国王親子に迫られているんだが

クリム

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二十四章 毒の器奪取作戦

160 分かったことは

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 そうして、決戦?の日の早朝。

「準備はいいか?」

 王宮の裏口、いや、離宮の裏口にいるのは僕とアーネスト、そしてセネカだ。アーネストの言葉に僕は頷いた。一応、商人風のさっぱりした綿の服になっているが、セネカの陣で変装?するのだが、とりあえずなんとなくだ。

 シャルスには昨日話してあり、大層心配されてしまったが、反対はしなかった。ホープは最終局面で転移陣で呼び寄せるわけだから、しばらくシャルスと一緒にいてもらう。本当に顔色がいい。悔しいけれど、これが『番い』効果なんだろう。

「うん、行こうよ」

 僕は腰裏に差している魔剣ミスリルを撫でながら、アーネストとセネカを見上げた。

 そう、見上げたんだ、畜生!

 セネカは僕より少し背が高い。でもアーネストは僕より小さかったのに、今はちょっと見上げるくらいになった。悔しいけれど、僕は背が伸びていない。

「オーちゃん、行くよ」

「あ、うん」

 僕らは王家のマナを必要とする隠し通路を再び潜り、街に出る。そこから馬車に乗り、貴族街へと戻る。馬車の中でセネカの変幻陣を受けて、レーダー公の屋敷に到着した。

 元大聖堂の建物を買い取って造り上げたレーダー公の屋敷は、前に来た時より雑然とした感じがした。だが、庭は静かで、冒険者気取りの男たちも見当たらない。門番はレーダー公の私兵の制服だ。

「それでは、行きますよ」

 馬車から降りたセネカはメーテル商会のメーテルさんの黒い喪服に金の長い髪の姿に変幻し、アーネストは『ランカスターのアーネスト』の姿になっていた。だからか、なんだか胸が締め付けられる。僕は髪色を茶色にしたくらいで特に変幻はしていない。メーテルさんの部下?扱いなのかな。

「ーーランカスターじゃねえか」

 え?私兵の皆さんは、誰だよ。冒険者崩れか?

「連絡が行っていると思いますが、公にお目通りはかないますか」

「おぅ、メーテル商会だろう?喪服の美人。ランカスターを今まで匿っていたんだってな。あんたの手下から聞いたぜ」

「ーーええ」

 答えたセネカは、アーネストを見上げて目配せした。それを受け止めたアーネストが

「公はしばらく姿を消せと言われてな。闇商人のお膝元さ」

と愛想のある口調で言う。

「俺たちは早く暴れたくて仕方がないってのに、お前を待っていたんだぜ」

「俺らは闇商人を待っていたんだろーが――公もお待ちだ。おい、このガキは?」

 声を掛けられた僕は困ってしまう。私兵にしては柄が悪いな、こいつら。

 僕の隣でアーネストが

「闇商人のペットですよ。俺には使わせてくれないが、良い声で鳴く」

とにやりと笑う。

「貴婦人の趣味は計り知れんな。まあ、ようこそ、第二の王宮へ」

 ええ、とセネカが頷いて、アーネストと二人で前を歩いていく。

 王宮?は、なんだそれ。

 僕はそれを見て、小さく苦笑した。僕が知らないだけで、どうやらかなりの根回しがされているみたいだ。

 大きなの扉のところにはなんとスバルがいて、

「ようこそ、メーテル様。公がお待ちかねですよ。俺はこの子と一緒に一階で待っていますから」

と、僕に爽やかに笑いかけてきたのだった。






「スズキランドで行方不明になった小人族は、実はまだいたんだ。『毒』を入れる『容器』を作ったコボルトなんだけど。おばあちゃんの弟さんーー王様から頼まれて、それで俺がここに来たんだよ。『毒』回収も含めてね」

 中央に伸びるひと気のない廊下を右に折れていくと、なるほど小綺麗にしたならず者が広間にたむろしていて、賑やかだ。貴族ジャケット連中は二階って感じか。

 シーカーを動かしてアーネストとセネカを追うが、何やら話をしているだけのようで、僕はスバルが与えられている部屋に案内された。

 部屋の中には商人服の茶赤髪が一人いて、抜けるような白い肌の色と、髪色からレグルス王国の者だとすぐに分かった。

「スバル、彼は誰なの?」

「ーーああ、殿下の直属の部下だよ。大丈夫、殿下も彼も『毒』は抜いたから」

 というか、一体、何が何やら。

「スバル殿、こちらの子どもは」

 子ども、既に成人済みなんだが、カチンとくるなあ。

「協力者だよ。心配するなって、かなりの手練れだ」

「しかし、陛下がーー」

「陛下は王宮にいるよ。アリシア王家がちゃんと保護しているって、この子が話してくれた」

 ま、まあ、保護は間違いではない。

「よかった……私は陛下、いえ、陛下の腹心で宰相補佐のベーカーと申します。その子、いや、あなたはーー」

「ノリン・アリシアです。アリシア王国王配のーーと、言った方がいいかな?姿は少し変えています。レグルス王国の君と陛下がアリシア王国にいるのは、亡命と捉えていいのか、密入国と捉えていいのか、正直、わかりません。場合によっては魔剣ミスリルで処分します」

 僕の表情から何かを察したのかスバルが、

「ーーばあちゃんの指示だ」

と話しを切り出したから、僕とベーカーはスバルの方を向いた。

 部屋の窓から注ぐ日差しが、白くて明るく室内を照らし出している。僕はスバルを見ながら、室内の静寂と廊下の賑わいの反比例に苦笑した。

「実を言うと陛下は魔の森に一時避難をしていたんだよ。レーダー公に唆された従兄弟の反乱にあって地位を奪い取られた訳なんだけど、それに便乗して『行方不明の毒』を探しに来ていたんだ。ねえ、ベーカーさん」

 椅子に座り背もたれをゆさゆさしながら、スバルがそう言った。ベーカーが静かに頷く。

「そこで、セネカさんがレーダー公から巻き上げた武器だのを持ってやってきたから、レーダー公の目的が分かったんだよ。こちらも反乱だ。レグルス王国はレーダー公の姉の子で、陛下の従兄弟を冠とし、アリシア王国は先王の庶子カモンを冠とする。レーダー公が背後で操る傀儡連邦王国の誕生ってことなんだよ」

 それって、オーガスタの死体、必要なくない?

「私と陛下は魔の森ギルドに来ていたレーダー公使いの私兵募集に乗るように、魔の森の小人殿から伝えられました。そこに探し物があるとーー」

 なるほど、師匠の導きだったんだな。
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