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2章『楽園へ行こう』
1 1 ジューゴ、楽園へ出発する
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さよならは別れの始まりではなく、再び会うまでの遠い約束~なんて懐メロから、サヨナラは悲しい言葉じゃないそれぞれの夢へ僕らを繋ぐ~が頭の中をぐるぐるしてる僕は正直うんざりしてる。
修理屋のパクチーさん然り、騎士団門番の皆さん然りなんだけど。
「ランクルさん、もう行ってしまわれるんですか!」
「また、必ず来てくださいね!」
「ランクルさん、いっちゃ嫌です!」
門番の皆さんプラス集まっていた非番の騎士さんは僕より若いけれど僕より背丈が高いし厳ついのに、泣く泣く別れに惜しみ叫びエールを繰り返すのを見て、
「すごい人気だね、ランクル」
と僕がランクルを小突くと、ランクルはまんざらでもない様子で、体を揺らす。
「南へ二日、ちょっとした旅だよ」
扉を開けて運転席に座ると、マナを吸い取られる感覚が伝わる。ランクルに他の人を運転席に入れてみたが、マナを吸収することなく動きもしないんだから、僕はハイオク仕様のマナを持っているんだなあと思ってしまった。だって、父さんってば最初っからランクルにハイオクガソリン入れてたしね。ランクルは父さん所有のセカンドカーで、僕は運転免許を取ったあと貸してもらっていた。
荷物を後部座席に入れていたファナがやって来て、
「どこに座ればいいですか?」
と、ためらいがちに言った。
「うん、どうしようかな」
運び屋としては普通安全を考えて後部座席なんだろうけど、僕が『いらない』と言って以来元気がないファナをどうしようかと思っている。嘘をついても仕方ないしねと思ったんだけれど、優しい嘘をついても良かったのかな。
「ファナ、助手席に乗ってみる?」
「いいのですか?」
「うん。さあ、どうぞ」
反対側に回り込み助手席の扉を開き、僕はファナの脇に手を差し入れると、持ち上げて助手席に入れた。
「きゃ」
集まってきていた騎士団の皆さんが羨ましそうな顔をしている。
「皆さん、あのー、また戻りますから、そろそろ仕事に戻って下さい!お見送りありがとうございます」
僕はランクルのエンジンセルボタンを押した。
「ランクルさん良いなあ。この有機エンジン音」
「オートメカニカの中でも、ランクルさんが一番だ」
「いいなあ……ジューゴ君が羨ましい」
口々に言い始める讃称の嵐に耐えかねていると、ダグラムが来てくれて道を開けてくれる。ダグラムに『さん』付け出来ないのは、ダグラムにきつく言われているからで、本来ならカミュ団長と同じ年頃の目上の人なんだから、敬語でないとだめなんだ。
「ありがとう、ダグラム」
それからダグラムはファナに声をかけてくれた。
「よい主を得られるといいな。妖精よ」
ファナが僕を不安そうに見上げてきたから、僕はファナの頭をぽんぽんと撫でた。
「大丈夫。君なら真っ当な騎士を選ぶよ。まずは、楽園に行こう」
とりあえずそう言うと、ほっとしたようなファナが、ランクルの開けてくれた助手席の窓から手を振り、僕は夕方になってしまった空を仰ぎ見ながらランクルを走らせる。
「ジューゴ、マクファーレンとラーンスに合流しろ」
ダグラムの言葉かけに僕はクラクションで合図して、ファナがぺこりと頭を下げた。
僕が居候しているラビットさんの店や騎士団本部のある場所は、自由都市国家と言われているらしい。国の代表は選挙によって決まり、都市国家が騎士を雇っていて、オートメカニカはカミュ団長以外数人しか持っていない。有機機械であるオートメカニカはそうとう高価なものらしく、リムもまたすごい金額なんだって。調整っていうメンテナンス料も込みで日本円にしたら億単位だ。だから僕になんか払えるわけもない。
騎士団は『国』に所属する部隊だ。もちろん王家があり、貴族がいて、そこにも騎士はいるし、自由騎士と呼ばれるいわば傭兵もいる。自由騎士だってリムを所有できる人は多くはないようだ。だって、カミュ団長のところで見たリムは、ミサさん一人だ。
「楽園は遠いのですか?」
「ナビで見てみたところ、速度四十キロ安全走行で、休憩を挟んで二日かな?寝ていてもいいよ」
「この四角がナビですか?」
「うん。何故か機能してくれてる。本当にありがたいよ。ラジオなんかが使えると良いのだけれど。あとさ、スマホがあれば良かったのに」
ナビも音声機能は壊れているみたいで、画面を見ながらの走行だ。馬車とすれ違える一本道は、活気ある町を抜けると、一気に農地になる。
「ランクル、窓を開けて」
ランクルに窓を開けてもらい風を入れる。コートをなびかせて外を見ているファナを、畑を耕しながら見上げている人もいた。
森になり暗闇が差し込んで来てランクルのヘッドライトが点灯しはじめた頃、僕はランクルを停めて後部座席に置いたビスケットとミルクをファナに渡す。
「明日まではこれで。あと……りんごもある」
「はい」
僕から受け取ったファナが小さな音を立てて、ビスケットを噛み締めている。僕も素朴な味のビスケットを口に入れた。
「ファナはどこで育ったの?作った人が亡くなるまで」
「……東の奥です。お祖父様は森の家にいました」
お祖父様、作った人はファナにそう呼ばせていたのかな。東の森……そこで作られ育てられたというわけらしい。
リムは皮膚が弱く日頃からちゃんとした柔らかい服装をしなくてはだめらしい。疲労し疲弊して食べなくなり衰弱死してしまうのだと、やたらリムに詳しいラーンスが教えて……いや、教え込んできた。
僕がラーンスの誘いに乗らなかったからかスパルタな口授口頭の雨嵐、だから少しは知っているのであるが、ファナはそれなりにリムとしては頑丈だ。昨晩は絹ではなく綿のバスタオルも平気だったし。
「寝ようか。ランクル、シートを倒して。ファナ、靴を脱いでいいよ」
「はい」
ファナがほう……とため息を吐いて、白のコートのまま小さな肋骨が浮き出る胸に手をやって小さく丸まるのを見て、なんだか切なくなり僕はファナの頭を撫でた。
「ジューゴ様?」
「寝よう、早く」
小さく丸くなって眠りの訪れを待つファナが、大の字になって眠れたたら、それはそれですごく意味があるんじゃないかな、そう思うと僕もうとうとと眠たくなり、目を閉じる。
今日はあの夢は見ないはず……そう感じた。
修理屋のパクチーさん然り、騎士団門番の皆さん然りなんだけど。
「ランクルさん、もう行ってしまわれるんですか!」
「また、必ず来てくださいね!」
「ランクルさん、いっちゃ嫌です!」
門番の皆さんプラス集まっていた非番の騎士さんは僕より若いけれど僕より背丈が高いし厳ついのに、泣く泣く別れに惜しみ叫びエールを繰り返すのを見て、
「すごい人気だね、ランクル」
と僕がランクルを小突くと、ランクルはまんざらでもない様子で、体を揺らす。
「南へ二日、ちょっとした旅だよ」
扉を開けて運転席に座ると、マナを吸い取られる感覚が伝わる。ランクルに他の人を運転席に入れてみたが、マナを吸収することなく動きもしないんだから、僕はハイオク仕様のマナを持っているんだなあと思ってしまった。だって、父さんってば最初っからランクルにハイオクガソリン入れてたしね。ランクルは父さん所有のセカンドカーで、僕は運転免許を取ったあと貸してもらっていた。
荷物を後部座席に入れていたファナがやって来て、
「どこに座ればいいですか?」
と、ためらいがちに言った。
「うん、どうしようかな」
運び屋としては普通安全を考えて後部座席なんだろうけど、僕が『いらない』と言って以来元気がないファナをどうしようかと思っている。嘘をついても仕方ないしねと思ったんだけれど、優しい嘘をついても良かったのかな。
「ファナ、助手席に乗ってみる?」
「いいのですか?」
「うん。さあ、どうぞ」
反対側に回り込み助手席の扉を開き、僕はファナの脇に手を差し入れると、持ち上げて助手席に入れた。
「きゃ」
集まってきていた騎士団の皆さんが羨ましそうな顔をしている。
「皆さん、あのー、また戻りますから、そろそろ仕事に戻って下さい!お見送りありがとうございます」
僕はランクルのエンジンセルボタンを押した。
「ランクルさん良いなあ。この有機エンジン音」
「オートメカニカの中でも、ランクルさんが一番だ」
「いいなあ……ジューゴ君が羨ましい」
口々に言い始める讃称の嵐に耐えかねていると、ダグラムが来てくれて道を開けてくれる。ダグラムに『さん』付け出来ないのは、ダグラムにきつく言われているからで、本来ならカミュ団長と同じ年頃の目上の人なんだから、敬語でないとだめなんだ。
「ありがとう、ダグラム」
それからダグラムはファナに声をかけてくれた。
「よい主を得られるといいな。妖精よ」
ファナが僕を不安そうに見上げてきたから、僕はファナの頭をぽんぽんと撫でた。
「大丈夫。君なら真っ当な騎士を選ぶよ。まずは、楽園に行こう」
とりあえずそう言うと、ほっとしたようなファナが、ランクルの開けてくれた助手席の窓から手を振り、僕は夕方になってしまった空を仰ぎ見ながらランクルを走らせる。
「ジューゴ、マクファーレンとラーンスに合流しろ」
ダグラムの言葉かけに僕はクラクションで合図して、ファナがぺこりと頭を下げた。
僕が居候しているラビットさんの店や騎士団本部のある場所は、自由都市国家と言われているらしい。国の代表は選挙によって決まり、都市国家が騎士を雇っていて、オートメカニカはカミュ団長以外数人しか持っていない。有機機械であるオートメカニカはそうとう高価なものらしく、リムもまたすごい金額なんだって。調整っていうメンテナンス料も込みで日本円にしたら億単位だ。だから僕になんか払えるわけもない。
騎士団は『国』に所属する部隊だ。もちろん王家があり、貴族がいて、そこにも騎士はいるし、自由騎士と呼ばれるいわば傭兵もいる。自由騎士だってリムを所有できる人は多くはないようだ。だって、カミュ団長のところで見たリムは、ミサさん一人だ。
「楽園は遠いのですか?」
「ナビで見てみたところ、速度四十キロ安全走行で、休憩を挟んで二日かな?寝ていてもいいよ」
「この四角がナビですか?」
「うん。何故か機能してくれてる。本当にありがたいよ。ラジオなんかが使えると良いのだけれど。あとさ、スマホがあれば良かったのに」
ナビも音声機能は壊れているみたいで、画面を見ながらの走行だ。馬車とすれ違える一本道は、活気ある町を抜けると、一気に農地になる。
「ランクル、窓を開けて」
ランクルに窓を開けてもらい風を入れる。コートをなびかせて外を見ているファナを、畑を耕しながら見上げている人もいた。
森になり暗闇が差し込んで来てランクルのヘッドライトが点灯しはじめた頃、僕はランクルを停めて後部座席に置いたビスケットとミルクをファナに渡す。
「明日まではこれで。あと……りんごもある」
「はい」
僕から受け取ったファナが小さな音を立てて、ビスケットを噛み締めている。僕も素朴な味のビスケットを口に入れた。
「ファナはどこで育ったの?作った人が亡くなるまで」
「……東の奥です。お祖父様は森の家にいました」
お祖父様、作った人はファナにそう呼ばせていたのかな。東の森……そこで作られ育てられたというわけらしい。
リムは皮膚が弱く日頃からちゃんとした柔らかい服装をしなくてはだめらしい。疲労し疲弊して食べなくなり衰弱死してしまうのだと、やたらリムに詳しいラーンスが教えて……いや、教え込んできた。
僕がラーンスの誘いに乗らなかったからかスパルタな口授口頭の雨嵐、だから少しは知っているのであるが、ファナはそれなりにリムとしては頑丈だ。昨晩は絹ではなく綿のバスタオルも平気だったし。
「寝ようか。ランクル、シートを倒して。ファナ、靴を脱いでいいよ」
「はい」
ファナがほう……とため息を吐いて、白のコートのまま小さな肋骨が浮き出る胸に手をやって小さく丸まるのを見て、なんだか切なくなり僕はファナの頭を撫でた。
「ジューゴ様?」
「寝よう、早く」
小さく丸くなって眠りの訪れを待つファナが、大の字になって眠れたたら、それはそれですごく意味があるんじゃないかな、そう思うと僕もうとうとと眠たくなり、目を閉じる。
今日はあの夢は見ないはず……そう感じた。
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