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4章『楽園にようこそ』
30 ジューゴ、ファナに告げる
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鉄の翼を縮めたランクルが川の横に降り立つと、僕はまだ眠ったままのリムの少女を抱き上げると、柔らかな草むらに横たえ、ファナとランクルは川の中へ入る。
ブルネットのリムが眠ったままのリムの横に座り、僕たちたちを見つめついて居心地が悪かったが、僕は服を脱ぐと全裸のまま川で服を洗いタオルで身体を拭った。
タオルは割と高いものらしくて、やっぱり剣道で頭に巻いた綿の手拭いが多かったが、カミュ団長が数枚持たせてくれたのだ。
緑の草に腰程度の川、美しい景色の向こうに白亜の建物が見える。
「ファナ、大丈夫?」
ファナはランクルの運転席を必死に川の水で流していて、僕は岸の焚き火に近い木に服を干し、ブルネットのリムの横に座った。
「ええっと、大丈夫?」
「私は平気です。この子はまだ寝かせてあげてください。可哀想な子です。……男の方は泣いたり怯えたりするリムを好むから」
一身に欲望を受けていたことを示唆するその言葉に、僕が言葉を発することが出来ないでいると、
「大丈夫、リムは人ではありません。感情を制御されていますし、今からブラッシュアップされ、騎士様の核を取り除かれます。嘆かれることはありません」
と、小さく呟く。
「リムだって痛かったりしたら嫌よね。辛かったね」
「え……?」
驚くリムを目の前にして、ランクルを一生懸命拭いているファナを見ながら、僕はなんとなく話していた。きっとカミュ団長にはまた『リムを人のように扱うな』と言われそうだけれど、僕はこの世界の人じゃないし、目の前には傷ついた女の子がいるんだ。
「ただ胸の刻印があるかないかの違いだけだよ。オートメカニカの生体コントローラーだとしても、君たちも僕も同じ世界の空気を吸っている」
強い能力を持ち短命の呪縛から逃れられないけれど、だから笑ってほしい。
「初めて聞きました、そんな言葉。丸出しの変態さんの発言とは思えません」
「うっ!」
「……でも、ありがとうございます」
それっきり話さなくなった。
たしかに僕の出で立ちといったら、タオルで身体を拭いて、ファナを拭くために確保した全裸のまま、草むらにあぐらをかいているわけで。
ブルネットのリムが眠り続けているリムを抱きしめて、ほ……とため息をついたのを見ていると、ファナが走ってくる。
「ジューゴさ、ええと、マ、マスター、ランクル綺麗になりました」
「マスターかぁ。ファナ身体を拭いて。あとね、前髪、少し長いよ」
ファナをタオルで包むと、僕は手元にあったラビットバスケットからハサミを出し、困った顔をしているファナを前にして、前髪にハサミを当てた。
「全部見えてしまいます……」
多分、顔を隠すために伸ばしたのだろう前髪は鼻に掛かるほど伸びていて、僕はファナの処世術だったのだと思うのだが、何よりも目に悪い。
ファナが眉を寄せているが、前髪を左手で摘まみ刃を真横にいれていった。
「あっ!」
ぱっつん切りしてしまった額の半分を出したファナは子どもらしく可愛く、困り眉がチャームポイントに、今までの大人びた感じよりやや幼さを感じさせた。
「ごめんね、ファナ。眉上になっちゃった。でも、綺麗に切れたよ。それにさ、この方がファナの顔がよく見える。綺麗な空色の瞳だね。僕、『お嫁さん』の顔はちゃんと見たいな」
とハサミをしまいながら、僕はファナに言った。
「お嫁さん……ですか?」
僕の前にちょこんとアヒル座りをしたファナが、僕の言葉に首を傾げた。
「ファナはいつか『お嫁さん』になりたいんだよね、僕の。だから、『お婿さん』としては、ファナの可愛い顔をしっかり見たいんだけど?」
「ジュー……マスター……記憶が……」
「マスターって呼ぶのもなしなあ。僕は名前で呼んでほしい。騎士の核……は、ちょっとね。だからまだ、『婚約者』ってことで。クサカ博士の屋敷にもいかないとね……ファナ?」
僕が一人心地呟いていると、ファナがぼろぼろと涙を流して唇を押さえている。
「ファナと契約した時のこと、思い出したんだよ。今までごめんね」
真っ赤になり震えて泣き声も上げられず動けないでいるファナを膝に抱き上げ、ぽんぽんと頭を撫でていると、
「リムと婚姻なんて、やっぱり変態さんですね」
とファナより少し年上らしいブルネットのリムが、僕を軽蔑するように見てきた。
「ええと、色々ありまして」
「マスターはそんな風に私たちを人扱いしてはならないのです」
そんな言葉に僕は
「そうなんだ、でも僕はそうしたいから、ごめんね」
と謝り、
「謝ってもらう必要はありません、あのリムは喜んでいますから」
とリムは言葉を切った。
ファナは感情が豊かだ。クサカ博士の『試作品』故かもしれない。リムは感情制限をされているそうだけど、ファナはどうにも人間っぽい。
