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3章 『刻を越えて』
23 ジューゴ、博士の気持ちを知る
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明け方まで話し込んでいたクサカ博士と僕に気づいた女の子が起きた時に、ついうっかり胸を触ってしまい、わたわたと慌ててた僕に、真っ赤になった女の子は胸の特別な形のリムを輝かせた。
騎士を認めた人工生命体の胸元の核であるリムが輝けばそれは主として認めた証らしい。
僕は騎士でもなんでもない失恋した高校生なのに、時空を司るクサカ博士の究極の銘有りリムである『作品』には、何かあるのではないかとクサカ博士は笑う。
「君は騎士ではないが、これは君を主人だと認めている。これに名をやり、君の核を子宮に捧げてみてはどうかね」
騎士はリムを抱く……つまり性行為をして精子とは別に騎士の核を子宮型の器に埋め込むのだとか。
「クサカ博士は何故楽園を離れたのですか?」
「良い核を手に入れたからだよ。核は一つの核を複製して作られているが、劣化もあれば優勢もある。私は故郷に帰りたくてあれを作ったが、あれは私には反応しない。君には反応しているのだから、異世界騎士になってあれを娶り、我らのために無限次元回廊を開かせるのだよ」
「あの子を殺すつもりですか?」
「何も殺すとは言っていない。人工生命体の寿命は十五年だ。あの子はもう十年生きている。あと五年だ」
僕は女の子が朝食の支度をしている合間に、クサカ博士に地下の研究室に連れていかれた。
「楽園のリムは速成されるために三ヶ月程度で作られた廉価版だ。ストレスに弱く使い捨てに近いが、安く手に入りうまく使えば十五年も持つ。銘有りリムは博士の個性が出る。幼体から成体まで最低一年はかかるのだ」
人工養育ポッドと話してくれた容器はたくさんあり、その一つはかなり小さかった。
「核を定着させるためにあの子は赤子の時からポットから出して私が育て上げた。私の協力者も含めてな。あの子はプロトタイプといえよう。私の狂気の作品ファナティック・リム、そうだファナと名付けて、主となり君の核を埋めてくれ」
僕は全てを思い出した。
目の前のファナが僕を知っていたのも頷ける、半年前に会っていたからだ。
僕と何かのきっかけで別れてしまい、僕を探してボロボロになりながら、フーパの屋敷でランクルに会ったのだろう。
ランクルはファナを覚えていたから、扉を開けてやったんだ。
無邪気に川縁で水浴びをするランクルとファナを、目を細めて見ていた。
ランクルを浅瀬で洗っているファナが、裸できゃあきゃあ声を上げながらランクルに水をかけていて、どうやらランクルが後輪を器用に回しファナに水をかけているようだ。
少し肌寒いくらいの空気の中で、川の水を髪にたっぷり含ませたファナが、僕のところにかけてきて、ファナが僕の手に掌サイズのL 字の塊を一つ持ってくる。
「ジューゴ様を引き上げたところから見つけました。その時は分からなくて…でも、ランクルから落ちたから……あの……ずっと探していたのです」
僕の手の中にあるのは、剛志との思い出が詰まったものだ。
「ありがとう、大事なものなんだよ」
「よかったです」
そのあと裸のままのファナがもじもじと腕を後ろで組み、それから落ち着きなく手を前で握りしめる。
「あの……あのっ……ジューゴ様!私は、ジューゴ様に名前をいただきたいです。私、ジューゴ様に精一杯お仕えします。だから……私、私の騎士様でお婿さんになってくださいっ!私、リムですけど、ジューゴ様のお嫁さんにしてくださいっ!」
胸のリムを光らせて真っ赤になったファナが言い放つと、ジューゴの返事も聞かずにランクルの方に走って行ってしまう。
「ーークサカ博士……」
僕は機械仕掛けの人形のようにギギギ……とクサカ博士の方に振り向いた。
「寝物語で童話を話して聞かせてやっていたからかな。こちらには獣人もいるし、妖精と人との結婚など、グリムやアンデルセン、日本の民話なんかでは多かろう?私は楽園から離れてこの東の地で研究をしながら隅にひっそりと住み始めた。夢を叶えたいと思うのは、科学者の義務だよ」
無邪気に遊ぶファナを見ていて、僕は少し笑ってしまう。
「あの子は美しいだろう。あとたった五年だ。十五歳まで幸せに生きてほしいのだ。私の願いはその後でいいのだよ」
僕が感じていたリムの扱いと、リムの苦しみ。リムの力は僕ら平凡の人間以上なのに、人権はない。
「あれに特殊な無限次元回廊を強いた分、これからの五年間は良い主を得てほしい」
僕はクサカ博士を見つめた。クサカ博士の深くシワを刻んだ顔は、ファナを見つめ、ファナがはしゃく姿に目を細める。
「あの子はリムとしての本能は持ち合わせているが、孫のように育ててきた」
リムにしてくださいと懇願するファナを何度も見た。今の表情豊かで笑顔のファナは、半年後にはいない。儚く笑い少し悲しげだ。
ここから何かあるんだ。屋敷で出会う前のここから。
なんとかなるなら、なんとかしたい。
「クサカ博士……」
「会ったばかりのじじいのたわごとだよ。十八の若者には酷な話だな」
騎士を認めた人工生命体の胸元の核であるリムが輝けばそれは主として認めた証らしい。
僕は騎士でもなんでもない失恋した高校生なのに、時空を司るクサカ博士の究極の銘有りリムである『作品』には、何かあるのではないかとクサカ博士は笑う。
「君は騎士ではないが、これは君を主人だと認めている。これに名をやり、君の核を子宮に捧げてみてはどうかね」
騎士はリムを抱く……つまり性行為をして精子とは別に騎士の核を子宮型の器に埋め込むのだとか。
「クサカ博士は何故楽園を離れたのですか?」
「良い核を手に入れたからだよ。核は一つの核を複製して作られているが、劣化もあれば優勢もある。私は故郷に帰りたくてあれを作ったが、あれは私には反応しない。君には反応しているのだから、異世界騎士になってあれを娶り、我らのために無限次元回廊を開かせるのだよ」
「あの子を殺すつもりですか?」
「何も殺すとは言っていない。人工生命体の寿命は十五年だ。あの子はもう十年生きている。あと五年だ」
僕は女の子が朝食の支度をしている合間に、クサカ博士に地下の研究室に連れていかれた。
「楽園のリムは速成されるために三ヶ月程度で作られた廉価版だ。ストレスに弱く使い捨てに近いが、安く手に入りうまく使えば十五年も持つ。銘有りリムは博士の個性が出る。幼体から成体まで最低一年はかかるのだ」
人工養育ポッドと話してくれた容器はたくさんあり、その一つはかなり小さかった。
「核を定着させるためにあの子は赤子の時からポットから出して私が育て上げた。私の協力者も含めてな。あの子はプロトタイプといえよう。私の狂気の作品ファナティック・リム、そうだファナと名付けて、主となり君の核を埋めてくれ」
僕は全てを思い出した。
目の前のファナが僕を知っていたのも頷ける、半年前に会っていたからだ。
僕と何かのきっかけで別れてしまい、僕を探してボロボロになりながら、フーパの屋敷でランクルに会ったのだろう。
ランクルはファナを覚えていたから、扉を開けてやったんだ。
無邪気に川縁で水浴びをするランクルとファナを、目を細めて見ていた。
ランクルを浅瀬で洗っているファナが、裸できゃあきゃあ声を上げながらランクルに水をかけていて、どうやらランクルが後輪を器用に回しファナに水をかけているようだ。
少し肌寒いくらいの空気の中で、川の水を髪にたっぷり含ませたファナが、僕のところにかけてきて、ファナが僕の手に掌サイズのL 字の塊を一つ持ってくる。
「ジューゴ様を引き上げたところから見つけました。その時は分からなくて…でも、ランクルから落ちたから……あの……ずっと探していたのです」
僕の手の中にあるのは、剛志との思い出が詰まったものだ。
「ありがとう、大事なものなんだよ」
「よかったです」
そのあと裸のままのファナがもじもじと腕を後ろで組み、それから落ち着きなく手を前で握りしめる。
「あの……あのっ……ジューゴ様!私は、ジューゴ様に名前をいただきたいです。私、ジューゴ様に精一杯お仕えします。だから……私、私の騎士様でお婿さんになってくださいっ!私、リムですけど、ジューゴ様のお嫁さんにしてくださいっ!」
胸のリムを光らせて真っ赤になったファナが言い放つと、ジューゴの返事も聞かずにランクルの方に走って行ってしまう。
「ーークサカ博士……」
僕は機械仕掛けの人形のようにギギギ……とクサカ博士の方に振り向いた。
「寝物語で童話を話して聞かせてやっていたからかな。こちらには獣人もいるし、妖精と人との結婚など、グリムやアンデルセン、日本の民話なんかでは多かろう?私は楽園から離れてこの東の地で研究をしながら隅にひっそりと住み始めた。夢を叶えたいと思うのは、科学者の義務だよ」
無邪気に遊ぶファナを見ていて、僕は少し笑ってしまう。
「あの子は美しいだろう。あとたった五年だ。十五歳まで幸せに生きてほしいのだ。私の願いはその後でいいのだよ」
僕が感じていたリムの扱いと、リムの苦しみ。リムの力は僕ら平凡の人間以上なのに、人権はない。
「あれに特殊な無限次元回廊を強いた分、これからの五年間は良い主を得てほしい」
僕はクサカ博士を見つめた。クサカ博士の深くシワを刻んだ顔は、ファナを見つめ、ファナがはしゃく姿に目を細める。
「あの子はリムとしての本能は持ち合わせているが、孫のように育ててきた」
リムにしてくださいと懇願するファナを何度も見た。今の表情豊かで笑顔のファナは、半年後にはいない。儚く笑い少し悲しげだ。
ここから何かあるんだ。屋敷で出会う前のここから。
なんとかなるなら、なんとかしたい。
「クサカ博士……」
「会ったばかりのじじいのたわごとだよ。十八の若者には酷な話だな」
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