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4章『楽園にようこそ』
32 ジューゴ、楽園の風呂へ
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与えられた小さな部屋にはそこそこ広い風にお湯が張ってあったから、考え事のために湯船に沈む。
「はあああ……」
おっさんくさく、感嘆の溜め息が出た。
考えるときはぬるめの風呂がいい、小さい頃からのぼの癖だったりする。
ついつい長風呂になり、のぼせてお母さんやお祖母さんを慌てさせたこともある。
「ジューゴ様……あの……」
「ファナ、おいでよ」
扉のところで見つめていたファナに声を掛けると、泣きそうな笑みを浮かべて、コートを脱ぎ湯船に飛び込んでくる。
「わあっ…」
水しぶきならぬお湯が巻き散り、僕の顔に掛かるが、飛び込んだファナを抱き受け止めた。
「ジューゴ様、私、私」
綺麗に真っ直ぐに切り揃えた前髪からくっきりと出た瞳が涙で濡れていて、ファナが僕の胸にぐりぐりと額を擦り付ける。
「私、私はなんなのですか……」
「リムでしょ」
泣いているファナを抱き締めるだけの僕は
「君はクサカ博士の作った特別なリムだよ。確かに他のリムとは違うけれど、やっぱりリムには違いない」
「そうなんですね……」
「私……ジューゴ様のリムで……あの、ジューゴ様がいいなら……」
「ファナが考えるんだってば」
と言い放つ。
「私……色々見て知りたいのです、ジューゴ様」
「うん……だから、僕と一緒に行こうよ。まずはメンテナンスだよね。銘有りのリムを作っている博士は知っている?」
「私はあまり知りません。おじいさまのところにたまに来ていたのは、楽園のヤマ博士と北のテオ博士くらいでした」
と話してを見つめている。
「じゃあ、テオ博士のところに行ってから、リムの服を作ってくれる人のところに行こうか。なかなか気難しい人らしいけど、根気よく頼み込めば、格安で作ってくれるんだって。エバ団長が言っていたよ」
「服、嬉しいです!リムに服をくださるなんて!」
「特別な生地なんだっけ?まあ、ゆっくり旅をしようよ」
ファナが僕にくるりと向き直し見上げている。
「はい!」
部屋の横にある小さな部屋に置かれているバスタブだけど、僕としてはちゃんとした浴室で、あ、温泉もいいなあなんて思った。
運び屋の仕事をしながらファナと食べ歩きをしたり、たった五年しかない短い時間だからこそ、楽しいこと嬉しいことを二人で味わいたい。
クサカ博士はファナの命と引き換えに日本に帰ろうと思っていたみたいなんだけど、僕はそうは思わなかった。失恋の痛手は大きい。
「ファナ、髪の毛を洗おうか」
わしゃわしゃとシャボンをつけて洗ってやると、ぎゅーって目を閉じていてなんとも可愛い。
「目、しみる?」
「しみないです。でも、苦手で」
「大丈夫だよ」
髪を洗ってから海綿スポンジで身体を洗うと、タオルで身体を拭いた。そのあとに下着ーーない!
下着もなければ、服もない!
