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12 王都への召喚

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 男物の服を脱ぎ久々のバスタブに浸かる。マゴットが短い髪を洗ってくれ、私は金髪と碧眼に色を戻す。タオルで拭かれ、下着を身につけると、コルセットで整えられる。

「少しお痩せになりましたね」

 お針子でもあるマゴットは私のドレスをいくつか仕立てていたらしく、エルデバルト伯爵家に相応しい上品なドレスを着せてくれた。

「髪が短いとドレスは似合わないわ」

「お嬢様、お嬢様の髪がございます」

 マゴットは私の髪を売ることなく、襟足ウィッグとして編み直してくれていて、長い髪の毛を背中に流した。

 支度が出来るとマゴットがベルを鳴らして、部屋に貴族ジャケットのジークが入ってくる。一瞬目を丸くしてから目を逸らし、何故か困った顔をしていた。

「き」

 き?黄色?ああ、金髪?

「ええ、実は金ぱーー」

「き、き、き、綺麗だな!」

 言い慣れていない叫んだ感じに、私はマゴットと顔を見合わせて吹き出して笑ってしまう。

「まともな食事にありつこう」

 ああ、その前に。

 私は手のひらに載せた指輪にマナ文字をマナで入れると、ジークの左手をとって薬指にキスをしてから指輪をはめた。硬直したように呆然としているから楽にはめられた。そして私の左手にも指輪をはめた。

「私の名前のマナ文字です。これでジークは指輪を通じて私の魔力が使えます。コントロールが苦手なら剣に乗せるのが早いですよ」

 ジークは自分の左手をじっと見てから、私の前に片膝を付き臣下の礼の如く私の左手を恭しく取り、指輪をしている薬指に唇を添える。

「俺のためにーーお、俺が好きだからか?」

「いえ、あ、まあ、あなたが近くいるのが普通ですし、近衛隊長がマナを持つのはよいことですから」

 ジークはふっと笑うと、

「今はそれでいい」

と私の手を取る。それから一階の食堂に降りて行きながら話してきた。

「酒は飲めるか?」

「嗜む程度です」

「では、イリアスと領地の酒場に行きたい」

「友達いないのですか?」

「イリアスがいるだろう」

 つまり飲み友達がいないわけですね。私は少し笑ってしまった。






 イリアである私の仕事は女主人として屋敷の切り盛りで、イリアスである私は馬車で教会に行くことだ。平民の婚約者だからか夜会の誘いも特になく、私は王都の外の領主屋敷から出ることはなく過ごしていた。

 イリアスの死化粧は評判が良く、ライムはよく働いてくれている。婚約者ではあるが王都に入ることは許されていないから、まだ女王陛下からの許可を得ていないが、領民は私イリアのことを認めているようだ。ジークも近衛官舎を引き払い帰宅するようになって、屋敷の中も活気付いている。特にジークのじいやさんであった執事のエドルフは、毎日生き生きしていた。たまにゴードン神父まで来るし。

 そんな半年が過ぎたある日、ジークが当直明けで朝帰るなり、私の手を取り二階に連れていく。

「急で悪いが、仕事だ、イリアスに」

 つまりは死化粧をする人が出たのね。

「話を聞きながら、着替えるわ。マゴット、衝立を」

 マゴットが衝立を出してきて、私はその一角で着替え始める。

「聖女カナエからの要望だ」

 そうか、もう卒業の時期になる。聖女カナエの祈りの儀式が近づいていたのだった。

「王宮化粧師がいるでしょう?なぜ私を」

 聖女カナエは高校生。今年で十七になる。化粧っ気のない可愛い顔をしている普通の高校生を召喚した国。その国で命を賭して聖なるヴェールを引く役目。

「分からん。ただ、生まれて初めてで最後の化粧は綺麗にしてほしいからと」

 死ぬことを理解している言葉だけど、異世界人のオドを祈りによりマナに変換して王都を守る帷を張るなんて、いささか都合が良い話ではないか。

「ジーク、私に考えがあるのですが」

「良からぬことを考えているな。前世の知恵というやつか?」

「ーーええ。そうですね」

 衝立を外してイリアスの姿で鞄を持つ。

「では、行ってくるよ、マゴット」

 声は低く、榛色の短い髪に茶色の瞳でマゴットを見つめると、マゴットがまるで恋する乙女のような表情をする。歌劇団に夢中にだった私みたいだわ。

 実はゴードン神父に頼まれて歌劇団の真似事をしたことがある。男装が板につき過ぎているって話になり、私は私が大好きだった演目の一部をゴードン神父を使って演じた。ゴードン神父にジークの軍服を着せマナで黒髪にし、銃弾に撃たれ死んだ役で、私は男装女子として金髪に髪を戻し同じくジークの軍服を着て、死に嘆き苦しみ、市民革命を戦い抜くとキスで誓い、アカペラで勝利の歌を歌ってみせた。

 男性陣はドン引きで下女含め女性陣は色めき立ち、ゴードン神父は

「押し倒され抱きしめられるって、僕、新しい扉を開いた気分だよ」

と淫靡な瞳をキラキラさせていた。役柄上そうなってしまっただけなんですけどね。帰宅したジークは、私がゴードン神父の亡骸役を抱きしめて歌う姿に硬直していた。思い出してまだ笑える。

「ライム、おいで」

 ライムがポンと肩に乗り、ゆらゆらと揺れている。イリアスの時はどこでも一緒の相棒。準備が終わると馬車に乗り込んだ。











 
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