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5章『銀の聖騎士』
41 ジューゴ、メンテナンスを見る
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「クサカは一度次元回廊を超えている。偶然ではあるが、その時手に入れたリムの核が多分このファナと呼ばれるリムだ。俺はクサカを尊敬し師事していた。勿論、グランツもこの世界の科学者全てが、いや、領主の多くが、俺もシャルルもクサカから様々な思想を得た。『国』や『世界』と言う概念も理解しているつもりだ」
ファナの核は刻を超えている。ゲートウェイしたリムの核がどうなっているか分からないとテオは話してくれた。
横倒しのリムポッドには裸体のファナが横たわり液体に長い髪が揺らぎ、目を閉じているファナのリムの刻印が光っている。シャルル用の特殊メンテナンスポッドの予備が機能してくれていた。
「あまり思い詰めるなよ。お前に領地を与えたのは、クサカの頼みとして異世界人のお前の居場所にするためだ。そしてファナを守るためでもある。クサカはファナを使って自分の世界に戻ろうとしていた。そのためにガーランド王国を使い、リムの実験を繰り返していた。ファナの核を繰り返しゲートウェイさせて、次元を超える核にしたからこそ受肉した。しかも刻印を皮膚の下に埋める禁忌すら……俺も悪党だが……クサカは気狂いだな……まさか……はははは!」
突然テオが笑い出し、僕はびっくりする。
「テオが悪党だとは思えないんだけど」
「これでもか?」
テオがシャツのボタンを外す。そこには楽園のリムの刻印があった。
「テオもリムなの?」
「リムの核を胸腺に移植することで、俺は時を止めている。クサカにアドバイスを受けシャルルを作った十四の姿を保ち続けている」
そこに刺さる言葉に僕は息を呑む。どこかで読んだ小説に、人形師が作った人形に恋をする話があった。
「十五年毎にシャルルの機能を止める身体を入れ替える。それを何回も繰り返している俺は、刻を止めてシャルルに相応しい姿でいる。俺は俺のシャルルに執着した悪党の科学者だが、クサカは狂った科学者だ。ーージューゴ、ファナのメンテナンスは全面的に引き受けよう。クサカの作品の行く末をみたい」
「テオって……本当は何歳?」
「ーーさあな。俺の年を聞くなよ。さて、お前が流されたアギト川の源流は二股に別れている。多分お前は支流イア川に落ちたのだろう。クサカもそこに落ちた。クサカはそのつもりで、あの地をジューゴに任せたいと言っていたのだろうが……」
「……が?」
「そこに住み着いてしまった人がいて。てっきりクサカに言われて来たんだろうと……」
「はあ……」
多分、僕の表情が曖昧だったからだと思うが、慌ててテオが取り繕う。
「俺はてっきりそうだと思ったんだよ!いきなり来たから」
テオは僕に詰め寄り、思わず捲し立てた。
「だっていきなりだよ?何年も行方を知らせずにさ、こっちだってびっくりしたんだ!」
詰め寄り顔が近くなったテオに、僕が後退り両手でテオの体を押し返す。
「まーって、待って。要領が掴めない。つまり、僕に与えようとしていた家に誰かいるの?」
「ああ」
と力なく呟いたテオの腹がぐううと鳴り、僕は頭を掻いた。
メンテナンスポッドはまだ時間が掛かるらしく、僕とテオは食事にすることにした。シャルルさ……はまだ起きていないらしい。
朝食は既に僕の部屋に用意されていて、僕が部屋に入るとテオもまで入ってきて、メイドさんに自分の分を持ってくるように話す。
「北のパンは甘いからびっくりするなよ」
テオがメイドさんが置いたかごからパンを受け取ってパンを食べ始めると、僕も甘いパンを口に入れた。
「うわっ!砂糖すごい。ラビットさんのシチューが恋しいな」
とにかく出される食事が甘いのだ。
「ぶほっ!ーージューゴ、あのさ」
ほら、スープも甘いからテオはむせている。
「あ、テオ。リムのメンテナンスってどんなことするの?」
僕が聞くと手が止まったテオは
「うーん」
と考えてから、僕の方にスープスプーンを突きつけた。
「精神的苦痛からくる皮膚表面のケアや、メカニカとの共鳴アップデート。ファナの場合はこの辺りが中心にオートメンテナンスされる。騎士をロストしたリムにはリセットだけど、ファナは一度本人が認めたマスターに永久的に仕えるエタニティプログラムが発動しているから、リセットは出来ない。俺のシャルルと同じだ」
「エタニティプログラム?」
「ああ。銘有りだけに認められたシステムだな。銘有りはマスターとの相性で能力が桁違いに伸びる。お前は特殊なマシーナのおかげでリムを使わずにマナ制御しているみたいだが、リムに任せてやるのも大事だぞ」
そう言われて僕は曖昧に頷いた。ランクルにはリムが使う制御板がない。ランクルに聞いてみたら出してくれるかもしれないと思った。
