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二十四章 毒の器奪取作戦
161 屋敷の地図
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肯定するように頷いたスバルだが、スバルまで潜入するなんてどうかと思う。王太子ではないが、スバルはパールバルト王国の唯一の王子様で、ガルドバルド大陸の血を汲む貴人のはずだろう?庶民的なにこにこ破顔に忘れてしまうが、王族子弟なんだぞ、こいつ。
そんな奴が危険最前線とか。
それは問題ではないだろうか、どうにもあの師匠の血筋はぶっ飛んでいる。
僕はスペシャルちっこい師匠を思い出し、微妙な表情になった。過保護だったり放任だったりとよく分からない小人族だ。いつも巨人の肩に乗り、隻眼の獣面を連れていた。もう歩けないからだと話していたが、浮遊陣を自在に使い飛んでるんだから、歩けないの構わなくないか?と何度も思ったものだ。
「政治的配慮いるんじゃないの?シャルスも僕も知らないなんておかしいよ」
僕と同じ顔をして、ベーカーも半ば呆れたような顔で頷いている。
スバルが僕らを見て、
「ーーと言われても、俺にはよく分からないよ」
と吐息交じりに腕を軽く組む。
「ただ、ばあちゃんは怒っていた。『僕の弟子になんてことを!』って」
僕の弟子か……『俺』はそれはそれで無茶させられたよ。
『僕の弟子ですから、出来ますよね?』
みたいなことばっかりでさ。
「俺はさあ、ばあちゃんの弟と、ばあちゃんに頼まれて来てるってことで、よろしく。毒の器は間違いなく地下にあるよ。初めは分からなかった。でも、地下に変な澱みを感じていたんだよな」
肩を竦めるスバルの言葉に頷いた。
ああ、分かる、分かるんだ。オーガスタの再生され続けるオドとマナの気配が、こちらまで漂っている気がする。
「多分、その地下にコボルトたちがいるんだと思う。ノリンは毒の器を追ってるんだろ?お得意のシーカーで確認できないの?」
笑顔のままでスバルは言うがーー
「地下は魔法師の結界の中だから、簡単には覗けないよ。今だって全体を見渡すためにマナを薄く長く伸ばしているけれど、うっかり魔法師の琴線に触れそうで、地図を作ることができやしない」
地図があれば、アーネストを指揮できるってのに。そんな歯痒さを感じていた僕に、スバルが笑いながら見下ろした。
「だから俺がきたわけ」
「は?」
スバルは懐から羊皮紙を出して僕に渡してくる。それはオーガスタ時代に使っていた地図用の羊皮紙で、しかも陣が植え付けてある代物だった。
オーガスタが実験的に開発した白紙の羊皮紙は、そこに滞在している間に陣が発動し続けて、地図を作り出す自動地図制作用紙だ。
「そうだよ。ここへ来て陣を発動させて、下働きとして過ごすようにセネカさんから言われたんだ。白地図は父さんから渡されてね。あ、母さんはこのこと知らないんだよ。俺が危ないとこにいるって、言っちゃ駄目だからね。俺はスズキランドと学舎を往復しているって話してあるんだから。母さんは知ったら泣くからさあ。参るよねー、平和の国から父さんのためにやってきた人はさあ。なんのかんの、まじ子離れもできてないし」
とマシンガントークとやらをしてから、肩を竦めてきた。
「早く子離れしてくれないかなーなんて思うんだけど。あんな小さな背で伸び上がって、まだいい子いい子って頭を撫でられるんだぞ?」
これにはベーカーも吹き出した。
「ーー親には頭が上がらないものですよ」
やんわりとベーカーが言うものだから、白熱しかけたスバルが脱力して、
「そうだんだ!ベーカーさんも?ノリンも?
