国王親子に迫られているんだが

クリム

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二十三章 黒と過去と

156 えっ、振られたの?

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「昔から思っていたのです。母上はオーガスタが大好きで、私もオーガスタが大好きで……でも、でも、どうしてですか?こんなに胸が高鳴るのは」

 シャルス…僕が知るものかよ。その言葉を聞いたアーネストが子供のくせに腕を組んで、訳知り顔って雰囲気だ。ん?シャルスの夢見心地な表情、なんだかどこかで見た記憶があるようなーー

 そこにアーネストの一声。

「父上の幼い恋心はおばあさまの刷り込みだったのではありませんか?王息の僕にもわかります。父上はホープ殿に『番い』としての測りきれない愛情の意識をお持ちなのでは?」

 やっぱりかーー!

 番い!

 番いだ!

 リンク、いや、ミカエルがセネカを見ている顔なんだ。獣族特有の『魂の番い』かよ。

「もう少し具体的に話してくれないか?」

 ホープよ、何故そこまで冷静なんだよ。

 でもホープもシャルスから目が離せないでいる。つまり、シャルスに惹かれているってことだ。そもそもシャルスは王であって、ホープも王であって、一体どうするんだよ。

「父上、レグルス王国陛下の近くにいるだけで安心しませんか?身体の辛さが軽減しませんか?」

 アーネストがピョンとソファから降りて、シャルスの横に手招きし、ホープを座らせた。そして改めていつもより顔色がいいシャルスを見上げる。

「え、ええ、息苦しさがないといいますか……でも、それが?」

「父上のマナとオドを含め陛下全てを求めてるのが『番い』だとーー」

 シャルスが驚いた表情をしたから、アーネストがくるんと僕を見て、

「ーー母上がおっしゃっていました」

 は?知らねえぞ、そんな……あ!ああ、師匠から、確か聞いたことあるな。

「え、ああ、そうだね。マナの拮抗とは別にガルドバルド大陸には『魂の番い』と言うものがあるんだよ。番いはマナを交換出来る。セネカとミカエルがそうだよね。ミカエルの腹実の排出時に、セネカが身体に触れてマナを送っていたから。どうだろうか、少しだけシャルスの手に触れてマナを流すというのは」

 その時の僕の提案に、シャルスを耳や首まで真っ赤にし、アーネストは口を開けて僕を見て、ホープはこめかみに手をやって首を項垂れたのだ。

「坊ちゃん、それは王配として、別国の王に伴侶としての王の玉体を触れてみよとの進言となります」

 僕は給仕を始めたアズールの声を聞いて、ようやく自分が言い出したことの重大さに気付いた……のだが、

「ーーふ、触れてもいいです」

とシャルスは吃りそうな声で告げる。え、嫌なの?と見ればテーブルについたシャルスは真っ赤のままだし、

「あ、ああ、試しはのちほど」

と口籠るホープはさすがに冷静だが……あ、パンをちぎり落とした。アーネストも苦虫を潰したような顔で沈黙していて食卓が微妙に重い。

「デザートはテーブルにご用意いたします」

と他人事とばかりに冷静なレーンが、デザートをテーブルに用意していて、珍しくソルベだった。

「赤ワインのソルベです」

とアズールが告げて、僕の後ろに下がる。赤ワインかあ……とスプーンですくって口に入れると、かなりの甘さの中にアルコールが鼻に抜ける。なんだか張り詰めていたからホッとした。

 ホープはソルベを保管していた冷蔵庫の方が気になっているようだ。魔石を使った生活魔法器だからな。

 冷たいワインボンボンみたいな味わいを堪能していると、シャルスが小さな声でぽそりと呟いた。

「ーー私の二つ名は『文明を広める者』……アリシア王国では市井から広めています。それは多分階級を跨ぎ広がっていく。私はアシリア王国を皮切りに、レガリア連邦王国全土に広めたいと思っています」

 うん、そうだ。シャルスが自分で考えた治世の在り方だ。ホープも同じく文明を欲していて、どちらも、同じ思いだろう。

 父様はアリシア王国から先に南寄りに鉄道を広げていくと話していて、その終着駅がレガリア王国になれば、ガルドバルド大陸とユグドガルド大陸の両大陸が完全に繋がる。

 物流ルートが確保され人の交流が始まれば、文明を一気に加速発展することが出来るはずだ。

 師匠の願いでもある両大陸の文明の拮抗は、大陸の捩れや歪みを無くす。

 それはここにいる誰もが理解できた。

 だが、それにはーー

「父上、譲位をお願いいたします。そしてレグルス王国に嫁してくれませんか?」

 アーネストがソルベを食べ終えて口を開いたら、とんでもないことを言い出した。

「は?アーネストーー」

 僕は慌ててアーネストを見た。

「僕はお祖父様の記憶を持っています。お祖父様の記憶があるから、父上を手伝えるのです」

 しれっと答えてアーネストは、小さいくせに足を組んだ。

 はああああーー!!

 こいつ言った、言っちゃったよ。

 シャルスなんて口ぽかんって空いちゃってるよ、もう、可愛いなあ。

「もう一度言います。僕にはお祖父様の記憶があるから分かるのです。父上はお祖母様の気持ちを自分の気持ちとして『ご自身の気持ちとして』受け継いでいるのです。まさに一種の縛りつまり『呪い』のようなものです。本来の番いはお隣のレグルス王国の陛下であることは、獣族の血を持つ僕にも理解できるほど。ーー実際、父上のマナがオドが満ち始めているのに、何を悩まれておいでですか?」

 アーネストの淡々とした口調に、僕はああ、本当にアーネストだなあ……なんて思い返して、

「うーん」

と口を押さえてしまった。でもさあ、こいつまんまアーネストだよ?なにがお祖父様の記憶を持って生まれてきただよ。

 つまり途中でオーガスタを意識した僕とは違い、『中年のおっさんの記憶と意識があるアーネスト』に対して、僕は股の間のマナで出来た道を使い生み出し乳を咥えさせた。うん、それは恥ずかしい。だが、よく考えてみたら、こいつは僕に下の世話などしてもらっていたではないか。アーネストの方が恥ずかしい。ふふ、ざまあみろ。

「ーーいつから……」

 考えつつハッとして目を向けると、シャルスがやっと口を開いた。視線を泳がせていたシャルスが上目遣いのアーネストとようやく目を合わせる。するとアーネストは

「魔剣ロータスを抜いた時に、お祖父様の記憶が流れ込んで来ました」

と小さく声を上げた。

 う、嘘つきめ。でも、その方がいいに違いない。

「まずは、本当に番いかどうか確かめてみてはいかがでしょうか。母上、父上に提案を実行を進言しては?」

「は? ああ、それもそうだね。触れてってのは番いの確かめためだからね。僕らは二階にいるから、シャルス。後で来てよ。レーン、頼んだ」

 ひとまず促されて僕はアーネストと席を立ち、レーン頼むと二階に上がっていく。シャルスは僕を見ていない。

 ん?あれ、僕含む『俺』振られたの?
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