアンジュリカは
「今、終わったのだ」
と横に座りグラスにシードルを注く。
「我が畑のシードルだ。シャルルゥ、試飲してくれ」
シャルルゥはシードルに口をつけた。
「お酒なのに凄く甘い」
「貴腐ワイン作りとなる。メアリに頼んでおいたものだ。お前と一緒に飲みたくてな。アルコール度数も高めだ。ただ作るのに時間と手間がかかるらしい。私の畑で取れる私達だけの贅沢だ」
しばらく無言で飲んでいると、アンジュリカが
「シャルルゥ、すまないな。お前の自由を奪ってしまった」
とシャルルゥのピアスに触れながら話し始める。
「アンジュリカ様?」
「私はお前を誰にも触れさせたくない、独占したい、汚い気持ちしかないのだ。メアリに言われたよ。それは愛ではないのだと。『愛』とは相手の幸せや発展の為に尽くす、混じり気のない温かな気持ちで、その気持ちを行動に移すのは『愛する』と言うことだ。私は独占欲の塊だと、シャルルゥを愛してはいないのだと言われた」
アンジュリカは少し酔っている様に見える。シャルルゥは困ってしまいどうしていいのか分からないでいると、さらにアンジュリカが言葉を紡ぐ。
「私はシャルルゥに会った時、私のものにしたいと思った。私のしたことは、私の祖先の血同様に略奪だ。私を、私を嫌いにならないでくれ……シャル……」
そのままソファに横になり、アンジュリカは眠ってしまったのだ。
「アンジュリカ様、アンジュリカ様……?」
そして眠ってしまった長身を、寝台に引きずっていくことが出来ず、寝台の掛布を広げ、シャルルゥもソファに座り目を閉じた。
次の日も朝食前から林檎を収穫していくのだが、アンジュリカがシャルルゥのもぐ林檎をかじってしまうのだ。
「おはようございますっ!アンジュリカ叔母様、メアリ母様を知りませんか?」
女の子の叫び声でシャルルゥは林檎を落としそうになる。赤毛の女の子が泣いている栗毛の赤ん坊を落としそうになりながら、真っ赤な顔でアンジュリカを見上げている。
「おはよう、アリア。フリップは夜泣きか?」
「夜泣きではありません。朝泣きです。お腹が空いているのです」
シャルルゥはアンジュリカに抱きしめられて降ろされ、慌てて小さなレディに礼を取り、少し照れて笑いかけた。
「アンジュリカ叔母様。あの、貴方は誰?私はアリア・ネオポリス、十三歳よ。貴方、綺麗で可愛いわ、夫にしてあげてもいいわ」
と言いながら、再び泣き出した赤ん坊をあやす。困ってしまったシャルルゥを尻目に、アンジュリカが声に出して笑った。
まるで農妻さながら赤毛を三つ編みした前后の姿に驚きながら、シャルルゥは挨拶をする。アンジュリカ同様上背があり、見上げる格好になったしまったが。
「まあ、なんて可愛らしい、王配殿下、アンジュリカのことをよろしくお願いしますね」
アンジュリカが作業着のシャツとパンタロンに着替えると、林檎籠を背負って大股で歩いていく。その後をシャルルゥが小走りでついていく。
「シャルルゥ、林檎の収穫を体験してみるか?」
収穫している林檎園に入り、籠を手にした。
「一つ一つ手もぎで収穫する」
シャルルゥは見よう見真似で、林檎をもいでいく。
「届かないだろ?ほら」
シャルルゥはアンジュリカの片肩に、ひょいと乗せられられた。
「……アンジュリカ様、人が見ています」
「大丈夫、我が夫を落としはしない」
アンジュリカが笑って、片手で林檎をもいで口に入れた。
「脚立は木を傷めるからな。アルカディアシードルの木は低く剪定してあるのだ。傷のない林檎を取れ」
「は、はい」
高揚して頬を真っ赤にし林檎をもいでいくシャルルゥは、肩から下ろされると不意にアンジュリカの唇を感じた。
「……っ」
羽根が触れるような、天使の接吻。アンジュリカにしては珍しいものだった。
「アンジュリカ様?」
きつくきつく抱きしめられて、シャルルゥは呟く。
「お前に急に触れたくなった…。この気持ちはなんだろうな」
