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6章『花の守り人』
52 ジューゴ、領地の端で花を見る
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ざあ…っと風穴のあるところから風がふいてきて、
「うわ」
僕の顔にバババッと何やら粒が当たる。
「大将のいるところは、風の通り道になるんだ」
僕が見上げるとランクル一台なら通れそうな木々の規則的な隙間があり、そこから冷たい風が流れてくる。
「シャルルは俺が花作りの名人と言うんだけど、実は風の通り道の終着が屋敷の前の広場ってなだけで、勝手に名も知らない花が次々咲くんだよ」
シロツメクサやレンゲソウ、コスモスやオミナエシ意外にも知っている花が多いんだけど、季節がバラバラだよ。
日本ではさつきが花に興味があって通り道の花の名前を教えてくれた。花なんか興味がなかったが、離れてみれば懐かしい。
「ところで、なんで『大将』呼びなわけ?ジューゴでいいよ」
「それは尊敬を表して」
「尊敬?」
兎の足を縛り肩にかけたティムがひらりとした長衣を靡かせて、顔を押さえた。詰襟チャイナ服の男性版みたいな服をティムはよく着ている。
「リムのあんな可愛い裸を見て、一緒に風呂だの、寝台だの……羨ましい!そして男の劣情に何も変化のない大将を『大いなる将』と呼ぶしかないのだ。あ、領主のがいいか?」
「もう……どっちでもいい」
ティムの馬鹿馬鹿しい発言には、脱力すら感じる。
蒸気風呂の一件だな。もう、参ったよ。
自分のリムを探して親元から離れた十二歳。自立していると思うけど、リムの寿命は十五年。相性がよくったって十五年後には置いていかれる。僕とファナではあと五年間しかない。
成人期を迎えるティムが、婚姻相手を求める、まあ、劣情を感じるのは、当たり前だ。
しかし成人年齢が適応されるのは、『人間』だけで、ファナたち『リム』には関係ないのだから、合意なしに犯してしまうことも可能なのに、ティムはそれをしない。
リムを『人』と見なしている証拠だが、十五年間しか生きられないリムの命は短すぎる。
同じように人の腹から生まれたもの同士で、婚姻した方がいいし、人権だってあるのになあと思ってしまう。僕自身を差し置いて。
シャルルのようにスペアボディに移し替えて、十五年間を繰り返すなんてのは、多分シャルルとテオ間にしかありえない。シャルルは特殊な例なんだ。
ファナは違った意味で特別だ。死をもって世界を歪めてしまうやもしれない力を持つ。
『ファナ』……ふと思い出したが、ファナティック……神がかる狂気……時空を捻じ曲げる核を持つリム。
時空すら凌駕する存在を手中している僕にはぴんと来るものがないのだが、とにかくファナが笑って過ごせればいいのだと、一人心地思う。
「大将、これからどうすんだ?」
茸狩りに飽きた二人が手を繋いで戻ってきて、籠をティムに押し付け、僕が教えた花冠作りにシャルルとファナチャレンジし始めた。
「うーん…。とりあえず、川の流出物を封鎖する。もしかすると落とし物があるかもしれないし」
ティムが兎と茸を抱えて、頷いて男らしく笑う。
「領主様の初仕事だな。一緒に行くぜ」
風の通り道からまた冷たい風が吹いてきて、僕はそれが故郷の風みたいだなと思っていた。この世界の風はいつも生暖かい感じがしたから。そう思うと、帰郷の念が込み上げて来た。
「あーあ、マックとスガキヤ食べたいなあ……」
「はあ?なんだ、それ」
「君には分からない学生のご馳走だよ。ラビットさんの兎と茸のスパイスシチューのが、旨いかも知れないけどね」
しかし、ファナを置いていくわけにも行かず、いや、そもそも、行き来出来るのかすらも分からず、ファナの命を危険晒すとか考え出すと唾液が込み上げてくるそれらを封印し、
「ファナ、シャルル、帰るぞ」
「はーい」
「ま、待て、む……花冠壊れた。テオにあげるつもりの……」
シャルルがぎこちなく花冠を持ち上げた。
「僕が直すよ」
「シャルル、俺が!」
「いや、君、直せないだろ」
