国王親子に迫られているんだが

クリム

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二十三章 黒と過去と

155 シャルスの視線

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「ユグドガルド大陸とガルドバルド大陸の文明の均衡化。それには私も賛成だ。だが、その前に『毒の容器となった兄』を解放しなければならない」

 僕らの出発の原点はそこになる。お茶のおかわりを飲みながら、誰もが無言になる中で、ふとホープが顔を上げてた。

「ーー今はノリン・アリシアと名乗っているようだが、言わせてくれないか」

 そう前置きしてホープが口を閉じてから、少し顔を傾け、苦しそうな顔をして笑った。

「兄上……私は会いたかった。貴方に全てを背負わせたのに、玉座を守れなかった。もうしーー」

「取り返せ、竜の末裔よ。俺たちがお前の力になる。こちらには魔剣ロータスとミスリルの保持者がいる」

 詫びながら頭を下げたホープに対して、当たり前のようにアーネストが言葉を投げる。

「王、兄上……」

 ホープが顔を歪める。僕は目を見開き、ホープとアーネストを見つめた。

 僕にはホープの双子の兄って記憶はない。でも、マントと魔剣が何故手にあり何故馴染んでいた。物心ついた時には手にしていたそれらが、レグルス王国の『宝物』だってことに驚いていたのだが、レグルス王国について何もかも忘れているのに謝ってもらっても……どう答えていいのか分からなくなってしまう。

 ただ森の賢者のことが気になって、

「二人の言っている森の賢者って……」

ホープがほしい言葉とは見当違いだと思いつつ言った。

「「ターク・タイタンだ」」

 ホープとアーネストの被るようなぴったり返答が帰ってきて、僕は口下に拳を当てる。

 やっぱりかーー!

 あの人はどこにでも首を突っ込んでる。

 オーガスタの保護役は森の巨人だが、魔法の師匠はターク師匠だ。

 師匠の意図するところは?

 もしかしてオーガスタ=ヒューチャーが魔の森に行ったのって、元より師匠のところに身を寄せるためだったのではないか。

 師匠の最大の夢はユグドガルド大陸全土の文明改革。オーガスタはそれに伴い、歩き得る全土の精密な地図を作って渡していた。

 ふと目を上げると、動かないでいるホープと、ニヤリと笑っているアーネストと目が合った。僕はノリンだけどオーガスタでもあり、多分ヒューチャーなんだろうな。

「うん、ホープ、謝らないでくれ。そして、師匠の夢を叶えるためには、貴方自身の復座が必要だ」

 そう言ってホープに手を差し出した。






 ホープの密入国仲間は町の中にいて、ホープ自身も密入国者だ。客間は使えないが、子供部屋はアーネストのために整えられていたし、とりあえずそこにいてもらうことにした。

 そもそもホープの存在を現国王シャルスには話しておかないとと思い、夕食までシャルスを待っていた。

 アフタヌーンティーの後、アーネストは政務室に戻り、僕は僕に返されたマントを手にして、アズールと共にホープの話を聞いていた。

 ホープはまず魔の森にも行ってきたらしい。魔法学舎には師匠……森の賢者がいなくて残念だったと話していた。

 それにしても、一瞬で『兄』と分かるもんなんだな……だってこっちは可愛い男の子……

「分かる。考え込む時のその口に拳を持っていく癖や、話す時に小首を傾げる仕草。兄上を愛している者ならば必ず分かる。獣の血を持つ者はマナで見分けるというが竜の血にはそれはない」

 え?

「マスター、口からお言葉が漏れています。相変わらずですね」

 え、アズール?く、癖、癖か、ま、まぁ仕方ない。

 夕食は子供部屋で取る予定だから、シャルスもアーネストも着替える前にこちらに来るだろう。

 ちらっとホープを見上げた。

 しかし、本当にオーガスタそっくりだなあ。しかも、王座を追われたっていうけど、退位したわけでもなく、廃位したわけでもないのだから、レグルス王国の『ホープ王』だ。そうならアリシア王国の『シャルス王』に目通りし、援助を受けることは出来る。

 僕の後ろいるアズールが

「そろそろお部屋の前にお越しのようです。坊ちゃん、お迎えの準備を」

「あ、うん。ホープはこのまま座っていてくれないか」

 ホープが頷くのを確かめると、扉の前にアズールが立ち、僕は立ち上がって部屋の中央でシャルスを待つ。

 シャルスは大丈夫なのかな?と思いながら

「いらっしゃいました」

と片開きの扉が中に開かれた。

「シャルス、おかえりなさい」

 そのまま扉まで歩み寄ろうと思っていたが、シャルスの目は僕を通り越している。その眼差しは、ホープの赤毛一点を見つめていた。

「オーガスタ……?」

 震える声で確認するように呼ぶと、ホープが

「いいえ」

と淡々と告げてソファから立つ。

「私はホープ」

 オーガスタより痩せ型かもしれないな。商人の服に身をやつしていたホープは、紳士らしい会釈をする。

「父上、中にお入りください」

 ぴったりと後ろにいたのかアーネストが不平を吐いた。その後ろにいたはずのレーンはちゃっかり部屋に入り、アズールが厨房に消えていくのが見える。

「オーガスタ、ではないのですか?」

 シャルスが恐る恐るって感じで尋ねながら、ソファに向かっていった。

「……どう言ったらいいやら。だが、貴方の知る『オーガスタ』の双子の弟となる」

「そ、そうですか……オーガスタは……」

「既に亡くなっている」

 それを聞いてよろめくようにたたらを踏み、ホープが手を貸して抱き止める。

 部屋の中の温度が一瞬変わったような気がしたのは、気のせいか?

 なんか、暑い?

 僕はホープが『毒』の話をしないかヒヤヒヤしていたから、シャルスの表情に気づかなかった。

 呼吸を止めたようなシャルスが、ホープを見上げた。オーガスタにむけていたようなキラキラした瞳で、ホープを見ているのが不思議な感じだ。

「あ、あの、ありがとう、ございます」

 もじもじしているシャルスに、アーネストがイラッとしたみたいな顔をして、シャルスを引き離すとソファに座らせる。

「母上、こちらの方は?」

 そもそもアーネストも知らない設定なのを思い出した僕は、僕の横に掛けたホープに対して、僕とホープで作り出した『設定』で紹介をした。

「この方はホープ・レグルス、現レグルス王です。レグルス王国で、レーダー公の縁者である従兄弟の悪巧みにあい、レグルス王国を追われたそうです。先王アーネスト様の親友でもあり、オーガスタさんのつてを辿り王国混乱を治める一助と……シャルス聞いています?あの、ホープ?」

 シャルスとホープが見つめ合っているのだけれど?

「ーー先に言っておきますが、父上はアリシア国王ですよっ!ねえ、母上」

 え?

 あ、いや、あのさ、アーネスト?急にどうした?
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