異世界騎士はじめました

クリム

文字の大きさ
上 下
51 / 56
7章『デバイスのアイ』

54 ファナ、ご飯を作る

しおりを挟む
 ファナは朝日の薄明かりに目を開き、ジューゴの脇の下から這い出した。

「ん……」

 伸びをすると、両の胸の下が痛い。少し大きくなった気がする……のは気のせい?
 痩せて背の高いファナは、成長している。普通のリムは成長なんてしないのに。

 ファナは冬には十一歳になる。あと四年、ジューゴと一緒にいられる。

「朝ごはん……」

 ジューゴはまだ眠っていて、寝台から降りると、

「無理しないで」

とジューゴがそのままの格好で、声をかけてきた。

「大丈夫です、心配しないでください。ジューゴ様はまだ寝ていてくださいね」

「うん」

 ぼさぼさになった髪を手櫛で整え、借り物のを着ず、リビングダイニングへ向かう。

 ティムは誰よりも早く起きて、兎を捕りに行っていていないから、裸でも大丈夫だと思う。借り物の服はやはり辛い。

「パンに肉をはさんで……新しい葉っぱを……」

 ファナが食べられる葉を森から聞いていて、少し苦味があるがジューゴが教えてくれたタンポポの葉を入れたパンを四つ作った。

「出来ました」

「あれ、ファナ?……うわっ!」

 ティムが兎を捕まえて戻って来て、ファナの裸体を見て後ろを向く。

「きゃあ」

 仕方なくコートが何を持ってこなければと部屋へ戻ろうとした時、ティムがふわりとタオルをファナにかけてきた。

「俺のでごめん。でも……さあ」

 リムに憧れているティムは、ファナにもシャルルにも優しい。

「ファナ、大将が異世界人本当か?その大将にリムの刻印が反応したのか?」

 カップに水を入れてティムが椅子に座ったのを見て、ファナも反対側にちょこんと腰かけた。

 タオルを肩からふわりとかけただけのファナは、自分の胸の赤い花びらの痣を指で触れる。

「リムは作られたらにお披露目に出されます。ティムも楽園の箱庭でリムに会ったでしょう?私はジューゴ様に会うまで一度もありません」

 ファナはジューゴに会いジューゴと別れ、その後はひたすら逃げた。リム狩りから逃れ、ティムたちに出会った。そしてフーパの屋敷近くでランクルを見つけたのだ。

 ジューゴの自然の温かさが、ファナの掴みたかった世界。

「もし、俺がリムを娶っても、ここにいてもいいか?ファナや大将やシャルルと暮らしたい。今だってファナのマスターにはなれないが、いい友達になることは出来る」

 ファナの胸のリムを指差して、ティムが男臭い笑いを見せた。

「ジューゴ様がいいと言えば……あ、私もお友達は欲しいです!」

「そ、そうか!では大将を起こしてーー」

 起き抜けのジューゴが頭を掻きむしり、声を張るハイムの頭をぽんぽんと撫でる。

「……た、大将っ」

「朝から元気だね。シャルルはまだ寝ているから少し静かにね。ファナはコートを着てね」

「ティム、ありがとうございました」

 タオルをティムに渡したファナが寝室に消えると、ジューゴが少し驚いたような顔をして、それから笑った。

「ティム、ファナに優しくしてくれてありがとう。ファナの友達になってくれる?君たち年が近いから。僕は十八歳だしね。ティムは十二歳でしょ」

 今度はティムが驚いたような顔をして、それから頭を抱えたのだ。

「十八?その姿でか?髭も生えてないじゃないか!」

「生えてるよ!ほんの少しだけど!」

「生えてない!」

「ーーうるさい、黙れ、下僕!」

 全裸でのしのしと歩くシャルルがティムの胸ぐらを掴むと椅子から叩き落とす。

「うわっ、寝起き悪い」

 ティムが床に伏して叫ぶが、シャルルは欠伸をしながら置いてある水を飲むと、ファナが慌ててシャツを持って来るのを見て袖を通す。

「今日はイア川に行くのだろう?だったら俺は必要ないな、俺はまだ寝る」

とシャルルが寝室に戻っていってしまう。

「あ、シャルル様、朝ごはんを」

「部屋で食べるから持ってきてくれないか」

 リムはよく寝るそうだが、シャルルはやはりよく寝る。ファナも眠るが、シャルルほどではない。

 不思議だった。

「食べようか、ファナ」

「はい!」

 ティムと三人でテーブルを囲む。一口目のタンポポの葉が苦くて、ファナは目を白黒させた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。

夢草 蝶
恋愛
 侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。  そのため、当然婚約者もいない。  なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。  差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。  すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

処理中です...