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6章『花の守り人』
53 閑話 蒸気風呂
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アギト川から離れて中央へ向かって移動していたファナが、森で会ったティムと一緒にいたのは一ヶ月程。ティムが楽園に行こうとした時、ファナはチロルハート率いるリム狩り別働隊にさらわれかけたが、ティムがさらいかえしてフーパの屋敷近くにいた騎士に預けたらしい。
「セシルローズ様の隊に預けられましたが、私、ジューゴ様を探したくて抜け出しました」
そこまでの話はまたおいおいと聞くとして、茸と不思議な香辛料の味のするスープと、兎のスパイス焼きを堪能してから、あくびを繰り返すファナを風呂に入れなくてはと、ティムに尋ねる。
「もちろん風呂はある。火もいい具合だぜ」
と、キッチンの横の扉を開いた。
むわんと熱気が上がり、ファナが小さな悲鳴を上げる。
木の香りがする熱気とベンチ、そして真ん中にある石は、外からの火にくべられ真っ赤になっていた。
「蒸気風呂、サウナなんだ!」
「風呂はこれだろ?なあ、シャルル」
「そうだ。ジューゴ、ーー違うのか?」
驚くシャルルの横で、僕は服を脱ぎ始める。
「北はサウナなんだね。僕はお湯張りがいいんだけどなあ。ファナ服脱いで、バスタオル巻いておいでよ」
僕は脱衣所で全裸になって腰にタオルを巻いてファナを抱っこすると、木の熱さを確かめながら、なるべく扉に近い方に座らせ、シャルルとティムを呼んだ。
ティムはかなりきっきりと腰巻きを巻いていて、その目がちらりとファナの肢体に向けられたのを見た。
「……ああ、男の子だもんなあ」
と、自分の意思とは関係なくコントロール出来ない劣情を精一杯堪えるティムに、僕は吹き出しそうになる。
だってバスタオル二枚腰に巻いているんだから。シャルルもファナと同じように胸まで隠していた。
「テオがうるさいからな。あいつはやきもち焼きだ」
まずは焼け石の熱さにじんわりと汗をかいて、次に石に水をかけて一気にその蒸気にあたり、部屋を出るのだが、初めてで慣れていないファナが僕にもたれ掛かった。
「ジューゴ様、気持ち悪い……」
白い痩せた身体を真っ赤にして、困り眉がさらに困っているファナを抱き上げて、僕はシャルルに声を掛ける。
「シャルル、大丈夫かい?」
シャルルはファナよりも少し桃色がかった程度だが、元々肌色がファナよりも濃く、健康的だからかもしれない。
「まだ、大丈夫だ。やけに熱いな、この蒸気風呂は」
潤んだ大きな瞳で見上げて来たところを見るとシャルルも限界のようで、ファナに水を掛けた僕は脱衣場の脇で足からゆっくり水を手桶でかけてやった。
「心臓がびっくりするから少しずつね……ほら、水」
首筋に水をかけてやりながら、コップで水を飲ますと、風呂からシャルルのきつい声が聞こえて僕は立ち上がる。
「タオルをかけて、休んで」
「はい……」
ティムとシャルルを二人だけにした自分の失態に、僕は歯噛みした。
「おい、ティ……」
「気軽に触るな、この野郎!この身体はマスターにもらった大切な身体だ!」
見ればティムが手桶の水を持ち立ち上がり動揺し、
「ご、ごめ……水をかけてやろうと……」
「余計なことだ!」
と叫ばれ、手桶の水を石に掛けてしまったのだ。
ジュワ……と激しい湯飛沫がティムに跳ね返り、ティムが逃げた途端バランスを崩して、シャルルにのし掛かった。
シャルルが怒りに声を上げようとして蒸気を吸い込んでむせて、呼吸が荒くなりティムの下でカクンと気を失う。
「どいて!」
僕はティムを横に倒すとシャルルを抱き上げて、居間のソファに降ろした。
「シャルル様っ!」
慌ててファナがタオルを渡してくれ、とりあえず枕代わりに頭の下に入れ、呼吸確認をする。
浅いが呼吸はあり、意識低下は脱水かも。
「ファナ、水を」
「あります」
ファナの機転のよさには舌を巻いた僕なんだけど、最近のファナは痒いところに手が届くみたい。
「私、やります」
ファナが椅子に登りコップの水を少し含むと、シャルルの真っ赤な唇に自分の小さな唇を押し当て水を流し込む。
それを何度か繰り返すと、シャルルの顔色が落ち着き、ふと目を開き生理的な涙をぽろりと溢した。
「……ファナ」
「よかった、シャルル様」
ファナを抱き締めるシャルルを見て、僕は安堵の息を吐き出す。
「もう大丈夫だな。……ティム!」
全裸美幼女と美少年のキスシーンと抱擁を、背後から口を開けて見ていたのは目端で確認済だよ!
暴発防止の腰巻きがきつそうなのも、理解できる……が!
