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二十三章 黒と過去と
152 オーガスタのマント
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僕はへたりと地面に座り込んでしまった。
おい待て!
今度は情報が多すぎるだろ、いきなりなんなんだ?
オーガスタとそっくりなこいつは、自分をホープと名乗り、しかも僕を兄と呼んで、『オーガスタ』ではなく『ヒューチャー』と呼んだ。そりゃあ、オーガスタは『俺』が地面に生えていた植物の名前を勝手に付けただけで、自分が何者かも分からなかったのだからな。
「機能停止していた兄上の身体が急に動いたのは、今の姿の兄上のマナを浴びたからだ。兄上のマナを辿った身体が、アリシア王国のしかも王都に向かうのだから、こちらも色々と策を練ったわけで。アリシア王国の外戚である公爵から援助を受けた我らの従兄弟が、私の廃位を求めて私兵を出してきたので、殺された振りをしてアリシア王国に潜入したのだ。ーーどうかしたのか、兄上?」
ああ、もう、こいつ。何を言っているのか分からない。
「マスター、そろそろ時間切れかと思いますが」
僕は城壁門から現れたアズールに八つ当たりのように睨み上げた。アズールは小首を傾げながら、僕とホープを見つめてから、
「城門の二人は淫夢を見てもらっていますが、交代と見回りの時間です。その無礼な男を確保するなりしてお部屋に戻りましょう」
なんてさらりと話した。
さらりすぎだろ。無礼者呼ばわりかよ。
お前はオーガスタの従獣、いや、従魔で、目の前にオーガスタそっくりと言うか、そのものがいるんだぞ?疑問はないのかよ。
「マスター?」
アズールに僕は指差してから、ホープを指差してみせた。
「こいつを見て、何も思わないのか?不思議だとか、そっくりだとか。こいつはオーガスタのマントを使いこなしているんだぞ?」
「不思議……ですか?顔はマスターとは多少似ているような気もしませんが。ーーああ、マントですか?確かにマスターのマントですね。だから、マスターはこの男をご自身と?」
どうして、マントだけ肯定するんだよ!
「兄上と私は違いますよ?」
お前は『俺に』向かって喋るな。
僕は地団駄を踏んでいて、混乱から喚き散らしそうになっていた。オーガスタの口調や意外と血が上りやすい感覚が全面に出て、すっかり取り繕えなくなる。
「…………マスター?では、『これ』を別の場所に移してはいかがでしょうか。立ち話もなんですし、私的にはマスターが気にしている容姿については全く興味ありませんが、マスターの遺品でもあるマジックアイテムマントを回収したい気持ちに駆られています。私には、とても――」
ざわりとした空気感にアズールを見上げた。アズールの口端はニヤリと口角が上がり、冷たい笑いを浮かべているのを見た。
「不愉快です」
「は?アズール、何を言ってーー」
その時、僕の影から勢いよく飛び出した実体が、見知った声で叫ぶ。
気付いたアズールが殺気を消して、ふっと影に目をやる。僕もそれにつられて見てしまうと、瞬時、黒のメイド服が駆け抜けていき、その後に酔いでもしたのかアーネストが頭を振りながらたたらを踏んでいた。
「マスターのマントを脱げーーーっ!」
メイド服のスカートが翻って脚が伸びたなと思ったら、その黒いベルトヒールの靴で首を狙ったのだ。へし折る気だと理解した瞬間、マントの防衛陣が発動してレーンが吹っ飛び、アズールが回り込むとレーンを横抱きに抱き止める。
「ーー危ないではないか」
その直後、アーネストが僕の前に立ち、僕と赤毛のホープを繰り返し見た。それから低い声で
「誰だ、こいつ?」
と呟く。
「……オーガスタじゃないの?」
僕は咄嗟に視線を斜め下にして口からそう出すと、
「オーガスタはお前だ。馬鹿者」
と肩を揺らされた。
僕は全く疑いもなく吐き出された言葉に、顔を上げた。
なんで自信満々なんだよ、どうしてお前がここにいるんだ?政務宮での『お手伝い』はどうしたんだよ、そう口に出したくて唇を開きかける。
すると、急に顔が近づき、
「難しく考えるな、馬鹿」
と唇が塞がれた。
キスされた!
人が見ているからやめろと抗おうとしたが横抱きにされて、
「子供部屋にポータルがある。それを連れて転移しろ」
とホープに興味なさそうに告げた。
「でも、王宮だ。魔法師の保護が……おい!」
僕を横抱きに抱きながら、ホープのマントの端を掴んだアーネストはにやりと子供らしくない笑い方をする。
あ、アーネスト、僕と同じくらいの背丈になっているのだと、今更ながら気づいた。王族って育ちが早いってのは本当なんだな。
って、早すぎるだろーが!
「オーガスタのマントを羽織っているなら大丈夫だろ」
その直後人の気配を感じ、僕はアズールとレーンを伴い、転移陣を展開する。
正気に返った衛兵の靴先が見えた瞬間、転移陣は発動し、僕らは誰にも見られてはいないと確信しながら王宮へすんなり転移できた。
信じられないことに『異物』であるホープもまとめて転移して、王宮の守りをすり抜けることができたのだった。
僕は久々に入る子供部屋のソファに座らせられて、
「お茶をお入れします。レーンは陛下のお茶の時間ですよ。行ってください」
とアズールが仕切る部屋の中で脱力してしまっていた。
おい待て!