僕はファナをただの普通の女の子にしていたんだ。でもファナはリムとしてもきちんと生きていきたいんだろう。あと五年しかない命を精一杯生きてもらいたいと思ってマスターになったのに、ファナは精一杯生きられてないんだ、僕のせいで。
「ファナ……ごめんね」
僕はリムポッドの中でメンテナンスを受けているファナにぽつりと謝った。
ファナの核は刻を超えている。ゲートウェイしたリムの核がどうなっているか分からないとテオは話してくれた。
横倒しのリムポッドには裸体のファナが横たわり液体に長い髪が揺らぎ、目を閉じているファナのリムの刻印が光っている。シャルル用の特殊メンテナンスポッドの予備が機能してくれていた。
「あまり思い詰めるなよ。お前に領地を与えたのは、クサカの頼みとして異世界人のお前の居場所にするためだ。そしてファナを守るためでもある。クサカはファナを使って自分の世界に戻ろうとしていた。そのためにガーランド王国を使い、リムの実験を繰り返していた。ファナの核を繰り返しゲートウェイさせて、次元を超える核にしたからこそ受肉した。しかも刻印を皮膚の下に埋める禁忌すら……俺も悪党だが……クサカは気狂いだな……まさか……はははは!」
突然テオが笑い出し、僕はびっくりする。
「テオが悪党だとは思えないんだけど」
「これでもか?」
テオがシャツのボタンを外す。そこには楽園のリムの刻印があった。
「テオもリムなの?」
「リムの核を胸腺に移植することで、俺は時を止めている。クサカにアドバイスを受けシャルルを作った十四の姿を保ち続けている」
そこに刺さる言葉に僕は息を呑む。どこかで読んだ小説に、人形師が作った人形に恋をする話があった。
「十五年毎にシャルルの機能を止める身体を入れ替える。それを何回も繰り返している俺は、刻を止めてシャルルに相応しい姿でいる。俺は俺のシャルルに執着した悪党の科学者だが、クサカは狂った科学者だ。ーージューゴ、ファナのメンテナンスは全面的に引き受けよう。クサカの作品の行く末をみたい」
「テオって……本当は何歳?」
「ーーさあな。俺の年を聞くなよ。さて、お前が流されたアギト川の源流は二股に別れている。多分お前は支流イア川に落ちたのだろう。クサカもそこに落ちた。クサカはそのつもりで、あの地をジューゴに任せたいと言っていたのだろうが……」
「……が?」
「そこに住み着いてしまった人がいて。てっきりクサカに言われて来たんだろうと……」
「はあ……」
多分、僕の表情が曖昧だったからだと思うが、慌ててテオが取り繕う。
「俺はてっきりそうだと思ったんだよ!いきなり来たから」
テオは僕に詰め寄り、思わず捲し立てた。
「だっていきなりだよ?何年も行方を知らせずにさ、こっちだってびっくりしたんだ!」
詰め寄り顔が近くなったテオに、僕が後退り両手でテオの体を押し返す。
「まーって、待って。要領が掴めない。つまり、僕に与えようとしていた家に誰かいるの?」
「ああ」
と力なく呟いたテオの腹がぐううと鳴り、僕は頭を掻いた。
メンテナンスポッドはまだ時間が掛かるらしく、僕とテオは食事にすることにした。シャルルさ……はまだ起きていないらしい。
朝食は既に僕の部屋に用意されていて、僕が部屋に入るとテオもまで入ってきて、メイドさんに自分の分を持ってくるように話す。
「北のパンは甘いからびっくりするなよ」
テオがメイドさんが置いたかごからパンを受け取ってパンを食べ始めると、僕も甘いパンを口に入れた。
「うわっ!砂糖すごい。ラビットさんのシチューが恋しいな」
とにかく出される食事が甘いのだ。
「ぶほっ!ーージューゴ、あのさ」
ほら、スープも甘いからテオはむせている。
「あ、テオ。リムのメンテナンスってどんなことするの?」
僕が聞くと手が止まったテオは
「うーん」
と考えてから、僕の方にスープスプーンを突きつけた。
「精神的苦痛からくる皮膚表面のケアや、メカニカとの共鳴アップデート。ファナの場合はこの辺りが中心にオートメンテナンスされる。騎士をロストしたリムにはリセットだけど、ファナは一度本人が認めたマスターに永久的に仕えるエタニティプログラムが発動しているから、リセットは出来ない。俺のシャルルと同じだ」
「エタニティプログラム?」
「ああ。銘有りだけに認められたシステムだな。銘有りはマスターとの相性で能力が桁違いに伸びる。お前は特殊なマシーナのおかげでリムを使わずにマナ制御しているみたいだが、リムに任せてやるのも大事だぞ」
そう言われて僕は曖昧に頷いた。ランクルにはリムが使う制御板がない。ランクルに聞いてみたら出してくれるかもしれないと思った。
僕はファナをただの普通の女の子にしていたんだ。でもファナはリムとしてもきちんと生きていきたいんだろう。あと五年しかない命を精一杯生きてもらいたいと思ってマスターになったのに、ファナは精一杯生きられてないんだ、僕のせいで。
「ファナ……ごめんね」
僕はリムポッドの中でメンテナンスを受けているファナにぽつりと謝った。
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