「ティム!」
「はいっ!」
厳しい低めの声を出し、ハイムを呼ぶ。
「領主として湯張りの風呂作りを命じるよ!これは、命令だ!すぐに取り掛かって!」
「……は?」
「す、ぐ、に、!木材は裏口にあるだろうが」
部屋を増設するとか話していたけれと、小さな子がいるなら蒸気風呂よりお風呂がいい。
「は、はい!」
文字通り『裸の王様』の初命令は風呂作りで、僕は夢中になったティムの下半身が治るようにと思ったのだった。
「セシルローズ様の隊に預けられましたが、私、ジューゴ様を探したくて抜け出しました」
そこまでの話はまたおいおいと聞くとして、茸と不思議な香辛料の味のするスープと、兎のスパイス焼きを堪能してから、あくびを繰り返すファナを風呂に入れなくてはと、ティムに尋ねる。
「もちろん風呂はある。火もいい具合だぜ」
と、キッチンの横の扉を開いた。
むわんと熱気が上がり、ファナが小さな悲鳴を上げる。
木の香りがする熱気とベンチ、そして真ん中にある石は、外からの火にくべられ真っ赤になっていた。
「蒸気風呂、サウナなんだ!」
「風呂はこれだろ?なあ、シャルル」
「そうだ。ジューゴ、ーー違うのか?」
驚くシャルルの横で、僕は服を脱ぎ始める。
「北はサウナなんだね。僕はお湯張りがいいんだけどなあ。ファナ服脱いで、バスタオル巻いておいでよ」
僕は脱衣所で全裸になって腰にタオルを巻いてファナを抱っこすると、木の熱さを確かめながら、なるべく扉に近い方に座らせ、シャルルとティムを呼んだ。
ティムはかなりきっきりと腰巻きを巻いていて、その目がちらりとファナの肢体に向けられたのを見た。
「……ああ、男の子だもんなあ」
と、自分の意思とは関係なくコントロール出来ない劣情を精一杯堪えるティムに、僕は吹き出しそうになる。
だってバスタオル二枚腰に巻いているんだから。シャルルもファナと同じように胸まで隠していた。
「テオがうるさいからな。あいつはやきもち焼きだ」
まずは焼け石の熱さにじんわりと汗をかいて、次に石に水をかけて一気にその蒸気にあたり、部屋を出るのだが、初めてで慣れていないファナが僕にもたれ掛かった。
「ジューゴ様、気持ち悪い……」
白い痩せた身体を真っ赤にして、困り眉がさらに困っているファナを抱き上げて、僕はシャルルに声を掛ける。
「シャルル、大丈夫かい?」
シャルルはファナよりも少し桃色がかった程度だが、元々肌色がファナよりも濃く、健康的だからかもしれない。
「まだ、大丈夫だ。やけに熱いな、この蒸気風呂は」
潤んだ大きな瞳で見上げて来たところを見るとシャルルも限界のようで、ファナに水を掛けた僕は脱衣場の脇で足からゆっくり水を手桶でかけてやった。
「心臓がびっくりするから少しずつね……ほら、水」
首筋に水をかけてやりながら、コップで水を飲ますと、風呂からシャルルのきつい声が聞こえて僕は立ち上がる。
「タオルをかけて、休んで」
「はい……」
ティムとシャルルを二人だけにした自分の失態に、僕は歯噛みした。
「おい、ティ……」
「気軽に触るな、この野郎!この身体はマスターにもらった大切な身体だ!」
見ればティムが手桶の水を持ち立ち上がり動揺し、
「ご、ごめ……水をかけてやろうと……」
「余計なことだ!」
と叫ばれ、手桶の水を石に掛けてしまったのだ。
ジュワ……と激しい湯飛沫がティムに跳ね返り、ティムが逃げた途端バランスを崩して、シャルルにのし掛かった。
シャルルが怒りに声を上げようとして蒸気を吸い込んでむせて、呼吸が荒くなりティムの下でカクンと気を失う。
「どいて!」
僕はティムを横に倒すとシャルルを抱き上げて、居間のソファに降ろした。
「シャルル様っ!」
慌ててファナがタオルを渡してくれ、とりあえず枕代わりに頭の下に入れ、呼吸確認をする。
浅いが呼吸はあり、意識低下は脱水かも。
「ファナ、水を」
「あります」
ファナの機転のよさには舌を巻いた僕なんだけど、最近のファナは痒いところに手が届くみたい。
「私、やります」
ファナが椅子に登りコップの水を少し含むと、シャルルの真っ赤な唇に自分の小さな唇を押し当て水を流し込む。
それを何度か繰り返すと、シャルルの顔色が落ち着き、ふと目を開き生理的な涙をぽろりと溢した。
「……ファナ」
「よかった、シャルル様」
ファナを抱き締めるシャルルを見て、僕は安堵の息を吐き出す。
「もう大丈夫だな。……ティム!」
全裸美幼女と美少年のキスシーンと抱擁を、背後から口を開けて見ていたのは目端で確認済だよ!
暴発防止の腰巻きがきつそうなのも、理解できる……が!
「ティム!」
「はいっ!」
厳しい低めの声を出し、ハイムを呼ぶ。
「領主として湯張りの風呂作りを命じるよ!これは、命令だ!すぐに取り掛かって!」
「……は?」
「す、ぐ、に、!木材は裏口にあるだろうが」
部屋を増設するとか話していたけれと、小さな子がいるなら蒸気風呂よりお風呂がいい。
「は、はい!」
文字通り『裸の王様』の初命令は風呂作りで、僕は夢中になったティムの下半身が治るようにと思ったのだった。
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