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4章『楽園にようこそ』
31 ジューゴ、楽園に入る
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人里から離れた森林を抜け、断崖であり海原を背後にした南の果てに楽園がある。
僕はランクルと共にぐるりと白い壁で囲まれた楽園へ足を踏み入れ、その広さに圧倒された。
白い門壁は楽園騎士団の騎士が守り、僕はブルネットのリムが口添えをしてくれ入ることが出来たのだが、門を入るとブルネットのリムと眠り続けるリムは奥へ行ってしまい、門壁の中に取り残される。
「さようなら、変態さん。あなたが私のマスターならよかったのに残念です」
そう言って、楽園騎士に付いていったリムの幸せを願わずにはいられない。
左手……断崖側に大きな白亜の漆喰塗りの建物が幾棟もあり、それ以外には広々とした草原とほどよい果樹園が日陰を作っていて、その下でリムたちが戯れていた。
「女の子ばっかりだ……」
女の子リムたちは全裸で駆け回り、女の子同士で抱き締め合い、時には口づけすらして自由を謳歌しているように見える。
目のやり場がないったらないよ。
「本当に動いているんだな、オートマシーナは」
僕はランクルから降りると近寄ってきた若い博士の目を細める仕草に、ゆっくりランクルからファナを抱き上げて降ろした。
「あなたは?」
小さな上背の科学者のような白衣を羽織った若い博士は僕を見上げると、ランクルを一瞥し僕の言葉には耳を貸さず、
「私は楽園の博士。ついてきなさい」
と白亜の建物の中へ促してくる。
「ランクル待っていて」
楽園内だから多分大丈夫だろう。
老人の背を眺めていた僕はファナと手を繋ぎとりあえず歩いてついて行き、一番奥のドーム型の明るい部屋に入り唖然とした。
ファナが悲鳴を噛み殺し、ジューゴにしがみつくのがわかり、抱っこをしなおした。
楽園……まさに、リムの工場だった。
縦型の生育ポッドの中には核の状態から赤ちゃん、そして横型の育成ポッドに移され、リムとしての知識を睡眠学習させるらしい。縦型メンテナンスポッドがいくつか空いていて、ブルネットのリムと金髪の小さなリムが入っているのも確認した。
「メンテナンスポッドに入るにはまず調整が必要だ」
老博士がファナのコートを脱ぐように指示して、普段は出てこないリムの刻印の位置にポッドから伸びる聴診器のような物を当てた。
「楽園のリムと違うとエラーを起こすーーほら」
アラームが鳴って聴診器が離れる。
「楽園の核とは核が違うんだよ。君は銘有りだね。君、博士の名前は?」
ファナが
「おじいさまはクサカ博士です」
と言うと、若い博士が慌てて僕らを白亜のドームの端で円卓に座り優雅にお茶タイムを楽しんでいた老人へ案内し、一人が僕に手招きをし話し掛けてきた。
「君が受け取ったのなら、クサカ博士に会ったんだね。クサカ博士は元気だったかい?」
老人に尋ねられて僕は困った顔をして、白髪の老人の前に立ち尽くす。
「いえ、その、半年前に……」
僕の言葉にファナがびくと身体を縮めて、その最後を肯定しているようだった。
「そうかクサカは死に場所を見つけたか」
僕を出迎えに来た髭をたくわえた老人が呟くと、
「ヤマ博士、やめないか」
と別の老人がいさめる。
どうにも話が見えずらちが明かないのだが、
「すまないね。クサカ博士と一緒に働いていた老輩だよ」
と囁いた。
「クサカ博士と?」
「そうだ、クサカ博士はリムの力を引き出し、『特殊な胚』を作り出した天才だ。君は?」
妙齢の白衣を着た女性がきびきびとした仕草で僕とファナ用にお茶を出しながら僕に話してくる。
