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2章『楽園へ行こう』
17 ジューゴ、処置をする
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ランクルを急がせて以前手紙を届けたことのある楽園騎士団に飛び込むと、僕の目の前にはマクファーレンを抱き抱え血に彩られた背中の傷を布で必死に押さえるラーンスがいて、他にも傷だらけの騎士が床に踞り呻いていた。
「ジューゴ、血が……血が……止まらないよぉ」
顔を斬られたのか、ラーンスの左頬にもいくつか細かい傷があり、僕はまずラーンスの傷を新しい布でぬぐう。
「村の医者は?」
「真っ先に斬り殺された。俺たちはここで休憩してから、村を出てすぐに奇襲にあったんだ……っ!騎士もあとから駆けつけてくれたけど、あいつら……ここを奇襲してから俺たちをっ……」
ラーンスの顔の傷は出血よりは浅く、傷も残らないだろうと僕は思う。しかしマクファーレンは……。
「マクファーレンよりも傷の酷い人はいますか?」
誰もが首を横に振る。支部は四部隊十二人で、マクファーレンの次に酷いのは、多分骨折と言う具合だった。
「多分、大丈夫」
この感覚…緊急時に沸き上がる高揚感と冷静さ。ああ、僕は看護科の高校を卒業していたからだよ。頭が一気に回り、日頃のなんだかぼんやりする気持ちをぶっ飛ばし脳内に溢れる記憶。今、何をすべきか、身体が覚えている。
「ラーンス、動けるかい?ファナを連れてランクルのとこへ行ってくれるかな?ファナ、ラビットから持たされた救急バスケットを持ってきてくれない」
「はいっ!」
「ご、護衛だね、分かった」
ラーンスとファナが走っていくと、動けそうな騎士にタオルや布をありったけ持って来てもらう。
「ジューゴ様、バスケットです!」
「ありがとな。ファナ、倒れてる人の傷に水をかけて綺麗にしてから押さえて包帯を巻いて」
「はい!ジューゴ様」
「うん、ファナ、頑張れ」
ファナがパタパタと部屋を駆け巡るのを見送ると、ラーンスの手元を離させマクファーレンの上着を切り裂いて脱がせた。
豊かな形のよい胸がこぼれて、ふわりと血の匂いがする。
血のついた胸回りをみるとひどい傷があり、引き攣れた古いもので僕は目を閉じた。
「背中だけだね、うつ伏にするからテーブルをあけて」
テーブルにタオルを敷きマクファーレンをうつ伏せに横たえると、バスケットに入っている消毒にも使える強い酒を傷に吹き掛ける。
「うっ……」
意識が薄れているが傷に染みたのか、マクファーレンがひく…と身じろいだのを見て、僕はマクファーレンの髪を掴み下に避けマクファーレンの頬を軽く叩いた。
「聞こえるかい、マクファーレン。今から傷を縫うからね。痛いが、傷は早く塞がるから。ラーンス、マクファーレンの口に布を噛ませて痛がるからね」
「ジューゴ、何すんだよ……」
「傷に布を貼るよりも、この傷なら縫合した方がいいと思うんだよね。実際には医師がやるんだけど、見学したことがあるからやってみる。それから、動くと危ないからマクファーレンの肩を押さえて」
僕の真剣な捲し立てに押されて、うつ伏せのマクファーレンの口の中にロール状のタオルを噛ませ、僕の指示通りマクファーレンの両肩を押さえつけ、こちらの手元を見てラーンスは息を呑む。
ランプの火で針先を炙ると、糸を通した針でマクファーレンの傷の指一本向こうに針を刺した。
「ぐっ……ぅぅっ……」
傷を合わせるために糸を通して締め上げ、傷を塞いで行き、血を拭きながら縫い終わると、かごに入っていた油紙を貼り付けて布を巻く。
これで終わりだ。
「血が流れ過ぎたな……。マクファーレン、大丈夫?」
縫い終わるとファナの方もあらかた傷の洗浄が終わり、骨折しているという隊長の腕をジューゴが引っ張り骨接ぐと、マクファーレンの口からタオルが外され、
「大丈夫………ラーンス……は?」
としゃがれた声で話す。
「顔の傷は大丈夫だよ、傷も浅いからね。マクファーレンの傷は跡残る。一体……何があった?」
マクファーレンがふ……と息を吐いた。
「あたしたちは……自由騎士だと信じていた奴らに……襲われたんだ。その中のボス・ガゼルの本性を……知らなかった……」
「ジューゴ、血が……血が……止まらないよぉ」
顔を斬られたのか、ラーンスの左頬にもいくつか細かい傷があり、僕はまずラーンスの傷を新しい布でぬぐう。
「村の医者は?」
「真っ先に斬り殺された。俺たちはここで休憩してから、村を出てすぐに奇襲にあったんだ……っ!騎士もあとから駆けつけてくれたけど、あいつら……ここを奇襲してから俺たちをっ……」
ラーンスの顔の傷は出血よりは浅く、傷も残らないだろうと僕は思う。しかしマクファーレンは……。
「マクファーレンよりも傷の酷い人はいますか?」
誰もが首を横に振る。支部は四部隊十二人で、マクファーレンの次に酷いのは、多分骨折と言う具合だった。
「多分、大丈夫」
この感覚…緊急時に沸き上がる高揚感と冷静さ。ああ、僕は看護科の高校を卒業していたからだよ。頭が一気に回り、日頃のなんだかぼんやりする気持ちをぶっ飛ばし脳内に溢れる記憶。今、何をすべきか、身体が覚えている。
「ラーンス、動けるかい?ファナを連れてランクルのとこへ行ってくれるかな?ファナ、ラビットから持たされた救急バスケットを持ってきてくれない」
「はいっ!」
「ご、護衛だね、分かった」
ラーンスとファナが走っていくと、動けそうな騎士にタオルや布をありったけ持って来てもらう。
「ジューゴ様、バスケットです!」
「ありがとな。ファナ、倒れてる人の傷に水をかけて綺麗にしてから押さえて包帯を巻いて」
「はい!ジューゴ様」
「うん、ファナ、頑張れ」
ファナがパタパタと部屋を駆け巡るのを見送ると、ラーンスの手元を離させマクファーレンの上着を切り裂いて脱がせた。
豊かな形のよい胸がこぼれて、ふわりと血の匂いがする。
血のついた胸回りをみるとひどい傷があり、引き攣れた古いもので僕は目を閉じた。
「背中だけだね、うつ伏にするからテーブルをあけて」
テーブルにタオルを敷きマクファーレンをうつ伏せに横たえると、バスケットに入っている消毒にも使える強い酒を傷に吹き掛ける。
「うっ……」
意識が薄れているが傷に染みたのか、マクファーレンがひく…と身じろいだのを見て、僕はマクファーレンの髪を掴み下に避けマクファーレンの頬を軽く叩いた。
「聞こえるかい、マクファーレン。今から傷を縫うからね。痛いが、傷は早く塞がるから。ラーンス、マクファーレンの口に布を噛ませて痛がるからね」
「ジューゴ、何すんだよ……」
「傷に布を貼るよりも、この傷なら縫合した方がいいと思うんだよね。実際には医師がやるんだけど、見学したことがあるからやってみる。それから、動くと危ないからマクファーレンの肩を押さえて」
僕の真剣な捲し立てに押されて、うつ伏せのマクファーレンの口の中にロール状のタオルを噛ませ、僕の指示通りマクファーレンの両肩を押さえつけ、こちらの手元を見てラーンスは息を呑む。
ランプの火で針先を炙ると、糸を通した針でマクファーレンの傷の指一本向こうに針を刺した。
「ぐっ……ぅぅっ……」
傷を合わせるために糸を通して締め上げ、傷を塞いで行き、血を拭きながら縫い終わると、かごに入っていた油紙を貼り付けて布を巻く。
これで終わりだ。
「血が流れ過ぎたな……。マクファーレン、大丈夫?」
縫い終わるとファナの方もあらかた傷の洗浄が終わり、骨折しているという隊長の腕をジューゴが引っ張り骨接ぐと、マクファーレンの口からタオルが外され、
「大丈夫………ラーンス……は?」
としゃがれた声で話す。
「顔の傷は大丈夫だよ、傷も浅いからね。マクファーレンの傷は跡残る。一体……何があった?」
マクファーレンがふ……と息を吐いた。
「あたしたちは……自由騎士だと信じていた奴らに……襲われたんだ。その中のボス・ガゼルの本性を……知らなかった……」
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