国王親子に迫られているんだが

クリム

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二十三章 黒と過去と

153 お前は誰だ?

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 おいおい、王宮に、しかも、王族の私室に外部者を入れちゃっていいのかよ。

 マントを目深に被ったままホープは僕の前に座り、アーネストは僕の横に座ると、

「お前は誰だ?」

と王太子らしく不遜に口を開く。その言葉を聞いて、僕は

「ーーは?」

と声を上げた。

「こいつは馬鹿だから混乱しているが、少しばかり造形が近しいからと言って、お前が『オーガスタ』ではないであろう。だが、マントは正常に起動しているようだな。ーー何者だ?ことの次第によって、魔剣ロータスを抜くことになる」

 アズールがお茶を運んでくると、

「どうぞ」

と静かだがつっけんどんに言い放ち、すぐに僕の後ろに立つ。

「良い香りですね」

とそいつはカップに口をつける。

 ちょっと待てと止める暇もなくだ。あのさあ、毒とか考えないのか?

「別に毒など入れていませんよ、坊ちゃん。既に耐性をお持ちのようですので」

 え?

「我が身の『毒』を理解しているとは、有能だ」

 ホープがフードを外すと、長い赤い髪がこぼれ落ち、オーガスタと同じような赤い瞳が僕を射抜くように見つめる。

「ーー結界陣を」

 既に発動しているとアズールが告げると、

「私はホープ・レグルス」

と呟いた。

 レグルス?聞いたことがあるような……僕が首を傾げていると、アーネストがお茶を飲みながら、

「その長い見事な赤髪はレグルス王国の王族か」

と冷静な表情で言った。

「レグルス王族と知りながら、こちらに招いたようだな、君は。なかなか賢しいと思うが、君は誰だ?」

 二人のやりとりはなんだかめんどくさいな。こっちとしては、ホープ・レグルスのことを知りたいのに。

「ーーアーネスト・アリシア。アリシア王国王太子。こちらはノリン・アリシア王配だ。レグルス王国陛下」

 アーネストが僕の意を汲んだようにさらりと告げたから驚いた。ホープはふっと笑みを浮かべ、

「流王と言うところだ。今頃は従兄弟殿が王座に踏ん反り返っているだろう。ひとまず私の身を明かした。私の身の安全と、兄の身体の保護を願い出たいが、どうだろうか。引き換えに、欲しいだろう真実を語る」

 笑うとオーガスタに似ているな、畜生。

 僕が戸惑っていると、アーネストが頷いた。シャルスを無視していいのかよって思ったけれど、シャルスを巻き込みたくなかった。

 だから僕は

「頼むよ」

とだけアーネストに答えて固唾を飲み、すぐにアーネストが頷いた。

「よかろう。語れ」

 ホープはマントを脱ぐと、後ろに控えていたアズールに寄越し、冒険者というよりは街の商人のような姿を見せる。

「ーー前置きとして、私は目の前にいる王配殿下は『オーガスタ』という赤髪赤目の冒険者の生まれ変わりと言うことでよろしいか?」

 そう言われて驚いて顔を上げた。

「えぇと、信じてもらえるのかどうか……オーガスタの記憶を持って、います、です」

 変な敬語になる。しかしホープは気にしないでいて、

「では、私はあなたの弟になる。オーガスタと名乗っていた冒険者は、私の兄、『ヒューチャー・レグルス』つまり、亡くなったあなたの前世のことだ。冒険者オーガスタは捨て子ではなく、レグルス王国第一王子なのだから」

 オーガスタが王子?

「ちょっと待て。オーガスタがレグルス王族だと?オーガスタからそんな話を聞いたことはない。そもそも、奴は腹実だぞ」

 僕はアーネストの言葉にうんうんと首を縦に振り頷いた。小さく息を吐いたホープがその後に言葉を紡ぐ。

「王太子、あなたは冒険者オーガスタのことをよく知っているようだが?」

 アーネストが産まれ直しだなんて、言えるわけもない。僕とアーネストは顔を見合わせた。

「ーーまあ、いいだろう。その腹実が問題だった。双子の実として捥がれた兄は腹実。しかもマナもオドもずば抜けて、竜王の生まれ変わりではないかと囁く者もいたほどだが、腹実は王位につけぬ。レガリア連邦王国ではそんな風潮がある。だが、それすら凌駕する兄の有能さに、王宮が二分してしまいそうになっていた。だからこそ、兄は出奔することに決めたのだ。お披露目の前に消え、そして私を守るために自らの記憶も消した」

 独り言のようにそう口にしたホープは、一旦言葉を切って僕に視線を向けた。

「前のあなたは自身に忘却陣を掛け、魔の森に転移した。ーーオーガスタのマントは『黒竜の皮マント』レグルス王国の秘宝だが、王族直系のマナの高いものしか扱えず、兄は私にも使えるよう、付与を施した。だから凡庸の私にも使えるのだ。兄は自らの記憶を消し、同じく王家の魔剣ミスリルを携えて転移した。記憶を無くしただの幼子のように魔の森で生きていったのだと、マントの加護はあるもののかなり厳しい環境だったと思う……」

 声を詰まらせた感じがしたが、ホープはそのまま話を続けるようだ。

 僕が

「魔の森で熱病になった時くらいだよ、辛かったのは」

と答えて僕はふっ…と息を吐いた。魔の森では師匠がいてくれた。師匠の巨人や獣人が鍛えてくれた。だが、記憶がないことや父母を知らぬことを払拭はしてくれなかった。不安はあったよ、確かにな。

 それに複雑そうな表情を浮かべてホープは口を開いた。

「もし、私の記憶を移したならば、『ヒューチャー』の記憶は戻る。しかし、『オーガスタ』の記憶は消え、多分、今の『ノリン』の記憶すら消してしまうだろうから、やめておいた方がよかろう。兄の忘却陣は術者が死んで解除出来るような単純簡単なものではないし、我々王族の血筋は精神魔法を得意とする」

 アーネストも忘却陣を使っていたなあ。それにしても竜王とか竜族とか、マジか、マジなのか?

 そもそも、セネカは師匠のいた隣の大陸から来たのだから、獣族とか言われてもなるほどなと思うし、そもそも師匠と獣人の孫なんだからな。師匠の書いた本が本当なら、アーネストは本当の本当に獣王の血筋になるぞ。

 僕はそちらを考えてしまい、

「俺、獣族なのか?」

と疑問を呟いてしまい、

「お前は何を考えている?また口から漏れたが、今はそれはどうでもいいことだ」

とアーネストな指摘され、

「マスター」

とお茶のおかわりを持ってきたアズールにもたしなめられた。

「私の知る全てを話したが、理解出来たか?」

 いや、理解できたも何も、オーガスタそっくりの男が、オーガスタの知らないことを話しただけじゃないか。つまり証拠がない。


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