国王親子に迫られているんだが

クリム

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二十四章 毒の器奪取作戦

162 ランカスターとレーダー

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 セネカの幻影陣で、セネカはメーテルに、元国王の姿を受肉しているアーネストは、なんの検査もなく二階のレーダー公の応接室に通された。

「すごい陣が張られている。何人分のマナだろう。ほら、アーちゃんのマナを吸い取る拘束陣を組み込んだ扉と近いかな。この防御陣は、魔法師のマナを吸い取る形で出来ているよ。僕らが部屋で暴れたら、その魔法師、死ぬかもねー」

 小声でひそりと話すセネカは黒衣のメーテルの姿であり、アーネストは元国王のやさぐれた髭面のおっさんである。

 初めは違和感があった受肉するタイプの幻影陣も、少し前までこの姿だったなあとあっさりと受け入れ、アーネストの踏み出す足に力が入る。二人の前にはメイドが一人。聞き耳するような間諜のタイプではなさそうだ。

 メイドがこちらに頭を下げると、私兵の二人はメーテルとアーネストに目を遣し、表情を変えた。

「メーテル商会からの『最後の贈り物』ですわ。公にお伝えくださるかしら。いらないなら帰りますけれど」

と話してから、メーテルが軽く溜息をつく。

「そんな無能ではなくてよね?」

 慌てて取り継ぎをした私兵は一人部屋へ入り、慌てて出てくると、メーテルとアーネストを室内へ招いた。部屋にはレーダー公と、カモンだけだ。別室に貴族はいるらしい。

「貴女が武器を取り返してくれたのでしたか。『黒衣のメーテル』殿、いや、『死の商人』と言うべきかな。そしてランカスター君を『最後の贈り物』とは……生きていたのだね、アーネスト・ランカスター君……」

 アーネストは無言で肩をすくめた。まるで本当に生きていたかのように見せる。実は一度死んで、ノリンの腹を使って生まれ直したなんて言えるわけはない。

「君、どうやらランカスターの亡霊騒ぎも『死の商人』主体の演出だと言うではないか。貴女は戦火を広げてなんとするのかね」

と話すレーダー公の蝋色の顔は、貼りついた笑みのままだ。冷静である。先に潜入していたスバルのトークスキルに、レーダー公はまんまと騙されて陥落している様子が見てとれた。いやはや、大したものである。アーネストは薄く笑う。

「私は『死の商人』武器を使うものを増やしてこそ。全ては私の商談の円卓の上にありますわ」

 メーテルがふわりと柔らかな声を上げた。

「……わしとしては全ての武器を回収してくれた貴女に感謝しかないのだが。礼を言おう。ーーさて、ランカスター君はこのまま、国王に返り咲くつもりかね。現王への代替わりを国民数多に知らせない理由は、そこにあるのかね?」

 アーネストをわざわざアーネストの母親の家名で呼ぶレーダーの言い方に、アーネストは

「……俺の大切なのはランカスターだ」

と切り出し、レーダー公はやっと喜色の笑みをアーネストに向ける。

「ああ、分かっているよ。ランカスター男爵家の再興だったね」

 それからレーダー公の横に座るカモンに視線を寄越した。カモンは静かにしている。しかし、

「ああ、うん。では、俺が国王でいいのだね、お祖父様。そうだろうとは思っていたよ」

黙ってお茶を飲んでいたカモンが楽しげな笑みで、アーネストとレーダー公の会話を遮った。

「安心したまえ。俺はオドもマナも前国王の父様譲りでしっかりとある。シャルス兄上のように病弱でもないからな」

「――確かにオドもマナも豊富だな」

 アーネストは『前国王』を『父』と呼び、『現国王』を『兄』と呼び切ったその返答に再び薄く笑いを浮かべた。相手は思い込まされているのか、本気なのか。洗脳でもされているのかどうなのだろうかと思いつつも続く話しに耳を傾ける。

 その隣で、物語を織りなしているメーテルの姿のセネカがすまして座っていた。茶に手をつけないのは敢えてなのか。

「父上、父上は男爵でいいのですか?なんなら公爵でも。ねぇ、お祖父様?」

 カモンが認められたとばかりに、笑顔でにっこりと笑いながら、爆弾発言をする。それに対して上機嫌なのかレーダー公は頷いている。頬がやや上気した色味をしているのは、すぐにでも決起するだろう王室転覆に気持ちを馳せているのだろうか。

 アーネストは

「いや、俺は母上の地位を復権したいだけだ」

と告げながら、腹の中で

 ばーーっかだろう、お前らは

と舌を出した。

 アーネストの、いや、獣王ランカスターの復権こそ、本意。それこそ、別の意味で王室転覆なのだからだ。

 元王家は獣王ランカスターを『民意』として追い出したレーダー公の祖先が蹂躙するいわば『レーダー朝アリシア王国』だ。しかも、レグルス王国貴族との婚姻を繰り返し、北の古典貴族主義が横行している。

 アーネストは獣王の先祖返りとして『ランカスター朝アリシア王国』を求めていた。獣王ランカスターの記憶は魔剣を継承した瞬間から、脳に染み込んだ。

 求めるのは、愛する竜王。

 とぼけた奴だがな。

「ぼちぼち、だな」

 アーネストはふわりと笑った。

 あの馬鹿は、全て何かが起きて記憶を封じてしまったから、きっと獣王の気持ちは片思いになるだろう。

 だが、アーネストは違う。

 オーガスタに会った瞬間の衝撃は、一目惚れだ。記憶に左右されたなんて言わせない。瞬間、身体を突き抜けた気持ちは、運命ではなく、奇跡だと思った。何にも揺らがない気持ちが揺れた一瞬を忘れることは出来ない。

「では、我々も動こうかーー王宮に」

 杖をカツンと付いたレーダー公が、アーネストの笑いに腰を上げた。



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