「コートもありません……」
ファナにはバスタオルをかけて、タオルを腰に回して結ぶと、ファナの長い髪をタオルドライをしていると、楽園で働く白い服を着た女の人が部屋に入ってきた。
「服は洗いに出しました。楽園は清潔を保ちます」
「あ、はい」
僕は籠に入った食べ物をもらうと頷く。
「それからこちらはエバ団長からです。リムの服の布になります。大繭蛾から取られた絹糸で織られています」
絹糸……シルク。人間とは違うリムの肌は弱いらしい。
「騎士団に所属すれば服やメンテナンスは楽になりますが、自由騎士は全て自身で揃えなくてはなりませんよ」
うん、それは知っている。でも、五年しかないファナの人生を、団体所属で縛られたくないと思う。
「分かっています。出来るだけファナには自由を与えたいのです」
「……リムは人ではありませんよ?」
僕は曖昧に笑った。
「はあああ……」
おっさんくさく、感嘆の溜め息が出た。
考えるときはぬるめの風呂がいい、小さい頃からのぼの癖だったりする。
ついつい長風呂になり、のぼせてお母さんやお祖母さんを慌てさせたこともある。
「ジューゴ様……あの……」
「ファナ、おいでよ」
扉のところで見つめていたファナに声を掛けると、泣きそうな笑みを浮かべて、コートを脱ぎ湯船に飛び込んでくる。
「わあっ…」
水しぶきならぬお湯が巻き散り、僕の顔に掛かるが、飛び込んだファナを抱き受け止めた。
「ジューゴ様、私、私」
綺麗に真っ直ぐに切り揃えた前髪からくっきりと出た瞳が涙で濡れていて、ファナが僕の胸にぐりぐりと額を擦り付ける。
「私、私はなんなのですか……」
「リムでしょ」
泣いているファナを抱き締めるだけの僕は
「君はクサカ博士の作った特別なリムだよ。確かに他のリムとは違うけれど、やっぱりリムには違いない」
「そうなんですね……」
「私……ジューゴ様のリムで……あの、ジューゴ様がいいなら……」
「ファナが考えるんだってば」
と言い放つ。
「私……色々見て知りたいのです、ジューゴ様」
「うん……だから、僕と一緒に行こうよ。まずはメンテナンスだよね。銘有りのリムを作っている博士は知っている?」
「私はあまり知りません。おじいさまのところにたまに来ていたのは、楽園のヤマ博士と北のテオ博士くらいでした」
と話してを見つめている。
「じゃあ、テオ博士のところに行ってから、リムの服を作ってくれる人のところに行こうか。なかなか気難しい人らしいけど、根気よく頼み込めば、格安で作ってくれるんだって。エバ団長が言っていたよ」
「服、嬉しいです!リムに服をくださるなんて!」
「特別な生地なんだっけ?まあ、ゆっくり旅をしようよ」
ファナが僕にくるりと向き直し見上げている。
「はい!」
部屋の横にある小さな部屋に置かれているバスタブだけど、僕としてはちゃんとした浴室で、あ、温泉もいいなあなんて思った。
運び屋の仕事をしながらファナと食べ歩きをしたり、たった五年しかない短い時間だからこそ、楽しいこと嬉しいことを二人で味わいたい。
クサカ博士はファナの命と引き換えに日本に帰ろうと思っていたみたいなんだけど、僕はそうは思わなかった。失恋の痛手は大きい。
「ファナ、髪の毛を洗おうか」
わしゃわしゃとシャボンをつけて洗ってやると、ぎゅーって目を閉じていてなんとも可愛い。
「目、しみる?」
「しみないです。でも、苦手で」
「大丈夫だよ」
髪を洗ってから海綿スポンジで身体を洗うと、タオルで身体を拭いた。そのあとに下着ーーない!
下着もなければ、服もない!
「コートもありません……」
ファナにはバスタオルをかけて、タオルを腰に回して結ぶと、ファナの長い髪をタオルドライをしていると、楽園で働く白い服を着た女の人が部屋に入ってきた。
「服は洗いに出しました。楽園は清潔を保ちます」
「あ、はい」
僕は籠に入った食べ物をもらうと頷く。
「それからこちらはエバ団長からです。リムの服の布になります。大繭蛾から取られた絹糸で織られています」
絹糸……シルク。人間とは違うリムの肌は弱いらしい。
「騎士団に所属すれば服やメンテナンスは楽になりますが、自由騎士は全て自身で揃えなくてはなりませんよ」
うん、それは知っている。でも、五年しかないファナの人生を、団体所属で縛られたくないと思う。
「分かっています。出来るだけファナには自由を与えたいのです」
「……リムは人ではありませんよ?」
僕は曖昧に笑った。
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