異世界騎士はじめました

クリム

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1章『初めまして』

3 ジューゴ、無茶振りをしてみる

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　その道は一本道で、森を抜けるとフーパの屋敷に繋がっており、ランクルは先にいったセシルローズチーム『炎の薔薇』と、合流する手はずになっていた。

「大丈夫だよ。契約を解いたら、騎士団の馬車で楽園ファームに送り届けるからね」

　マクファーレンがリムに話しかけると、リムの少女たちが頷く。契約を解くって、騎士を殺すってことだよね。

「……マスター……」

　リムは基本的にはマナを使い乗り物を繰り返し、戦いの際には騎士のサポートをする『人工生命体』なんだ。

　はらはらと泣き出す二人のリムを、マクファーレンは抱き締める。

「可哀想に……とんでもない騎士に当たっちまったね。でも、あたしが必ず守るから」

「姐さん、あれ」

　ラーンスに指差され、マクファーレンが眉をしかめた。

「先にいったセシルローズ隊、攻略出来てないじゃないか！」

　開けた大地の真ん中に古い石造りの城屋敷があり、川の近くでは数人の死体が転がっているが、ぐるりと囲む川の跳ね上げ橋を上げられてしまっているため城屋敷へ入れないでいるようだ。ちょっとヤバくないかな？

　馬に騎乗した金の巻き毛の美女が、向かってきた残る一人を斬り捨てるのを見て、

「やるね」

とマクファーレンが口笛を吹く。

　三人一組の小隊は跳ね上げ橋以外に出入り口のない城屋敷をどうにも攻めあぐねているようで、僕は小川のほとりにランクルを停車した。

「遅いですわ！わたくしたちがどんなに…」

「セシルローズ、落ち着きなって」

　ランクルから飛び降りたマクファーレンが、セシルローズの馬の綱を取り、ランクルの近くに連れていき、ランクルの窓ガラス越しに、二人のリムを見せる。

「まあああ、リムが二人も救出できましたの。ダグラムの読みが当たりましたのね」

「ラーンスが聞き出した情報もある。フーパの仲間の騎士が契約したリムは、まだ二人いるってさ」

「嘘…フリーのリムじゃなくて？」

「四人のリムは、みんな自由騎士のリム。フーパ自身は騎士じゃないただの地方貴族なんだとさ」

　セシルローズ隊の双子二人が息を切らして戻ってくると、セシルローズに進言した。

「隊長、ご報告します。後方の跳ね橋も上がっており、籠城の布陣であります」

「セシル隊長、ギルドより騎士団への応援を頼みますか？」

「そうね。でも時間がかかるわ」

　ぐるりと囲む石造りの壁に阻まれて、屋敷内に入ることができないと言うんだ。なのにちらりとダグラムが、僕を見やる。

　それを無視した。

　きつい瞳で華やかな胸元を腕組みで持ち上げたマクファーレンが、僕を見てくる。

　それも、見事な谷間も無視した。これで十六歳なんだよ。さすが異世界ヨーロッパ風。発育いいなあ。僕なんて中学生に見られたもんなあ。ちなみにこちらでは十五歳が成人年齢だから、それより下に見られていたんだ。

　正真正銘十四歳のラーンスが、短剣の切っ先を一人のリムの首筋にに無言で押しあてがい、

「……わかったよ、なんとかする」

とやっと降参のための両手を挙げる。リムを降ろしてもらい、運転席に座る。

　やったことはある。でもさ、すごくマナを吸われる気がするんだよ。怠いんだよ、後から寝込む、絶対に。

「ランクル、ターボチャージ」

　くらりと目眩がして、僕はランクルにハンドルにもたれ掛かるが頭を二、三回振り、

「ラーンス、乗ってくれ」

とラーンスに叫ぶ。

「はいよ、ジューゴ」

　小躍りしたラーンスが助手席に乗り込むと、御機嫌な様子のラーンスの胸ぐらを掴んだ。

「ラーンス、リムに傷をつけるなよ」

　刃の切っ先は確実に、被害者でもあるリムの首を掠めていたからで、ラーンスは悪ふざけに興じるような性格でもないのを知っている。

「怒ってるの？でもさあ、ジューゴが素直に……う、おっ！」

　アクセルを一気に踏むと小川を飛び越え、そのまま石造りの壁を斜めに登り上がる。直角の壁を軽いエンジン音の中で一気に登ると、そのまま反対側に躍り出て重力に逆らわず地面に落ちた。

　強烈な振動をサスペンションで受け流し、扉を開いて叫ぶ。

「ラーンス、出て！」

「ほいっ！」

　跳ね上げ橋は単純な作りだ。ロープさえ巻き降ろせば、橋が落ちる。

　ラーンスが躍り出て、小刻みにステップを踏みながら屋敷の二階から振る相手の弓矢を掻い潜り、僕は矢避けになるようランクルを移動させ、跳ね上げ橋のロープを切り落とさせた。

「隊長！姐さんっ！セシルさんっ、開門するよ！」

　そのままラーンスが木の扉の閂を抜くと、ダグラム隊とセシルローズ隊が乗り込んでくる。

「リムを保護しろ！リムに仇なす騎士は殺せ！」

　ダグラムの叫び声に、マクファーレンとラーンスが同時に短刀を投げて、弓矢を放つ男たちを黙らせ、僕は

「すごい」

と嘆息してしまう。

　セシルローズ隊の双子が屋敷内に入ってしばらくすると、使用人を連れて戻ってくる。

「隊長、屋敷内には、騎士と仲間はもういません。逃げられ後のようです」

「セシルローズ隊長、こちらを」　

　後ろに控えていた使用人の老人たちが、

「ギルドの皆様」　

と、静かに差し出した担架には、成熟したリムの二人が男たちの欲望の捌け口を一身に受けたまま、斬り刻まれ死に絶えていた。

「姉さまっ」

「ひっでえなあ……」

　幼いリムが泣きじゃくる中で、ラーンスも思わず呟いている。僕は使用人さんに言われて、ランクルに引かせて牢に向かう鉄扉を牽き千切り、ラーンスが聞き出した場所から餓死したフーパの遺体を救出する。

「自由騎士様方はフーパ様の騎士になると申して屋敷を占領し、我が物顔で振る舞い……」

　自由騎士を逃がしたこの捕り物は、とりあえず終わり、契約解除が出来ないリムたちは楽園ファームで強制解除と調整メンテナンスをすることになった。

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