12 / 16
12 王都への召喚
しおりを挟む
男物の服を脱ぎ久々のバスタブに浸かる。マゴットが短い髪を洗ってくれ、私は金髪と碧眼に色を戻す。タオルで拭かれ、下着を身につけると、コルセットで整えられる。
「少しお痩せになりましたね」
お針子でもあるマゴットは私のドレスをいくつか仕立てていたらしく、エルデバルト伯爵家に相応しい上品なドレスを着せてくれた。
「髪が短いとドレスは似合わないわ」
「お嬢様、お嬢様の髪がございます」
マゴットは私の髪を売ることなく、襟足ウィッグとして編み直してくれていて、長い髪の毛を背中に流した。
支度が出来るとマゴットがベルを鳴らして、部屋に貴族ジャケットのジークが入ってくる。一瞬目を丸くしてから目を逸らし、何故か困った顔をしていた。
「き」
き?黄色?ああ、金髪?
「ええ、実は金ぱーー」
「き、き、き、綺麗だな!」
言い慣れていない叫んだ感じに、私はマゴットと顔を見合わせて吹き出して笑ってしまう。
「まともな食事にありつこう」
ああ、その前に。
私は手のひらに載せた指輪にマナ文字をマナで入れると、ジークの左手をとって薬指にキスをしてから指輪をはめた。硬直したように呆然としているから楽にはめられた。そして私の左手にも指輪をはめた。
「私の名前のマナ文字です。これでジークは指輪を通じて私の魔力が使えます。コントロールが苦手なら剣に乗せるのが早いですよ」
ジークは自分の左手をじっと見てから、私の前に片膝を付き臣下の礼の如く私の左手を恭しく取り、指輪をしている薬指に唇を添える。
「俺のためにーーお、俺が好きだからか?」
「いえ、あ、まあ、あなたが近くいるのが普通ですし、近衛隊長がマナを持つのはよいことですから」
ジークはふっと笑うと、
「今はそれでいい」
と私の手を取る。それから一階の食堂に降りて行きながら話してきた。
「酒は飲めるか?」
「嗜む程度です」
「では、イリアスと領地の酒場に行きたい」
「友達いないのですか?」
「イリアスがいるだろう」
つまり飲み友達がいないわけですね。私は少し笑ってしまった。
イリアである私の仕事は女主人として屋敷の切り盛りで、イリアスである私は馬車で教会に行くことだ。平民の婚約者だからか夜会の誘いも特になく、私は王都の外の領主屋敷から出ることはなく過ごしていた。
イリアスの死化粧は評判が良く、ライムはよく働いてくれている。婚約者ではあるが王都に入ることは許されていないから、まだ女王陛下からの許可を得ていないが、領民は私イリアのことを認めているようだ。ジークも近衛官舎を引き払い帰宅するようになって、屋敷の中も活気付いている。特にジークのじいやさんであった執事のエドルフは、毎日生き生きしていた。たまにゴードン神父まで来るし。
そんな半年が過ぎたある日、ジークが当直明けで朝帰るなり、私の手を取り二階に連れていく。
「急で悪いが、仕事だ、イリアスに」
つまりは死化粧をする人が出たのね。
「話を聞きながら、着替えるわ。マゴット、衝立を」
マゴットが衝立を出してきて、私はその一角で着替え始める。
「聖女カナエからの要望だ」
そうか、もう卒業の時期になる。聖女カナエの祈りの儀式が近づいていたのだった。
「王宮化粧師がいるでしょう?なぜ私を」
聖女カナエは高校生。今年で十七になる。化粧っ気のない可愛い顔をしている普通の高校生を召喚した国。その国で命を賭して聖なる帷を引く役目。
「分からん。ただ、生まれて初めてで最後の化粧は綺麗にしてほしいからと」
死ぬことを理解している言葉だけど、異世界人のオドを祈りによりマナに変換して王都を守る帷を張るなんて、いささか都合が良い話ではないか。
「ジーク、私に考えがあるのですが」
「良からぬことを考えているな。前世の知恵というやつか?」
「ーーええ。そうですね」
衝立を外してイリアスの姿で鞄を持つ。
「では、行ってくるよ、マゴット」
