国王親子に迫られているんだが

クリム

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二十五章 魔法省の地下の

164 毒を抜いた先は

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 その理由はすぐに理解できた。例の、毒のせいである。

 目の前のオーガスタは表情はないし目も閉じているが、顔が黒ずむと同時に背中から漏れ出す光に包まれ、また真っ白の血色が失せた顔に戻り、再び黒く……を繰り返していた。

「まさか、再生陣を発動しているのか……」

「え、死体じゃないの?」

 スバルよ、分かるよ。僕も大混乱だ。再生しているのは僕の力ではなく、『オーガスタ』の体内マナが再生陣で再生を繰り返している断末魔の力なのだろう。

 つい、口に出たのはそのせいだ。僕は実際にオーガスタを見てもかなり冷静でいられた。多分、ホープを見ていたからかもしれない。

 そんな事を考えている僕を、スバルが

「ーー大丈夫?」

と見降ろして小瓶を出した。

「あ、ああ、うん、大丈夫」

 今、魔法師の動きはない。魔法師の力は来訪者のいるレーダー公に集まっている。地下への移動も見受けられなかった。僕の動き次第でアーネストが動き出す。その一手だ。

「ーーよし、やるか」

「いいぜ」

 スバルが小瓶に手を掛ける。僕は陣の停止を宣言するだけだ。左手をオーガスタの方向に翳して広げる。

「再生陣ーー解除」

と、呟くと同時に手のひらを閉じる。オーガスタの背中の下で展開していた再生陣が金の光を放ち霧散して、オーガスタの顔が黒くなった。毒も再生していたんだから、笑い草だ。

 その毒はオーガスタの身体を溶かして骨まで砕き、さらに皮膚まで喰らい尽くすと、じわりじりスバルを目掛けて、地を這い出す。

 小瓶の蓋を開けたスバルが、ニヤリと笑いながらまるで意思を持つ液体のように見える黒い毒に向かって、

「仲間が待っているぜ」

と小声で言った。

「毒ーーの仲間、まあ、そうだね……」

と僕はやや生温かい感じの言葉と共に、オーガスタの影も形もなくなった場所を見て、薄く微笑みながら呟く。

 さよなら、オーガスタ。『俺』だった形。

 毒は小瓶の中にたっぷりと収まり、蓋が締められた。

「まぁ終わりってことで、師匠によろしく。ここから先は、僕らの仕事だから、スバルは転移陣で出ていく?」

 するとスバルは拳銃を出して、

「別に問題ないよ。最後まで見てくるって、親には話してきたから。マナガンがあるから平気だと思う」

なんて話してきて。嘘だろ……やる気満々じゃないか。

「でもさあ、パールバルト王国からの内政干渉にならないかなあ。って、なに、それ」

 口がぱかんと開き、それから閉じて、スバルが困惑顔で僕にそう尋ねてきたが、何をや言わん今更と口を開きかけた時、床から黒い煙が噴き出す。

「うを!まっ……」

 身体にまといつく黒い影を払おうとしたが、目を閉じた瞬間で包み込まれ、僕は動きを止めた。

「ーー受肉幻影陣か?スバル、何に見える?」

 スバルが悩んだ挙句、不意に

「こないだ助けた赤毛のおじさんに似てる。へー、双子って本当なんだ」

ときっぱり答えた。あ、なに、ホープって『おじさん』なんだ、へー……

「へー、じゃない!なに、これ」

 僕は小さく叫びながら、多分相当変な表情を浮かべていたんだと思う。スバルが、

「別に気にすることないじゃん。だって死体が消えたら困るじゃん?」

と話した。確かにそうだけど、この姿を忘れようとして、日々ノリンであると言い聞かせて忘れ、さっきまで可愛い金髪碧眼の美少年だったのは記憶に新しい。

「それはそうなんだが……」

 その時、足音がした。

 まだヘラヘラと笑っていたスバルがそちらへと向けた。

「時間切れだ、えーと……ノリンって呼びにくいな。その身体の名前はーー」

という迷いの声がして、

「オーガスタって呼んでくれよ、スバル」

とノリンの少し高めの声ではなく、あの魔の森のあの時のオーガスタの声が耳に入り、脳へ届き、僕はーー俺は、オーガスタを自覚した。

 途端、手足の長さの間隔と視野の高さが整い、俺は黒衣の腰にある魔剣ロータスを引き抜き、ふっと肩の力を抜いた。

 頭の中に映像が鮮明に浮かび上がる。外には近衛兵が隠れているらしい。少しくらい暴れても取りこぼしなしというわけだ。

「スバルは地下から出て、ホープのお連れさんを連れて外に行け」

「あ、うん。近衛兵さん達、俺の顔を覚えてるかなあ」

「さあな、そん時はお得意のおしゃべりで切り抜けろよ。俺は地下から殲滅して二階に上がる」

 二階ではアーネストがレーダー公を制してくれる。自分達は、自分達ができる事をするだけだ。

「じゃあ、暴れるかな。ミスリル、頼むよ」

 俺は剣に映るオーガスタの顔を見た。アーネストより若くみえるが、間違いなくおっさんだ。ノリンとは違う腕の太さや足のでかさは、受肉魔法陣の凄さを実感する。

 師匠が最後に作りだした魔法陣の威力に笑えてしまうがな。

「じゃ、行くから」

「ああ、行こうか」

 俺とスバルはそれぞれ言葉短く応えると、お互いの役割と行動を開始しするため、地下の穴倉をあとにして走り出した。

 警備にあたっているのは冒険者崩れのばらばらの服の男たち、階段を降りてくる酒精の香りに強かに酔っ払っているらしい。城の中に行く奴らは貴族のみらしい。こいつらはここから城に向かい、近衛隊の注目を引く役割なのだろう。

「おい、誰かいるのか」

 が、その一声後、スバルの銃がマナを含む光弾を発射して、男の喉を撃ち抜き、絶命させた。おいおい、麻痺銃じゃないのかよ、おっかない。

 そのまま階段を派手に転がる男の物音に、俺は肩をすくめた。

「やれやれ、若者は乱暴で困るな」

 なんて呟いて『あ、ノリンは若者だ』と思った。
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