異世界騎士はじめました

クリム

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1章『初めまして』

6 ジューゴ、リムにふわっとする

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 なにもない、用事も仕事もだ。朝の目覚めほど、気持ちのいい日はないと思う。

 なによりも子どもの体温の高さは、こちらを眠りに誘う魔法でもあるかのようで、僕はは相当陽が高くなるまで眠りこけていた。  

 ぱか……と眼を開くと鼻面に金色の光があり、横倒しに抱き枕よろしく抱き締めて寝ていた僕は、胸元に掛かる息に気づいて両手の拘束を解く。

「ふあっ」

 僕の丸首シャツの胸に顔を押し付けられる形での一昼夜となっただろうリムの鼻の頭は、やや赤くなっていて、

「わ……ごめんね。疲れてて……」 

と、座り込んだリムの鼻の頭を撫でてた。

 リムは主人であるマスターから貰った服しか着ることが出来ないから、この子が裸体なのは多分、主人なしの野良リムだからだろう。

 ただいまの心情としては小さい子の保護者であり、なんとなく父親の心境となるのが普通だ。だからか、完全に幼子扱いされた目の前のリムは、少し膨れっ面をした。

 痩せっぽっちの肢体は胸の膨らみは全くなく、顔の顎ラインの丸みや大きな青い瞳が童顔に見せていて、見た目よりは年齢が上かも知れないなあと笑ってしまった瞬間、僕の胸がふわっとしてした。

 え、ちょっと待って、どうしたの、僕!

「し、し、失礼。リムさん、名前は?」

 動悸を押さえて礼を取る僕に、花のように微笑むリムの困った眉が可愛らしくて、しかし、ほろりと涙を流す瞳に僕は慌てた。

「……ファナです、ジューゴ様」

「え、どうして僕の名前知ってるの?」

「……覚えていな……!ーーい、いえ、皆様があなた様のお名前を呼んでいらしたので」

「あ、ああ、なんだ、そうだよね。初めまして。僕はジューゴです、ファナさん」

「ファナと呼んでください」

 美しく可憐なリムの涙に慌てた僕だけど空腹に腹が鳴り、また、ファナと名乗ったリムの小さな腹からも小さく鳴り響き、互いに顔を見合わせた。涙も引っ込んだようだったし、

「ラビットさんから何かしら食べ物をもらってくるから、待ってて」

 僕はリムを残して階下に降りて行き、ラビットさんから搾りたてのミルクと、黒パンのサンドを二人分貰ってきた僕は、立ち上がったリムの姿に慌ててバスタオルを掛けた。





 ランクルの助手席に乗り込んだファナが着る物がなくて、ランクルの中にあったバスタオルをかけてやり、パンに兎肉のローストと野菜を挟んだサンドを互いに口にしながら、騎士団の本部に走り出す。

「え?じゃあ、フーパの屋敷からランクルの中に?」

 ランクルはご機嫌な様子で平坦な道を走り、僕もサンドを口に運んだ。ナビはすっかり異世界モードだから、騎士団への道へは迷うことはない。

「はい、ジューゴ様。盗賊方に連れてこられ、フーパ様のお屋敷にいました」

 一瞬、屋敷にいたリムの扱いを思い出し、その思いを消そうと慌てて頭を横に振った僕に対し、今度はファナが慌てて頭を横に振る。

「なにもされていません。だってだって……!」

 力説するファナに驚いて、思わず足に力が入った。

「うえっ?」

「きゃああ!」

 キーッ……

 僕は思わず急ブレーキを踏んでしまい、ランクルが不満気に唸りを上げて停車した。

「ご……ごめんね、二人とも」

 タオルがはだけて両手でサンドを押さえたファナと、土埃を上げていきなり停車させられたランクルに謝ると、後ろから来た馬車に道を譲り道の横に避ける。

「他のリムの方々はひどい扱いを受けていました。盗賊頭の騎士様に捕らえられた時、覚悟はしましたがリムの証が消えるのですから、価値なしと地下にフーパ様のご遺体と地下に」

 なるほどねと、僕はファナをらちらちらと見た。

 ファナは女の子だ。とはいえ、まだ小さくまるで子供のそれだけど。リムは女の子ばかりだと聞いていた。

「胸の証もないのにリムの気配があるため気味悪がられ、マスターは得ていません。廃棄も出来ないので、剣の試し斬りをするまでとずっと放置されていました」

 ファナは捨てて置いていかれたと言うことで、ファナもろともリムを置いてきぼりにした自由騎士達は、ただのごろつきらしく屋敷では困っていたらしい。

「僕はファナのお陰でぐっすり眠れたから、僕にはいいことだよね」

 昨晩のことを思い出した僕がさらりと言い放つと、ファナが瞳を見開いて涙を溢れさせた。

「ジューゴ様、ありがとうございます」

 僕と同じような人間に見えるのになあ。人工生命体として生まれ、リムとして紋章を持つがゆえに騎士に尽くし、たった十五年しか生きられないリム……。

 その中で十年程度の年齢のファナに対して、僕はいとおしいような感覚に襲われていた。

 これは……まさかの……ロリ、コン?

 痩せた小さな女の子のリムを横にして唸る僕に、ファナが自分が食べていたサンドを差し出して来る。

「え?」

「お腹空いているのでしたら。私たちリムは小食なので」

「違うんだ」

 慌てて自分が食べていたサンドと、残りの全てのミルクも渡す。

「しっかり食べなよ」

「でも……」

 フーパと同じ地下にいたなら食事はほとんど取れていないはず。昨晩は僕に抱き抱えられてのベッドだった。

 リムに人権はなく人工生命体だ。オートメカニカを繰る騎士に尽くしているリムは、人ではなく、メカニカ調整機器の一部、オートメカニカの制御と騎士を守り生きる存在。騎士に尽くすリムだからこそ、唯一の権利は……主たるマスターを選ぶことができることと、ラビットさんから聞いている。

「ジューゴ様……あの……」
 
「子供はもう少しお肉をつけるべきだよ」

 慌てて食べ始めるファナに、僕は罪悪感を抱えながらランクルを走らせた。 
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