「ぐぅっ!大将……ずっるい」
ファナとシャルルをランクルに乗せると、僕とティムは歩いて屋敷に向かった。
「うわ」
僕の顔にバババッと何やら粒が当たる。
「大将のいるところは、風の通り道になるんだ」
僕が見上げるとランクル一台なら通れそうな木々の規則的な隙間があり、そこから冷たい風が流れてくる。
「シャルルは俺が花作りの名人と言うんだけど、実は風の通り道の終着が屋敷の前の広場ってなだけで、勝手に名も知らない花が次々咲くんだよ」
シロツメクサやレンゲソウ、コスモスやオミナエシ意外にも知っている花が多いんだけど、季節がバラバラだよ。
日本ではさつきが花に興味があって通り道の花の名前を教えてくれた。花なんか興味がなかったが、離れてみれば懐かしい。
「ところで、なんで『大将』呼びなわけ?ジューゴでいいよ」
「それは尊敬を表して」
「尊敬?」
兎の足を縛り肩にかけたティムがひらりとした長衣を靡かせて、顔を押さえた。詰襟チャイナ服の男性版みたいな服をティムはよく着ている。
「リムのあんな可愛い裸を見て、一緒に風呂だの、寝台だの……羨ましい!そして男の劣情に何も変化のない大将を『大いなる将』と呼ぶしかないのだ。あ、領主のがいいか?」
「もう……どっちでもいい」
ティムの馬鹿馬鹿しい発言には、脱力すら感じる。
蒸気風呂の一件だな。もう、参ったよ。
自分のリムを探して親元から離れた十二歳。自立していると思うけど、リムの寿命は十五年。相性がよくったって十五年後には置いていかれる。僕とファナではあと五年間しかない。
成人期を迎えるティムが、婚姻相手を求める、まあ、劣情を感じるのは、当たり前だ。
しかし成人年齢が適応されるのは、『人間』だけで、ファナたち『リム』には関係ないのだから、合意なしに犯してしまうことも可能なのに、ティムはそれをしない。
リムを『人』と見なしている証拠だが、十五年間しか生きられないリムの命は短すぎる。
同じように人の腹から生まれたもの同士で、婚姻した方がいいし、人権だってあるのになあと思ってしまう。僕自身を差し置いて。
シャルルのようにスペアボディに移し替えて、十五年間を繰り返すなんてのは、多分シャルルとテオ間にしかありえない。シャルルは特殊な例なんだ。
ファナは違った意味で特別だ。死をもって世界を歪めてしまうやもしれない力を持つ。
『ファナ』……ふと思い出したが、ファナティック……神がかる狂気……時空を捻じ曲げる核を持つリム。
時空すら凌駕する存在を手中している僕にはぴんと来るものがないのだが、とにかくファナが笑って過ごせればいいのだと、一人心地思う。
「大将、これからどうすんだ?」
茸狩りに飽きた二人が手を繋いで戻ってきて、籠をティムに押し付け、僕が教えた花冠作りにシャルルとファナチャレンジし始めた。
「うーん…。とりあえず、川の流出物を封鎖する。もしかすると落とし物があるかもしれないし」
ティムが兎と茸を抱えて、頷いて男らしく笑う。
「領主様の初仕事だな。一緒に行くぜ」
風の通り道からまた冷たい風が吹いてきて、僕はそれが故郷の風みたいだなと思っていた。この世界の風はいつも生暖かい感じがしたから。そう思うと、帰郷の念が込み上げて来た。
「あーあ、マックとスガキヤ食べたいなあ……」
「はあ?なんだ、それ」
「君には分からない学生のご馳走だよ。ラビットさんの兎と茸のスパイスシチューのが、旨いかも知れないけどね」
しかし、ファナを置いていくわけにも行かず、いや、そもそも、行き来出来るのかすらも分からず、ファナの命を危険晒すとか考え出すと唾液が込み上げてくるそれらを封印し、
「ファナ、シャルル、帰るぞ」
「はーい」
「ま、待て、む……花冠壊れた。テオにあげるつもりの……」
シャルルがぎこちなく花冠を持ち上げた。
「僕が直すよ」
「シャルル、俺が!」
「いや、君、直せないだろ」
「ぐぅっ!大将……ずっるい」
ファナとシャルルをランクルに乗せると、僕とティムは歩いて屋敷に向かった。
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