赤髪の年上女王は年下の宝石のような王子を愛でている【完結】

クリム

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1 パーティの夜に

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 つまらないパーティじゃないか。何度目かの溜め息に、とうとう手近なシャンパンに手を伸ばした。 

「お嬢さんも、お飲み物はいかが?」 

 しなやかな手が下から伸びて、シャンパンをそっと奪う。 喉が乾いていて恨めしそうに見降ろすと、睫毛にけぶる暗い緑の瞳と交わった。 

「このシャンパンには薬が含まれています。やめておいた方がよろしいかと。身体に毒です」 

 そう深緑の目が微笑む。 

「そんなことを言って良いのか?」

「あなたはここにそぐわない……。そんな気がするからです」 

 ガリア調のたっぷりとした趣味の悪い安っぽいフリルの黒いドレスを着た痩せた女を見降ろす。 

 美人だ。声も高すぎず低すぎず好みでよい。

 声も良いが、薄化粧の真っ白な肌に真っ赤な唇を持ち、巻き髪の毛がプラチナブロンド。そう金より白金に近い……それが儚げで良い。 

「お前も似つかわしくないな、この場に。手折られに来たのか、はたまた好いた男を探しに?」

「あ、だめ……シャンパンは」 

 シャンパンを飲みほす振りをした。一口もつけていないが。

「……だめなのに」 

 深緑の瞳が悲しそうに微笑み、

「綺麗だな。好みの瞳だ」

と囁いた。 

 白い頬が驚き、目許に少し朱が入り、呟く。 

「どうもありがとうございます」 

 ここはアルビオンなのにガリア調のドレスの男女が踊り狂う様を、口をつけてないシャンパンに透かして、眺めた。 

「凄い光景だ、これは」 

「悲しいとは思います」 

 壁の華の二人は、着飾る男女の華やかな世界で静かに笑う。

「お前は踊らないのか?」 

「わたしは……」 

 長い白金の巻き毛に手を伸ばした。

「では、私と踊らないか?」 

 深緑の瞳を大きく見開いて、剥き出しの肩を震わせる。 

「お戯れを。あなたはわたしと踊ると言われるのですか?」 

「そうだが?」

と、小さな手を取った。 

 相手は自嘲気味笑いながら、 

「壇上の男爵、あの方にわたしは昨晩売られました。人買いにあったのです。わたしと踊れば、わたしを抱く権利を得る。莫大な金額と引き換えに」 

と言い放つ。逃れようとしている瞳は怯えている。余程その道中怖い目にあったのだろう。成る程、そんな仕組みか。他にもそんな生け贄がいるようだ。ぎこちないダンスをするものは、男爵が人買いから買ったものだろう。

 金銭で爵位を得たものがやりそうな蛮業だ。今のアルビオンでは領主の処女権が失われた。だからこそこんな茶番が成り立つのだ。市井の怯える若い女の純潔無垢を貴族が金で買う。処女権を廃止したのに今度は、これか。

 くだらない。全くくだらない。だが、今の私にはその権利がある。

 見つけた……。

「だから誘ってるのだ」 

「そんな……」 

 見上げたブロンドに、申し込みの礼を取る。 

 周囲は蔑笑と苦笑と失笑にざわつき、男爵がにやにやと笑った。 








 外壁に鉄を縄のように巻きつけたワイヤーを引っ掛けて素早く上がっていく。 

 踊り狂い乱痴気騒ぎのガリア趣味の舞踏会に疲れ、賓客が寝静まった深夜、趣味の悪いガリア服を着たまま、目当ての白金髪がいる筈の部屋に向かっていた。 

 ドレスコードがガリアのタイツにチュニック、金髪巻き毛かつらに、つけボクロなんて馬鹿馬鹿しい。しかも、大枚を積むつもりはない、あれは元々こちらのものだ。奪われたものを取り返しにきたのだから。

 居場所を確認させた北ガリア式の焼煉瓦の壁を上がっていくと、部屋というより、牢屋の呈の部屋に裸体の目当てが、首に首輪を付けられ、犬のように鎖に繋がれ、ベッドに座っていた。 

「……華奢だな」 

 痩せた体躯には、女性にあるべき乳房の膨らみはなく、白金色の下生えにはペニスが見え、鍵のない窓を開いて忍び込み中に入る。 

「あなたは!どうして……」 

 彼は慌ててベッドのシーツを纏った。 

「権利を貰いに」 

 当たり前の権利として、寝台の横に立つ。

 思い出すのも腹立たしいが、

『快い余興だ。初めて買い手が付いた』

と笑った飼い主の青髭男爵の言葉。男爵の使いが粗末な部屋待つように言っていたが、馬鹿馬鹿しい茶番に付き合っているつもりもなく、自ら忍び込み、深緑の瞳の舞姫の、いや舞姫ならぬ舞人の前に立ったのだ。

「お前と踊れば、お前を抱けるんだろう?」 

 彼は慌ててベッドの端に寄る。 

「私の相手がこんなに若いってのは、ちょっと驚いたがな」

 ふふと含み笑いをした。

「でも、たいした問題じゃないし、ここのセキュリティは、現在私の友人が支配している。腕の立つ男だ。ほぼみんな眠りこけている。お前、名前は?」 

 彼は顔を見上げながら、 

「シャルルゥ、です」 

と、俯きながら微かに呟く。 

 ぴくりと秀麗な眉を動かした。そうだ、そんな名前だ。可愛い名前だと思った。

「ねぇ、シャルルゥ、お前は純潔無垢か?」 

 怯えるシャルルゥを追い詰め、ベッドに上がる。 

「純潔無垢?そうです…先日まで私は寄宿学校で働いていて、今日、初めて客を……あなたと踊りました…」 

「男爵に犯されてはいないのか?」 

 そんな淡々とした言葉の中、シャルルゥが身を固くして、粗末なパイプベッドの端に追い詰められている。
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