声は低く、榛色の短い髪に茶色の瞳でマゴットを見つめると、マゴットがまるで恋する乙女のような表情をする。歌劇団に夢中にだった私みたいだわ。
実はゴードン神父に頼まれて歌劇団の真似事をしたことがある。男装が板につき過ぎているって話になり、私は私が大好きだった演目の一部をゴードン神父を使って演じた。ゴードン神父にジークの軍服を着せマナで黒髪にし、銃弾に撃たれ死んだ役で、私は男装女子として金髪に髪を戻し同じくジークの軍服を着て、死に嘆き苦しみ、市民革命を戦い抜くとキスで誓い、アカペラで勝利の歌を歌ってみせた。
男性陣はドン引きで下女含め女性陣は色めき立ち、ゴードン神父は
「押し倒され抱きしめられるって、僕、新しい扉を開いた気分だよ」
と淫靡な瞳をキラキラさせていた。役柄上そうなってしまっただけなんですけどね。帰宅したジークは、私がゴードン神父の亡骸役を抱きしめて歌う姿に硬直していた。思い出してまだ笑える。
「ライム、おいで」
ライムがポンと肩に乗り、ゆらゆらと揺れている。イリアスの時はどこでも一緒の相棒。準備が終わると馬車に乗り込んだ。
「少しお痩せになりましたね」
お針子でもあるマゴットは私のドレスをいくつか仕立てていたらしく、エルデバルト伯爵家に相応しい上品なドレスを着せてくれた。
「髪が短いとドレスは似合わないわ」
「お嬢様、お嬢様の髪がございます」
マゴットは私の髪を売ることなく、襟足ウィッグとして編み直してくれていて、長い髪の毛を背中に流した。
支度が出来るとマゴットがベルを鳴らして、部屋に貴族ジャケットのジークが入ってくる。一瞬目を丸くしてから目を逸らし、何故か困った顔をしていた。
「き」
き?黄色?ああ、金髪?
「ええ、実は金ぱーー」
「き、き、き、綺麗だな!」
言い慣れていない叫んだ感じに、私はマゴットと顔を見合わせて吹き出して笑ってしまう。
「まともな食事にありつこう」
ああ、その前に。
私は手のひらに載せた指輪にマナ文字をマナで入れると、ジークの左手をとって薬指にキスをしてから指輪をはめた。硬直したように呆然としているから楽にはめられた。そして私の左手にも指輪をはめた。
「私の名前のマナ文字です。これでジークは指輪を通じて私の魔力が使えます。コントロールが苦手なら剣に乗せるのが早いですよ」
ジークは自分の左手をじっと見てから、私の前に片膝を付き臣下の礼の如く私の左手を恭しく取り、指輪をしている薬指に唇を添える。
「俺のためにーーお、俺が好きだからか?」
「いえ、あ、まあ、あなたが近くいるのが普通ですし、近衛隊長がマナを持つのはよいことですから」
ジークはふっと笑うと、
「今はそれでいい」
と私の手を取る。それから一階の食堂に降りて行きながら話してきた。
「酒は飲めるか?」
「嗜む程度です」
「では、イリアスと領地の酒場に行きたい」
「友達いないのですか?」
「イリアスがいるだろう」
つまり飲み友達がいないわけですね。私は少し笑ってしまった。
イリアである私の仕事は女主人として屋敷の切り盛りで、イリアスである私は馬車で教会に行くことだ。平民の婚約者だからか夜会の誘いも特になく、私は王都の外の領主屋敷から出ることはなく過ごしていた。
イリアスの死化粧は評判が良く、ライムはよく働いてくれている。婚約者ではあるが王都に入ることは許されていないから、まだ女王陛下からの許可を得ていないが、領民は私イリアのことを認めているようだ。ジークも近衛官舎を引き払い帰宅するようになって、屋敷の中も活気付いている。特にジークのじいやさんであった執事のエドルフは、毎日生き生きしていた。たまにゴードン神父まで来るし。
そんな半年が過ぎたある日、ジークが当直明けで朝帰るなり、私の手を取り二階に連れていく。
「急で悪いが、仕事だ、イリアスに」
つまりは死化粧をする人が出たのね。
「話を聞きながら、着替えるわ。マゴット、衝立を」
マゴットが衝立を出してきて、私はその一角で着替え始める。
