赤髪の年上女王は年下の宝石のような王子を愛でている【完結】

クリム

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25 愛と独占欲

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「叔母上は退位されている。お久しぶりです、叔母上。こちらは我が夫のシャルルゥだ」

 まるで農妻さながら赤毛を三つ編みした前后の姿に驚きながら、シャルルゥは挨拶をする。アンジュリカ同様上背があり、見上げる格好になったしまったが。

「まあ、なんて可愛らしい、王配殿下、アンジュリカのことをよろしくお願いしますね」

 アンジュリカが作業着のシャツとパンタロンに着替えると、林檎籠を背負って大股で歩いていく。その後をシャルルゥが小走りでついていく。

「シャルルゥ、林檎の収穫を体験してみるか?」

 収穫している林檎園に入り、籠を手にした。

「一つ一つ手もぎで収穫する」

 シャルルゥは見よう見真似で、林檎をもいでいく。

「届かないだろ?ほら」

 シャルルゥはアンジュリカの片肩に、ひょいと乗せられられた。

「……アンジュリカ様、人が見ています」

「大丈夫、我が夫を落としはしない」

 アンジュリカが笑って、片手で林檎をもいで口に入れた。

「脚立は木を傷めるからな。アルカディアシードルの木は低く剪定してあるのだ。傷のない林檎を取れ」

「は、はい」

 高揚して頬を真っ赤にし林檎をもいでいくシャルルゥは、肩から下ろされると不意にアンジュリカの唇を感じた。

「……っ」

 羽根が触れるような、天使の接吻。アンジュリカにしては珍しいものだった。

「アンジュリカ様?」

 きつくきつく抱きしめられて、シャルルゥは呟く。

「お前に急に触れたくなった…。この気持ちはなんだろうな」






 夜の食事は使用人含め大勢で、シャルルゥは軽く溜息をついた。アルビオンの女官などは王城へ行き、近衛は扉の警備をしている、

「疲れた」

 そのまま寝台に寝転んでしまう。日に当たりすぎて、火照る体を持て余し、ごろごろと転がるが、諦めてベッドから起き上がった。

 アンジュリカは叔母上に挨拶に行っていたが、

「シャルルゥ、待たせたな」

と部屋に入ると、アンジュリカがビンを持ってやってきた。

「休んでいたか?よかったら、付き合わないか?」

 アンジュリカが手にシードルと、グラスを持って入って来た。

「アンジュリカ様、まだお仕事を?」

 食事の後にアルカディアシードル工場に向かっていたアンジュリカは

「今、終わったのだ」

と横に座りグラスにシードルを注く。

「我が畑のシードルだ。シャルルゥ、試飲してくれ」

 シャルルゥはシードルに口をつけた。

「お酒なのに凄く甘い」

「貴腐ワイン作りとなる。メアリに頼んでおいたものだ。お前と一緒に飲みたくてな。アルコール度数も高めだ。ただ作るのに時間と手間がかかるらしい。私の畑で取れる私達だけの贅沢だ」

 しばらく無言で飲んでいると、アンジュリカが

「シャルルゥ、すまないな。お前の自由を奪ってしまった」

とシャルルゥのピアスに触れながら話し始める。

「アンジュリカ様?」

「私はお前を誰にも触れさせたくない、独占したい、汚い気持ちしかないのだ。メアリに言われたよ。それは愛ではないのだと。『愛』とは相手の幸せや発展の為に尽くす、混じり気のない温かな気持ちで、その気持ちを行動に移すのは『愛する』と言うことだ。私は独占欲の塊だと、シャルルゥを愛してはいないのだと言われた」

 アンジュリカは少し酔っている様に見える。シャルルゥは困ってしまいどうしていいのか分からないでいると、さらにアンジュリカが言葉を紡ぐ。

「私はシャルルゥに会った時、私のものにしたいと思った。私のしたことは、私の祖先の血同様に略奪だ。私を、私を嫌いにならないでくれ……シャル……」

 そのままソファに横になり、アンジュリカは眠ってしまったのだ。

「アンジュリカ様、アンジュリカ様……?」

 そして眠ってしまった長身を、寝台に引きずっていくことが出来ず、寝台の掛布を広げ、シャルルゥもソファに座り目を閉じた。




 次の日も朝食前から林檎を収穫していくのだが、アンジュリカがシャルルゥのもぐ林檎をかじってしまうのだ。

「おはようございますっ!アンジュリカ叔母様、メアリ母様を知りませんか?」

 女の子の叫び声でシャルルゥは林檎を落としそうになる。赤毛の女の子が泣いている栗毛の赤ん坊を落としそうになりながら、真っ赤な顔でアンジュリカを見上げている。

「おはよう、アリア。フリップは夜泣きか?」

「夜泣きではありません。朝泣きです。お腹が空いているのです」

 シャルルゥはアンジュリカに抱きしめられて降ろされ、慌てて小さなレディに礼を取り、少し照れて笑いかけた。

「アンジュリカ叔母様。あの、貴方は誰?私はアリア・ネオポリス、十三歳よ。貴方、綺麗で可愛いわ、夫にしてあげてもいいわ」

と言いながら、再び泣き出した赤ん坊をあやす。困ってしまったシャルルゥを尻目に、アンジュリカが声に出して笑った。
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