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5章『銀の聖騎士』
43 閑話 ファナとランクル
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「ランクル、近頃ひとりぼっちで、ごめんなさい」
私はは日課になりつつある祖父への墓参りをしてから、瓦礫の山が取り除かれた芝生にやって来た。
このところ、ジューゴ様は忙しい。友好文書の作成だとかサインだとか、私には分からないことだらけで、私のやれることといったら、墓参りとシャルル様のお見舞いくらい。
「ジューゴ様、領主様になるの。だから、私もランクルも寂しいの我慢しなくちゃね」
ランクルが慰めるように、車体を揺する。
大聖堂扉は崩壊し地下大聖堂に続く門と芝生だけの場所で、私とランクルは取り残されていた。
「私……石の館はあまり好きじゃないの。おじいさまの暮らした木のお家が好き。次はランクルの中かしら」
テオ様の屋敷はとても綺麗で、布もたくさん使ってあって……でも少し居心地が悪い。
自由にしていられないからかも知れないが、少し疲れる気がした。私はシャルル様のお下がりのドレスシャツを借りていて、ランクルの中にエバ団長からもらった生地がそのまま乗っている。
ランクルが心配そうに室内ライトを点滅させて、ファナを気遣ってくれた。
「ありがとう。あ、私、ランクルになにかお詫びをしなきゃって……その、お、お漏らししちゃって……嫌だったでしょう?」
ランクルに背中でもたれ掛かっていたファナが驚くくらい、ランクルが車体を横に揺さぶり、急に後方ハッチバッグかバカッと開いた。
「ランクル?」
後部座席がフラットになり、ふわふわのシートに変化し、シートもちくちくしないまるで虫の糸と同じなめらかさで、私は布ブーツを脱ぐとよじ登って座る。
「一緒にいたいの?」
ランクルが縦に揺れて、私は中に寝転がった。
「寂しかったよね。じゃあ、今日はジューゴ様と一緒に寝ようね。ジューゴ様、近頃は一緒に裸で寝てくれるの。ジューゴ様の脇の下はお日様の匂いがして、すごくふわってなるのよ」
私の言葉にランクルが縦にバウンドを繰り返し、私はランクルが本当に寂しかったんだと思って笑った。
「なんで……わざわざ、ランクルの中で寝るの?」
ジューゴ様は服を脱ぐと、ランクルに転がった。
小刻みにランクルのシートが振動しているのに私は不思議さを覚えたけど、私は脇の下に潜り込んで掛布を足元から引き寄せる。
「あ、ファナ、文書にサイン」
思い出したかのようにジューゴ様はうつ伏せになり、服のポケットから紙を出して、私に見せた。
「何です?」
「友好文書のやつ。だってファナは僕のリムだろ?だから、連名」
「は、はい!」
相変わらず『楔がた文字』みたいな文字の羅列に、ジューゴ様はうんざりしたような顔をして、
「うを!」
と思わず腰を引いた。
「どうしました?」
「ランクルのセクハラマッサージ?ぞわぞわする」
「揺れてますねえ、ランクル」
ランクルの嬉々としたセクハラマッサージを私も一身に受けることにする。
「ランクル、疲れないか?」
ランクルにはいつも世話になっているし、ジューゴ様とずっと一緒だったランクルは、今は意思を持つ生きたメカニカですから、意思疎通か出来て良かったです。
「ランクルが嬉しそうです」
軽い振動を感じていた私がジューゴの横に寝そべって話すと、ジューゴ様が不快そうに呟いた。
「ランクル、ごそごそ、うるさいよ」
ランクルの揺れが、ぴたりと止まる。
程よい涼しさと柔らかさの車内、今日は満月。ジューゴ様と私とランクル。
「これ、日本では……完全に職務質問受けて捕まるよ」
どうしてですか?
さあね、そう言ってジューゴ様は目を閉じた。
私はは日課になりつつある祖父への墓参りをしてから、瓦礫の山が取り除かれた芝生にやって来た。
このところ、ジューゴ様は忙しい。友好文書の作成だとかサインだとか、私には分からないことだらけで、私のやれることといったら、墓参りとシャルル様のお見舞いくらい。
「ジューゴ様、領主様になるの。だから、私もランクルも寂しいの我慢しなくちゃね」
ランクルが慰めるように、車体を揺する。
大聖堂扉は崩壊し地下大聖堂に続く門と芝生だけの場所で、私とランクルは取り残されていた。
「私……石の館はあまり好きじゃないの。おじいさまの暮らした木のお家が好き。次はランクルの中かしら」
テオ様の屋敷はとても綺麗で、布もたくさん使ってあって……でも少し居心地が悪い。
自由にしていられないからかも知れないが、少し疲れる気がした。私はシャルル様のお下がりのドレスシャツを借りていて、ランクルの中にエバ団長からもらった生地がそのまま乗っている。
ランクルが心配そうに室内ライトを点滅させて、ファナを気遣ってくれた。
「ありがとう。あ、私、ランクルになにかお詫びをしなきゃって……その、お、お漏らししちゃって……嫌だったでしょう?」
ランクルに背中でもたれ掛かっていたファナが驚くくらい、ランクルが車体を横に揺さぶり、急に後方ハッチバッグかバカッと開いた。
「ランクル?」
後部座席がフラットになり、ふわふわのシートに変化し、シートもちくちくしないまるで虫の糸と同じなめらかさで、私は布ブーツを脱ぐとよじ登って座る。
「一緒にいたいの?」
ランクルが縦に揺れて、私は中に寝転がった。
「寂しかったよね。じゃあ、今日はジューゴ様と一緒に寝ようね。ジューゴ様、近頃は一緒に裸で寝てくれるの。ジューゴ様の脇の下はお日様の匂いがして、すごくふわってなるのよ」
私の言葉にランクルが縦にバウンドを繰り返し、私はランクルが本当に寂しかったんだと思って笑った。
「なんで……わざわざ、ランクルの中で寝るの?」
ジューゴ様は服を脱ぐと、ランクルに転がった。
小刻みにランクルのシートが振動しているのに私は不思議さを覚えたけど、私は脇の下に潜り込んで掛布を足元から引き寄せる。
「あ、ファナ、文書にサイン」
思い出したかのようにジューゴ様はうつ伏せになり、服のポケットから紙を出して、私に見せた。
「何です?」
「友好文書のやつ。だってファナは僕のリムだろ?だから、連名」
「は、はい!」
相変わらず『楔がた文字』みたいな文字の羅列に、ジューゴ様はうんざりしたような顔をして、
「うを!」
と思わず腰を引いた。
「どうしました?」
「ランクルのセクハラマッサージ?ぞわぞわする」
「揺れてますねえ、ランクル」
ランクルの嬉々としたセクハラマッサージを私も一身に受けることにする。
「ランクル、疲れないか?」
ランクルにはいつも世話になっているし、ジューゴ様とずっと一緒だったランクルは、今は意思を持つ生きたメカニカですから、意思疎通か出来て良かったです。
「ランクルが嬉しそうです」
軽い振動を感じていた私がジューゴの横に寝そべって話すと、ジューゴ様が不快そうに呟いた。
「ランクル、ごそごそ、うるさいよ」
ランクルの揺れが、ぴたりと止まる。
程よい涼しさと柔らかさの車内、今日は満月。ジューゴ様と私とランクル。
「これ、日本では……完全に職務質問受けて捕まるよ」
どうしてですか?
さあね、そう言ってジューゴ様は目を閉じた。
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