「ジューゴです……貴女は?」
「ああ失礼、楽園騎士団長のエバグリーンだ。通り名はエバだ、そう呼んでくれないか。グランディア大陸では女性の名前が長い。ジューゴ君か、不思議な名だね。君がカミュから報告が合った異世界人のオートマシーナの騎士か。クサカ博士のことは?」
「異世界の科学者だとか……」
「クサカ博士が残した遺産は大きい。リムは進化して我々に新しい力を与え、オートメカニカすら多岐に渡る能力を得た」
そう言ってからエバ団長がにっこりと笑い、ファナの頭を優しく撫でた。
「ジューゴ君と契約したんだね。名前は?」
「ファナです。エバグリーン様」
「契約って……ぼ、僕は……」
僕とファナに椅子に掛けるように手を伸ばし、椅子が一つしかないため僕はファナを抱いたまま座る。それを見てエバ団長が話した。
「改めて、紹介しよう。楽園管理者のグランツのヤマ博士と、ノートン博士。楽園は、大量生産、低コストをモットーにしている、まさに騎士のための生育拠点だ。リムは人ではなく物であり消耗品だ。だから椅子は一つなのだが、君には違うらしいな」
ヤマ博士老人がエバ団長の言葉に頷き、
「ジューゴ君、君が手にしたのはリムはクサカ博士の作り出したリムのプロトタイプ。リムを越えた器なのだよ」
と皺だらけの顔を晴々しくしかし苦々しく歪めた。
「君が契約してくれたのならそれでいい。東の王子に渡さぬように」
「け、契約って、あの、あれ、ですよね?ぼ、僕、それはーー」
僕のしどろもどろにエバ団長が吹き出しながら僕に告げた。
「君の体液をリムは摂取したのだろう?核はどこからでも取り込める。腹に小さな核は存在している。直接的に腹に取り込ませる方が早いが、間接的に取り込ませる方法もある」
間接……的?
ファナが真っ赤になって俯く。
あ、キ、キス!だ。ファナからしてきたやつだ。
「核は大きい方が良い繋がりになるがな。異世界の騎士よ。ーーこれをこのリムを絶対に東に渡すな」
エバ団長の言葉が重い感じがした。
僕はランクルと共にぐるりと白い壁で囲まれた楽園へ足を踏み入れ、その広さに圧倒された。
白い門壁は楽園騎士団の騎士が守り、僕はブルネットのリムが口添えをしてくれ入ることが出来たのだが、門を入るとブルネットのリムと眠り続けるリムは奥へ行ってしまい、門壁の中に取り残される。
「さようなら、変態さん。あなたが私のマスターならよかったのに残念です」
そう言って、楽園騎士に付いていったリムの幸せを願わずにはいられない。
左手……断崖側に大きな白亜の漆喰塗りの建物が幾棟もあり、それ以外には広々とした草原とほどよい果樹園が日陰を作っていて、その下でリムたちが戯れていた。
「女の子ばっかりだ……」
女の子リムたちは全裸で駆け回り、女の子同士で抱き締め合い、時には口づけすらして自由を謳歌しているように見える。
目のやり場がないったらないよ。
「本当に動いているんだな、オートマシーナは」
僕はランクルから降りると近寄ってきた若い博士の目を細める仕草に、ゆっくりランクルからファナを抱き上げて降ろした。
「あなたは?」
小さな上背の科学者のような白衣を羽織った若い博士は僕を見上げると、ランクルを一瞥し僕の言葉には耳を貸さず、
「私は楽園の博士。ついてきなさい」
と白亜の建物の中へ促してくる。
「ランクル待っていて」
楽園内だから多分大丈夫だろう。
老人の背を眺めていた僕はファナと手を繋ぎとりあえず歩いてついて行き、一番奥のドーム型の明るい部屋に入り唖然とした。
ファナが悲鳴を噛み殺し、ジューゴにしがみつくのがわかり、抱っこをしなおした。
楽園……まさに、リムの工場だった。