」
と視線を送ってくる。仕方なく僕が言ってやった。
「ーーま、まあね」
あ、諦めた顔した。
そうしてスバルは本題である屋敷の内部について話してくれる。僕はその言葉を参考にしながらマナをゆっくりと広げていく。魔法師のマナ探知に引っかからないように、細く長く糸のように伸ばしていくのだ。
建物はニ階建てで、使用人の住う半地下があり、地下は一階だけ。二階はレーダー老とカモンの住居である部屋と、貴族の集いの場がある。一階はホールには美術品や刀や、パールバルト王国製の銃火器があり、そのホールから地下へ行けるのだと話してくれた。
魔法障壁のある隠し通路だな。ほら、見えてきた。かなり深い場所に地下空間があるんだな。へえ、牢屋っぽいのもある。
僕は羊皮紙にマナを使って浮き上がらせる地図を作り出す。スバルが白地図を持ってウロウロしてくれたお陰で、マナを集めて立体地図を作り出せたってわけだ。
ベーカーが驚いているのも無理はない。オーガスタの地図は今いるマナ持ちをマーカーで浮かび上がらせている。一階には、僕とベーカー、スバルだけ。あとは普通のやさぐれ者だな。地下に大きなマナ、そして小人族が数人いるな。
二階に貴族がいるってことは、二階をアーネストとセネカが殲滅?いやいや、無理だろう。アーネストに魔剣ロータスが使いこなせるか?また、バーサー化したら面倒だな。
「それは……地図ですか?」
そう尋ねてきたベーカーも厄介だ。どうにも戦闘向きではなさそうだ。連れていくいくしかないな。
「そうです。マナに反応する魔法地図ですね。オドに反応する物も作れますが、今はマナ感知をしたかったので。ことが片付いたら、レグルス王国の地図も作れますよ」
「ほ、本当ですか?私は宰相をしているのですが、正確な地図が欲しいと思っていました」
なるほど、ホープの片腕ってやつね。いい部下を持っているなあ、ホープ。
「グランシーカーを利用すれば、割と簡単かな。とにかく、先に毒の器を解放しよう。二階でひと騒ぎあるはずだから、その前に地下に降りていこう。アーネストが暴走する前に、合流したい」
スバルが
「暴走ってーー」
と肩を竦めてから、僕とベーカーを見つめた。
「ノリンの実力は知っているけど、この少人数で行くのか?めちゃくちゃ不安なんだけど?」
そこまで聞いたところで、僕は僕らの身体にすぐさま陣を掛ける。魔法障壁ーーは、大丈夫だな。意外にも地下だけか?
「ーー幻影陣で見えなくした。スバル、麻痺銃を出しておいてくれ。先に毒に辿り着きたい」
僕は地図を片手に、魔剣ミスリルを腰から抜いた。
そんな奴が危険最前線とか。
それは問題ではないだろうか、どうにもあの師匠の血筋はぶっ飛んでいる。
僕はスペシャルちっこい師匠を思い出し、微妙な表情になった。過保護だったり放任だったりとよく分からない小人族だ。いつも巨人の肩に乗り、隻眼の獣面を連れていた。もう歩けないからだと話していたが、浮遊陣を自在に使い飛んでるんだから、歩けないの構わなくないか?と何度も思ったものだ。
「政治的配慮いるんじゃないの?シャルスも僕も知らないなんておかしいよ」
僕と同じ顔をして、ベーカーも半ば呆れたような顔で頷いている。
スバルが僕らを見て、
「ーーと言われても、俺にはよく分からないよ」
と吐息交じりに腕を軽く組む。
「ただ、ばあちゃんは怒っていた。『僕の弟子になんてことを!』って」
僕の弟子か……『俺』はそれはそれで無茶させられたよ。
『僕の弟子ですから、出来ますよね?』
みたいなことばっかりでさ。
「俺はさあ、ばあちゃんの弟と、ばあちゃんに頼まれて来てるってことで、よろしく。毒の器は間違いなく地下にあるよ。初めは分からなかった。でも、地下に変な澱みを感じていたんだよな」
肩を竦めるスバルの言葉に頷いた。
ああ、分かる、分かるんだ。オーガスタの再生され続けるオドとマナの気配が、こちらまで漂っている気がする。
「多分、その地下にコボルトたちがいるんだと思う。ノリンは毒の器を追ってるんだろ?お得意のシーカーで確認できないの?」
笑顔のままでスバルは言うがーー
「地下は魔法師の結界の中だから、簡単には覗けないよ。今だって全体を見渡すためにマナを薄く長く伸ばしているけれど、うっかり魔法師の琴線に触れそうで、地図を作ることができやしない」
地図があれば、アーネストを指揮できるってのに。そんな歯痒さを感じていた僕に、スバルが笑いながら見下ろした。
「だから俺がきたわけ」
「は?」
スバルは懐から羊皮紙を出して僕に渡してくる。それはオーガスタ時代に使っていた地図用の羊皮紙で、しかも陣が植え付けてある代物だった。
オーガスタが実験的に開発した白紙の羊皮紙は、そこに滞在している間に陣が発動し続けて、地図を作り出す自動地図制作用紙だ。
「そうだよ。ここへ来て陣を発動させて、下働きとして過ごすようにセネカさんから言われたんだ。白地図は父さんから渡されてね。あ、母さんはこのこと知らないんだよ。俺が危ないとこにいるって、言っちゃ駄目だからね。俺はスズキランドと学舎を往復しているって話してあるんだから。母さんは知ったら泣くからさあ。参るよねー、平和の国から父さんのためにやってきた人はさあ。なんのかんの、まじ子離れもできてないし」
とマシンガントークとやらをしてから、肩を竦めてきた。
「早く子離れしてくれないかなーなんて思うんだけど。あんな小さな背で伸び上がって、まだいい子いい子って頭を撫でられるんだぞ?」
これにはベーカーも吹き出した。
「ーー親には頭が上がらないものですよ」
やんわりとベーカーが言うものだから、白熱しかけたスバルが脱力して、
「そうだんだ!ベーカーさんも?ノリンも?
」
と視線を送ってくる。仕方なく僕が言ってやった。
「ーーま、まあね」
あ、諦めた顔した。
そうしてスバルは本題である屋敷の内部について話してくれる。僕はその言葉を参考にしながらマナをゆっくりと広げていく。魔法師のマナ探知に引っかからないように、細く長く糸のように伸ばしていくのだ。
建物はニ階建てで、使用人の住う半地下があり、地下は一階だけ。二階はレーダー老とカモンの住居である部屋と、貴族の集いの場がある。一階はホールには美術品や刀や、パールバルト王国製の銃火器があり、そのホールから地下へ行けるのだと話してくれた。
魔法障壁のある隠し通路だな。ほら、見えてきた。かなり深い場所に地下空間があるんだな。へえ、牢屋っぽいのもある。
僕は羊皮紙にマナを使って浮き上がらせる地図を作り出す。スバルが白地図を持ってウロウロしてくれたお陰で、マナを集めて立体地図を作り出せたってわけだ。
ベーカーが驚いているのも無理はない。オーガスタの地図は今いるマナ持ちをマーカーで浮かび上がらせている。一階には、僕とベーカー、スバルだけ。あとは普通のやさぐれ者だな。地下に大きなマナ、そして小人族が数人いるな。
二階に貴族がいるってことは、二階をアーネストとセネカが殲滅?いやいや、無理だろう。アーネストに魔剣ロータスが使いこなせるか?また、バーサー化したら面倒だな。
「それは……地図ですか?」
そう尋ねてきたベーカーも厄介だ。どうにも戦闘向きではなさそうだ。連れていくいくしかないな。
「そうです。マナに反応する魔法地図ですね。オドに反応する物も作れますが、今はマナ感知をしたかったので。ことが片付いたら、レグルス王国の地図も作れますよ」
「ほ、本当ですか?私は宰相をしているのですが、正確な地図が欲しいと思っていました」
なるほど、ホープの片腕ってやつね。いい部下を持っているなあ、ホープ。
「グランシーカーを利用すれば、割と簡単かな。とにかく、先に毒の器を解放しよう。二階でひと騒ぎあるはずだから、その前に地下に降りていこう。アーネストが暴走する前に、合流したい」
スバルが
「暴走ってーー」
と肩を竦めてから、僕とベーカーを見つめた。
「ノリンの実力は知っているけど、この少人数で行くのか?めちゃくちゃ不安なんだけど?」
そこまで聞いたところで、僕は僕らの身体にすぐさま陣を掛ける。魔法障壁ーーは、大丈夫だな。意外にも地下だけか?
「ーー幻影陣で見えなくした。スバル、麻痺銃を出しておいてくれ。先に毒に辿り着きたい」
僕は地図を片手に、魔剣ミスリルを腰から抜いた。
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