まだ涙が止まらないファナの頭からコートをずぼっ……と被せ、僕はとりあえず乾いたパンツを穿いて、まだ湿っているズボンに足を通す。
「夕方になるね。少し急ごう」
僕はみんなをランクルに乗せた。
ブルネットのリムが眠ったままのリムの横に座り、僕たちたちを見つめついて居心地が悪かったが、僕は服を脱ぐと全裸のまま川で服を洗いタオルで身体を拭った。
タオルは割と高いものらしくて、やっぱり剣道で頭に巻いた綿の手拭いが多かったが、カミュ団長が数枚持たせてくれたのだ。
緑の草に腰程度の川、美しい景色の向こうに白亜の建物が見える。
「ファナ、大丈夫?」
ファナはランクルの運転席を必死に川の水で流していて、僕は岸の焚き火に近い木に服を干し、ブルネットのリムの横に座った。
「ええっと、大丈夫?」
「私は平気です。この子はまだ寝かせてあげてください。可哀想な子です。……男の方は泣いたり怯えたりするリムを好むから」
一身に欲望を受けていたことを示唆するその言葉に、僕が言葉を発することが出来ないでいると、
「大丈夫、リムは人ではありません。感情を制御されていますし、今からブラッシュアップされ、騎士様の核を取り除かれます。嘆かれることはありません」
と、小さく呟く。
「リムだって痛かったりしたら嫌よね。辛かったね」
「え……?」
驚くリムを目の前にして、ランクルを一生懸命拭いているファナを見ながら、僕はなんとなく話していた。きっとカミュ団長にはまた『リムを人のように扱うな』と言われそうだけれど、僕はこの世界の人じゃないし、目の前には傷ついた女の子がいるんだ。
「ただ胸の刻印があるかないかの違いだけだよ。オートメカニカの生体コントローラーだとしても、君たちも僕も同じ世界の空気を吸っている」
強い能力を持ち短命の呪縛から逃れられないけれど、だから笑ってほしい。
「初めて聞きました、そんな言葉。丸出しの変態さんの発言とは思えません」
「うっ!」
「……でも、ありがとうございます」
それっきり話さなくなった。
たしかに僕の出で立ちといったら、タオルで身体を拭いて、ファナを拭くために確保した全裸のまま、草むらにあぐらをかいているわけで。
ブルネットのリムが眠り続けているリムを抱きしめて、ほ……とため息をついたのを見ていると、ファナが走ってくる。
「ジューゴさ、ええと、マ、マスター、ランクル綺麗になりました」
「マスターかぁ。ファナ身体を拭いて。あとね、前髪、少し長いよ」
ファナをタオルで包むと、僕は手元にあったラビットバスケットからハサミを出し、困った顔をしているファナを前にして、前髪にハサミを当てた。
「全部見えてしまいます……」
多分、顔を隠すために伸ばしたのだろう前髪は鼻に掛かるほど伸びていて、僕はファナの処世術だったのだと思うのだが、何よりも目に悪い。
ファナが眉を寄せているが、前髪を左手で摘まみ刃を真横にいれていった。
「あっ!」
ぱっつん切りしてしまった額の半分を出したファナは子どもらしく可愛く、困り眉がチャームポイントに、今までの大人びた感じよりやや幼さを感じさせた。
「ごめんね、ファナ。眉上になっちゃった。でも、綺麗に切れたよ。それにさ、この方がファナの顔がよく見える。綺麗な空色の瞳だね。僕、『お嫁さん』の顔はちゃんと見たいな」
とハサミをしまいながら、僕はファナに言った。
「お嫁さん……ですか?」
僕の前にちょこんとアヒル座りをしたファナが、僕の言葉に首を傾げた。
「ファナはいつか『お嫁さん』になりたいんだよね、僕の。だから、『お婿さん』としては、ファナの可愛い顔をしっかり見たいんだけど?」
「ジュー……マスター……記憶が……」
「マスターって呼ぶのもなしなあ。僕は名前で呼んでほしい。騎士の核……は、ちょっとね。だからまだ、『婚約者』ってことで。クサカ博士の屋敷にもいかないとね……ファナ?」
僕が一人心地呟いていると、ファナがぼろぼろと涙を流して唇を押さえている。
「ファナと契約した時のこと、思い出したんだよ。今までごめんね」
真っ赤になり震えて泣き声も上げられず動けないでいるファナを膝に抱き上げ、ぽんぽんと頭を撫でていると、
「リムと婚姻なんて、やっぱり変態さんですね」
とファナより少し年上らしいブルネットのリムが、僕を軽蔑するように見てきた。
「ええと、色々ありまして」
「マスターはそんな風に私たちを人扱いしてはならないのです」
そんな言葉に僕は
「そうなんだ、でも僕はそうしたいから、ごめんね」
と謝り、
「謝ってもらう必要はありません、あのリムは喜んでいますから」
とリムは言葉を切った。
ファナは感情が豊かだ。クサカ博士の『試作品』故かもしれない。リムは感情制限をされているそうだけど、ファナはどうにも人間っぽい。
まだ涙が止まらないファナの頭からコートをずぼっ……と被せ、僕はとりあえず乾いたパンツを穿いて、まだ湿っているズボンに足を通す。
「夕方になるね。少し急ごう」
僕はみんなをランクルに乗せた。
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