縦型の生育ポッドの中には核の状態から赤ちゃん、そして横型の育成ポッドに移され、リムとしての知識を睡眠学習させるらしい。縦型メンテナンスポッドがいくつか空いていて、ブルネットのリムと金髪の小さなリムが入っているのも確認した。
「メンテナンスポッドに入るにはまず調整が必要だ」
老博士がファナのコートを脱ぐように指示して、普段は出てこないリムの刻印の位置にポッドから伸びる聴診器のような物を当てた。
「楽園のリムと違うとエラーを起こすーーほら」
アラームが鳴って聴診器が離れる。
「楽園の核とは核が違うんだよ。君は銘有りだね。君、博士の名前は?」
ファナが
「おじいさまはクサカ博士です」
と言うと、若い博士が慌てて僕らを白亜のドームの端で円卓に座り優雅にお茶タイムを楽しんでいた老人へ案内し、一人が僕に手招きをし話し掛けてきた。
「君が受け取ったのなら、クサカ博士に会ったんだね。クサカ博士は元気だったかい?」
老人に尋ねられて僕は困った顔をして、白髪の老人の前に立ち尽くす。
「いえ、その、半年前に……」
僕の言葉にファナがびくと身体を縮めて、その最後を肯定しているようだった。
「そうかクサカは死に場所を見つけたか」
僕を出迎えに来た髭をたくわえた老人が呟くと、
「ヤマ博士、やめないか」
と別の老人がいさめる。
どうにも話が見えずらちが明かないのだが、
「すまないね。クサカ博士と一緒に働いていた老輩だよ」
と囁いた。
「クサカ博士と?」
「そうだ、クサカ博士はリムの力を引き出し、『特殊な胚』を作り出した天才だ。君は?」
妙齢の白衣を着た女性がきびきびとした仕草で僕とファナ用にお茶を出しながら僕に話してくる。
「ジューゴです……貴女は?」
「ああ失礼、楽園騎士団長のエバグリーンだ。通り名はエバだ、そう呼んでくれないか。グランディア大陸では女性の名前が長い。ジューゴ君か、不思議な名だね。君がカミュから報告が合った異世界人のオートマシーナの騎士か。クサカ博士のことは?」
「異世界の科学者だとか……」
「クサカ博士が残した遺産は大きい。リムは進化して我々に新しい力を与え、オートメカニカすら多岐に渡る能力を得た」
そう言ってからエバ団長がにっこりと笑い、ファナの頭を優しく撫でた。
「ジューゴ君と契約したんだね。名前は?」
「ファナです。エバグリーン様」
「契約って……ぼ、僕は……」
僕とファナに椅子に掛けるように手を伸ばし、椅子が一つしかないため僕はファナを抱いたまま座る。それを見てエバ団長が話した。
「改めて、紹介しよう。楽園管理者のグランツのヤマ博士と、ノートン博士。楽園は、大量生産、低コストをモットーにしている、まさに騎士のための生育拠点だ。リムは人ではなく物であり消耗品だ。だから椅子は一つなのだが、君には違うらしいな」
ヤマ博士老人がエバ団長の言葉に頷き、
「ジューゴ君、君が手にしたのはリムはクサカ博士の作り出したリムのプロトタイプ。リムを越えた器なのだよ」
と皺だらけの顔を晴々しくしかし苦々しく歪めた。
「君が契約してくれたのならそれでいい。東の王子に渡さぬように」
「け、契約って、あの、あれ、ですよね?ぼ、僕、それはーー」
僕のしどろもどろにエバ団長が吹き出しながら僕に告げた。
「君の体液をリムは摂取したのだろう?核はどこからでも取り込める。腹に小さな核は存在している。直接的に腹に取り込ませる方が早いが、間接的に取り込ませる方法もある」
間接……的?
ファナが真っ赤になって俯く。
あ、キ、キス!だ。ファナからしてきたやつだ。
「核は大きい方が良い繋がりになるがな。異世界の騎士よ。ーーこれをこのリムを絶対に東に渡すな」
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