夜の食事は使用人含め大勢で、シャルルゥは軽く溜息をついた。アルビオンの女官などは王城へ行き、近衛は扉の警備をしている、
「疲れた」
そのまま寝台に寝転んでしまう。日に当たりすぎて、火照る体を持て余し、ごろごろと転がるが、諦めてベッドから起き上がった。
アンジュリカは叔母上に挨拶に行っていたが、
「シャルルゥ、待たせたな」
と部屋に入ると、アンジュリカがビンを持ってやってきた。
「休んでいたか?よかったら、付き合わないか?」
アンジュリカが手にシードルと、グラスを持って入って来た。
「アンジュリカ様、まだお仕事を?」
食事の後にアルカディアシードル工場に向かっていたアンジュリカは
「今、終わったのだ」
と横に座りグラスにシードルを注く。
「我が畑のシードルだ。シャルルゥ、試飲してくれ」
シャルルゥはシードルに口をつけた。
「お酒なのに凄く甘い」
「貴腐ワイン作りとなる。メアリに頼んでおいたものだ。お前と一緒に飲みたくてな。アルコール度数も高めだ。ただ作るのに時間と手間がかかるらしい。私の畑で取れる私達だけの贅沢だ」
しばらく無言で飲んでいると、アンジュリカが
「シャルルゥ、すまないな。お前の自由を奪ってしまった」
とシャルルゥのピアスに触れながら話し始める。
「アンジュリカ様?」
「私はお前を誰にも触れさせたくない、独占したい、汚い気持ちしかないのだ。メアリに言われたよ。それは愛ではないのだと。『愛』とは相手の幸せや発展の為に尽くす、混じり気のない温かな気持ちで、その気持ちを行動に移すのは『愛する』と言うことだ。私は独占欲の塊だと、シャルルゥを愛してはいないのだと言われた」
アンジュリカは少し酔っている様に見える。シャルルゥは困ってしまいどうしていいのか分からないでいると、さらにアンジュリカが言葉を紡ぐ。
「私はシャルルゥに会った時、私のものにしたいと思った。私のしたことは、私の祖先の血同様に略奪だ。私を、私を嫌いにならないでくれ……シャル……」
そのままソファに横になり、アンジュリカは眠ってしまったのだ。
「アンジュリカ様、アンジュリカ様……?」
そして眠ってしまった長身を、寝台に引きずっていくことが出来ず、寝台の掛布を広げ、シャルルゥもソファに座り目を閉じた。
次の日も朝食前から林檎を収穫していくのだが、アンジュリカがシャルルゥのもぐ林檎をかじってしまうのだ。
「おはようございますっ!アンジュリカ叔母様、メアリ母様を知りませんか?」
女の子の叫び声でシャルルゥは林檎を落としそうになる。赤毛の女の子が泣いている栗毛の赤ん坊を落としそうになりながら、真っ赤な顔でアンジュリカを見上げている。
「おはよう、アリア。フリップは夜泣きか?」
「夜泣きではありません。朝泣きです。お腹が空いているのです」
シャルルゥはアンジュリカに抱きしめられて降ろされ、慌てて小さなレディに礼を取り、少し照れて笑いかけた。
「アンジュリカ叔母様。あの、貴方は誰?私はアリア・ネオポリス、十三歳よ。貴方、綺麗で可愛いわ、夫にしてあげてもいいわ」
と言いながら、再び泣き出した赤ん坊をあやす。困ってしまったシャルルゥを尻目に、アンジュリカが声に出して笑った。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
【完結】 嘘と後悔、そして愛
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
伯爵令嬢ソニアは15歳。親に勝手に決められて、一度も会ったことのない10歳離れた侯爵リカルドに嫁ぐために辺境の地に一人でやってきた。新婚初夜、ソニアは夫に「夜のお務めが怖いのです」と言って涙をこぼす。その言葉を信じたリカルドは妻の気持ちを尊重し、寝室を別にすることを提案する。しかしソニアのその言葉には「嘘」が隠れていた……


【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる