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2章『楽園へ行こう』
12 ジューゴ、ランクルの中で夢を見る
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長い髪が風に巻いている。声が掠れていた。だめだよ、逃げて!
「ジューゴ……ジューゴ……サ……」
届かない……手を……手を伸ばさないと。
僕はまるで霧の中の空気の中で必死に手を伸ばす。でも何かに阻まれるように弾かれた。
細い顎が見える。誰だろう、思い出せない。
きっと綺麗な整った顔立ちだろうその顔を一目見ることができたら……すべてが……すべてを……。
さらに必死でもがいたのに、手をは届かず、
「君っ……!」
僕は跳ね起きた。
モッズコートを脱いで黒いシャツだけの僕は、ランクルのフラットシートで汗をかき、息を詰めていたことに気づくと、いつもの夢に大きなため息を付く。
月明かりがランクルの中に入っていて、まだ、夜なんだなあって分かったんだけど、ファナを起こしてしちゃってないかなと見下ろすと、ファナが見上げていてぎょっとした。
「ファナ」
「ジューゴ様……」
リムコートがはだけて、胸のリムが赤く光輝き誘うように点滅している。まるで夜空に輝く星だ。滑らかな素肌に艶めく潤んだ瞳で僕を見つめている。
誘われる……魅了され……。
「だめだよ。僕は騎士じゃない」
何もない僕を何故か求めるファナに答えられない僕は、ファナの頭をぽんぽんと撫でた。
赤い点滅は僕を落ち着かなくさせ、ファナの頭に手を乗せたまま、
「ごめん、驚かせて」
と謝りながら呟いた。ついでにコートを直してあげると、長い金髪がさらりと流れてきて、夢の内容を思い出した。
「夢……見てたんだ。割と毎日。誰かを助けようとしたんだけど……手が届かなくて……。こんな夢ばかりだ。その記憶が抜け落ちてる」
ファナがふいに僕のの頭に両手で触れて
「これのせいですか?」
と僕の生え際の傷にそっと小さな唇をつけてくる。
うわ、ちょっと……近い!!
柔らかな唇の様子が判る盛り上がる膨らんだ傷を、まるでいたわるように舌で舐めるファナに驚いて、目を見開くと誘うように点滅する輝きがやっぱりあって、僕はファナの脇の下に手を入れ引き離した。
「あっ、きゃんっ!」
平な胸の先端に指が当たりびくりと身体を震わせたファナに、僕は狭くはないが天井の低いランクルの中で動揺して、ファナに頭を下げる。
「えと、あ、あの!ごめんっ。舐めても傷は治らないから」
ファナは頭を下げた僕の手に手を重ねた。
「ジューゴ様。苦しいのですか?私ではお役に立てませんか?」
わずか二日の旅。その後は別れる小さな人工生命体。
「お力になれませんか?」
「起こしちゃったのは僕だしね。少し聞いてもらおうかな?」
何故かファナには弱音を吐いてしまいたい気持ちになる。でも、僕は誰にも言えない気持ちがある。それは置いておいて、夢のことを思わず話してみた。
「夢を毎日見てるんだよ……手を伸ばすその手を掴めなくて目が覚める。その繰り返しだ。だから……生きていれば探して助けたいし。夢の中の僕は後悔をしている。僕がこの世界に来るきっかけになったのなら知りたい。異世界人の僕はどうしてここにいるのか」
ファナのリムの光が霞んで消えていき、ファナが僕の横に座る。
「私……探すお手伝いをしたいです」
僕は首を横に振った。
「君は楽園で新しい騎士を得て、正しいリムの姿であるべきだよ。ミサさんみたいな綺麗な服を着て、真新しいオートメカニカに乗るんだ」
ファナは食い下がって来る。
「そんなことは望んでいません…………ったのに、そ……」
「ん?」
再び眠気がやってきて、欠伸をしてしまい聞き取れなくて、ファナに聞き直す。
「ーーいえ、あの、ジューゴ様は異世界人ですよね。どうしてこちらの言葉が?」
「本来だと日本語で、こんなふうに話すよ」
僕は日本語で話をしてみた。『桃太郎』の一節だ。
『ムカシムカシアルトコロニ、オジイサントオバアサンガスンデイマシタ』
「わ、分かりません!それはなんですか?」
「そうだよね。こう言ったんだよ。『昔々あるところにおしいさんとおばあさんが住んでいました』。『桃太郎』って昔話の始まり」
ランクルの室内ライトを付けて、
「文字もね、こんな風に書くんだよ。こっちの言葉は日本語と同じ並びだから分かりやすくて、拾ってくれたラビットさんが飲み込みがすごく早いって褒めてくれた。書くのはだめ。カリグラフィーみたいなんだけどミミズみたいな文字が読めないし書けないよ」
ダッシュボードに入っていたノートに鉛筆に日本語で僕の名前を漢字で書いてみて、その下にこちらの文字を書いた。
「ほら。日本語の漢字『重吾』。で、こちらの文字」
「上のは不思議な文字ですね。こちらの文字がミミズですか?」
「似てない?にょろろって感じ」
ふふっとファナが笑って横たわる。
「そう言えば、なんとなく似ていますね。ジューゴ様、記憶が戻ればきっと全て分かりますよ」
「ありがとう、ファナ。明日はまた走るからね。早く寝てしまおう」
ファナが夜目にも判る真っ赤な顔をして何度もこくこくと頷き、僕も再び転がると瞳を閉じる。
ファナの体温はやっぱりありがたい。深い眠りの後は、夢を見なかった。
「ジューゴ……ジューゴ……サ……」
届かない……手を……手を伸ばさないと。
僕はまるで霧の中の空気の中で必死に手を伸ばす。でも何かに阻まれるように弾かれた。
細い顎が見える。誰だろう、思い出せない。
きっと綺麗な整った顔立ちだろうその顔を一目見ることができたら……すべてが……すべてを……。
さらに必死でもがいたのに、手をは届かず、
「君っ……!」
僕は跳ね起きた。
モッズコートを脱いで黒いシャツだけの僕は、ランクルのフラットシートで汗をかき、息を詰めていたことに気づくと、いつもの夢に大きなため息を付く。
月明かりがランクルの中に入っていて、まだ、夜なんだなあって分かったんだけど、ファナを起こしてしちゃってないかなと見下ろすと、ファナが見上げていてぎょっとした。
「ファナ」
「ジューゴ様……」
リムコートがはだけて、胸のリムが赤く光輝き誘うように点滅している。まるで夜空に輝く星だ。滑らかな素肌に艶めく潤んだ瞳で僕を見つめている。
誘われる……魅了され……。
「だめだよ。僕は騎士じゃない」
何もない僕を何故か求めるファナに答えられない僕は、ファナの頭をぽんぽんと撫でた。
赤い点滅は僕を落ち着かなくさせ、ファナの頭に手を乗せたまま、
「ごめん、驚かせて」
と謝りながら呟いた。ついでにコートを直してあげると、長い金髪がさらりと流れてきて、夢の内容を思い出した。
「夢……見てたんだ。割と毎日。誰かを助けようとしたんだけど……手が届かなくて……。こんな夢ばかりだ。その記憶が抜け落ちてる」
ファナがふいに僕のの頭に両手で触れて
「これのせいですか?」
と僕の生え際の傷にそっと小さな唇をつけてくる。
うわ、ちょっと……近い!!
柔らかな唇の様子が判る盛り上がる膨らんだ傷を、まるでいたわるように舌で舐めるファナに驚いて、目を見開くと誘うように点滅する輝きがやっぱりあって、僕はファナの脇の下に手を入れ引き離した。
「あっ、きゃんっ!」
平な胸の先端に指が当たりびくりと身体を震わせたファナに、僕は狭くはないが天井の低いランクルの中で動揺して、ファナに頭を下げる。
「えと、あ、あの!ごめんっ。舐めても傷は治らないから」
ファナは頭を下げた僕の手に手を重ねた。
「ジューゴ様。苦しいのですか?私ではお役に立てませんか?」
わずか二日の旅。その後は別れる小さな人工生命体。
「お力になれませんか?」
「起こしちゃったのは僕だしね。少し聞いてもらおうかな?」
何故かファナには弱音を吐いてしまいたい気持ちになる。でも、僕は誰にも言えない気持ちがある。それは置いておいて、夢のことを思わず話してみた。
「夢を毎日見てるんだよ……手を伸ばすその手を掴めなくて目が覚める。その繰り返しだ。だから……生きていれば探して助けたいし。夢の中の僕は後悔をしている。僕がこの世界に来るきっかけになったのなら知りたい。異世界人の僕はどうしてここにいるのか」
ファナのリムの光が霞んで消えていき、ファナが僕の横に座る。
「私……探すお手伝いをしたいです」
僕は首を横に振った。
「君は楽園で新しい騎士を得て、正しいリムの姿であるべきだよ。ミサさんみたいな綺麗な服を着て、真新しいオートメカニカに乗るんだ」
ファナは食い下がって来る。
「そんなことは望んでいません…………ったのに、そ……」
「ん?」
再び眠気がやってきて、欠伸をしてしまい聞き取れなくて、ファナに聞き直す。
「ーーいえ、あの、ジューゴ様は異世界人ですよね。どうしてこちらの言葉が?」
「本来だと日本語で、こんなふうに話すよ」
僕は日本語で話をしてみた。『桃太郎』の一節だ。
『ムカシムカシアルトコロニ、オジイサントオバアサンガスンデイマシタ』
「わ、分かりません!それはなんですか?」
「そうだよね。こう言ったんだよ。『昔々あるところにおしいさんとおばあさんが住んでいました』。『桃太郎』って昔話の始まり」
ランクルの室内ライトを付けて、
「文字もね、こんな風に書くんだよ。こっちの言葉は日本語と同じ並びだから分かりやすくて、拾ってくれたラビットさんが飲み込みがすごく早いって褒めてくれた。書くのはだめ。カリグラフィーみたいなんだけどミミズみたいな文字が読めないし書けないよ」
ダッシュボードに入っていたノートに鉛筆に日本語で僕の名前を漢字で書いてみて、その下にこちらの文字を書いた。
「ほら。日本語の漢字『重吾』。で、こちらの文字」
「上のは不思議な文字ですね。こちらの文字がミミズですか?」
「似てない?にょろろって感じ」
ふふっとファナが笑って横たわる。
「そう言えば、なんとなく似ていますね。ジューゴ様、記憶が戻ればきっと全て分かりますよ」
「ありがとう、ファナ。明日はまた走るからね。早く寝てしまおう」
ファナが夜目にも判る真っ赤な顔をして何度もこくこくと頷き、僕も再び転がると瞳を閉じる。
ファナの体温はやっぱりありがたい。深い眠りの後は、夢を見なかった。
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