国王親子に迫られているんだが

クリム

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二十三章 黒と過去と

154 竜の末裔と獣の末裔と

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「オーガスタはなぜ死んだ?」

「おい、待て。『俺』が聞くのが普通だろうが」

 アーネストが尋ねた瞬間、僕が間髪入れず答えると、ホープが目を大きく見開いた。

「仲がよろしいな、お二人は」

 え、まあ、産みの親と子?だからな。

 ふわりと苦笑して、ホープがお茶を飲む。似ているな、やっぱりオーガスタと双子なんだな、なんて思ってしまった僕に、

「『毒』のせいだろう」

とホープは口にする。

「毒?」

 よく分からないが、多分ここで言う『毒』は『ドラゴンブラッド』だと思った。

「ああ、そうだ。我々レグルス王族は『黒竜』の末裔。捥がれてからすぐにその血を有し管理する立場にある。王族は乳の実より先に、その『祖先の血』を飲み、体内に有して『毒』を使役する毒使いなのだ」

 それは目の前にいるホープも『毒』を体内に持っていて、『毒』が体内のマナを喰らっているということになる。それと同様のことがオーガスタにも起こっていたのだろうか。

 僕は悩みながら、後ろに控えているアズールに首を傾ける。アーネストは言葉を失っている様だった。

「アズールはオーガスタの『毒』を知っていた?」

 そう尋ねるとアズールは少し間を置いてから

「確かに違和感はありました。ーーですが」

と答えた。アズールには分かっていたらしい。それから一度言葉を切り、

「私はマスターの『毒』には関心がなかったのです。害がなければ大したことはないのですよ」

と話す。

 するとアーネストが

「毒を持っていたのか、あいつ」

と言って、考え込むように首を傾げる。それから口を開き、こう告げた。

「つまり『毒を制御していた状態』でいることを忘れて、生きていたってことか。それで死因が『毒』ってことは、何か『毒を制御出来なくなった事態』が起きたのか?」

「許容範囲以上の『毒』を浴びたためだ。今から話すことは、貴方方の国を揺るがすかもしれないことだが、よろしいか」

 アーネストに視線を移してから深く息を吐いて、頷いたアーネストを確認すると、ホープは指を組み合わせて考え込み、言葉を選んでいるようだった。

「ーー我が国の秘宝とも言われている『ドラゴン・ブラッド』が盗まれた。従兄弟が関わっているらしいが、それを唆したのはアリシア王国の重鎮。貴方方も知り得る御仁だ」

 アーネストをチラリと見たホープが、アーネストの言葉を待っていた。だが、アーネストは言わないでいる。重鎮って言ったら蝋人形みたいなジジイ、いや、じいさまのレーダー公だろう。

「言わないか……では、私の口から話そう。レーダー老公によって唆された従兄弟は、王族のみが開けることのできる宝物庫の奥底から『毒の小瓶』を盗み出し、配下に渡すと素知らぬ顔をしていたようだ。従兄弟とは名ばかり、前王と貴族のとある女の間のロマンスの果ての子だ。私の愚弟になる。私は私の配下を回し秘密裏に『毒』の行方を探していたが、『毒』は何かしらあったのか、パールバルト王国に行き、パールバルトの王配と王僕を殺したと報告を受けている。王配は森の賢者により救われたらしいが、王僕の遺体は埋葬されたと知り得たので、埋葬された場所に魔法師を向かせた。掘り起こしたそこに兄が居合わせたらしいのだ」

 ーーあ!

 不意に浮かんできた記憶が蘇ってくる。

「『毒』は『より多い毒』に吸い寄せられる。魔法師が持っていた瓶の中の量以上の毒を持つ兄に全ての毒が流れ込んだらしい」

 一気に思い出した記憶は、転移陣を使い森を抜けた時に広がる土塊と、黒い塊。強烈な痛みに死を意識して、再生陣を身体に塗布して倒れた。

 吐きそうになりながら、僕はホープを見上げる。

「少しは思い出したようだが、顔色が悪い。やめた方がいいか?」

「いや、いい。話を進めてくれ」

 ホープが少しだけ口許に笑みを浮かべて頷いた。ああ、オーガスタによく似ているなあ。ーーちくしょう。

「私直属の魔法師で唯一生き残った者は、兄上を『私』だと思い込み、縋り付き転移を試みたが跳ね除けられた。『私=兄』は毒の残穢に苦しみ抜いた末、転移した。それにさらに追い、その先の王宮で跳ね飛ばされ、外で待つことしばらく、黒い死体となった『私=兄』を見つけて、荷馬車を使いレグルス王国に連れ帰ったのだ」

 オーガスタの『死体』はレグルス王国にあったのか……やはり『俺』は死んでいて、このノリンに生まれ変わったわけだ。

「多くの魔法師に魔法をかけさせ留め置いていた、静かに再生陣展開しては『死なない死体』で毒の入れ物として存在していた兄が、数年前、いきなり活動を始めた。マナの光の柱に反応したのだ」

「え、貴族学舎入学試験のあれ?レグルス王国まで見えたの?」

 ホープが頷いた。

「俺もあれでお前の存在を理解した。あのマナは間違いなくオーガスタのマナだ。今度こそ捕まえてやると、魔剣ロータスに誓ったものだ。探したのだぞ、馬鹿者め」

 アーネストがぞんざいに呟き、それを聞いたホープが、

「ーーまさか、アリシア王、自身か?」

と目を見張り口を押さえた。

 うっかりと話したアーネストを見て、僕は

「あの、あのですね」

と言い訳をしようとした。

「問題はないだろう。そなたがその身を明かしたのだから、知る権利はある。俺は、アーネスト・アリシア。我が息子シャルスのために一度絶命し、こいつの腹を使って出てきたまでだ。森の賢者の教え通りにな」

 なっ、なんで言うんだよ!馬鹿!

 ホープは興味もなさそうに、

「なるほど、森の賢者か」

と呟いた。

 森の賢者……師匠のことか?

 ありうるよな、あの人ならやりかねないし。え、じゃあ、アーネストもホープも師匠を知っているんだ?

「賢者は竜と獣の末裔にこの大陸の繁栄をさせるつもりだ。大陸同士、あちらとこちらのバランスが崩れると、この大陸間の歪みで世界が崩壊する。森の賢者はそのために俺を生かすことにしたようだ。俺はお前の師匠に二度も救われたのだ」

 アーネストは僕を見ながらそう言って苦笑した。
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