今度は情報が多すぎるだろ、いきなりなんなんだ?
オーガスタとそっくりなこいつは、自分をホープと名乗り、しかも僕を兄と呼んで、『オーガスタ』ではなく『ヒューチャー』と呼んだ。そりゃあ、オーガスタは『俺』が地面に生えていた植物の名前を勝手に付けただけで、自分が何者かも分からなかったのだからな。
「機能停止していた兄上の身体が急に動いたのは、今の姿の兄上のマナを浴びたからだ。兄上のマナを辿った身体が、アリシア王国のしかも王都に向かうのだから、こちらも色々と策を練ったわけで。アリシア王国の外戚である公爵から援助を受けた我らの従兄弟が、私の廃位を求めて私兵を出してきたので、殺された振りをしてアリシア王国に潜入したのだ。ーーどうかしたのか、兄上?」
ああ、もう、こいつ。何を言っているのか分からない。
「マスター、そろそろ時間切れかと思いますが」
僕は城壁門から現れたアズールに八つ当たりのように睨み上げた。アズールは小首を傾げながら、僕とホープを見つめてから、
「城門の二人は淫夢を見てもらっていますが、交代と見回りの時間です。その無礼な男を確保するなりしてお部屋に戻りましょう」
なんてさらりと話した。
さらりすぎだろ。無礼者呼ばわりかよ。
お前はオーガスタの従獣、いや、従魔で、目の前にオーガスタそっくりと言うか、そのものがいるんだぞ?疑問はないのかよ。
「マスター?」
アズールに僕は指差してから、ホープを指差してみせた。
「こいつを見て、何も思わないのか?不思議だとか、そっくりだとか。こいつはオーガスタのマントを使いこなしているんだぞ?」
「不思議……ですか?顔はマスターとは多少似ているような気もしませんが。ーーああ、マントですか?確かにマスターのマントですね。だから、マスターはこの男をご自身と?」
どうして、マントだけ肯定するんだよ!
「兄上と私は違いますよ?」
お前は『俺に』向かって喋るな。
僕は地団駄を踏んでいて、混乱から喚き散らしそうになっていた。オーガスタの口調や意外と血が上りやすい感覚が全面に出て、すっかり取り繕えなくなる。
「…………マスター?では、『これ』を別の場所に移してはいかがでしょうか。立ち話もなんですし、私的にはマスターが気にしている容姿については全く興味ありませんが、マスターの遺品でもあるマジックアイテムマントを回収したい気持ちに駆られています。私には、とても――」
ざわりとした空気感にアズールを見上げた。アズールの口端はニヤリと口角が上がり、冷たい笑いを浮かべているのを見た。
「不愉快です」
「は?アズール、何を言ってーー」
その時、僕の影から勢いよく飛び出した実体が、見知った声で叫ぶ。
気付いたアズールが殺気を消して、ふっと影に目をやる。僕もそれにつられて見てしまうと、瞬時、黒のメイド服が駆け抜けていき、その後に酔いでもしたのかアーネストが頭を振りながらたたらを踏んでいた。
「マスターのマントを脱げーーーっ!」
メイド服のスカートが翻って脚が伸びたなと思ったら、その黒いベルトヒールの靴で首を狙ったのだ。へし折る気だと理解した瞬間、マントの防衛陣が発動してレーンが吹っ飛び、アズールが回り込むとレーンを横抱きに抱き止める。
「ーー危ないではないか」
その直後、アーネストが僕の前に立ち、僕と赤毛のホープを繰り返し見た。それから低い声で
「誰だ、こいつ?」
と呟く。
「……オーガスタじゃないの?」
僕は咄嗟に視線を斜め下にして口からそう出すと、
「オーガスタはお前だ。馬鹿者」
と肩を揺らされた。
僕は全く疑いもなく吐き出された言葉に、顔を上げた。
なんで自信満々なんだよ、どうしてお前がここにいるんだ?政務宮での『お手伝い』はどうしたんだよ、そう口に出したくて唇を開きかける。
すると、急に顔が近づき、
「難しく考えるな、馬鹿」
と唇が塞がれた。
キスされた!
人が見ているからやめろと抗おうとしたが横抱きにされて、
「子供部屋にポータルがある。それを連れて転移しろ」
とホープに興味なさそうに告げた。
「でも、王宮だ。魔法師の保護が……おい!」
僕を横抱きに抱きながら、ホープのマントの端を掴んだアーネストはにやりと子供らしくない笑い方をする。
あ、アーネスト、僕と同じくらいの背丈になっているのだと、今更ながら気づいた。王族って育ちが早いってのは本当なんだな。
って、早すぎるだろーが!
「オーガスタのマントを羽織っているなら大丈夫だろ」
その直後人の気配を感じ、僕はアズールとレーンを伴い、転移陣を展開する。
正気に返った衛兵の靴先が見えた瞬間、転移陣は発動し、僕らは誰にも見られてはいないと確信しながら王宮へすんなり転移できた。
信じられないことに『異物』であるホープもまとめて転移して、王宮の守りをすり抜けることができたのだった。
僕は久々に入る子供部屋のソファに座らせられて、
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