「聖女カナエからの要望だ」
そうか、もう卒業の時期になる。聖女カナエの祈りの儀式が近づいていたのだった。
「王宮化粧師がいるでしょう?なぜ私を」
聖女カナエは高校生。今年で十七になる。化粧っ気のない可愛い顔をしている普通の高校生を召喚した国。その国で命を賭して聖なる帷を引く役目。
「分からん。ただ、生まれて初めてで最後の化粧は綺麗にしてほしいからと」
死ぬことを理解している言葉だけど、異世界人のオドを祈りによりマナに変換して王都を守る帷を張るなんて、いささか都合が良い話ではないか。
「ジーク、私に考えがあるのですが」
「良からぬことを考えているな。前世の知恵というやつか?」
「ーーええ。そうですね」
衝立を外してイリアスの姿で鞄を持つ。
「では、行ってくるよ、マゴット」
声は低く、榛色の短い髪に茶色の瞳でマゴットを見つめると、マゴットがまるで恋する乙女のような表情をする。歌劇団に夢中にだった私みたいだわ。
実はゴードン神父に頼まれて歌劇団の真似事をしたことがある。男装が板につき過ぎているって話になり、私は私が大好きだった演目の一部をゴードン神父を使って演じた。ゴードン神父にジークの軍服を着せマナで黒髪にし、銃弾に撃たれ死んだ役で、私は男装女子として金髪に髪を戻し同じくジークの軍服を着て、死に嘆き苦しみ、市民革命を戦い抜くとキスで誓い、アカペラで勝利の歌を歌ってみせた。
男性陣はドン引きで下女含め女性陣は色めき立ち、ゴードン神父は
「押し倒され抱きしめられるって、僕、新しい扉を開いた気分だよ」
と淫靡な瞳をキラキラさせていた。役柄上そうなってしまっただけなんですけどね。帰宅したジークは、私がゴードン神父の亡骸役を抱きしめて歌う姿に硬直していた。思い出してまだ笑える。
「ライム、おいで」
ライムがポンと肩に乗り、ゆらゆらと揺れている。イリアスの時はどこでも一緒の相棒。準備が終わると馬車に乗り込んだ。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
【完結済】冷血公爵様の家で働くことになりまして~婚約破棄された侯爵令嬢ですが公爵様の侍女として働いています。なぜか溺愛され離してくれません~
北城らんまる
恋愛
**HOTランキング11位入り! ありがとうございます!**
「薄気味悪い魔女め。おまえの悪行をここにて読み上げ、断罪する」
侯爵令嬢であるレティシア・ランドハルスは、ある日、婚約者の男から魔女と断罪され、婚約破棄を言い渡される。父に勘当されたレティシアだったが、それは娘の幸せを考えて、あえてしたことだった。父の手紙に書かれていた住所に向かうと、そこはなんと冷血と知られるルヴォンヒルテ次期公爵のジルクスが一人で住んでいる別荘だった。
「あなたの侍女になります」
「本気か?」
匿ってもらうだけの女になりたくない。
レティシアはルヴォンヒルテ次期公爵の見習い侍女として、第二の人生を歩み始めた。
一方その頃、レティシアを魔女と断罪した元婚約者には、不穏な影が忍び寄っていた。
レティシアが作っていたお守りが、実は元婚約者の身を魔物から守っていたのだ。そんなことも知らない元婚約者には、どんどん不幸なことが起こり始め……。
※ざまぁ要素あり(主人公が何かをするわけではありません)
※設定はゆるふわ。
※3万文字で終わります
※全話投稿済です
婚約者の王子に殺された~時を巻き戻した双子の兄妹は死亡ルートを回避したい!~
椿蛍
恋愛
大国バルレリアの王位継承争いに巻き込まれ、私とお兄様は殺された――
私を殺したのは婚約者の王子。
死んだと思っていたけれど。
『自分の命をあげますから、どうか二人を生き返らせてください』
誰かが願った声を私は暗闇の中で聞いた。
時間が巻き戻り、私とお兄様は前回の人生の記憶を持ったまま子供の頃からやり直すことに。
今度は死んでたまるものですか!
