国王親子に迫られているんだが

クリム

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二十四章 毒の器奪取作戦

163 対面して安心した

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 僕とスバルはベーカーを部屋に残して、扉を出た。ベーカーは戦闘向きでないし、まあ、有り体に足手纏いだ。

 立体地図を頭に叩き込んで、幻影陣ステルスで姿を消した僕らはいくつかの魔法ゲートを抜けて、地下へと向かった。正攻法の地下への階段では最奥部にいけないなんて、ありえないと思ったが、なるほど魔法師の陣が敷かれているからかと理解した。

 古式な陣を使えるということはマナが豊富なわけで、詠唱構築の魔法とは段違いの差がある。攻撃より防御に特化した陣は厚いが、唯一の欠点は永続的に張り続けているわけにはいかない人為的欠点があるのだ。

 まあ、そのあたりは魔石だの蓄積だの色々と手がないわけではないが、この屋敷では『魔法師の交代』で補っている。だから、交代のポイントをつけばいい。しかも、来客中で公の部屋の防御陣は厚めだ。地下に割いている魔法師と陣が薄くなっているのが、僕の左目につけたモノクル式モニターゴーグルに映り込む。

 自称警備の酔っ払いを避けて、姿を隠した僕らは地下へ降りていく。ベーカーには部屋に僕らがいるように見せるための陣を貼り、ベーカーにも演技をしてもらっていた。

「へ~。かなり深いなあ」

 スバルが、感心交じりの声でそう言った。
観光に来たわけではないのだが、スバルは闇の商人メーテル商会の手の者として、押収された武器を持って滞在し、しかもホープを『レグルス王』と知りながら、レーダー公の膝下に招き入れたらしい。

「ターク大ばあちゃんの指示なんだけどさー、頭の中に直接流し込んで来るの、ほんっとやめてほしい」

「はい、お喋りストップだ」

 話し出すと止まらないスバルの言葉を手で払いのけるように塞ぐと、不意に引っ張られるような感覚に襲われて、僕は岩壁を見上げた。

 完全に塗り固められた頑丈な壁なのだが、左手に通路がある。しかし、その壁の向こうに引っ張られていた。なんだろう、懐かしいような感覚は。

「ただの壁だぜ、ノリン」

 スバルが訳がわからないって感じで壁に触れた。しかし、壁と思われた場所に腕が吸い込まれたのだ。

「ーー幻影か?めちゃくちゃリアルだよなー、これって」

 スバルに頷いて僕も壁の中に入る。受肉幻影陣ほどじゃないが、いい腕前の魔法師がいるってことだ。

 壁の中には地下へ続く階段があり、上には魔法石による灯りが小さく見えた。居住空間は古来ゆかしい伝統的な貴族屋敷なのに、地下へ行けば魔法石を用いた近代風のしつらえだ。

「毒が近いって感じるか、スバル」

 ふと思うと、僕はスバルに尋ねた。

 毒イコールオーガスタは決定だ。オーガスタから毒を回収後、その死体をホープに回収させる手筈が取られている。

 勿論、そのほかにも手配済みらしい。らしいとは、僕は聞かされていないからだ。最優的にオーガスタの死体を見つけるのが大本命で、その他の動きはアーネストが指揮しているんだ。

 しばらく下を見ながら歩いていたスバルが、

「これ、多分、いるよ」

と僕の質問へ答えを投げかけた。

「真下にいるよ。しかもたくさん。うわ、瓶で足りるのかな。いや、凝縮してるからいいか。とにかく濃厚な毒の気配がして、ポケットの中の毒の小瓶も揺れてる」

「それ、毒が毒を呼ぶってやつか?」

 この国でも珍しい黒目黒髪のスバルは、異世界から来た花嫁アキラの子だが、毒にはとにかく敏感だ。歩きながら目が地下に向いている。

「ーーそうだ。俺の髪と目の色は毒の残滓だからな。あ、母さんには言うなよ。気にするから。で、俺自身のなんかも警告済みだよ。父さんの防護陣あるから大丈夫だと思うんだけどさ、不安感?みたいな?」

 不安?

 あ、不安だ!

 僕もめちゃくちゃ不安になってきた。

 オーガスタはいる。

 間違いなくいる。

 僕の魂と呼ばれるものは、オーガスタそのものだ。ノリンとして生きてきたが、マナもオドもオーガスタなんだ。

 でも、死んだはずのオーガスタの器に引き寄せられているのは、意外な事実だった。オーガスタは生きている?そんなはずはない。でも、何だろう。

「ーー急ごう」

 よしんば死体が見つかったとしても、僕には絶賛心配なことがある。

 密かに歩いている僕たちは、アーネストとメーテル(に、扮しているセネカ)のおかげで、複数貼られているはずの魔法障壁には当たらずに、地下の旧大聖堂に到着した。

 レーダー公への来訪者によって、守りに裂かれているからだ。あちらが動けばこちらも動く、魔法は僕が僕だらに使っている微弱なマップのみで、魔法師のサルベージには引っかからないようにしている。幻影陣も僕ら自身にかけられているから、以下略だ。

 通信手段は勘。

 作戦決行前までの潜伏や準備については、教えてくれなかったアーネストから言われたのが、この爆弾発言だ。

 でも、その勘で、アーネストがどう動いているか分かる…ような気がする。これが番い効果ってやつか?

 まだ動いていない。レーダー公と話し合いの真っ最中の…気がする。遥か上空にいるシーカーも反応を示さない。

 ――そして、階段がなくなった無骨な岩肌を見せる床と壁。狭い空間の中に、あった。

 そこに眠っているかのような男は、薄汚れた冒険者の服を纏い、魔法陣が光る土塊の上に無造作に寝かされている。

 よ、よかったーー、全裸回避!

 オーガスタの死体は死んだ当時と全く同じ、はず、の、服を着ていて、胸元なんかは茶色く煤けているし、まあ、それは置いといて、なんだ、これは。

「ーー捨て置かれてる感じ?」

「だな」

 アキラの問いに、食い気味に答えた。

 だって無造作に寝かされている感じだったからだ。
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