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24 ネオポリス
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「でもアンジュリカ様の助けになるのであれば…電話」
シャルルゥはアンジュリカの汗ばんだ体を抱きしめ、何度も背を撫でた。
「お前にこれを」
シャルルゥは耳にチリと痛みが差し、再び別の耳にも痛みが差して、その鮮烈な鋭い激痛の中まだアンジュリカの内にあるペニスをピクリと揺らした。
「ロシアンから取り寄せた最高級のアレキサンドライトだ。王族は髪を伸ばし王石のピアスをつける。ダイヤで取り囲んだアレキサンドライトは、お前の瞳の証。シャルルゥ、我が夫として未来永劫アルビオンの王族として生きよ。離縁は罷りならん」
痛む耳に触れると、耳朶を覆うほどの石を取り巻く細かな石を感じて、シャルルゥは
「未来永劫、アンジュリカ様をお慕い致します」
と静かに願い出た。その気持ちは揺るぎない。しかしその先にはーー二人にはその気持ちを込める言葉を見出せずにいた。
「林檎を食べに行こう」
ブリタニアに戦火がなくなり、アルビオンが三国統治国として、スコリア、ウィルの主権を容認しながら、アンジュリカがその権力の最高位にいる。三国同盟がスタートしていた。
そんな冬の朝、近頃朝はだるそうにしているアンジュリカがシャルルゥの細身を抱きしめながら言い放った。
シャルルゥは笑いながら、求められるままにアンジュリカに朝の接吻をする。
「ネオポリスのメアリ様の林檎畑ですか?あれはシードル用ですよ」
「ああ、そうだ。アルビオンの冬は寒い。ネオポリスに行こう。あそこには私だけの林檎畑がある」
やや強引ながらも安定した政治と三国統一、なおかつアルビオンの文官が優秀なのか、あっさりとネオポリスへの避冬が許された。実は冬が苦手なアンジュリカの行動は毎年のことらしい。
アンジュリカの弟のヒューチャーの船で二人だけでネオポリスへ向かうことになるのだ。
グランはスコリアから父を連れてローゼルエルデに帰国したらしいし、アンジュリカとシャルルゥを護衛するのは世話付きの女官数人と護衛の近衛が六人。
ネオポリスの船着場で、一際目立つ美貌のメアリと女だけの群れが、アンジュリカとシャルルゥを出迎えた。
「ようこそ、海と緑の国ネオポリスへ」
メアリは蜂蜜色髪をたなびかせて、金の瞳が笑う。
「久しぶりね、女王陛下、王配殿下。今は林檎の収穫期ですので、幌無し馬車でごめんなさい。と、言うか、こちらの愛車はこれしかないの」
エプロン姿のメアリは笑いながら、アンジュリカとシャルルゥに話しかけた。
綿のワンピースにエプロンのメアリは、初めて会った絹のドレスよりしっくりくるのは、気のせいなのだろうかとシャルルゥは思う。
地中海の風を受けながら、ぼんやりと景色を眺めていると、
「お二人に会えると思ったら、嬉しくて眠れなかったの」
とメアリが、風になびくまとめた髪をかきあげる。
あの後、何度もシャルルゥに頭を下げたメアリは、月初の納入の度に自らシャルルゥにシャルルゥ仕様という甘いアルカディアシードルを届けてくれ、シャルルゥはメアリの本来の気さくなそして真面目な人柄に触れた。
当日のことは……思い出したくない。その後のお仕置きに甘く苦しく泣き叫んでいたのだから。でも、アンジュリカに少し近づけた気がした。
「メアリ、寝られなかったのは、赤ん坊の夜泣きのせいだろう?」
「あら、知っていたの?」
「赤ん坊?ーー凄い!みんな林檎ですか?」
アルカディアシードル農園入ると、たわわに実る林檎の木にシャルルゥは声をあげた。
「ええ、今、収穫時期よ」
なだらかな草原には林檎の木が立ち並び、素朴な煉瓦作りの城が見える。
「アンジュリカ、手を貸してくださる?収穫の真っ盛りなのよ」
「勿論だ。シャルルゥ、来い」
馬車はややタラップが高く、シャルルゥは飛び降りたアンジュリカの手を借りて降りるが、キュロットが引っ掛かり、よろめいてアンジュリカの胸に縋った。
「わあっ」
力強く抱きしめられて、シャルルゥは心臓が跳びはねる。
「アンジュリカ様、離してください。人が見ています」
口ごもると、アンジュリカは真っ赤になったシャルルゥの肩から手を離してくれた。
「アンジュリカ、お手伝いいただけるなら、ドレスは暑いわね。母様の服を貸すわ。こちらの古城にお泊まりになるでしょう?荷物を運ばせるわ」
メアリはシャルルゥの荷物を持つと、城に入る。
「母様、母様!アンジュリカが来たの。母様の服を貸して下さらない?」
メアリが入っていくと、中年の女性が出て来た。
「ああ、シャルルゥ、叔母上だ」
「え、では、皇后陛下……?」
シャルルゥはアンジュリカの汗ばんだ体を抱きしめ、何度も背を撫でた。
「お前にこれを」
シャルルゥは耳にチリと痛みが差し、再び別の耳にも痛みが差して、その鮮烈な鋭い激痛の中まだアンジュリカの内にあるペニスをピクリと揺らした。
「ロシアンから取り寄せた最高級のアレキサンドライトだ。王族は髪を伸ばし王石のピアスをつける。ダイヤで取り囲んだアレキサンドライトは、お前の瞳の証。シャルルゥ、我が夫として未来永劫アルビオンの王族として生きよ。離縁は罷りならん」
痛む耳に触れると、耳朶を覆うほどの石を取り巻く細かな石を感じて、シャルルゥは
「未来永劫、アンジュリカ様をお慕い致します」
と静かに願い出た。その気持ちは揺るぎない。しかしその先にはーー二人にはその気持ちを込める言葉を見出せずにいた。
「林檎を食べに行こう」
ブリタニアに戦火がなくなり、アルビオンが三国統治国として、スコリア、ウィルの主権を容認しながら、アンジュリカがその権力の最高位にいる。三国同盟がスタートしていた。
そんな冬の朝、近頃朝はだるそうにしているアンジュリカがシャルルゥの細身を抱きしめながら言い放った。
シャルルゥは笑いながら、求められるままにアンジュリカに朝の接吻をする。
「ネオポリスのメアリ様の林檎畑ですか?あれはシードル用ですよ」
「ああ、そうだ。アルビオンの冬は寒い。ネオポリスに行こう。あそこには私だけの林檎畑がある」
やや強引ながらも安定した政治と三国統一、なおかつアルビオンの文官が優秀なのか、あっさりとネオポリスへの避冬が許された。実は冬が苦手なアンジュリカの行動は毎年のことらしい。
アンジュリカの弟のヒューチャーの船で二人だけでネオポリスへ向かうことになるのだ。
グランはスコリアから父を連れてローゼルエルデに帰国したらしいし、アンジュリカとシャルルゥを護衛するのは世話付きの女官数人と護衛の近衛が六人。
ネオポリスの船着場で、一際目立つ美貌のメアリと女だけの群れが、アンジュリカとシャルルゥを出迎えた。
「ようこそ、海と緑の国ネオポリスへ」
メアリは蜂蜜色髪をたなびかせて、金の瞳が笑う。
「久しぶりね、女王陛下、王配殿下。今は林檎の収穫期ですので、幌無し馬車でごめんなさい。と、言うか、こちらの愛車はこれしかないの」
エプロン姿のメアリは笑いながら、アンジュリカとシャルルゥに話しかけた。
綿のワンピースにエプロンのメアリは、初めて会った絹のドレスよりしっくりくるのは、気のせいなのだろうかとシャルルゥは思う。
地中海の風を受けながら、ぼんやりと景色を眺めていると、
「お二人に会えると思ったら、嬉しくて眠れなかったの」
とメアリが、風になびくまとめた髪をかきあげる。
あの後、何度もシャルルゥに頭を下げたメアリは、月初の納入の度に自らシャルルゥにシャルルゥ仕様という甘いアルカディアシードルを届けてくれ、シャルルゥはメアリの本来の気さくなそして真面目な人柄に触れた。
当日のことは……思い出したくない。その後のお仕置きに甘く苦しく泣き叫んでいたのだから。でも、アンジュリカに少し近づけた気がした。
「メアリ、寝られなかったのは、赤ん坊の夜泣きのせいだろう?」
「あら、知っていたの?」
「赤ん坊?ーー凄い!みんな林檎ですか?」
アルカディアシードル農園入ると、たわわに実る林檎の木にシャルルゥは声をあげた。
「ええ、今、収穫時期よ」
なだらかな草原には林檎の木が立ち並び、素朴な煉瓦作りの城が見える。
「アンジュリカ、手を貸してくださる?収穫の真っ盛りなのよ」
「勿論だ。シャルルゥ、来い」
馬車はややタラップが高く、シャルルゥは飛び降りたアンジュリカの手を借りて降りるが、キュロットが引っ掛かり、よろめいてアンジュリカの胸に縋った。
「わあっ」
力強く抱きしめられて、シャルルゥは心臓が跳びはねる。
「アンジュリカ様、離してください。人が見ています」
口ごもると、アンジュリカは真っ赤になったシャルルゥの肩から手を離してくれた。
「アンジュリカ、お手伝いいただけるなら、ドレスは暑いわね。母様の服を貸すわ。こちらの古城にお泊まりになるでしょう?荷物を運ばせるわ」
メアリはシャルルゥの荷物を持つと、城に入る。
「母様、母様!アンジュリカが来たの。母様の服を貸して下さらない?」
メアリが入っていくと、中年の女性が出て来た。
「ああ、シャルルゥ、叔母上だ」
「え、では、皇后陛下……?」
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