絶対に生き延びようと誓う私たち。
双子の兄妹。
兄ヴィルフレードと妹の私レティツィア。
運命を変えるべく選んだ私たちは前回とは違う自分になることを決めた。
お兄様が選んだ方法は女装!?
それって、私達『兄妹』じゃなくて『姉妹』になるってことですか?
完璧なお兄様の女装だけど、運命は変わるの?
それに成長したら、バレてしまう。
どんなに美人でも、中身は男なんだから!!
でも、私達はなにがなんでも死亡ルートだけは回避したい!
※1日2回更新
※他サイトでも連載しています。
猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない
高遠すばる
恋愛
幼い頃、婚約者を庇って負った怪我のせいで目つきの悪い猛禽令嬢こと侯爵令嬢アリアナ・カレンデュラは、ある日、この世界は前世の自分がプレイしていた乙女ゲーム「マジカル・愛ラブユー」の世界で、自分はそのゲームの悪役令嬢だと気が付いた。
王太子であり婚約者でもあるフリードリヒ・ヴァン・アレンドロを心から愛しているアリアナは、それが破滅を呼ぶと分かっていてもヒロインをいじめることをやめられなかった。
最近ではフリードリヒとの仲もギクシャクして、目すら合わせてもらえない。
あとは断罪を待つばかりのアリアナに、フリードリヒが告げた言葉とはーー……!
積み重なった誤解が織りなす、溺愛・激重感情ラブコメディ!
※王太子の愛が重いです。
転生おばさんは有能な侍女
吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした
え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀?
転生おばさんは忙しい
そして、新しい恋の予感……
てへ
豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!
どうやら私(オタク)は乙女ゲームの主人公の親友令嬢に転生したらしい
海亜
恋愛
大交通事故が起きその犠牲者の1人となった私(オタク)。
その後、私は赤ちゃんー璃杏ーに転生する。
赤ちゃんライフを満喫する私だが生まれた場所は公爵家。
だから、礼儀作法・音楽レッスン・ダンスレッスン・勉強・魔法講座!?と様々な習い事がもっさりある。
私のHPは限界です!!
なのになのに!!5歳の誕生日パーティの日あることがきっかけで、大人気乙女ゲーム『恋は泡のように』通称『恋泡』の主人公の親友令嬢に転生したことが判明する。
しかも、親友令嬢には小さい頃からいろんな悲劇にあっているなんとも言えないキャラなのだ!
でも、そんな未来私(オタクでかなりの人見知りと口下手)が変えてみせる!!
そして、あわよくば最後までできなかった乙女ゲームを鑑賞したい!!・・・・うへへ
だけど・・・・・・主人公・悪役令嬢・攻略対象の性格が少し違うような?
♔♕♖♗♘♙♚♛♜♝♞♟
皆さんに楽しんでいただけるように頑張りたいと思います!
この作品をよろしくお願いします!m(_ _)m
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない
エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい
最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。
でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる